1. 自分が変わる、まわりが変わる、上司が変わる、どこから変わる
2003年7月に成立した次世代育成支援対策推進法に基づき、西東京市も職員を雇用する事業主の立場から2005年4月、西東京市の職員(嘱託員を含む。)と市立小・中学校に勤務する都費負担教職員を対象とした「西東京市特定事業主行動計画(以下「行動計画」という。)」を策定し、様々なプランによって、職員一人ひとりがワークライフバランス(以下「WLB」という。)を図ることができるよう環境整備に取り組んできた。この計画では、子育て中であるかないか、既婚未婚かなどに関わらず、様々な職員が、仕事にも生活にも喜びを見いだせ、お互いに助け合い、支え合い、生き生きと働くことができる職場環境づくりを目指した。そのため、まずは気づいた人が、できることから始めようと、~自分が変わる、まわりが変わる、上司が変わる、どこから変わる~を合言葉に掲げた。そしてその取り組みが、西東京市における企業・団体の牽引役となるように、さらには社会全体の次世代育成支援対策の担い手としての責任を果たすことにつながることを目標とした。
計画の策定までに、労使を含めた西東京市特定事業主行動計画策定等検討委員会(以下「委員会」という。)を2回、西東京市特定事業主行動計画策定等調査研究部会(以下「部会」という。)を13回開催し協議を重ね、計画策定後は、これらの委員会または部会を継続的に開催して協議し、問題解決や計画の遂行を行ってきた。2004年10月に計画策定のため部会が発足してから前期計画(2005~2009年度)の期間に部会開催は41回を数えた。
2. いきいき子育て応援プログラム ~前期計画の概要~
前期計画は、「いきいき子育て応援プログラム」とネーミングし、基本的な考え方「職員・職場の意識改革を図り、仕事の進め方・働き方を見直すとともに、現在の制度を活用して、仕事と子育て・仕事と家庭生活の両立を支援していく。」にそって、まずは子育て支援の取り組みに力をいれた。最初に作成した管理職に向けた手引書では、妊娠・育児中の職員が利用できる制度の説明や、該当職員への言葉がけ等の対応などを細かく解説し、管理職が率先して職場全体で育児を支援していく雰囲気の醸成を促した。また、社内報的なものとして「いきいき通信」を不定期に庁内ランで発行し、育児に関する制度説明、男性職員や嘱託員といった新たな育児休業取得者等の感想を掲載し職員に向けて情報発信を行った。また、2006年12月に嘱託員の育児休業、介護休業等の制度を導入して、嘱託員の仕事と生活の両立支援に力を入れ、2007年度は「男性職員の育児参加への取り組み」を年度目標に掲げ男性職員の意識改革の取り組みを強化した。
また、妊娠中又は育児中の職員に利用可能制度、その利用可能期間や取得例等を示した案内として「いきいき子育てプラン」を職員毎に作成し、そのプランを参考に、当該職員、職員の所属長、職員課職員が面接を行い、職員の制度利用の促進や管理職への制度説明の他、職場での協力体制を仰いできた。
「いきいき子育てカフェ」として、育児中の男性職員、育児休業からの職場復帰を控えた職員、育児休業開けの職員、未婚の女性職員等、ライフステージ別職員の座談会を定期的に開き、職員が意見や考えを発し、職員同士が親交を深める場を提供すると同時に、WLBや職場の協力関係等について啓発を行ってきた。
前期計画の推進、それぞれの活動や取り組みの中で、課題や問題点の他、更に目指すもの、活動の広がりへの道が次々に見えてきた。前期計画の中で、後期計画(2010~2014年度)への足がかりとなったものや、後期計画へと繋がるものが数多くあった。
3. 自分、まわり、上司が変わり活動が広がった ~後期計画へ~
(1) 職員向け研修と市民向け事業が互いにもたらした好影響
行動計画に基づいた研修では、まずWLBについての啓発や西東京市の行動計画、休暇制度等についての説明を行った。WLBに対する社会全体の意識に対する認識を深め、自己の意識改革を促すために外部講師を招いた研修を行った。外部講師は、株式会社資生堂CSR部参与(当時)の安藤哲男氏、経済産業省の課長補佐時代に1年間育児休業をして当時話題となっていた独立行政法人経済産業研究所総務副ディレクター(当時)、現横浜市副市長の山田正人氏、児童扶養手当の支給対象を母子家庭に加えて父子家庭へも広げることなど多くの政策提言を行ってきているNPO法人ファザーリングジャパン(以下「FJ」という。)代表の安藤哲也氏を招いた。それぞれ国、民間でのWLBの取り組みの一端を聴くことができ、参加職員の働き方の見直しを促すことができた。
安藤哲也氏の講演は、「父親のWLBとは? 仕事と子育ても楽しむ生き方」を内容としたものであった。自身の育児体験や男性の育児参加のもたらす影響、FJでの活動から見える孤独な母親の現実、まさに「生き返った」と言うべく働き方の見直しができた父親の話、男性の育児参加についての「自身の人生を楽しむ」という観点からのアプローチは、刺激的であり、WLBについて見直すきっかけとなった。これらの内容は、社会全体の問題、課題を反映しているものであり、FJの取り組みは、企業、団体のみならず、一般市民を対象とした講演、講座等も行っていることから、市の事業である西東京市男女共同参画週間関連事業でFJに市民向けの講座を依頼するきっかけとなった。この市民向け講座は、「パパの極意、パパ業は、地球で一番ステキな仕事、心の底から人生をたのしもう」と掲げ、保育付きで父親や父子での参加により3回行われ毎回大盛況となった。職員向けの研修が市民向け講座にシフトした良い例である。
2007年度の年度目標である「男性職員の育児参加への取り組み」の一つとして始まった男性職員研修では、育児中の男性職員を対象とし、職員課職員や部会メンバーによるWLBの説明、育児休業取得体験談を始め、部会メンバーである市立保育園の保育士による絵本の読み聞かせ、手遊びなどの子育てに欠かせない遊びのスキルを実際に体験した。その後この男性職員研修の参加職員が中心となって、市の事業として市民向けに行っているファミリー学級(第1子を授かったプレパパ・プレママを対象にした、出産・育児を安心して迎えるための教室)で、先輩パパとして体験談やアドバイスを行う講師を務めている。また、ファミリー学級でパパへの意識付けに関する臨床心理士によるプログラムを、育児中の男性職員やプレパパを対象にしたその後の男性職員研修に取り入れた。泣く赤ちゃん人形を用いて、赤ちゃんに対峙するママの心理を探り、夫として父親として為すべきことを見つけるものである。第1子の誕生によって大きく変化する夫婦関係、お互いの意識、生活の変化によりよく対応するためのプログラムである。加えて先輩パパとして市長を講師に招いて子育てについてエールをいただき、職員のモチベーションの向上を図った。
職員向けの研修から市民向け事業へ、市民向け事業の内容を職員向け研修へ、そして研修や自身の体験から得られたものを職員が市民向け事業へ還元する。後期計画では、今後も継続して男性職員を先輩パパの講師として送りだす他、WLBについて得た知識や、その実践についてのスキルを市民に対して出前講座に似た形で広めていく。
(2) 男性職員の子育て意識の顕在化 ~男性職員同士の交友の広がりへ~
前述した男性職員研修を受講した職員を中心として、職場での育児に関する話題が広がり、絵本の読み聞かせが秘かなブームとなり始めた。ファミリー学級で先輩パパの講師を務めた職員は、市民、特に男性が真剣に聴いている姿から、市民の子育てへの真剣さと意欲を感じている。このことは、先輩パパの講師を務めた職員同士や、次に講師を行う職員へと語られ、男性職員の子育て意識を顕在化するとともに、育児中の男性職員同士の交友の広がりをもたらしている。また、市民サービスを行う市職員として、市民の視点を肌で感じ取る機会となっている。
男性職員の子育て意識の顕在化は、2005年度の男性の育児休業初取得から毎年1人の取得が継続していることにも伺える。2009年度には残念ながら男性の育児休業取得者はなかったが、2010年度は既に2人が取得している。そのうちの1人は嘱託員である。また、職員も嘱託員も同様に有給で子の看護休暇を取得することができ、職員、嘱託員ともに有効に利用されている。男性職員研修も同様に職員、嘱託員に呼びかけ両者が参加している。任用形態に関わらず育児という共通の鍵によって庁内の交友の広がりをさらに促していく。
(3) より働きやすい環境へ ~休暇制度の見直しや新制度の導入~
行動計画の一つの功績として休暇制度の見直しと新制度の導入が挙げられる。地方自治体である当市においては、国や東京都の休暇制度の見直しに伴い、同様の見直しを行うものであるが、行動計画の活動の中で職員から寄せられた意見や要望、あるいは相談内容が制度設計や運用に生かされてきた。
前述した嘱託員の育児休業や介護休業等は、行動計画の対象として嘱託員を加えたことや、嘱託員を対象としたアンケート結果を踏まえて、任用期間に関わらず全ての嘱託員を対象として導入したものである。2006年度の導入から2010年8月までにおいて、育児休業取得者はのべ16人、介護休業取得者はのべ10人に及んでいる。各職場において育児や介護の必要のある職員は、職員、嘱託員の区別なく制度を利用することのできる職場環境となった。
最近の制度改正においては、2010年6月30日に改正育児介護休業法が施行されたことによる制度の見直しがあげられるが、この改正において短期の介護休暇が職員には特別休暇として、嘱託員には有給の休暇として制度化された。取得要件について介護(付き添い)の範囲を国や東京都より広げ、より利用しやすいものとなった。毎年、男女の区別なく広く多くの職員に利用されている子の看護休暇でも看護の範囲を広げ、健康な子、病気がちな子、発達に遅れのある子など、様々な子を持つ職員がそれぞれにあった利用ができる制度設計が行われた。
後期計画で多様な働き方を選択できる制度の導入を目指す。一つは育児短時間勤務制度であり職員、嘱託員の両者に新設する準備を進めている。職員全体の声を生かした制度設計が行われる予定である。また、市役所で働く様々な職員の勤務条件、休暇制度等の整備も同様の視点に立って行うものとしている。
(4) 西東京市ワークライフバランス推進労使宣言 ~後期計画の羅針盤~
2010年3月31日、西東京市長、自治労西東京市職員労働組合、自治労西東京市学童クラブユニオンの三者で、西東京市ワークライフバランス推進労使宣言(以下「労使宣言」という。)を行った。この労使宣言は、その内容について何度も部会により検討されたものである。これまでの取り組みを「労使宣言までの軌跡」とし、それを踏まえた上で今後労使で取り組むべきこと、その方向性について示したものであり、「行動計画に基づき労使で計画の遂行や問題の解決に努め、仕事と生活の調和のとれた働き方ができる環境を整備し、制度の整備と周知・利用の推進を行い、そして市民全体、社会全体にWLB理念の普及を目指す。」とした。こうして宣言を行うことが、西東京市としてのWLBに対する姿勢を内外に示したものであり、後期計画の羅針盤となった。
4. 生活者の視点に立ち協働のまちづくりを進める人材育成
(1) 西東京市の現状と将来を職員構成から考察する
いわゆる「団塊の世代」にあたる職員の定年退職が数年来続いている。当市は、合併後の職員数削減のため、一般事務職の採用を控えてきた経緯がある。2007年10月以降、退職による欠員の補充、若い世代の空洞化を埋めるべく、一般事務職の採用が再開され、若い世代の職員が一気に増加してきた。以下、2010年4月1日現在の職員1,074人の構成について触れる。 |