【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第12分科会 地域からのワークライフバランス

 ジェンダー監査は、ジェンダー主流化の実行を推進する戦略的なツールとして国連が開発したもので、2001年にILOが始めて導入した。①政策、企画、結果のすべての次元でジェンダー問題が考慮されているか、②ジェンダーメインストリーミング(ジェンダー主流化)戦略の効果・成果が出ているかを実態的に評価するもの。男女がともに担う府本部委員会は、八幡市職労をモデル単組として作業委員会で検証してみた。



はじめての「ジェンダー監査」
八幡市職労における検証結果について

京都府本部/男女がともに担う府本部委員会

1. 取り組み経過

 男女がともに担う府本部委員会は、自治労本部が男女平等産別統一闘争で提起した「ジェンダー監査」に取り組むことを決定、八幡市職員労働組合をモデル単組として、ジェンダー監査作業委員会を構成して検証を進めた。[作業委員会メンバー]八幡市職労書記長・男性/八幡市職労執行委員(男女がともに担う府本部委員会委員)・女性/自治労京都府本部執行委員(男女がともに担う府本部委員会事務局長)・女性
 まず、八幡市職労書記長に監査項目への回答を依頼し(4月)、その回答について作業委員会で検証した(6月4日、6月18日)。なお、「労働組合編」は書記長の所見、「職場編」は八幡市人事当局による回答。
 ジェンダー監査は、回答を導く段階で、規約や運動方針、関連資料・データを引き出しながら、複数のメンバーで議論するのが本来の進め方だが、今回は初回でもあり、回答された項目について意見を出し合うことにした。
 検証していく中で、男性書記長の回答が「YES」でも、女性執行委員の意見は「NO」の項目があり、人事当局の回答と実態が食い違う項目もあった。一項目ずつ検証し、論議する中で、職場・労働組合の状況を改めて確認することができ、問題点をあぶり出せる機会となった。労働組合の課題として改善要求すべきものは、早急に執行委員会で協議することとなった。

2. 監査結果から見えてきたこと

 八幡市役所に働く正規職員の平均勤続年数は、男性22.8年、女性21.1年で、男女差は1.7年。他の自治体との比較はできていないが、厚生労働省調査による一般労働者の平均勤続年数が男性13.4年、女性9.4年、男女差4.0年であることから、当市役所の女性の勤続年数は長く、結婚・出産・育児で退職に追い込まれることなく、働き続けやすい職場と言える。しかし、女性のお茶くみ、世帯主要件による諸手当の支給、受付窓口の女性配置など、ジェンダーに偏った意識と制度が見受けられる。
 また、近年の女性の採用率は高いが、女性管理職数は年度によってばらつきがあり、女性リーダー育成研修やセクハラ研修は行われておらず、ジェンダーに中立な計画的人事管理をしているとは言えない。
 女性が働き続けやすい環境が作られてきたのは、労働組合の長年の取り組みの成果と言える。労働組合活動は、おおむねジェンダーに中立な視点で運営しているが、男女平等推進のための組織はなく、男女平等に関する労使協議の場や研修会の独自開催はない。執行委員に占める女性比率は31.3%で、自治労の目標数値には達しているが、現執行部に女性三役は選出されていない。また、運動方針に掲げられていても実際には運動につながっていない内容もあった。男女平等の課題解決を優先的に進めるためにも、女性の意識改革と女性リーダーの育成が必要だ。

3. 今後に向けて

 職員数815人(管理職と臨職・非常勤を含む)、組合員数495人の八幡市職労の協力を得て、ジェンダー監査を実施した。はじめての試みで準備不足と論議不足もあったが、職場の状況を把握するきっかけとなり、職場・労働組合の男女平等進捗度と課題を確認することができた。今後は、他の単組と比較しながら実態把握と課題認識ができるよう、取り組み単組を増やし、検証結果をもとに運動方針や要求項目等に反映していきたい。

4. ジェンダー監査 検証結果【職場編】

※人事当局からの回答(数値)をもとに検証。各項目のおもな検証コメントのみ記載。


【職員構成】

・正規職員の平均勤続年数の男女差が小さいのは、女性が働き続けやすい職場であると評価できる。女性の早期退職者が多い自治体もあるが、比較できれば状況が把握しやすい。また、①行政部門、②保育部門、③土木・建築等技術部門別の調査ができれば、分析も深まるだろう。
・非正規職員は、女性比率が77.7%。女性は窓口業務、保育所、幼稚園、学校給食に多く、男性はごみ収集、下水道設備、滞納整理に多い。部門別調査をすれば女性職種と男性職種に分かれているが把握できるだろう。
・非正規職員の男性は定年後の再雇用(65歳まで)が多く、女性は出産・育児後の再就職が多いのではないか。
A 採用・募集  

・女性の応募者数34.9%に対し、52.4%の採用結果は評価できるが、計画的に女性を多く採用しているかは不明。
  ① 一方の性の採用者比率が30%を下回っていない 
  ② 採用計画は一方の性が30%を下回らないよう配慮されている 
  ③ 募集要項に一方の性が応募しにくいような条件はない 
  ④ 面接等の選考にあたるメンバーが一方の性のみで構成していない 
B 配置・昇任・賃金
(1) 配 置
  ① 一方の性のみで構成する職場(係・課)はない 
   ・土木・建築、下水道、道路河川など事業部は男性のみの係がある。女性のみは子育て支援の相談係など。
  ② 女性の管理職への登用状況(部門別・3年間)は増えている 
   ・3年間で部長級はなし。年度でばらつきがあり、計画的に女性が登用されているとは言えない。
   ・勧奨退職や、夫が同職場にいる妻が先に退職する場合もあり、女性が少なくなるのではないか。
(2) 昇 任

(3) 賃 金
  ③ 扶養手当・住居手当、寒冷地手当の支給対象が世帯主ではなく申請者である 
   ・人事当局の回答は、 だが、世帯主でないことを理由に扶養手当の申請ができなかった女性組合員がおり、借家の住居手当も世帯主要件があることが判明した。
  ④ 育休において制度的保障(医療保険料免除、昇給など)は行われている 
  ⑤ 介護休業において経済的負担軽減措置(昇給延伸復元、医療保険料補助等)がある
C 人材育成・教育訓練
  ① 女性リーダー育成のための管理職研修を行っている 
  ② 業務の分担において男女間格差はない 
   ・人事当局は だが、実際はすべての業務に男女間格差がないわけではない。
   ・窓口(受付)に女性ばかりいるのは違和感がある。
  ③ 職員研修において男女平等参画を科目としている 
  ④ 業務研修において男女がともに参加している 
D 継続就業
  ① 結婚・妊娠・出産を理由とする退職勧奨はない 
  ② 役所内・社内での結婚に対する退職慣行はない 
  ③ 結婚・妊娠・出産を理由とする雇用における不利益変更(正規→非正規など)はない 
  ④ 配偶者が管理職になった時の退職慣行はない 
E 両立支援
  ① この3年間で育児休業を男性が取得している 
  ② 妊娠中における業務軽減等の業務上の配慮が行われている 
  ③ 休職後の職場復帰に備えた支援策(自宅研修など)がとられている 
  ④ 育休・介護において時間外勤務や深夜勤の免除・制限、勤務時間短縮の制度がある 
F 職場環境
  ① 茶くみを女性職員に強要する慣習はない 
   ・強要ではないが、女性ばかりに頼む職場や、女性が給仕する方が感じがよいという意見は根強い。
   ・無意識のうちに性別役割分担されているケースが多いので、女性の意識改革も必要。
  ② 女性職員に私用・雑用を押し付けることはない 
  ③ トイレ・更衣室・休養室は男女ごとにある 
  ④ 労働安全衛生委員会の構成は一方の性が30%を下回っていない 
G セクシャル・ハラスメント防止
  ① セクハラ防止の規程がある 
  ② 苦情処理(解決)制度がある 
  ③ 苦情処理委員会は男女同数で構成されている 
  ④ 防止対策としての職場研修がある 
   ・人事当局は だが、労働組合で把握する限り研修はない。

5. ジェンダー監査 検証結果【労働組合編】

 ※書記長からの回答(数値)をもとに検証。各項目のおもな検証コメントのみ記載。


【男女別組合員数】

A 組 織 
  ① 三役の性別比率が組合員の性別構成比率になっている 
  ② 女性役員の比率が30%を達成している 
   ・16人中、女性役員は5人=31.3%になり、達成している。
  ③ 専従役員には、女性が入っている 
  ④ 男女平等推進のための組織がある 
  ⑤ 女性役員の役割分担を固定化していない 
B 規 約
  ① 規約の理念や目標のなかに、男女平等が記載されている 
  ② ジェンダー目標が運動方針に反映されている 
  ③ 女性委員会(男女平等委員会)はその運動方針の作成に関与している 
  ④ 規約や運動方針は、ジェンダーに中立的な記述になっている 
C 運動方針
  ① 男女がともに担う委員会(男女平等委員会)を設置している 
   ・府本部の「男女がともに担う委員会」に委員を選出しているが、単組の委員会はない。
  ② 男女がともに担う単組計画を策定している 
  ③ 男女がともに担う単組計画の進捗状況を点検し報告している 
  ④ 予算に計画実現のための執行項目がある 
   ・①~④すべて の理由は、組合として重要な課題・要求(人員確保・前歴換算・嘱託待遇改善・専免・昇格など)が続き、男女平等の課題が後回しになってしまうから。
D 会議等
  ① 大会や中央委員会において女性参画が30%を達成している 
  ② 大会・中央委員会の代議員・中央委員に女性の参加促進のための対策を講じている 
  ③ 定期大会・中央委員会の議長や大会役員には必ず男女が担っている 
   ・大会役員を依頼する時に女性を含めているが、議長は男性に依頼している。
  ④ 会議や集会において性やライフスタイルに中立な表現を使用している 
E 組合要求
  ① 労使協議・団体交渉の場に女性が参画している 
  ② 労働安全衛生委員会の組合側委員は、組合員の男女比率に応じた選出となっている 
  ③ 男女平等を推進するための労使協議の場が設定されている 
   ・三役が全員男性で、男女格差のなどの問題意識がうすい。
  ④ 要求項目に、賃金・手当や権利などの男女の差別解消要求が入っている 
F 人材育成
  ① ジェンダーの認識を高めるため、組合員向けの研修や学習会を実施している 
  ② 女性役員への人材育成のためのセミナー等を実施している 
  ③ 男性役員への男女平等意識向上のためのセミナー等を実施している 
  ④ 女性書記の人材育成を行っている 
G 労働組合におけるハラスメント対策など
  ① 労働組合における、ハラスメントの防止方針を明確にしている 
   ・現在、セクハラ等の問題は表面化していない。
  ② 組合員の苦情や紛争を取り上げ、サポートする男女の相談員が配置されている 
  ③ 組合役員はジェンダー及びハラスメントに関する教育を受けている 
   ・府本部主催の学習会に参加している。
  ④ 女性にのみお茶くみや雑用を強要していない 
H 広報・キャンペーン
  ① 組合が男女平等意識を高めるためのキャンペーン等を行っている 
  ② 印刷物等広報媒体は性に中立な表現となるようチェックしている 
  ③ 男女平等に関する刊行物・ニュースを発行している 
  ※「B規約」の項目に、ジェンダーに中立な運動方針の内容が含まれる。「C運動方針」は、男女がともに担う委員会を設置していないため、0%になった。