【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第10分科会 自治体から発信する平和・人権・共生のまちづくり

 自治労愛知アジア子どもの家プロジェクトの活動を支えたのは、組合員の自主的な活動だったこと、絵本のシールはりなど参加しやすい活動だったこと、職員の専門性の活かせる活動だったこと、組合組織のバックアップがあったことなどだ。しかし、図書館建設などの支援活動の拡大と深化に伴い、参加者の広がりがなくなり、メンバーの固定化につながった。今後、14年の活動の経験をベースに、新たな活動の展開をめざしたい。



自治労愛知アジア子どもの家プロジェクト
―― 14年の活動を支えたもの ――

愛知県本部/アジア子どもの家プロジェクト 日高 橘子

 「1年も続かないんじゃない」と云われて14年、当初10数人の有志で始めた「自治労愛知アジア子どもの家プロジェクト」(以下「プロジェクト」)は組合やNGO団体、広く市民など様々な人々の協力を得ながら今も新しい目標を掲げて活動を継続しています。これまでの活動経過についてはその都度各自治研で報告してきました。今回はプロジェクトの活動が「何故14年も継続し、それなりの実績を残すことができたのか、何が活動をささえたのか、何が問題か」について改めて考察し報告したい。

1. これまで何をしてきたのか<活動の概要>

<始まり>
絵本に翻訳シールを貼る 
日本からの絵本を読む子ども 
親子で図書館へ
移動図書館贈呈式 
1995年
 中央本部は自治労40周年記念事業として「箱物支援」に終わらない国際協力活動の拠点として、「アジア子どもの家」を創設した。その事業をきっかけに、1996年4月「プロジェクト」は、労働組合内の自主的ボランティアとして発足。
1996年
 カンボジア、ラオスでは内戦の影響もあり子どもたちの心の栄養である絵本がない、という「本の飢餓」を知る。誰でも参加しやすい“日本語の絵本にラオス語などの翻訳シールを貼り現地に届ける”活動を始めた。組合員に呼びかけ絵本を集める。
1997年
 カンボジアスタディーツアー。自分たちでシールを貼った絵本を「子どもの家」に届けた。
1998年
 ラオスへ初めてのスタディーツアー、国立図書館に移動図書館車(名古屋市で使用していたものを整備)を寄贈する。
2000年
 双方向交流として、自治労愛知10周年記念事業の一環でラオスのSVAスタッフを招き図書館研修。ラオスの図書館調査スタディーツアー。出版される本が少ないラオスで一冊の本を分かち合い利用できる公共図書の必要性を実感。図書館建設を目指す。
2001年
 人材育成のため「ラオス図書館研修」講師派遣(組合員3人)。ラオスサワンナケート県に公共図書館建設支援を決める。
2002年
 サワンナケートから現地職員を招き図書館研修実施。ラオスよりソムサックさんを招きラオス図書館支援チャリティコンサートを名古屋、常滑で開催。(自治労名古屋誕生イベントの一環として)
2003年
 東海地連、サワンナケート図書館支援カンパ取り組み。9月、贈呈式。12月、東海地連が開館記念事業として図書館まつりを開催。
2006年
 故自治労名古屋石田委員長の遺志によりヴィエンチャンに「ヴィエンチャン市立(石田メモリアル)図書館・多目的ホール」を中央本部、エファ、北海道本部、東京都本部などとの協力により建設。ラオス人歌手ノイさんを招き第2回ラオス図書館支援チャリティコンサートを名古屋、常滑、豊山で開催。広く一般市民に協力を呼びかけた。
2009年
 サワンナケート県内全域に図書館事業を広げるため図書館に移動図書館車寄贈。東海地連カンパの取り組み。
2010年
  ラオス・カンボジアに届けた絵本は、この14年で約3,000冊。

2. 活動を支えた背景<その1>

(1) 組合員の自主性
 プロジェクトは、この活動をやりたい組合員が自主的に集まって始めたボランティアグループである。それぞれの自己実現や生きがいなどを求めて参加した。他のNGO団体では考えられない「会費も会員制もない出入り自由な極めてゆるい組織」である。メンバーは図書館司書の他、様々な職種の組合員や豊山町職、岡崎市従などの他単組の組合員。組合のホームページを見て参加をする人も現れるなど一般市民にも広がった。年齢も学生から職員OBまで幅広い層が参加した。

(2) 具体性と継続性と専門性
① 毎月の例会と絵本のシール貼り
  月2回の例会を設け、参加者の交流を深めている。内1回は、誰でも参加しやすく、活動が形になる絵本シール貼り作業を継続している。
② 現場主義と双方向交流
  現場へ行き具体的な関係を大切にした。そして、一方的な支援ではなく共に考える関係、双方向交流を目指してきた。
  図書館建設を箱物支援に終わらず自立を目指した運営支援にも取り組んでいる。
③ 専門性を活かした活動
  グループの中心的なメンバーである図書館司書たちが専門性を活かして人材育成や運営支援をしている。図書館建設後も継続して何度も訪れ、現地スタッフとの信頼関係を築くなかでニーズを汲み取ることに努力し、常に具体的な目標を決めて取り組んだ。

(3) 日常の活動費は組合の予算や会費に頼らず独自の工夫で捻出
① クラフト(アジアの民芸品)販売収益
  ラオスの女性の自立のための職業訓練所で作られた民芸品や天然塩(海のない国で10万年前の地下海水から作られた)などを組合の集会、イベントで販売している。
② 割り勘の残金を寄付
  会議の後は毎回反省会・食事、この際割り勘で出た端数を寄付。飲んだ回数が多いほど資金も貯まることになる。
③ 個人のカンパ
  組合員・友人・知人だけでなく、商業新聞などで活動を知った市民からも寄せられている。

3. 活動を支えたもの <その2>―組合組織のバックアップ―

 愛知県本部はこの活動が中央本部の「アジア子どもの家」に誘発されたものであり、その方針に沿うものとして認知し、大会の活動方針に明記している。名称にも「自治労愛知」を使うことを認めた。また、当初から組合役員もメンバーとして参加してきたことも理解を深めたと思われる。通常の予算による資金支援はしないが、日常的に、またラオスからの研修生招聘など大きな事業にあたって様々なサポートをしてきた。

(1) 日常的なサポート
① 活動の場として自治労名古屋組合会議室を提供、絵本や文具などの保管場所ともなっている。他の絵本を届ける活動をしている市民団体などは会議室を借りたり絵本の保管場所に苦労していると聞く。活動の場の保障は大きい。
② 機関紙などによるPRや集会などでクラフト販売の場を提供。
③ 対外的な窓口。組合員や市民からの連絡先ともなっている。

(2) 大きな事業へのサポート
 図書館建設や移動図書館車の贈呈などの際、組合員へのカンパ呼びかけなどのサポートを受けることができた。
 東海地連レベルでのカンパの取り組みがなければ、図書館建設支援は困難であった。

(3) 現地政府との窓口
 現地政府やNGOなどとの協議、図書館建設などにおいて自治労の看板は大きな信用を与えてくれた。特に現地スタッフの招へいなども自治労の名がなければ実現は難しかった。

(4) 他組織への広がり
① 東海地連は、サワンナケート図書館建設、移動図書館支援でカンパ活動に取り組み、またサワンナケート図書館運営支援も行っている。
② 各県本部で独自に絵本シール貼りの取り組みやスタディーツアーへの参加もしてきた。
③ 中央本部は、図書館車の移送費や図書館建設費の資金支援などでサポートしてきた。

4. 活動を支えたもの<その3>―組合内部にとどまらない関係―

① NGO団体の協力 エファやSVA、ラオスのこどもなどの協力を得た
② 長年、現地で通訳・ガイドとしてお世話になったP氏からは図書館支援活動について幅広いサポートをしていただいた。移動図書館車支援の際は、現地NGOでも大変な免税手続きなど、彼のおかげでスムースに運ぶことができた。
③ ラオス人留学生との交流のなかでラオスの情報やアドバイスを得た。
④ 愛知県在住のラオス留学経験のある研究者には、支援に伴う「覚書」の翻訳などの協力に助けられた。

5. 活動をとおして見えたことー組織内自主グループ活動の可能性、そして壁と課題―

 「プロジェクト」の活動は、組合員の自主的な活動を組織が支えるという1つのあり方の可能性を提起したものと考える。

(1) 自主的活動だからできたこと
 組合組織としての活動では資金は予算として確保されるが、予算には枠があり柔軟な対応は難しい。また、継続した現地訪問など多くの金額を必要とし、継続して支出することには限界がある。役員は1、2年で交代、事業についてはその都度組織決定が必要とされるなど長期的な目標を目指した活動は難しい。
 これに比べて、自主的なグループであればツアー費用など原則として自費によるものであり、個人の裁量で参加できた。固定したメンバーが長く関わるため現地スタッフとの信頼関係が築きやすく、また専門性を活かした支援も効果をあげた。

(2) 自主的活動の壁と課題
① 活動の特化がメンバーの固定化の一因に
  活動の中心が次第に図書館支援に特化されていった。そのため、組合員の専門性を生かす場となったが、図書館関係者以外の人が参加しにくい印象も生まれたようだ。結果的に参加者の広がりに欠け、メンバーの固定化につながった。
  また、図書館支援活動の拡大と深化にともない、その対応に追われる打ち合わせも急増した。活動の柱であった絵本のシール貼りが二の次になる傾向も生まれ、シールを貼りたい、と参加していた市民や組合員の足が遠のいていった面も否定できない。
② 自主性と活動に対応した会のあり方
  プロジェクトは自主的参加を前提にし、役員も決めず、人の出入りも自由な形で始めた。しかし、活動の広がり、質の変化とともに最低限の組織的なあり方も無視できなくなってきた。だが、それに対応できる明確な形を持ちえていない。
  参加者の自主性を尊重しながら活動を円滑に進めるために、どのような会のあり方がよいのか大きな課題でもある。(対外折衝も多くなり、代表と会計は決めたが、限界に来ている)
③ 情報の共有不足が生み出したもの
  会員を特定せず出入りを自由にしていたため、活動を進める上で重要な情報の共有が不十分になりがちであった。当初は一度でも参加した人にはスタッフ通信を送り情報の共有化に努めていた。だが活動の拡大に伴い手一杯となり、通信の送付も後回しになり、やがて途絶えてしまった。そのことがメンバー固定化につながった面も否定できない。情報の共有が活動の底辺を支えることにもっと目を向けるべきであった。

(3) 新たな人との出会いを目指して
 14年の活動の経験をベースに、より多くの人との出会い、新たな活動の展開を目指したい。その一例として、以下のような取り組みも行いたい。
① 様々な職種の組合員が参加できる幅広い課題のスタディツアーの開催。
② 誰でも、どこでも、いつでも参加できる絵本のシール貼り活動を強化。
  入院のさなか、病室で絵本のシール貼りを支えにした組合員もいた。また子どもと一緒に家で貼る人もいた。いろいろな状況でも絵本のシール貼りに参加できる活動のあり方も考えていきたい。
③ ラオスの抱える様々な課題に向けて、組合員の多様な専門性を生かす活動の場を検討したい。たとえば今ラオスでは、ビニール袋など環境問題、エイズなど衛生・保健、幼児教育などなど、課題も多い。

6. 今後の可能性のために

 10年ほど前、自治労名古屋が実施した組合員アンケートで組合員が様々な社会参加、ボランティア活動への熱い思いを持っていることが明らかにされた。しかし、組合員個々の生きがいを実現する受け皿として組合が十分なりえているだろうか。そのため多くの人は、個別に市民団体やNGOの会員になるなど、個人レベルで解決している傾向もある。
 組合員個々の要求が多様化する今、労働条件や生活を獲得していくための活動とともに、組合員の生きがいをサポートしていくことにも目を向けていく必要があるのではないか。
 「組合員のやりたいことを組織が支える」、プロジェクトの進めてきた活動は、組合が組合員の生きがいの受け皿になりうる、そんなあり方のひとつを提起したように思う。
 これは私たちの取り組んできた国際協力活動に留まらず、アンケートに現れた福祉や環境など様々な課題にも広げていける可能性を持っているのではないか。