1. はじめに
福山市職労は、これまで市職労人権委員会を中心に『外国人の人権』という視点で人権問題連続講座を開催するなど、外国人の人権問題に取り組んできました。
そして市職労として、福山市が『安心・安全なまちづくり』『災害に強いまちづくり』に向けて取り組みを進めるよう求めるとともに、社会的弱者が災害時においても安心して避難できる方法や、地域の防災訓練へ参加出来るよう求めてきました。そして、災害時の『緊急避難場所』の表示板について、内容を多言語(5カ国)で表記するとともに、技術員(学校技術業務)の女性ブロックの共同作業によって作製し、市内の学校・公民館のうち、130箇所に合計270枚を設置しました。
さらに、福山市の施策等に関わる市民意識調査などについて、外国人市民を含めた幅広い市民(住民)の意見集約となるよう必要な措置を講じることなどを求めてきました。
そうした取り組みの経過を踏まえ、『多文化共生』の視点で、『福山市国際化推進プラン』や『くらしの中の案内表示』の取り組みも進めてきました。
2. 市職労人権委員会の取り組み
福山市職労は、市職労内の部落解放運動を中心的に担ってきた福山市職労部落解放研究会(部落解放運動と労働運動を正しく結合させ、市職労の組織強化と部落解放行政を確立させることを目的に市職労の補助機関として1973年発足)活動を、これまで積み上げてきた市職労の部落解放運動を鈍化させることなく、より実効あるものとするため、2000年『市職労第84回定期大会』で、人権委員会にその目的と運動を引き継いできました。
現在、市職労人権委員会は、あらゆる差別の撤廃に向け、執行部・現業評議会・各地域支部・女性部・青年部・社会教育センター部会・公民館嘱託職員部会・コミュニティ嘱託職員部会の役員を中心とした人権委員及び各級機関より選出された人権推進委員により構成し、市職労の専門部として活動しています。そして、毎年夏休みの期間を中心に行っている広島市平和公園での『平和の碑めぐり』、福山市内の旧軍事施設跡地や戦争の爪跡をめぐる『福山戦争遺跡めぐり』、松元ヒロさんを招いての『いま! 憲法を考える!』、被差別部落の生活文化や伝統芸能から差別の現実を学んだ「福を運んだ『でこ廻し』」、ホロコースト記念館での学習、福山市人権平和資料館での学習、市職労人権連続講座などに取り組んできました。
3. 外国人相談窓口拡大の取り組み
福山市は、市内を5ブロックに分け、本庁を除くそれぞれのブロックに拠点支所が4つあります。拠点支所の中にその他の支所が6支所あり、10支所に地域を分担し業務を行っています。市職労の組織は、その他の支所のうちの2支所と4拠点支所、そして市民病院のあわせて7つの地域の拠点を中心に市職労地域支部を設置しています。そのうちの一つの地域支部である松永支部では、外国人相談窓口拡大に取り組んできました。地域に外国人労働者が増加している実態があり、相談件数も増えてきたため、毎年行っている松永支部の学習会に講師を招き、『外国人労働者を取り巻く状況や課題』について学習しました。また、外国人市民が何に困り、どのような手続きを支所に求めているのかを、課を越えて横断的に議論するとともに、「その手続きは支所で母国語で説明する必要があるのか」、「件数はどのくらい想定されるのか」といった議論を重ね、松永支所への外国人相談窓口の設置に向けて松永支部として取り組むことを支部執行委員会で確認しました。そして、支部独自要求の中で「松永支所へ外国人の相談窓口を設置すること」を掲げ取り組みを進めました。その取り組みによって、それまで本庁市民生活課に位置づけられていた日系人生活アドバイザー(ポルトガル語)と連携を取りながら必要に応じその都度対応していた相談や手続きを、松永支所において、毎週木曜日午前8時30分から午後12時30分まで「ポルトガル語・スペイン語による暮らしの相談、松永支所等の取り扱い業務の通訳・翻訳」を行う相談窓口を設置することによって、外国人にとってより相談しやすく、身近な行政とすることができました。
4. 『福山市国際化推進プラン』策定の取り組み
福山市における『国際化推進プランの策定』について、2007年4月開催の中央自治体改革推進会議で取り組んでいくことを決定し、関係課による協議・調整を始めました。そして、人権委員会や関係支部・部会から委員を選出し、2007年8月開催の中央自治体改革推進会議課題別部会で『福山市国際化推進プラン』の策定にむけた具体的な取り組みをスタートさせました。
『福山市国際化推進プラン』を策定するにあたっては、これまでの『国際交流』『国際協力』を柱とした地域の国際化推進に加えて、外国人市民との歴史や文化の違いによる誤解や偏見から生じている差別を解消するため、国籍や民族・文化などの異なる人々と、お互いの違いを認め合い、同じ地域社会の構成員として共に生きていけるような『多文化共生』の地域づくりを推進することを目的に取り組みました。
そして、当事者(外国人市民)が何を求めているかを把握するため、関係支援団体からの意見集約やパブリックコメントなどを行ってきました。そうした中で明らかになったことは、防災・避難・医療など、緊急を要するとともに命に係わる情報を外国人市民は求めているということでした。そのことは、これまで市職労として言い続けてきたことであり、コストや時間がかかっても丁寧に取り組む必要があることを痛感しました。
『福山市国際化推進プラン』は、福山市が外国人市民を含めた『誰もが暮らしやすいまちづくり』にむけて取り組んでいくという方向性を示したものです。今後どのように具体的な取り組みを進めていくか、プランの具現化をはかっていくのかが重要です。そのためにも、職員一人ひとりの意識改革をさらに進めていく必要があります。
① 2007年4月 中央自治体改革推進会議(国際化推進プランの策定について)
② 2007年8月 第1回課題別自治体改革推進会議
③ 2007年9月 第2回課題別自治体改革推進会議
④ 2007年9月 ワーキング会議(2008年3月まで14回開催)
(市民政策課、市民相談課、人権推進課、中部ブロック社会教育センター)
⑤ 2008年1月 広島国際学院大学現代社会学部准教授 伊藤泰郎さんとの会議
⑥ 2008年6月 第3回課題別自治体改革推進会議
⑦ 2008年9月 第4回課題別自治体改革推進会議
⑧ 2008年12月 パブリックコメントを実施。関係支援団体の意見集約
⑨ 2009年2月 第5回課題別自治体改革推進会議
⑩ 2009年2月 中央自治体改革推進会議
⑪ 2009年4月 「福山市国際化推進プラン」策定
⑫ 2009年5月 「福山市国際化推進プラン」配布(各支所、公民館、コミュニティセンター)
⑬ 2010年4月 「福山市国際化推進プラン(概要版)」を多言語(ポルトガル語・中国語・英語)で表記したものを各地域支所・公民館・コミュニティセンターに設置し、閲覧することとした。
※『自治体改革推進会議』
幅広い課題について、労使がともに行政の果たすべき役割を見つめ直し、これまで以上に建設的な議論や提言を真摯に行う場として、また、新しい時代にふさわしい行政のあるべき姿を模索する場として、「自治体改革推進会議」を創設し、当会議の活動を通してより一層、市民サービスの向上を図るとともに、職員の意識改革と資質向上を促す。 |
【『自治体改革推進会議の設置に関する要綱』より抜粋】 |
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※『多文化共生』
国籍や民族など異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築きながら地域社会の構成員としてともに生きていくこと。 |
【『福山市国際化推進プラン』P1より抜粋】 |
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※『外国人市民』
このプランで使用する『外国人市民』という言葉について
このプランでは、市内に住む「日本人」「外国人」だけでなく、市内に通勤や通学をしている人を含め「市民」とします。
「外国人」は、「日本国籍を有しない者」と定義されていますが、市内には、日本国籍を有していても異なる文化を持つ人(外国で生まれ育った人、中国帰国者、国際結婚により生まれた人、帰化した人など)や、外国籍を有していても、日本語を話し、日本文化を理解している人など、様々な人々が住んでいます。
このため、このプランでは、言葉や文化の違いから起こる様々な課題解決を図るため、幅広い視点に立って、日本国籍の有無にかかわらず、外国文化を背景に持つ人を「外国人市民」という言葉で表現します。 |
【『福山市国際化推進プラン』P2より抜粋】 |
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5. 『くらしの中の案内表示』
『福山市国際化推進プラン』の策定に向けて取り組むとともに、ピクトサイン(案内表示)を多言語で表記した冊子、『くらしの中の案内表示』の作成についても取り組んできました。それまで市内の街角にある案内表記を多言語で表記することが、外国人市民に対して安心して住みやすい、そして活動しやすいまちづくりにつながるのではないか、という考え方で議論をしてきました。しかし、市内の案内表記を多言語での表記にやりかえる事は、予算が膨大なものとなることから頓挫していました。外国人市民にとって少しでも暮らしやすいまちになるよう思案していたところ、ピクトサインの一覧を多言語で翻訳したものを冊子にして配布してはどうかという提案から実現に向かって進み始めたものです。あわせて外国人が一番不安を抱いている災害時の避難方法についても、避難場所を防災マップという形で添付することで、より充実した冊子となりました。
この『くらしの中の案内表示』は、2008年度第37回市職労執行委員会(2008.12.17)での市職労執行委員からの、海外先進地事例調査報告『まちづくり:ユニバーサルデザイン』から発展したものです。
「すべての人にとって優しいまちづくりを実現するためには、福祉・環境など日々変化し多様化している市民ニーズに的確にそして迅速に対応する必要があります。それは、課題解決に向けた一つの取り組みでは十分でなく、これまでの組織・事務執行体制の見直しや、市民の施策への意見反映のための体制整備、さらには『公共の福祉の実現』という自治体の使命ともいうべき目標に向かって、自治体全体で取り組む必要があります。そうした中、『ユニバーサルデザイン』をキーワードとした、すべての人に優しいまちづくりという概念を取り入れた、まちづくりの本質と、そこで生活する市民の現状を理解したい。」という想いで、市職労執行委員がデンマークにおける福祉政策を視察研修し、その研修報告から発想の転換をさせられたものです。
その研修報告の中に、「公共空間におけるマークが、言語がわからない言語圏外からの旅行者にも、その視認性や特徴から非常にわかりやすく、移民等が多いヨーロッパで、『すべての人』を対象とした公共空間において言語というコミュニケーション以上にマークの役割の重要性を感じた」という報告があり、マークを全て変えるのは困難だが、現状の日本のマークが、外国人市民に理解されれば良いのではないか。マークを説明するものを作ればいいのではないかという発想から、この『くらしの中の案内表示』は生まれました。今、何が求められていて、そのことをどうすれば実現できるかという、『公務労働拡大』の視点から生まれたものとも言えます。
① 2009年7月 ピクトサイン(都市サイン)の集約に着手
② 2009年12月 ピクトサインを集約したパンフレットを『くらしの中の案内表記』とし原案作成
③ 2010年4月 市民課、4拠点支所から『くらしの中の案内表記』を配布
6. おわりに
今後も、市職労として『多文化共生』の理念を取り入れた運動を展開していくとともに、安心・安全で暮らしやすい、一人ひとりの人権が大切にされるまちづくりにむけ取り組まなければなりません。そのためにも、お互いの歴史や文化といった『違い』を認め合うための取り組みが必要です。
そして、『福山市国際化推進プラン』をより実効性のあるプランとするためには、公務職場で働く者がその主旨を理解し、具体的な行政施策に反映させることが必要不可欠です。そうした意味では、職員の研修や意識改革が最も重要になります。市職労としても「多文化共生」の視点での学習会に取り組むとともに、すべての施策が、『多文化共生』の視点で実施されるよう取り組みを強化しなければなりません。
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