【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第11分科会 地域における教育コミュニティづくり

 大阪市職関係労働組合教育支部では、前回北海道自治研において報告した自主レポート「教育委員会の事務職域における自治研活動のあり方」の視点をふまえ、学校と教育委員会事務局との関係作りについて考える支部自治研集会を行った。本稿では、集会での議論内容の報告を中心に、各組合員が、自分たちの仕事の意義を実感し、モチベーション高く仕事ができる環境づくりについて考える。



教育委員会の事務職域における自治研活動・その後
~具体の取り組み報告から~

大阪府本部/大阪市職関係労働組合・教育支部 村上 哲也

1. はじめに

 2年前の第32回地方自治研究全国集会(北海道自治研)において、大阪市職関係労働組合教育支部(以下「支部」)では、「教育委員会の事務職域における自治研活動のあり方」として自主レポートを提出した。レポートでは、教育委員会事務局を取り巻く状況が大きく変化する中で、支部として、その変化に対応するための新たな視点について述べた(次項で詳述)。分科会においては助言者より「これまでの自治研活動でなかなかテーマになりづらかったテーマ。今後どのようにふくらんでいくか、続編に期待したい」とのコメントをいただいた。その後、この視点に基づき、具体的な取り組みを行うとともに、課題解決に向けた方向性について模索を続けてきた。本稿では、北海道自治研レポート後の取り組みや状況の変化についての報告を行うとともに、現段階でイメージする今後の活動の方向性について報告する。

2. 北海道自治研自主レポート

「教育委員会の事務職域における自治研活動のあり方」
 まず、今回のレポートに至るまでの経過として、北海道自治研での自主レポートの内容について簡単に整理しておきたい。詳細については自治労ホームページ等で前回のレポートをぜひご参照いただきたい。
 これまで、支部は、社会教育主事・司書・学芸員・音楽士など、さまざまな専門職組合員が、それぞれのフィールドにおいて、伝統的に「現場を中心とした自治研活動」を重視した取り組みを進めてきた。しかし、機構改編や指定管理者制度の導入、施設の廃止などによって、専門職の他部局や区への配置が進む中で、教育委員会所属の専門職の数が相対的に減少した。教育委員会全体に占める事務職員の割合が増加し、その多くが学校の管理・指導部門での業務に従事しているという現状のもと、支部自治研活動のあり方を再構築していく中で、事務職域における自治研活動の必要性が浮かび上がってきた。
 では、学校の管理・指導部門での仕事に携わる事務職域における課題とは何か。レポートでは、「人事の流動化による経験の蓄積の低下」「直接市民に接する機会が少ない中での仕事上のモチベーション維持の難しさ」「学校と教育委員会事務局との感覚の差」について言及し、これらの課題解決のための視点について次の3点を挙げている。
① 意思疎通と相互理解
  両者が同じ現状認識に立つ第一歩として、教育委員会事務局と学校の「文化の違い」を意識するための意思疎通が必要。例えば、学校事務職員と本庁事務職員との人事交流などもひとつの方策。
② 地域における学校のあり方像の構築
  「子どもや地域の教育がどうあるべきか」という広い視点のもと、地域や区役所をはじめとした他部局などさまざまなリソースの活用も含めて、学校を含む教育委員会事務局総体としての主体的な教育行政推進のイメージの構築。
③ 一般行政事務職員の政策提言
  専門職のような「現場」がない中で、学校の管理・指導といった事務を日常業務とする職員が、市民を意識した仕事をする環境づくりを行うためには、職場懇談会の開催など、地道な活動により問題意識や課題解決に向けた思いを吸い上げ顕在化させることが必要。また、その前提として、教育現場の課題やあるべき方向性について正確に認識・把握・共有することが必要であり、そのためには職域を越えて関係職員どうしが理解しあうことが必要。

3. 具体的な取り組み

 支部では、北海道自治研のレポートで報告した視点に基づき、課題解決に向けた具体的な取り組みを行っていくこととした。その手始めとして、学校と教育委員会事務局(本庁)、またはそこで働く教職員と事務職員との関係について着目し、それぞれの職種が漠然と持っているイメージについて具体的に考えてみることにした。例えば、日々の業務の中で、学校側が事務局に対して「事務局は現場の状況を分かろうとしないで無理難題を押し付けてくる」と感じていたり、事務局側が学校に対して「教育施策の円滑な遂行のために日々苦労しているのに、学校はわがままばかり言ってくる」と感じていたり、そのような積み重ねによって、だんだん関係がぎくしゃくしてしまうという状況が実際に存在する中で、もっと互いが気分良く仕事をする手立てはないのだろうか、という視点で議論してみることとした。
 2009年10月、「学校現場との関係~『顔の見える関係』をめざして~」をテーマに、支部自治研集会を開催した。今回の自治研集会は、パネルディスカッション形式で開催することとし、フロアも含めた議論にも多くの時間をさけるよう、本庁職場が休日である土曜日の午後に開催することとした。この集会には、多くの支部組合員のほか、大阪市職の他支部や他自治体の教育支部、さらには管理職など、総勢で55人の方に参加いただいた。
 パネルディスカッションでは、「自治労の地域教育改革・16の提言」をまとめた“自治研地域教育政策作業委員会”のメンバーでもある関西大学准教授の広瀬義徳さんをコーディネーターに迎え、(1)本庁において学校の管理・指導的な担当業務に従事してきた事務職員、(2)教員として担任・同和教育主担・教頭などを歴任し現在は本庁に勤務する指導主事、(3)社会教育施設等において学校との関わりを持つ事業の企画・実施に携わってきた専門職員(社会教育主事)、という立場の異なる3人をパネリストとして、議論を行った。
 前半では、それぞれのパネリストが日ごろ感じているイメージについて意見交換した。事務職員のパネリストからは「本庁で予算の仕事をしているが、自分としては、何も考えずに予算を削っているのではなく、学校現場を知らないなりに、知り合いの教師や学校事務職員に聞きながら、考えて仕事をしている。だが、そういったことは学校現場には伝わっていないし伝わるようなしくみにはなっていない。思いが相手には伝わらないむなしさがある」、指導主事のパネリストからは「学校から見ると事務局は締め付けてくる対象というイメージが根強く、支えてもらっているという認識を持ち切れていない。手を差しのべられているけれどもムチでしばかれているというように感じているというのが学校の実感」、社会教育主事のパネリストからは「社会教育施設などにおいて、学校と連携したさまざまな事業を実施してきた。毎年定例的に実施している事業についてはスムーズにいくが、新規で事業を立ち上げた時には学校はのってこない。学校現場のことが分かっていないままに事業を行うことの難しさを実感した」と、それぞれのパネリストが自分の立場やこれまでの経験などに基づき、発言した。
 後半では、前半で出されたイメージをもとに、ギャップをどう乗り越えていくのかについて議論した。事務職員のパネリストからは「事務局側から学校に新たな仕事を発信する際に、言い回しが難しくて何を説明されているか分からないということがあると思う。できるだけ咀嚼した言い回しや建前ではない伝え方をすることで、分かり合える部分が増えてくるのではないかと思う」、指導主事のパネリストからは「教員の立場では、学校のことを理解してほしいという気持ちが前提にある。例えば、新任教頭は、4月1日に教頭になってすぐにすごい量の事務処理を要求される。それまでの仕事と異なる内容の仕事についてなだらかに理解する暇もない中で、なかなか円滑なやりとりができない」「学校は日々ものすごい繁忙状況にある。いろいろな新しい支援策が、良かれと思って考えられているが、繁忙状況の中でポジティブに受け止められていない。まず学校の繁忙状況を解決しなければ難しいのでは」、社会教育主事のパネリストからは「学校が繁忙だという中で、最低限全ての学校でしなければならないことと、各校の裁量によってするかしないかを選択できることとを仕分けて行っていく形も必要なのではないかと思う。ただ、その裁量を運用できる体制は作らないといけない」「学校がさまざまな役割を担わざるを得ない現状の中で、どういうサポートが必要なのかを考えたときに、事務局と学校というつながり以外のいろいろな接点が必要なのではないか」といった意見が出された。
 最後に、まとめとして、事務職員のパネリストからは「今日の話を聞いて、自らが学校に接するときに、学校のイメージを知って、相手のことを思いながら仕事をする、し続けることが大切だと改めて思った。また、人と人とのつながりの中で仕事をしているということを考えると、そういった人間関係作りや仕事への取り組み方などの文化を職場の中で継承し根付かせていくということがやはり重要だというのを実感した」、指導主事のパネリストからは「学校というところは先生と子どものいい関係というのがベースになければならない。一つひとつの事業がその関係を構築するためのものでなければならないということをお互いが理解する中でしか仕事ができないのではないか。現場のことを知って仕事をすることが大事。仕事上のいいパートナーを見つけて、いつも相談しながら進めていくというのがいいやり方だと思う」、社会教育主事のパネリストからは「今の職場でも学校の先生と一緒に仕事をしている。この集会でされたような話を、職場においてもできればいいのかなと思う。」とコメントがあった。それぞれパネリストの立場によって表現は異なるが、「関係」「つながり」の中でどう仕事をしていくか、という視点を問題意識として共有した。
 実際に、集会終了後に実施した参加者アンケートからは、「教育委員会にいながら、知らなかった学校現場の現状や本音が聞くことができてよかった。もっと長い時間でもよかった」「こういう機会をもっと設けてもらえれば、今後の業務の進め方がもっとよくなるのではないか」「相手を知ることで仕事のモチベーションが上がれば、やりがいのある仕事につながると思う」「お互いをしっかり理解し、思いやり、一緒に考えて、よりよい方法を考え合っていくことが大切なのだと思いました」といった意見が見られ、人と人との関係の中で、相手に対してどのようなイメージを持って仕事をしていくことが大事なのか、ということについて、参加者それぞれが気づきを得る機会となったようだ。

4. 学校経営管理センターの設置

 2010年4月に機構改編が行われ、これまで市内に3か所あった学校事務センターを統合するとともに、これまで本庁で担っていた学校に関する予算管理等の事務を移管した「学校経営管理センター」が設置され、行政事務職員と学校事務職員が同じ職場で仕事をすることとなった。これに伴い、支部は、新たに「学校経営管理センター分会」を設置し、学校経営管理センターにおける組合員の勤務労働条件の確立や業務の円滑化などの職場課題に対し、支部・分会が密接に連携して、諸課題の解決にあたることにした。
 また、行政事務職は大阪市職関係労働組合教育支部、学校事務職は大阪市教職員組合事務職員部と、所属労組が異なる中で、職場課題の解決方法の見出し方についても今後早急な検討が必要である。一方で、学校経営管理センターでの職場課題を足掛かりとして、市教組事務職員部をはじめとした他単組とのコミュニケーションが深められるのではないかとも考えている。実際に支部自治研集会にも市教組事務職員部からの参加があり、今後互いに議論を深めていくための環境作りをさらに進めていく必要がある。

5. 解決すべき課題と今後の支部の運動の方向性

 ここまで、支部自治研集会での取り組みを中心に報告を行ってきた。今回の支部自治研集会の開催が、組合員が意思疎通の必要性について認識するためのきっかけとなり、職場レベルでの意思疎通に対する組合員の意識改革は前進した。すぐに意思疎通のためのチャンネルを見出すことは難しいという一方で、自分たちの理屈だけで仕事を進め、うまくいかない原因を相手に求める、ということでは現状が解決しないということも確認された。
 現在の学校は、多くのことを抱え込み、解決せざるを得ない状況になっている。これは、学校に対する社会からの要請が大きいとともに、学校自身もさまざまな課題を学校のみで完結させようという側面もある。社会が複雑化する中で、現在の教育課題は単独の機関では解決しきれないという認識のもと、教育委員会事務局や他部局、そして地域などのサポートの中で、総合的に課題解決していくという発想を学校も含めた教育委員会事務局全体で共有することが必要であろう。
 その上で、その発想に基づいて現在の教育課題の認識の共有化と、その解決のためのネットワーク型の教育政策の策定が必要である。教育委員会としては、そのグランドデザインを主体的に練り上げるとともに、まちづくり、福祉、区役所など、行政内部における教育施策を担うセクションが多様化する中で、教育委員会が先導し、部局を横断した横の連携に取り組んでいくことが必要である。
 では、これらの取り組みを教育委員会全体として進めていくうえで、労働組合として取り組めることはどのようなことだろうか。以下3点において提言したい。

(1) 継続的な意思疎通
 まず第1には、継続的な意思疎通があげられるだろう。今回の自治研集会では、教員籍の方に入っていただいたとはいえ、3人のパネリストはすべていわゆる本庁で仕事をしているメンバーであった。学校現場の教職員などとの議論を通して、意思疎通の可能性を探るということが必要であろう。もちろん、議論の中で価値観のぶつかりあいが生じることも予想されるが、継続的な意思疎通をすることで、相手のことを理解し、相手のことを考えながら仕事をする、というイメージがお互いに強くなっていくのではないか。その上で、仕事の内容について議論を深めたり、連携の可能性を探ったりというステップに進めると考える。
 その際に、労働組合がこの間培ってきたさまざまな意見交換や意思疎通の手法を生かすことができる。例えば、支部では、自治研集会のような日々の取り組みを補完するような事業を行っている一方で、日常的な職場懇談会の開催によって現場からの職場課題についての声を丁寧に集約したり、文化体育事業の実施により、職場単位や職場相互での「仲間感」を感じられるような取り組みを行ったりしてきた。これらの手法や培ってきたつながりを生かして、組織を越えて議論できる場づくりや組織同士の橋渡しについてのアプローチを労働組合として主体的に行っていくということも必要であろう。

(2) 専門職スキルの再定義と活用
 指定管理者制度の導入などにより、本務職員が配置される現場が縮小する一方で、これまで現場中心で仕事をしてきた専門職が新たなフィールドでの仕事をするようになってきている。例えば、大阪市では、社会教育主事の区役所への配置や司書の指導部初等教育担当(学力向上ライン)への配置などが行われており、これらの職場では、専門職としてのそれまでの経験を活用して、施策形成を担うといった状況も見られ始めている。学校に対してさまざまなルートでのサポートを充実すべき状況の中で、各専門職がそれまでの現場経験で培ってきたスキルや自治研活動での経験・施策への反映の方法などを、学校に対して活用できるものとして再定義していくことはできないだろうか。
 これまで学校が持ち得なかったスキルを持つ者として、学校にあてにされる専門職をめざし、そこでの意思疎通のチャンネルを設け、それを本庁内で政策反映するという事務職・専門職・学校との関係構築についても考えていきたい。

(3) 組合としての政策提言のあり方
 この間の市政改革により、組合側と交渉すべき事項についての線引きが厳密なものになっている。政策提言など、勤務労働条件に直接関わらないとされる事項は、管理運営事項であるとして、意見反映できる環境が少なくなってきている。しかし、さまざまな職場課題が存在する今日だからこそ、各職場の抱える現場課題を吸い上げ、それを可視化し、交渉や情報提供、意見交換などさまざまな手法を最大限活用して局全体として解決の方向に向けさせる取り組みを積極的に進めていく必要がある。支部ではこれまで自治研活動を通じて集約した各現場組合員の声をバックボーンとして政策提言を行い、それを施策に反映してきた。これまでの蓄積を生かして、引き続き現場に立脚した課題解決を追求していかなければならない。

6. おわりに

 これまで、支部自治研集会の取り組み報告を中心にレポートしてきた。その大きなテーマとしてここではいわゆる「学校との距離感」について取り上げたが、支部の取り組みの目標は、事務職・専門職に関わらず、教育委員会事務局で働く組合員が、大阪市の教育施策に主体的に関わっているという感覚を持ち、自分たちの仕事の意義を実感し、モチベーション高く仕事ができる環境作りにある。これからも、これまで自治研活動を通じて培ってきた支部の強みを生かして、政策提言できる環境づくりに努めていきたい。