1. 放課後児童クラブへの給食提供の背景
益田市現業労組では2004年から現業業務のあり方について組織的な論議を繰り返し、公共サービスの拡充を課題として運動展開をはかってきました。その結果として2004年夏期以降保護者へのバイキング給食の試食会などニーズに対応した施策を講じて具体化してきましたが、一方で共働き家庭が増加する社会構造の変化を考慮し、放課後児童クラブへの給食提供も今後の方向性の重要な問題として検討していく必要がありました。
① 給食提供に至る考え方
ア 従来からの共働き家庭だけでなく、経済事情の悪化による新たな共働き家庭の増加と男女共同参画社会の浸透、女性の社会進出、母子・父子家庭の増加等により、児童を取り巻く社会不安の増大、家庭や地域の子育て機能が低下する傾向にある。
イ 地方自治体をめぐる情勢として、財政事情の悪化や市町村合併が具体化するなか、人件費の抑制財政論議のうえで特に問題視されており、とりわけ夏休み、冬休み、春休みの3期期間を中心に、年間稼働日数や業務時間の偏りなど学校給食業務に係る問題点を指摘される状況にある。
ウ 公共サービスにおける住民ニーズは複雑化、多様化し、行財政に対する住民の関心も強まるなか、現実として人件費をコストという観点から施策の議論をしがちになっている実態は否めず、公務員を取り巻く厳しい環境下では従来の業務遂行のみで住民に対する説明責任を全う出来るとは考えにくい。
エ 放課後児童クラブがフルタイム実施されている時期と学校が休みで給食調理業務を行わない時期が一致するのであれば、新たな公共サービスの創造を模索するという観点から放課後児童クラブへの給食提供を検討することは、民間では出来ない利潤・剰余価値を求めない直営事業だからこそ可能な形態として考慮すべきである。
放課後児童クラブとは?
諸事情により昼間保護者のいない家庭の小学校低学年児童等の育成及び指導のため行う事業の総称。以前は「学童保育」ともいわれていた。
益田市は小学校区を単位とし、2010年8月時点で14の放課後児童クラブを開設している。需要が増加する傾向にあることからクラブ数は今後も増え続けるものと想定されている。 |
オ しかし、放課後児童クラブそのものが児童福祉の観点から様々な論議を経ているなかで、公共サービスに関するニーズとして行政に求められているとは言い難い。そういった状況下では、都合のいい理論として整理し一方的にサービスを強要する側面も内在しており、実質子ども達を利用して身分の安定を図ろうとするものとして批判される実情もある。
カ とはいえ、学校給食業務における三期期間は何らかの対処をせざるを得ない状況であり、結果的に直営体制の堅持に連動するのであれば、自らの利益を確保していくというスタンスに立ち、住民サイドに理解の得られる業務拡大という意味で放課後児童クラブへの給食提供の実施を求めていかなくてはならないと考える。
放課後児童クラブへの給食提供という労組の政策要求に対する益田市教育委員会のスタンスは、「教育委員会自体の予算が限られるなかで財政負担を強いることなくサービスの拡大が出来る方向を考えなくてはならない」というものでした。そういった状況下であるのであれば、現業職員体制をさらに活用するとともに従来の調理業務に留まらない広範囲な業務体制の構築を労使が議論していく必要があるとの認識を労使で確認し具現化に向けた協議をスタートさせた次第です。
2. 実施に伴い想定される問題点の解消
(1) 部局の連携が可否を決定
しかし、児童福祉法第6条の2第7項において定義されている放課後児童クラブ・学童保育に係っては管轄が福祉環境部であり、放課後児童クラブへの給食提供を教育委員会の学校給食共同調理場で対応するという点について、実務上は様々な弊害が生じたのも事実です。労働組合が事務折衝を双方の部局と行い、現場の現業職員が実務協議における調整事項を円滑に処理しながら、部局間の調整を図る窓口的な機能を果たしました。
計画が策定された以降も実務上においては行政セクション間での調整や衛生管理面など実務的な課題を克服せねばならず、再三にわたる職場協議を経て意思統一を図る必要が生じてきたのも事実です。
そしてその協議内容をさらに進めて具現化するために、調理員を基軸とし、栄養士、事務職も含めたワーキンググループを設置し、協議過程において課題点を論議していきました。
児童福祉法第6条の2第7項
この法律で、一時預かり事業とは、家庭において保育を受けることが一時的に困難となった乳児又は幼児について、厚生労働省令で定めるところにより、主として昼間において、保育所その他の場所において、一時的に預かり、必要な保護を行う事業をいう。 |
① ワーキンググループで議論した課題点
ア 実施期間:夏期休業のうち何日程度実施するか。
イ 予算:回転釜では大きすぎるので、人数に見合う調理器具の使用が必要。また、調味料、水道光熱費が予算化してあるか。
ウ 給食費の設定:材料費のみとするが通常の給食費とのバランスが保てるか。
エ 献立作成:従来と同様の栄養士による献立作成が可能か。アンケート調査を実施し、要望の多い献立を採用する事例が多い。
オ 各学校での実施:配送の問題(保冷車の運転、格納)、配膳箇所、喫食場所をどう対処するか。
カ 副食:米飯、パンにしても委託費を伴うので、調理場で対処すべき。その場合米飯が妥当と考えるがその際食器等をどうするか。
キ 本来業務:夏期休業中の清掃や補修などの作業をどうするか。
ク 食品衛生管理対策:食中毒の危険性が高い時期での調理作業は問題がある。また従来どおり検食、温度管理等のチェック機構が確保出来るか。
ケ アレルギー除去食の対応:提供しても摂取出来ない児童が発生する。
コ 公共サービスの不均衡:一部児童への給食提供は不均衡ではないか。
サ 労働強化:通常身体的にゆとりをもって作業出来る期間に給食実施する事がどうなのか。
シ 研修:従来食品衛生管理等研修の必要性が求められてきており、夏期休業中の対応としてきた面を対処するか。
ス ノウハウ:県内8市ではどこも実施していない。列挙した問題点の解消に繋がるノウハウの移譲が見込めないのはマイナス要因となりはしないか。
(2) 実施計画の策定と実践
当時設立されていた6つの児童クラブへの給食提供に向けて、調理員主導により献立・調理・配送といった調理全体に係る部分と保護者への周知や給食費の請求・集金といった部分を統合した業務計画が作成されました。
① 給食実施計画(抜粋)
ア 実施期間
夏期期間とする。
イ 弁当方式による配送
調理場所有の保冷車で、その日の注文分の弁当をコンテナ(弁当用)に入れて各クラブへ12時までに配送し、13時30分頃までに回収。配送の3班体制時と2班体制時の班体制表を作成。併せて、夏季期間業務日程人員割当表の作成。
ウ 献立の作成
ワーキングチームを中心に献立を作成。栄養士に意見をききながら、3班にわかれ班ごとに春休み期間中に全部の献立を調理、試食。あわせて弁当の写真をとり、写真入の献立表の作成。
エ 申込み方法
1週間毎に1週間前の申込みとし、申込書の配布に併せて献立表の配布。
変更の場合は保護者が前日の午前中までに直接調理場へ連絡する。
オ 請求方法
調理場で個々の給食数を月ごと末締めで調理場より保護者へ納付書を発行。
カ 徴収方法
調理員が各クラブへ配送・回収する際徴収する。
結果的には市長によるプレス発表、マスコミ報道等外部への宣伝効果も高く、新たな公共サービスの展開として一定程度評価されることとなりました。
1年目の事業終了後に来年度以降の実施について検討するため、次のようなアンケート調査を実施し、その結果191人配布中、120人の回答を集約しました。
<アンケートの設問>
1. 来年度以降について(どちらかに○をし、意見があれば記入願います。)
続けて実施してほしい 必要ない どちらでもよい
2. 弁当代300円について(どちらかに○をし、意見があれば記入願います。)
高い 妥当な金額 内容を変えて安いほうがいい
3. その他意見があれば記入願います。 |
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