【自主レポート】自治研活動部門優秀賞

第33回愛知自治研集会
第9分科会 都市(まち)のコミュニティを再生させる

 より良い地域を作っていくことが労働組合に求められる役割の一つです。また、今後は私たちがより一層地域社会へ参画し、協働を通して地域主権を確立していくことが求められます。松江市職員ユニオンは地域課題を解決し、松江市をより良いまちとするために、2006年に「八雲むらプロジェクト」を立ち上げ取り組みをすすめています。より多くの組合員、市民の参加で効果的な事業展開といきいきとしたまちづくりを行います。



市民とともに歩む
~「八雲むらプロジェクト」の取り組み~

島根県本部/松江市職員ユニオン 大原 康史

1. はじめに

 松江市職員ユニオンは、政策的課題として地域問題に取り組み、松江市をより良い都市にするために、2006年から「八雲むらプロジェクト」に着手しました。
 プロジェクトに着手した時期は、平成の大合併の時期でもあり、松江市においても合併後の旧町村のあり方や将来像が定まらず、地域間の意識の差や温度差などが課題として浮き彫りになりました。新しい松江市として一体となって将来像を描くためには、旧松江市と旧町村が密に交流し、お互いの良いところを理解しあい、伸ばしていく取り組みが必要でした。
 地域活性化については、自治体労働組合もその社会的責務をはたすべき運動分野であり積極的な参加が求められているとの認識から、①地域における環境保全事業の実践、②各種事業を通じた地域住民との交流・連携、③組合員、家族のための自然体験学習の場の創出、などを目的とした「手作り」の事業を展開することとし、初年度は松江市八雲町を拠点に着手しました。
 八雲町をその場に選んだのは、当時松江市職の組織内議員であった石倉幹元市議を、地域の住民の皆さんとのコーディネーター役としてプロジェクトを進められること、また、そこで見出した新たな課題や解決策を市職の政策活動につなげることができるという利点があり、プロジェクトを導入するには適した環境があったためです。


2. これまでの取り組み

 これまで私たちならではの地域における課題の解決方法を見出すため、自然観察会や米・さつまいも作りなどを行いながら、自然や産業・特産品などについて学び、また地域の方々とコミュニケーションをとりあって(下記(1)~(4)参照)、プロジェクトの基礎づくりを行ってきました。

(1) 耕作放棄地の活用
 地域課題となっている耕作放棄地について、プロジェクトでは地元の方から田畑を提供していただき、2008年からはさつまいも、2009年からはもち米の栽培を行っています。田植え等には組合員や家族が参加し、稲作や八雲の自然などについて地元の方から説明を受け、実施しています。

(2) 地域との交流
 (1)の活動で収穫したさつまいもやもち米を地域間で開催される「きてみて八雲収穫祭」で販売し、参加を通して地域全体との交流を行っています。2009年には、ただ販売するだけでなく来場者に餅つき体験を楽しんでもらいながら、わたしたちのプロジェクトの取り組みをPRしました。普段できない体験は、子ども達はもとより、保護者である大人にも好評を得ました。見て、食べて、話して取り組む課程の中で「発見する」、「感じる」喜びを多くの方と共有することができました。

(3) 地域の自然・文化を学ぶ
 八雲地域には豊かな竹林がある一方で、それを管理する人が減少しているという実態があります。そのような中、八雲町では協同で竹林を活用するため、従前より竹炭作りが盛んであり、プロジェクトではその取り組みを学ぶべく炭焼き体験をしました。炭焼き体験では作業が過重なものであり、手間がかかると知りました。また、焼いた炭の活用法などについて学びました。その他、竹を使った炊飯や、竹葉を使って笹船つくりを行うなど、自然産物の活用方法について多くのことを学びました。
 プロジェクトでは八雲町の自然を体感してもらうために、組合員と家族を対象とした自然観察会を行っています。2007年には、川にはいって魚や昆虫を捕まえるなど普段はなかなかできない体験を通して、自然豊かな地域の素晴らしさを感じ、また地元の方にも、体験学習など地域の特性を活用する方法を示すことができました。

(4) 他グループとの連携
 八雲地域で活動するNPO団体「むらの駅やくも」とともに、地域住民の方々と協働で耕作放棄地への梅の植樹を行いました。梅の植樹は養蜂への活用も考えて行われたものであり、最小限のマンパワーで最大の効果を上げようとする取り組みで、私たちのプロジェクトにも多くのヒントを与えてくれました。協力体制を作り、地域課題を共有し解決していくことができる、そのことを実感した活動でした。


 

3. 「気づき」

 これまでの取り組みを通して再認識した地域の課題は、①耕作放棄地の対策、②荒廃した竹林の整備などでした。この背景には「地域の高齢化」や「後継者・労働力不足」という全国的に山間地で見られる課題があります。この課題を解決するために、私たちだからこそできることがあると気付きました。
 まず、労働力不足の課題を解決するために、組織力など大きな力を持つ労働組合は適した存在と言えます。
 そして、組合員の職場は、福祉、観光、環境、農林、建設、水道、病院など分野も多岐にわたり、それを業務とする人材も多数擁していることから、「地域マネジメント」に適した企業体は稀有な存在であるといえます。普段は職場の配置やあるいは業務や職務命令による分担の中で見えにくくなっていますが、新しい知識や発想、また課題に適した人材を地域に提供することが可能です。また、市政と課題を同じくしていることから、組合員自身のスキルアップ、自己啓発や自主研鑽になり、ひいてはよりよい松江市のまちづくりにつながります。


4. 今後に向けて(基本計画の考え方)

 3.で述べたことを実践していくために、これまでの実績を踏まえ長期的展望を持って、課題解決に取り組めるよう、基本計画及び実施計画を策定し、地域内外と連携しながら人的資源・地域資源を活用して解決にむけた具体的な取り組みを進めていきます。
 また、より多くの組合員の参加が必要なことから、松江市職員ユニオン全体の情報共有が重要となります。何を課題とし、何を解決に向けて結果はどうだったのかを開示することで、多くの組合員が知恵を出し、参画しやすくする仕組みづくりを行います。(今後の計画と具体的な取り組み(例)は後掲)

5. おわりに

 このプロジェクトは、単に一地域の活性化だけではなく、新しい松江市の姿を見出そうとする取り組みであり、わたしたち松江市職が松江市民とともに歩むために必要な過程です。このプロジェクトは多くの人が参加できるよう間口を拡げ、また、その智恵と行動力に成否がかかっています。
 「こうしたらよくなるのではないか」という発想を多くの人とともに議論し、共有し、またプロデュースしながら、その輪を大きく広げなければなりません。このプロジェクトに関わる人全てが、「こうあってほしい」と思う松江市像を求めることこそ、このプロジェクトの最大の意義ともいえます。
 八雲むらプロジェクトが目的を達成するのは、こうした広がりが当たり前になり、地域の人々が活発に交流し、あるいは自ら手法を手にして、発展に向けて多くの人と協力が出来るときともいえます。
 八雲むらプロジェクトは、自治研活動であり、また地域に根ざす地方公務員として、地域とのかかわり方をあらためて考えるプロジェクトです。わたしたちに何ができるのか、その可能性を探り、形にし、経験を積むことで、より質の高い公共サービスとは何かを見つけていく出発点でもあります。
 より多くの人が手を取り合い、松江市を今よりもさらに希望とよろこびを持って住めるよりよい都市に育てていくよう取り組んでいきます。


今後の計画と具体的な取り組み(例)