1. 4つの事例
(1) 平戸市の事例
① 事件発生の経緯
本件は、大阪の「外国人労働者相談センター」に寄せられた「相談」を連合大阪から連合長崎に要請され、結果的に全国一般長崎地本が対応した。
② 問題点と経過
問題発生の時点で、「入管」は「不法就労」と断定し(日本人労働者の数に比例した実習生の数を上回っていた。当時、日本人20数人に対し中国人は30数人)、「即時強制帰国」を命じた。企業との交渉は不調。帰国させられた中国人が「保証金」を受け取った時点で再度交渉。会社は支払える能力なし。監督署に告発。未払い賃金数千万円を支払えず、倒産。
以降、会社は会社の施設を別会社に委譲し、「借用料」を得て生計を立てているとの情報が入った。その「借用料」の一部から3年生17人に月賦で一人30万円の支払い(計510万円)を約束。連合長崎に送金し、100万円貯まったら現地に送金(連合から)。本来ならすでに完納されているはずだが、いまだ「100万円」くらいの滞納がある。
(2) 南島原市の事例(1)
① 事件の経過
全国一般岐阜地本からの要請。「事案が南島原(加津佐)なので長崎で対応してほしい」。2007年7月。3年生の実習生17人。同社には50人ほどの実習生がいるが対象は3年生。8月末任期切れる。社長に交渉を申し入れ。「話し合いで解決する意思があれば交渉に応ずる。実習生に介入しない」ことを申し入れる。社長らが来崎し「実情」を報告。
② 実 情
* 会社の言い分。賃金は送り出し機関と受け入れ期間(協同組合)の確認で、定時間分は変形労働時間で最賃(約10万円)、残業は1年300円、2年350円、3年400円。これは「内職」として支給している。違法であることは判るが法どおりには支払うことができない。
* 実習生の言い分。毎月100~120時間の残業。休日もほとんどない。2年間の未払いは120
万円(法律どおりに計算すればほぼ同額?)。法律どおりに支払ってほしい。
③ 交渉の経過
* 交渉は主として実習生との交渉。岐阜の「実態では」一人30万円。8月に入り何度か南島原に赴く(長崎からは車で2時間)。妥協しない。
* 実習生は集団で市役所に赴き事態解決を要請。お盆の休日も「残業したい」との実習生の要求で仕事を確保していたが、要求が受け入れられないとして就労を拒否(都合7日間)。
* お盆が過ぎ、帰国の時期(8月末)になると中国人の動向に変化。代表4人が突然来崎(アポなし)。都合2日間の交渉で、解決金24万円と「不就労7日間」は有給休暇として賃金はカットしない、との条件(都合30万円弱)で合意。協定書を作成。17人の実習生は9月3日福岡空港から帰国。
(3) 南島原市の事例(2)
① 事件の経過
2008年10月、東京の組合から連絡。南島原(有家)の実習生から「労働相談」があり、現地で対応してほしい、との要請。実習生7人(1~3年生)が島原労基署に「待遇の改善を求めて押しかけた」、会社は直ちに「帰国」を命じている。(実習生は全員就労を拒否)早急な対応を、と事情の説明があった。
② 交渉の経過
* 翌日、島原の監督署に赴く。10月の初め、7人で監督署を訪れた。「全体で2,000万円」の未払い賃金の清算を要求。以降、連日訪れる。ひどいときは夜の8時ごろまで「居座る」。(監督署の隣は警察署なので、「不測の事態」を予測し待機してもらったとのこと)。監督署には中国語が話せる職員がいないので「協同組合」の通訳を頼んだが、実習生が「中国人の味方ではないと称して追い返した」などと実情を語った。現在は会社と実態の調査を始めた段階と述べた。
* 会社にも赴き会談を要請。拒否。「協同組合とも善後策を話し合っているので暫く会えない」。実習生との会談も拒否。
* 翌日、協同組合の理事長から電話。「昨日まで中国に行っていた。送り出し機関、実習生の家族とも話し合ってきた」と言い、「1~2年生の4人は仕事を始める。3年生の3人は本人たちも帰りたいと言っており、会社も辞めさせたい意向」。早急に「三者会談」(地本、協同組合、会社)を開き対応を協議したい、との申し入れがあった。
* 「三者会談」。解決金は、これまでの事情(加津佐)とは異なり、「任期途中」(期限は来年3月末)であることを考慮し、プラスアルファが必要になる。会社から、一人100万円以下で収拾してほしいと要請され、実習生との交渉を依頼された。
* 実習生との交渉。実習生は一人160万円を要求。私は、退職慰労金(30万円・加津佐の例)、来年3月までの慰謝料40万円、10月分の賃金(10万円、就労していないが)計80万円で了解すれば会社を説得する、と述べる。
* 実習生はしばし「内部討論」を行っていたが、意外と簡単に「いいです」と了解した。協定書を(日本語、中国語)作成。
(4) 雲仙市の事例
① 事件の経過
* 2008年11月。先に対応した「協同組合」の理事長からの連絡。「有家の実習生と同じ地方から来日している実習生3人(瑞穂)から、有家の事実を聞き同じように帰りたい、との意向が示されている。ただ、有家と違いさらに経営状況は厳しい」、との連絡があった。
* 実習生3人と会う。「有家」の実績が最低、と主張。
* 慰労金30万円、慰謝料40万円、計70万で了承。
* 会社は、約束した日時の前日、「50万円は工面できたが20万円はどうにもならない。残りは月賦で支払う」との意向。実習生は、「社長は信用できない」と拒否。
* 最終的には「協同組合」が立て替える、ことで決着。
(5) 島原市の事例
以下の事例は、昨年9月、長崎県労連が組織し、本年2月開始した中国人実習生の裁判である。私たちの組織と直接関係はないが、たまたま当該会社の社長が、地本組合員の奥さんの実兄であることが判明し、なるべく「穏便」に解決できないかと非公式に会談を行った。前記の事例に基づき事態を解決すべく打診したが、全労連側は、「監督署の勧告を最低」とした金額でしか話し合いには応じない、と通告され自主交渉は事実上実現しなかった。以下、本年2月に長崎地裁に提訴、会社は自己破産を申請した。
① 事件の経過
* 昨年9月に7人が全労連に加盟(3年生3人、2年生・1年生各2人)。1年生2人は、事態が公表され「適正な事業所ではない」と判断され、「協同組合」からも「除名」。他の事業所に移籍(その際、全労連を脱退)。9月末で任期の3年が切れる3年生3人は「有給休暇の取得」と称して全労連が長崎に匿う。結果として会社は「開店休業」となり、収入が途絶え、仕事も打ち切られた。10・11月の賃金は親・兄弟からの借金でまかなう。自主交渉も目処が立たずそのまま操業を続けていても見通しが立たず「自己破産」を申請。
* (以下の記載は全労連のHPから要約したものである。)
ア 2010年2月15日、原告5人(3年生3人、2年生2人)提訴。長崎の弁護士3人を含め弁護団を結成。被告は、縫製会社、社長、会社役員、協同組合、理事長、JITCOなど8者。4月に第一回口頭弁論、6月、8月は裁判準備が進んでいる。
イ 訴状によれば、未払い賃金、慰謝料など原告5人の要求は合計約4,500万円。
ウ 原告5人のうち2人の2年生は、本来本年の9月までの実習期間があったが、会社が倒産したため離職。代わりの就職先が見つからず全労連の「専従」。5月に帰国(HPによれば、中国の実家に裁判に対する介入があり「家族を安心させるため帰国」とされている)。
2. 4つの事例で判明した中国人実習生の労働実態
① 実習生の賃金は長崎の実態、各地の報告からも定時間分は「最賃」をクリアしているが、残業は1年目1時間300円、2年・350円、3年・400円などでほぼ一定している。送り出し機関と受入機関との「暗黙の了解」がなされている?
② 残業は「100時間以上を強制的にさせられている」、「休日もほとんど無い」というが、中国人が残業を「強要」している事実もある。
③ 来日する中国人は故郷でもほとんど縫製業に従事している。現地での賃金は約1,200元(日本円で1万5~6,000円)、従って、仮に1時間400円の「残業賃金」だとしても、100時間の残業なら定時間分を含め14~15万円。中国で得ていた賃金の10倍近くになる。来日する中国人実習生は、「研修」の目的ではない。文字通り「出稼ぎ」である。
④ 制度発足当初は「スムーズ」に運用されてきたが、実習生も「学習」を重ねてきた。日本の労働法も学んだ。3年間日本で就労した「先輩」からの忠告も受けた。3年間の期限が切れる直前に「問題」を起こす。同企業の1年生、2年生の「条件」に無頓着である。
⑤ 実習生は、来日時に「保証金」「予納金」などさまざまな名目で送り出し機関へ「納金」させられている(ある種の担保)。その額は、年収の2~3年分と言われどのような名目で使われているかは不明。
⑥ 送り出し機関と実習生の「契約」には、日本人企業へ文句を言わない。組合などに加入しない。残業を「強要」しない、など「人権無視」の契約も含まれ、「違反」すれば保証金の没収も明記されている。
3. 何が問題か―組合に課せられた課題について
① 問題を起こす企業は、過疎地の零細企業である。法違反を摘発し勧告を求めれば企業はほとんどが倒産する。勿論、「告発」した中国人労働者を迫害し一切交渉に応じない経営者にはそれ相当の対処が必要であるが、だからといって、中国人の要求をそのまま「代弁」し、告発・裁判で決着をつけようとする路線にもにわかに賛同できない。
② 問題は、政府が「管理・監督」すべき「JITCO」が有名無実となっていること、低賃金・人権無視の政策を承知の上で黙認している実態を告発し是正すべきこと、送り出し機関の数々の「束縛」の実態を告発し是正すること、ワコールなど大手企業からの受注単価の引き上げ、など根本的に解決すべき課題は多い。
③ こうしたたたかいを行うためには裁判も必要である。そうした体制作り、弁護団の編成、裁判を維持するための支援組織、こうした事業は一単組や地域で組織するのは困難である。全国的な取り組みが早急に求められる。
4. 参考資料
(1) 国際研修協力機構(JITCO)
財団法人 国際研修協力機構(JITCO)は、法務、外務、厚生労働、経済産業、国土交通の5省共管により1991年に設立された公益法人です。JITCOは、
① 外国人研修制度・技能実習制度の適正かつ円滑な推進に寄与することを基本として、以下を使命としています。研修生・技能実習生の受入れを行おうとする、あるいは、行っている民間団体・企業等や諸外国の送出し機関・派遣企業に対し、総合的な支援・援助や適正実施の助言・指導を行うこと。
② 研修生・技能実習生の悩みや相談に応えるとともに、入管法令・労働法令等の法的権利の確保のため助言・援助を行うこと
③ 制度本来の目的である研修・技能実習の成果が上がり、国際的な人材育成が図られるよう受入れ機関、研修生・技能実習生、送出し機関等を支援すること
(2) 衣料品の輸出国・地域ら
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