【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 防災については、行政での取り組みが多く、計画、訓練、連携なども充実しているように思われる。しかし、勤務時間外で職場から離れた所、旅先、居住先以外の地域で災害に遭遇した際の初動については混乱が生じることが予想される。現在整備されているもの、また未整備となっている部分について、住民の立場から検証し、今後の防災のあり方について考え、行政として取り組むこと、住民が主体的に行うべきことについて提言する。



広域防災を考える
~プロジェクト IKB48~

北海道本部/石狩地方本部・2010自治研推進委員会・広域防災検討グループ

1. はじめに

●札幌圏位置図
 防災対策の取り組みは、国、北海道、市町村、自衛隊、警察、消防など各機関で連携が取られ、会議などにより一定程度の意思統一が図られている。防災訓練などでは各機関が連携のもと行われており、地域への啓発の一助になっている。また、ハザードマップの作成・配布、避難所の案内、情報伝達など地域住民への防災情報の提供は各自治体が行っており、災害時には地域コミュニティのつながりが重要になることから、対住民への啓発は大きな効果が期待できる。一方、自治体主催の訓練などは、日中、勤務時間内での災害発生を意識、想定したものがほとんどで、実効性については疑問がある。
 また、自分が現在居住していない地域、旅先などで災害に遭遇した際などは、情報や備えが十分出来ていない状態であることから、これらの場合を想定した何らかの対策が必要である。
 約230万人が居住する札幌圏(石狩エリア)の中では、職場、学校、居住地は隣接しているが、徒歩圏内とは云えない。このエリアをカバーする共通した取り組みについて考えることから、検討をスタートし、広域レベルで防災について考えることとした。石狩地方本部に所属するエリアの40代前後のメンバーが、札幌市、江別市、千歳市、恵庭市、石狩市、北広島市、当別町、新篠津村、6市1町1村地域全8市町村の防災を考えることから、石狩広域防災(Ishikari Kouiki Bousai)の頭文字を取り、『広域防災を考える~プロジェクト IKB48』として検証を行った。

2. これまでの防災対策

 各市町村は自治体としての役割で、危機管理の専門家を配置し、行政としての対応を行っている。本グループでは、あくまで、個人(住民)として動くときに感じること、気づいたことについて検討を行った。

(1) ハザードマップの比較検討
 現在、自治体の防災対策としては、地域住民に対してどのようなアナウンス行っているのかを、グループ討議の切り口とするため、各自治体で公表している地域防災計画及び関連資料並びに洪水・地震・土砂災害時のハザードマップ等の比較検討を行った。自治体としての防災対策については基本的な対応については、統一的な仕組みが作られているが、地域間によって、マニュアル・取り組みに差が出ている。
 また、洪水時のハザードマップは整備されており、ホームページ上でも公開されているが、土砂災害、地震ハザードマップについては、市町村間で整備、未整備の差異があった。

(2) 防災訓練のありかた、避難場所の設置について
避難場所マーク
 職場での避難訓練や、地域での防災訓練はさまざまな規模で行われているが、昼間(日中)を想定したものが多い傾向にある。日中、勤務時の被災であれば、初動も早く、二次災害の発生も抑制されると予想される。
 しかし、夜間に発生した場合や、休日、または自分が住んでいる地域以外で災害に遭遇した際の対処についてはどうなるのか、不安要素が多い。
 地震、津波、洪水、雪害など、災害発生時に自宅から離れ一時待機する必要に迫られた場合、すぐに市町村が指定する避難場所まで行くことが重要になる。避難場所については、被災状況に応じて、市町村が一時避難場所、広域避難場所、収容避難場所を指定している。官民の枠を超えて、防災情報を提供している NPO法人防災情報機構では国土交通省、消防庁と連携して、避難場所マークを推奨しているが、まだ、一般的には充分浸透しているとはいえない。
 また、人口密集地域であれば、学校や公園といった避難場所に指定されている施設が、狭いエリアに数多く存在するが、地域によっては避難所までのルートを探すことが困難である。案内表示のサインのほかに、ルートについても全国で共通した規格を整備する必要性について感じるところである。

(3) 行政、企業、住民の関わり
 災害時の対応として、行政と企業では協定を結んでいるところも多く、災害時に自動販売機の品物が無償提供される仕組みや、コンビニエンスストア、ガソリンスタンドなど徒歩避難者のトイレ、休息利用として使えるように協定を結んでいる企業も多い。企業の社会貢献事業の一環としての援助は、災害発生時の初動における混乱回避の一助に成り得る。
 また、大規模災害になると自治体、消防、自衛隊、警察といった機関が動き出すのは、被災地が一定程度落ち着きを見せてからのことになる。災害の規模が大きければ大きいほど、公的な機関が動き出す(公助)ことが遅くなりそのため、災害発生時には、まず、自分たちの命は自分たちで守る(自助)ことが求められる。
 地域のコミュニティが災害発生時には大きく役立つ(共助)。同じ町内会に住んでいる災害時要援護者(高齢者、疾病者、乳幼児、妊産婦など)がいる世帯を把握していることで、救出活動がスムーズに行うことに繋がる。
 いわゆる自助、共助、公助、それぞれ3つの役割と関わりが最も重要である。


3. 取り組み事例

(1) 江別市の取り組み(洪水ハザードマップの掲示)について

●江別市 公共施設に配置の ハザードマップ

 災害発生時の初動で大事になる避難所への案内、特に土地勘が無い人たちを対象にした道案内は難しい。江別市では、公共施設に洪水ハザードマップを掲示している。
 日本全国で、知らない土地にいても被災時にはどこに行くのか示す共通のサインがあると混乱を回避できる。駅などに周辺図を掲示しているところは多いが、地下や屋内にあるものだと、外に出た場合に、自分の現在地、行き先、方角の位置関係に混乱が生じる場合がある。
 現在見ている方角と、設置している地図が同じ向きを示しているといった細かな配慮が、案内をより効果的なものにすることができる。


(2) 当別町の取り組み(収容避難所位置図の掲示)について
●当別町 
簡易防災マップ
 ガソリンスタンドやコンビニエンスストア、観光施設など交通のポイント、町外の人が集まる施設を中心に避難所の位置図を配置して、他の地域から訪問した人に対して、避難場所がわかるような仕組みづくりを進めた。
 これは帰宅困難者対策にもつながることや(※1)「まちごとハザードマップ」の一環として取り組んでいる。
 また、これらは前述した江別市の取り組みを発展させたものであり、はじめに提起した自分が現在居住していない地域、旅先などで災害に遭遇した際の避難誘導対策としては効果が期待されるものと考えられる。
 一方、これらは企業の協力が不可欠であり、企業の地域貢献事業のひとつとして災害時における支援や徒歩帰宅支援ステーションとしての取り組みにも繋がっている。
 (※1)まちなかに災害情報、避難情報などを表示することで、まち全体をハザードマップと見立て自主的避難行動に繋げて行こうというもの。

(3) 災害図上訓練(Disaster Imagination Game)の体験を通じて
 DIG・災害図上訓練(以下「ディグ」)について話題となり、グループメンバーの中に防災担当者、ディグ経験者などがいたことから、実際に体験した。自分の住んでいる地域で大規模災害等が発生したことを想定し災害が起きた際の避難の仕方、対処方法などを考えるもので、この建物は地震のときに危険である、水害の時に川や道路で通れない場所がある、ここに高齢者が住んでいる、といった地域住民同士が災害の際にどう動けばよいかという話ができ、実際の場面での指揮や運用などを考え防災について考える経験になった。
 ディグの体験を通じて、災害発生時の初動のあり方や、地域(ソフト、ハード)を知っておくことの重要性を認識できる機会となった。


4. 「さっぽろ圏防災ネット」による情報発信

(写真イメージ)
さっぽろ圏防災ネット
URL http://www-----------------------
(QRコードイメージ)
 防災についての啓発や情報を伝えるためのホームページは多く、自治体、公共機関、民間を問わず充実した内容のサイトから情報発信がなされているが、その一方、携帯サイトについては、非常に少ない印象を受ける。
 現在、携帯端末を使って、ニュース、レジャーなど多様な情報が受信できる環境の中で、携帯端末から防災についての情報も簡単に入手できるような仕組みづくりについて検証を行った。
 旅先や、土地勘が無い地域で被災した際には、いち早く情報を入手することが最も重要となる。北海道内では、地域によっては、隣接する他の市町村の避難所、病院、消防署への距離が近いといった所も数多くある。万が一自分が被災した時に、地理的情報が全く解らない場合にも、最寄りの避難所の名称、住所を知ることにより、初動体制を取ることができる。
 そして、災害発生時に慌てずに確認しなくてはいけないことは多くあるが、前述のディグの体験によって、初動に特に重要となる事項、情報としての杖がわりとなるような項目についても、改めて目で確認することで安心して対応が可能になる
 また、安否確認、救急といったさまざまな情報を携帯端末から入手することができる、統一した規格のサイトがあると利便性が高い。

 以上のことから、どのようなサイトがあると使いやすいかを検証するため、実際に、テストとして携帯サイトを作成することとなった。
 この中で、特に被災の初動体制における最重要な項目、制作に係る時間等を考慮して、
  ①避難場所 ②持ち出し品 ③応急処置
 これらの三点の情報に焦点を絞ったモデルケースとなるようなサイトとするべく、目下2010年中の運用開始に向けて作業中である。


5. まとめ

(1) 行政としてのかかわり方
 法的に備えておく必要のあるものは全国的に統一されている。しかし、これまで市町村では地域住民のための地域防災計画、体制の整備を行ってきたが、帰宅困難者および町外からの訪問者(一種の災害時要援護者なのかもしれない)対策として、広域防災の視点に立ち、ソフト・ハードの両面から整備が必要であると考える。
 また、災害時のマニュアルについても、災害の種類や規模などでさまざまな対処が求められることから、実効性のあるものに適宜見直しを行う必要があり、常に地域住民とのコミュニケーションが求められる。

(2) 住民としてのかかわり方
 全てを行政に頼るのではなく、自分の命は自分で守るという意識で日ごろから備えておくことが必要である。心構えはもちろんであるが、情報や知識、備蓄といったものと同時に、地域コミュニティづくりも大切になる。
 ディグの体験をきっかけに、ごみ収集作業の効率化、除雪作業の改善、防犯灯の設置など、よりよいまちづくりにつなげていった地域も全国的に見られる。職場での対応とともに、住民の立場で地域に関わることがより重要となる。

(3) グループ検討結果
 ニュース、交通情報、気象情報などは、携帯端末の普及により簡単に情報を得ることができ、様々な発信者による情報が、利用者が欲しい時に入手することが可能になっている。
 火事の発生には119番、天気予報なら177番といったように全国的に浸透している。また、災害伝言ダイヤル171番も阪神・淡路大震災以降浸透し始めている。これらと同様に災害発生時には「○○○○防災ネット」にアクセス というようにスタンダードな携帯サイトがあればと考え、第一弾として『さっぽろ圏防災ネット』の作成を試みた。
 都合により文字データのみの配信予定となったが、検討グループの中では、避難場所については地図の画像があった方が良い、GPSなどで自分がいる所から直近の避難所を知らせる、既に携帯はカーナビのように使えるのだから避難場所まで誘導するものが可能、といった意見が出された。
 また、最短ルートを通ろうとした際に、
 ・水害により道路が浸水している。
 ・火災により周辺が危険箇所となっている。
 ・地震などにより建物倒壊のおそれがある。
 以上のような理由から通行が困難になると予想される所もあり、災害によって対応が異なる場合もあるといった課題や、病院についての情報も大切では、といった意見も多く出されたが、これらの課題は、国の機関や広域自治体、企業などが積極的に参画することによって、多くの情報を集めることにより解決が可能になってくる。都道府県としても、携帯端末での防災のポータルサイトを運営している所は見受けられるが、リンク先として各自治体のホームページに飛ぶものが多く、自治体間で情報量に格差があるのが現状である。
 この「さっぽろ圏防災ネット」については、本格運用開始後も情報の精査を行っていく。

 災害というのは、多くの人にとって、自分には関係ないと思い込んでいるが、実はその反対である。子どもからお年より、男女を問わず全ての人が共通する課題である。また、近年は日本全国で常に何らかの災害が発生しており、地域(点)から広域(面)に目を向けた取り組みが必要である。対応については、自治体としての取り組み、地域での取り組み、どちらか一方だけでは不充分である。地域から行政へ、行政から地域へ、不充分な部分を補完することが常に求められている。
 今回の検討を通じ、さまざまな情報を循環させていくことが、防災対策のみならず、地域づくりにおいても必要不可欠な要素であることが実感出来た。


石狩地方本部 2010自治研推進委員会 広域防災検討グループ

黒坂 秀勝(札幌総支部) 長谷川 睦(札幌総支部) 藤田 秀俊(札幌総支部)
磯野 宏之(札幌市職連) 中野渡 智(札幌市労) 伊藤ゆかり(札幌市労)
鈴木 恵子(札幌市労) 中村 茂夫(札幌病職労) 辻口有紀子(札幌病職労)
草刈 智(北学労) 平野 正志(北学労) 村上 真仁(江別市職労)
白崎 敬浩(江別市職労) 吉田 学(石狩市職労) 松本 政樹(北広島市職労)
高松 悟志(当別町職) 東野 孝裕(当別町職) 高橋 辰徳(新篠津村職)
宮下照太郎(北広島市職労) 石川 公隆(石狩地本)