【自主レポート】 |
第33回愛知自治研集会 第10分科会 自治体から発信する平和・人権・共生のまちづくり |
国民保護法制定を受け、石川県は2006年1月、県国民保護計画を策定し、さらに計画の実効性を確認するためとして2006年以降3回の実動訓練を実施してきました。石川県平和運動センターはその都度、訓練の中止を求め抗議行動を展開すると同時に監視行動にも取り組んできました。本レポートでは、法律の条文や計画だけでは見えにくい「国民保護」の問題点を、監視行動の取り組みを踏まえて、具体的に明らかにしていきます。 |
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1. はじめに 国民保護計画は、そもそも武力攻撃事態対処法を上位法とする国民保護法を根拠とするものであって、「国民保護」の名を語りつつ、有事体制の中に住民を巻き込んでいくものです。石川県平和運動センターは2003年の有事3法案反対のたたかい、2004年の有事関連7法案反対のたたかいをはじめ、石川県の国民保護計画策定段階においてもパブリックコメントで計画の問題点を指摘し、策定反対を訴えてきました。 2. 実動訓練の概要 石川県は計画を策定した2006年を皮切りに、2007年、2009年と3回の実動訓練を実施しました(2008年は図上訓練)。全国的には図上訓練のみで実動訓練は実施していない自治体もある中、3回も実動訓練を重ねてきた県の動きは特異に映ります。能登半島沖の不審船問題や朝鮮民主主義人民共和国のミサイル発射問題などを受け、知事が「備え」に対して非常に熱心だということも一因かと思われます。 (1) 第1回実動訓練(2006年10月29日) (2) 第2回実動訓練(2007年11月11日) 実施場所は能登に移り、七尾市内の国家石油ガス備蓄基地、七尾マリンパークおよび七尾港内です。また、住民避難は備蓄基地のある崎山半島の5地区で230人の参加が予定されました。訓練は「全国各地で同時爆破テロが発生する中、七尾石油ガス備蓄基地に対し不審船から攻撃があり、配管に命中、火災が発生。テロリストが上陸した可能性もある。その後、七尾港のふ頭で化学剤が発見される」との事態想定で実施されました。 (3) 第3回実動訓練(2009年11月8日) 3. 監視行動の取り組み 1回目の訓練は、エリアは狭いものの、複数の訓練が同時並行で実施されたため、5班14人態勢で監視行動に取り組みました。訓練開始45分前に集合し、訓練の概要を説明し、監視行動のポイントを伝え、監視行動報告書を渡します。項目は①自衛隊について、②情報伝達について、③参加者について、④避難所や避難車両について、⑤その他、以上5項目とし、記入にあたっては、例えば自衛隊については、人数や携帯する武器、役割など、気付いたことをできるだけ詳細に記入してもらうこととし、また情報伝達や避難所の様子については、「テロリスト」や「テロ」行為の具体的な伝え方なども記載するよう求めました。また、可能ならば参加住民の感想なども聞いてもらうこととしました。
4. 明らかになった問題点 (1) 第1回実動訓練 ~ 街中に登場した自衛隊 ~ (2) 第2回実動訓練 ~ エスカレートする軍事行動 ~ 全体を通じて、1回目の訓練で指摘した問題点がさらに拡大したのみならず、法案の審議段階や計画の策定段階で危惧してきたことが、住民参加の中で現実に起こっていることが確認されました。主催者側は訓練実施によって計画の実効性を確認したかもしれませんが、私たちは監視行動を通じて、この間主張してきた有事法制や国民保護計画の問題点や危険性に確信をもつことができました。以下、主な問題点を列挙します。 ① 地域住民を巻き込んだ有事訓練 参加予定の230人がほぼ予定通り参加しました。有事訓練への初の住民参加です。指定された11ヶ所の避難所のうち、1ヶ所は海上から船をつかっての避難、その他はバスを利用しての陸上避難ですが、避難所によっては避難指示の放送前からバスに乗り込み待機している姿も見られます。当然ながら緊張感はありませんが、「テロ」発生を伝える放送が次々と流れ、万が一に備えた訓練も必要との雰囲気を高めていきます。三室地区の3ヶ所の避難所からのバスについては自衛隊の軽装甲車が前後について誘導します。武器を携行した自衛隊員は見られませんでしたが、前回の訓練で指摘したジュネーブ条約第一追加議定書との関係は無視したままです。 ② 自衛隊の登場場面の拡大 参加隊員数は41人から51人に拡大し、前回実施された航空自衛隊小松基地救難隊の海難救助は県消防防災航空隊に変更となりましたが、新たに海上自衛隊舞鶴地方総監部からミサイル艇「PGはやぶさ」が海上からの住民避難を誘導するということで参加、化学剤の処理も前回は消防署が担当しましたが、今回は陸上自衛隊の登場です。「PGはやぶさ」は1999年の能登半島沖不審船問題を受けて建造された高速ミサイル艇で、最新鋭の装備が搭載されていますが、舞鶴から七尾港までは約4時間を要し、住民の避難誘導に利用するには非現実的です。自衛隊PRのための参加が一目瞭然です。石油コンビナート災害は地震なども含め様々な要因で起こりうるものであり、住民避難を含めた対策を万全にすべきことは言うまでもありませんが、それは都市災害の対策の充実で対応すべきです。無理やり国民保護計画を適用し、自衛隊を市民社会に引き出そうとしているとしか見えません。 ③ 露骨な武力行使 訓練の最終盤、海上保安部の巡視艇2隻とヘリが参加しての海上警備訓練が行われました。「テロリスト」が乗船していることを想定した「不審船」を七尾港の沖合で発見、空と海から岸壁方向に追い詰めていきます。そして多くの参観者が見守る目の前で、前後から発砲を繰り返し、逃げ回る「不審船」はやがてエンジンから火を噴き、「テロリスト」は旗を掲げ停船します。映画の1シーンを観ているような展開に参観者は驚き、中には歓声を上げる人もいます。しかし、逃げようのない船を銃撃するというシナリオが海上保安庁法に照らして果たして妥当かどうか、さらに言うならば、石川県国民保護計画は住民の保護措置を的確・迅速に実施するための計画であり、このような海上保安庁の「捕物帖」をなぜ盛り込まなければならないのか疑問です。「テロリスト」は逮捕ではなく武力で制圧という軍事優先思想を市民社会に浸透させようという国民保護法の狙いが露骨なまでに現れた訓練でした。 |
「不審船」を逃げ場のない港の奥に追い詰め、挟み撃ちにする中で銃撃戦を展開する |
(3) 第3回実動訓練 ~ 過去最大規模で問題も拡大 ~ 5. まとめ ほとんどの自治体が国民保護計画を策定し、昨年度までに全都道府県で何らかの形で訓練が実施されました。計画の存在自体もちろん問題ですが、実動訓練の実施は図上訓練と違い、自衛隊が街中に登場するかどうか、そして住民を巻き込むかどうかの2点で大きな違いがあります。ここに実動訓練を実施する側の大きな狙いが潜んでいます。私たちが監視行動を実施し見えてきたものは、「国民保護」という表現のまやかしであり、日常生活の軍事化、軍事優先思想の浸透です。実動訓練の実態を知り、情報を共有化する中で、あらためて全自治体が国民保護計画を検証すべきです。そして、住民の生命、財産、暮らしを本当に守ることができる平和行政を地域から構築していかなければなりません。 |