【要請レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 今日的に自治体で起きている「公民館の首長部局移管」。近年は、政令市だけに止まらず、中規模都市でもその動きは増えてきている。もともと公民館は、地域住民に近い位置にあり、地域や住民が抱える課題を、学習活動を通して乗り越えていく援助をする場である。一方、首長部局にもまちづくり部署が設けられ、これらとの整合性が問われている。本レポートでは、仙台市の現状を題材にそれらのあり方を考察してみたい。



公民館の首長部局移管と市民協働のまちづくり
~仙台市の現状と市民局移管問題からの考察~

宮城県本部/仙台市職員労働組合・教育支部 今川 義博

1. 公民館の首長部局移管の動き

(1) はじめに
 生涯学習・社会教育の分野において、近10年は激動の序章と言える時期でした。小泉政権下における「民でできることは民で」のキャンペーンにより、国民の学ぶ権利よりも、結果として経費縮減による行財政改革につながる法改正や規制緩和が繰り返され、国民も「それでいい」と洗脳された感があります。指定管理者制度と首長部局移管などによって、それまでギリギリ保たれていた専門性も、博物館系施設は見世物小屋、図書館は貸し本屋、公民館は単なる集会所と言った、極論で表現をすればそんなイメージを植え付けられ、それらへ公共として金を注ぎ続けることに一部国民も踊らされてしまったとも言えます。
 それでも、やむなくそれら制度の適用を受け入れながらも、生涯学習・社会教育施設は“他の施設とは違うんだ”ということを主張し続け、たたかってきた職員や住民もいました。そういった人たちの想いが、ある意味社会教育法の改正にあっては全会一致の附帯決議につながったところもあると感じています。
 しかしながら、さらに悪化の一途を辿る日本経済に押されて、行政分野も税収減は必至の状況であり、各自治体も行財政改革には躍起になっています。社会教育法の附帯決議はあるものの、時間が経てば忘却され、経済、財政最優先の論理がまかり通ります。2009年には政権交代も起き、国民の期待は高まりましたが、残念ながら現時点では国の予算編成においても中途半端な政治主導の結果、半端なばら撒きだけが進み、国の借金は増えるばかりです。結局、その結果として、2011年の予算編成は財務省の主導で行われている感は否めません。
 当然、国の自治体に対する締め付けも厳しくなり、各自治体はより一層の経費の縮減をしようと、更なる外部委託や人件費の圧縮を進めることにつながっていると言えます。結果、官製ワーキングプアと称される人たちが日々増え続けていることも大きな問題になってきています。
 このレポートは、上記した様々な問題について、生涯学習・社会教育分野の中核施設である公民館をベースとして表し、それらの問題を考える機会にしていただければと思っています。
 なお、本レポートを書くにあたり、新たに調査等ができていない点、直近の正確なデータ等をもとにしていないこと、したがって筆者が25年間公民館に籍をおきながら、その中で見聞きした記憶及び経験をもとに書いているため、やや事実誤認があったり、主観的に書いている部分もあるので、ご意見・ご指摘等については忌憚なくお寄せいただきたいと思います。繰り返しになりますが、筆者としては、このレポートをもとに様々なところでこのようなことに関して議論が活発になり、考えていただくきっかけとなればと考えています。決して、何らかを示唆するようなものとはなっていませんので、恐縮ですが最初にお断りとお詫びをさせていただきます。

(2) 政令市を中心とした公民館再編成の動向
 政令市の公民館設置の状況としては、大きく「基本的に公民館を設置していない(又は極少数しかない)」「少数の公民館を設置している(区に1館程度)」「小学校区もしくは中学校区に公民館を設置している」の3つ分類できます。
① 「基本的に公民館を設置していない」都市の状況
  大阪市、京都市、横浜市、札幌市。大阪市、横浜市はそもそも公民館という呼び名がありません。ただし、大阪には生涯学習センターがいくつかのターミナル駅付近に設置されていたり、横浜市には部屋貸しのみを行っている地区センター等はあります。京都市、札幌市は、極少数の公民館はあるものの、地域の施設という概念ではないようです。これらの都市の多くは、学校等に子どもの居場所づくりを中心とした施設を抱えていますが、それらはあくまでも子どもをベースとしたものでいわゆる公民館とは異なります。ただ、公民館は無くとも社会教育事業は教育委員会内各種部署や所管施設において実施されています。唯一、横浜市だけは、区役所内の地域振興担当課に生涯学習支援係を設置し、区役所業務として生涯学習事業を展開しています。
② 「少数の公民館を設置している」都市の状況
  川崎市、名古屋市、神戸市。それぞれ呼び名はやや違いますが、公民館施設として区に1館程度設置されています。勿論、生涯学習・社会教育事業を展開する区域の施設として機能し、住民とともに歩んできた軌跡も持っています。その中でも、名古屋市は2000年に各区生涯学習センターを区役所移管し、社会教育法も外してしまいました。関連性の見極めは難しいですが、区役所移管後は住民自治につながるような事業は減っているようであります。一方、川崎市は2009年から市民館施設の運営を区役所に補助執行を始めました。現時点で事業運営等に大きな変化はないものの、職員には併任辞令が出され仕事をしていると聞いています。完全移管ではないものの、これも一つの区役所移管の形態であります。
③ 「小学校区もしくは中学校区に公民館を設置している」都市の状況
  福岡市、北九州市、広島市、千葉市、仙台市、さいたま市など。やや古いデータをもとにしていることから、平成の大合併以降に政令市になった都市については詳しく述べられませんが、多くはこの括りに入る都市がほとんどであると思われます。ただし、十数もの市町村が合併している場合、旧自治体における設置状況が大きく違うこともあり一概に言えない場合もあることを添えておきます。
  「小学校区もしくは中学校区に公民館を設置している」都市の状況はどうかというと、福岡市、北九州市は古くから住民に近い位置に公民館を設置し、そのことは小学校区に1公民館という設置状況から窺え、都市における地域のための公民館として住民主体の先進的な取り組みもありました。後発の政令市となる広島市、千葉市、仙台市なども中学校区に1公民館を目標に設置を進めてきており、福岡市、北九州市を参考にしつつ、できる限り住民に近い公民館設置を進めたのではないかと推察します。ただ、各都市の施策が思うように進んだか否かはわかりませんが、数多く公民館を設置している都市の理想は、公民館を中心に地域が学習活動を通じて自ら課題解決に動いていくことをイメージしていたと思われます。
  このように地域に密接に関わる施設として運営している都市においても、財政難と行政改革の波はバブル崩壊以降年々厳しさを増しており、北九州市は2005年1月に社会教育法の規定を外して「市民福祉センター・公民館」から「市民センター」に改組、そして区役所移管を進め、現在は各地域にまちづくり協議会を組織し地域委託も行われ住民運営による施設に変貌を遂げています。一方、福岡市も区の中央公民館機能を持たせた各区市民センターと地区公民館を2004年までに市民局へ移管し区の施設として運営、併せてまちづくり協議会を設置し地域コミュニティ支援を強化しようという動きは北九州市と一緒であるものの、公民館は現在も社会教育法上の施設であるとともに人員配置も地域人材を市が選任配置をしている点は大きく異なります。千葉市は教育委員会施設として現在も直営のままでありますが、公民館図書室も図書館の一部として運営されるようになって久しく、職員は公民館・図書館の兼務で仕事をしています。仙台市は、詳細は後段に譲りますが、政令市移行時に施設管理部分のみを市民局に補助執行させ、財団による管理委託を行ってきていました。その後、2001年から施設管理のみならず、ソフト事業を含めた地区市民センター機能の運営を全て財団委託としています。結果、地方自治法の改正に伴って指定管理者制度の導入が余儀なくされています。さいたま市は、一部事業予算が区役所付となって区役所連携の強化は進められているものの、区役所移管については住民運動などにより断念され、現在も教育委員会施設として2005年に策定された「さいたま市生涯学習推進計画」をもとに直営で運営されています。
④ その他の状況
  詳しくは分かりませんが、岡山市が現在首長部局移管の論議が進んでいると聞いています。岡山市では、市長部局安全・安心ネットワーク推進室が「安全・安心ネットワーク」(地域協議会又はまちづくり協議会的組織?)による地域づくりを進めています。地元報道等によれば、公民館移管・活用構想の中でこの「安全・安心ネットワーク」支援の拠点とし、公民館を機能強化する方向性が示されていて、そのために首長部局移管は必要と当局は答えているらしいです。ただ、これまでの連携でも十分に機能すると思われる中、市民の反対運動も起きつつあり、注目が集まっています。
  他には、中核都市では社会教育分野で有名である「枚方テーゼ」を市民とともに作り上げてきた大阪府枚方市においても、2007年から首長部局への移管が進められたところであります。
  このように、今日的には公民館施設の首長部局移管は一つの流れとして、ここに取り上げていない自治体においてもかなりの速度で進んできていると思われます。また、地域委託に関しても、ネット検索を少ししただけで三重県名張市(2003年頃)、佐賀県佐賀市(2005年頃)、山形県赤湯町(2001年)等々、枚挙に暇がないほど進んでいたことも分かりました。2008年開催の第29回全国公民館研究集会(全国公民館連合会主催)でも、初めて指定管理者制度の問題や地域委託について取り上げ、今後の公民館の管理運営のあり方についても投げかけがされています。
こういった実態を踏まえつつ、次の項では、仙台市のもう少し詳しい状況をもとに、私なりの公民館のあり方を考えてみたいと思います。

2. 仙台市の市民センター(公民館施設)の現状と課題

(1) 仙台市の市民センターの現状
① 仙台市の公民館の歴史
  仙台市の公民館は、1949年の社会教育法制定前に戦後復興を願う仙台医師会を中心とした市民団体が独自に「仙台公民館」を設置したのが始まりであります。その後、社会教育法の制定を受けて、民間主導で設置された公民館は仙台市に寄贈され、行政運営の公民館として船出をしました。その後、周辺の町村と合併をし、それぞれの自治体にあった旧高砂、旧中田、旧生出の3つの公民館が増え、昭和の終わりには7公民館2分館が設置されていました。
  そして、政令市に昇格する直前に、旧泉市4館、旧宮城町2館、旧秋保町3館を合併により加え、政令市移行とともに貸室業務のみを行ってきた旧市民センター20館も加えて38館体制になりました。その後、中学校区をベースに各地域に整備が進み、現在の59館体制となっています。また、公民館の名称は、政令市移行とともに「市民センター」へ統一されました。このことにより表面的には公民館はなくなったものの、条例上は社会教育法24条の社会教育施設として位置づけられています。
  運営面では、昭和の時代は合併地区も含め全面直営です。政令市に移行する際に旧市民センター20館を取り込むことになり、20館への人員配置(当時直営は約5~7人で1館を運営していた)問題と、20館の施設管理を請け負っていた受託先の財団職員の処遇等が相まって、施設管理を同財団が全面的に受託することになりました。事業運営は教育委員会付職員が3人(正職員1・非常勤2)で行うこととなり、それ以前の正職員4・非常勤3)とは大きく変わり、厳しい体制になりました。また、当時公民館には必置とされていた社会教育主事有資格者の配置も、正職員だけでは困難であったため、教職員OBの有資格者を非常勤2の一人として配置するなどして対応していました。
  さらにその後、更なる合理化の波が押し寄せ、2001年には地区市民センターの運営を全面的に財団運営とし、正職員は区中央館へ一定程度集中配置されることとなりました。この頃には、規制緩和の流れもあって社会教育主事の必置規定も外れ、地区市民センターには社会教育主事がいなくなりましたが、法的問題は当てはまりませんでした。
  このように、様々な施設管理面・事業運営面での変遷を遂げてきた仙台市の公民館、市民センターでありますが、近年の最大の課題の一つは指定管理者制度であります。指定管理者制度は、地方自治法の改正に伴って生まれたもので、いわゆる民間開放をイメージした制度であります。したがって、公募が原則となるような制度設計をされていて、さらに管理委託を実施していたところに関しては指定管理者制度に切り替えていかなければならないものでした。市民センターにおいては、これまで管理委託を受託していた財団と随意で結ぶことになりましたが、この制度の原則は公募による受託者の選択と議決されることが基本であり、非公募とする場合にはそれ相応の理由が必要となります。議決を必要とすることから、安易な理由による非公募はなかなか認められないという難しさもでてきています。現時点では、市民センターの区役所移管問題が浮上したため、この数年間は非公募による契約更新がなされています。今後、公募になった際には、財団職員の雇用問題をはじめ、公募によって管理者が都度替わりノウハウの蓄積や地域との信頼関係に揺らぎが生じ、人を育てる施設において職員が育たないというジレンマが発生することが課題と考えられます。
  また、前記したとおり、2年ほど前から区役所移管が取り沙汰されるようになりました。その理由の一つには、前市長時代に「仙台市コミュニティビジョン」を策定したわけですが、その具現化に向けて市民センターを区役所傘下に据えて、地域支援に力を注ごうというものでした。しかし、その話が浮上する以前に市民センター講座予算の40%カットなどが起きていたこともあり、地域支援を厚くすることには大きな異論が出なくとも、区役所移管を進めることで社会教育事業が無くなるのではないかという懸念が起こり、遅々として進みませんでした。これらも含め、前市長は様々な行き過ぎた市政運営の批判を受け2期目を諦め、それらの批判票を軸とした現市長が誕生し、今あらためて地域の活性化や地域主体の市政運営を目指す市長の下、区役所移管について再構築され、その時が近づいている状況です。
② 仙台市における市民センターの区役所移管問題
  本市においてこの問題が浮上したのは3年前。前市長が自身の施策の柱の一つとした「コミュニティビジョン」に関わって浮上しました。しかし、コミュニティビジョンそのものが抽象的であったこと、前市長の行政運営手法にいろいろと批判も多く、また社会教育委員の会議や公民館運営審議会などにおいても取りだてた議論のない中での区役所移管には否定的であったことなどから、実質的に一時棚上げとなっていました。その後、市長も交代し新市長の下、あらためて区役所移管問題が検討され、コミュニティ再生をどうするかを主眼として浮上してきている状況であります。
 区役所移管に関わっての最近の動きとしては、2010年8月に「仙台市行財政改革プラン2010工程表」が公表されました。その中の「2.市民とともに進める行政運営 (2)市民活動・地域活動の促進 ②拠点施設機能の充実」において「市民センターなど、市民活動や地域活動の拠点施設について、その機能の充実を図るとともに、施設相互の一層の連携・協力体制を構築します」との記述と、「同 (3)区役所機能の強化 ②市民センターを活かしたまちづくり」において「各地域の拠点施設である市民センターの持つコーディネート機能などを効果的に活用しながら、市民とともにより地域に根ざしたまちづくりに取り組むため、社会教育施設としての機能を維持しつつ、市民センターを区役所の組織に位置づけることを検討します」の2つの記述があります。他には、現在パブリックコメント中の「仙台市基本構想・基本計画(案)」では、各項目とも「市民と行政がともに取り組んでいくための指針」として強く市民協働を全面に出した内容ではありますが、具体的に市民センターを区役所移管について触れられていません。ただし、先にあげた工程表と大きく変わるところはなく、今後も移管の主眼は地域コミュニティの再生とそれへの支援体制の強化を目的に進められると思われます。

(2) 終わりに
 ここまで、各都市や仙台市で起きている状況を見てきましたが、こういった状況を踏まえて自分なりに考えてみました。
 まず、どの都市・自治体でも地域コミュニティの再生とそれへの支援を大きな課題として抱えていることがあります。さらに、これにはやや疑問も持ちますが市民協働を強く推進したい意思があることも首長部局移管へつながる要因とも言えます。
 そもそも公民館は教育施設ではあり、そこでの学びを通して地域や・住民個々が持つ課題を解決していくことをサポートする施設であります。その点で言えば全くのコミュニティ支援施設であるわけです。ですから公民館は古くから地域コミュニティの拠点であることは当然であるし、今日的な首長部局におけるコミュニティ再生の課題に対しては必要不可欠と言える施設に違いありません。ただし、首長部局のこれまでのコミュニティ支援施設との違いがあるとするならば、教育委員会施設であることからある種政治的には中立的であり、首長の政治政策的視点ではなく、“学ぶ”住民の視点で課題解決を図ることを支援する施設であることです。
 しかし、高度経済成長期頃から、住民は豊かになったことと引き換えに段々と地域課題に向けた学びよりも、自己成長に関わるやや楽しみの多い学びを優先し、結果公民館事業の見た目がカルチャー化したように映ったことも事実です。その後、バブル崩壊、リーマンショックと長引く不況によって、国・自治体が財源という体力を失いつつある中、行政はコミュニティの再生を目指しお金のかからない行政運営をイメージしてきています。そして社会教育が培ってきた手法に着目し、行革と噛み合って進行しているのが今日的な首長部局移管の流れでしょうか。真剣に地域再生への思いで取り組みを進めているところもあるとは思います。でも、個人的にはそうでない自治体がほとんどで、表面的には市民協働や地域支援の強化を前面に出しますが、裏には必ず人員削減や何らかの合理化が見え隠れしています。その将来は、地域の学びが凸凹するのもそれを請け負う地域の責任とすり替えられることは大きな問題と捉えています。本来、“学び”は憲法に保障されているものですから……。
 それから、社会教育の考え方として「なぜ?」があれば、それを“学ぶ”ことからはじまります。いろいろと学べば様々考えられるようになります。一方、一般行政ではどうでしょうか。施策を進める上で不都合なことは知らせなかったり、意見の聴取にしても一方通行のパブコメのようなヒアリングで済まし学ばせない、そんなところに腐心しているように思います。本当の意味で、市民協働やコミュニティ支援を進めようとするならば、公民館の所属がどうのこうのというより以前に、まず住民としっかりとコミュニケーションが取れる職員の育成、自治体自身に住民とちゃんと向き合う覚悟、そして住民が自ら課題を解決できるようになるための“学び”がなければいけないとあらためて思います。
 今、社会教育施設は岐路に立たされていますが、社会教育施設の原点である“学び”を伴った課題解決、“学び”を通した地域づくりを念頭に置き、その学びが保障をされる仕組みを考える必要があります。さらに、“学び”の重要性を住民と共有することで、安易な首長部局移管にも対峙できるのではないでしょうか。