【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第12分科会 地域からのワークライフバランス

ワーク・ライフ・バランスの実現をめざして
―― 豊後大野市職連合労「男女がともに担う自治労委員会」の
  活動報告 ――
 
 
大分県本部/豊後大野市職員連合労働組合・男女がともに担う自治労委員会事務局 佐藤 君代

1. はじめに

 豊後大野市職連合労「男女がともに担う自治労委員会」は、旧大野郡5町2村が合併し豊後大野市となった2005年に設置され、委員会組織を計画・調査・学習の3班で構成し、専門性をいかした委員会の機能をめざして活動してきました。
 その1つが「単組行動計画」の策定でした。「男女がともに担う自治労委員会」を、“一人ひとりの力を発揮し誇りを持って働くための職場づくりをめざし、地域住民との連携により全体の働き方・暮らし方が豊かなものとなるよう、様々な問題解決の受け皿としての自治労運動を展開していくための機能”と位置づけ、活動をすすめてきました。その中で、市職連合労独自アンケートを行い、全組合員からの意見を集約分析したデータをもとに、2007年に「単組行動計画」を策定しました。
 この行動計画を実効あるものにするため、単組運動の中に当委員会としての意見を盛り込みながら、市政運営方針の重点課題に「男女平等参画社会の実現」を掲げ、啓発活動等積極的に推進することを求めています。

2. 2010年度豊後大野市職連合労「男女がともに担う自治労委員会」の取り組み

 2010年、豊後大野市は6月の男女共同参画週間に向けた市民講演会を開催し、その中で「男女共同参画都市」を宣言し、行政と市民が一体となり男女共同参画社会の実現に向けた取り組みを積極的に推進しています。
 市職連合労男女がともに担う自治労委員会(以下:男女委員会)は、「人員確保・男女平等社会実現交渉」が行われる「男女雇用機会均等月間(6月)」を中心とした5月~7月を活動強化の期間と位置づけ、次のことに取り組みました。

(1) 委員会主催の学習会の開催

(2) 全組合員向け権利手帳となる「ワーク・ライフ・バランス~仕事と生活の調和を~」の作成

 1の学習会は、男女委員会事務局の前任者が数年間あたため続けた企画で、「何としても学習会に取り入れたい。多くの男性にも参加して欲しい!!」という熱い思いを受け、組合の財務担当の了承を得て開催へとつなげていきました。
 2の全組合員に向けた「ワーク・ライフ・バランス~仕事と生活の調和を~」は、“見やすく・分かりやすく・いつでも取り出せる”権利一覧として、調査班を中心に作成することになりました。
 それぞれの取り組みについては、次のとおりです。

(1) 委員会主催の学習会の開催
 これまで、男女委員会が企画した学習会は、講演会形式やワークショップを取り入れたスタイルで行われ、女性の組織比率が高いこともあり、参加者の多くは女性で、男性の参加が今一歩というところでした。
 行動計画の目標の一つに「あらゆる機会で男女平等意識の啓発と男女の生き方の新たな価値観を形成する」という項目があります。学習会を通して、男女ともに意識を高めていくことはとても重要であるため、若い世代はもちろん、これから職場でのポストが管理職となる方への積極的な参加を求めています。
 そこで、今回5月20日に実施した学習会は、男性の家事・育児に対する固定概念に少しでも変化をという思いで企画しました。
 男性が育児休業を取得し2人の子どもの育児と家事を行い、妻が現場復帰をするというスウェーデン映画の「ダブルシフト“パパの子育て奮闘記”」を夕方6時からの上映とし、組合員を中心に100人を上限とした参加を呼びかけ、鑑賞会を実施しました。
 さらに、今年より「男女共同参画室」が独立したセクションとなったため、担当者をとおして市内の各事業所にも映画上映の案内を配布し、特に男性への積極的な参加を募ることができました。
 あらすじは、タクシードライバーの主人公が、育児ノイローゼになった妻のかわりに子育てをするストーリーで、日本に比べ、男性の育児休業取得率の高いスウェーデンが舞台のコメディー映画です。
 同じスウェーデン出身の女性がメガホンを取り、仕事と育児の“ダブルシフト”に悪戦苦闘しながら、成長する父親の姿がコミカルに描かれています。“少子化”や“父親の育児休暇”という課題に直面している私たちにとって、非常にタイムリーな作品で、勇気と示唆を与えてくれました。
 この上映会の参加者は男性44人、女性47人計91人でした。
 参加者のアンケート結果については、下記のとおりです。

 
宣伝用のチラシ
 
  
「ダブルシフト」学習会アンケート結果

Q1:本日の映画の感想はいかがでしたか?(記述回答方式)
男 性
・ 良かった。(12人)
・ 勉強になった。(3人)
・ 感動した(2人)
・ 普通に講演を聞くよりためになる。(2人)
・ 癒された。
・ 楽しかった。(5人)
・ ちょうど同じ年頃の子どもがいるので、共感する部分が多々あり、面白かった。
・ 今、まさに同じ環境にあるが、だれもが同じ気持ちになるんだと改めて思った。
・ 子育ては一人では決してできないし、誰かの協力が必要だと感じた。
・ 楽しく、それでいて考えさせられる映画だった。
・ 日本との文化の違いを感じた。
・ 映画としては面白い。だけど、現実には厳しいと思う。
女 性
・ 育児休暇をとるのが大変だなぁと感じた。
・ 面白かった。(7人)
・ もっと男性も見るべきだと思う。(3人)
・ 良かった。(12人)
・ 大変良かった(2人)
・ 参加して良かった。(8人)
・ とてもわかりやすく、楽しく拝見した。(3人)
・ ためになった。(4人)
・ 子どもと一緒に過ごしていく中で、子育ての楽しさの様子が伝わるいい映画だった。
・ とてもリアルで身近に感じられて、良かった。
・ 考えさせられる場面が多くて、あっという間に終わった感じがした。
・ パパの育児ぶりは大変に見えるが、賛成。
・ 離婚が増えている昨今、やはり色々困難な状況があるが、子どもには父親と母親の2人が必要だと思った。お互いを理解し合えることが一番大切。お互いに相手の良いところは言葉に出して感謝・いたわりの言葉を。
・ まあまあ、日本と外国では「チョット違うなー」と感じるが。根本的なところは同じかなと思った。
・ 楽しく鑑賞したが、現実にはないような場面もあり、映画の世界だと感じた。

Q2:あなたは、男性が育児休業を取ることについてどうお考えですか?
(記述回答方式)
男 性
・ いいと思う。(8人)
・ 増やしていくべきだと思う。(5人)
・ 必要だと思う。(6人)
・ 回りの理解が必要だと思う。
・ できれば(可能であれば)取ってみたい。(3人)
・ 取りにくいけど、良い(当たり前)と思う。
・ 良いことだと思うが、取得しやすい整備が必要。
・ ワーク・ライフ・バランス、男性の働き方の見直しが必要だと思う。
・ 男性が取ることは良いことだと思うが、自分は取れないと思う。
・ 給料が保証されなければ取れない。生活がかかっている。
・ 現実にはなかなか難しいと思う。
・ 今の日本では難しい。
・ 賛成だが……。
女 性
・ とてもいいことだと思う。(12人)
・ 本人、家族の理解が得られればいいのではないか。
・ これからは、女性もどんどん仕事をしていく時代になると思うので、当たり前のことになると思う。
・ 賛成。子育ては本当に大変で、女性のみが行えばいいというものではない。
・ 経済的に大丈夫であれば、とても良いことだと思う。(3人)
・ 共に育てるという意識を持つのはいいと思う。
・ お互いに必要であれば、取れればいいと思う。
・ 男性にとっては厳しいでしょうが、いいことだと思う。
・ 育児を男性が経験するのはとても良いことだと思う。
・ 全ての人が取るのは難しいと思うが、核家族が増えている中、必要であれば取る方が良い。また、取って欲しいと思う。
・ 男性とか女性とかではなく、取れる人(方)が取れればいいと思う。
・ 子育ての時は、どちらも取れることがいいと思う。
・ 今の日本では難しいかも……。
・ 周囲の理解が一番必要だと思う。仕事等も少人数で忙しくなると、休みさえも取りづらい感じがする。

Q3:どうしたら、男性が育児休業をとるケースが増えると思いますか?(記述回答方式)
男 性
・ 周囲の環境と理解が必要。(6人)
・ 経済的に不安、どちらも給料が同じ額なら取れると思う。(女性の方が安い)
・ 男性(管理職を含めた)の意識改革が必要。
・ 男性が休んでも生活ができること、女性も生涯働く意識を持つこと。男性が育児に興味を持って行動することが必要。
・ ルール作りが大切。
・ 給与保障等、安心して働き続けられる社会になれば良いと思う。
・ 共働きの増加、夫婦の就業時間帯(妻が昼・夫が夜等のシフト)。
・ 啓発活動に取り組み、多くの人の理解が得られるようにしていくことが必要。
・ 男性が育児休業をとっても、それが普通という社会全体になれば良いと思う。
・ 時間がかかると思うが、意識改革が必要。
・ 妻の給料だけでは厳しい。
女 性
・ 周囲の協力が必要。(17人)
・ もっと取りやすい環境を作る事をすれば、良いと思う。
・ つづけての出産。
・ 職場の協力。(9人)
・ 給与の保障(22人)
・ きちんとした制度。(8人)
・ 職員の理解。トップの理解。某市(区長?)が取得したというように、トップの方々が積極的に推進し、同時に一般職員の意識を高める必要がある。
・ 職場の体制作り、経済的支援。
・ 子どもが生まれる家庭に育児休暇の取得可能日数を知ってもらってから取る。
・ 希望者だけではなく、半強制で(2週間ほど)取るような形はどうか。
・ 収入がありさえすれば、できると思う。夫の方の収入が少ない場合や、夫が家庭的な人であれば、可能性があると思う。
・ 環境を変えないと取りづらいと思う。給与の保障が一番だと思う。
・ 男性が育児をするという意識の啓発。
・ スウェーデンのように、社会・職場から半ば強制的に育児休暇をとるような仕組みができたら良いと思う。
・ 市内の事業所等の経営者・管理者へ、パパの子育てを支援し、理解してもらうための施策が必要だと思う。
・ 「皆で取れば怖くない」となればよいが、取る人が少しずつ増えていくことで、周囲の理解が得られていくと思う。職場の理解と本人の勇気があれば、徐々に増えていくことが理想。
・ 難しいと思う。
・ 職場の仕事の分担の仕方等、休みがとれない現実がそこにあるのではないか。
・ 社会全体が男性の育児保障をするようにならないとダメだと思う。
 アンケートの結果から、男性の育児休暇取得の必要性は十分に認識していても、実際に行使するという段階で、男性も女性も現実としては厳しいという見解がうかがえます。
 私たち男女委員会としては、この実態を真摯に受け止めながら、今後は職場の上司や管理職といった方を対象にした啓発活動を推進し、「男性のごご3じ」が当たり前となる職場環境づくりを目指したいと考えます。

※ 男性に「ごご3じ」のすすめ……「ご」介護(自分や妻の親の介護を妻一人に押しつけずに自分もかかわる)
                [ご]老後(自分と妻の老後を想定し、日頃からシュミレーションしておく)
                「じ」家事(炊事、洗濯等の日常的な家事がひととおりできるようにしておく)
                「じ」育児(子育てに積極的にかかわる)
                「じ」行事(PTAや自治会等地域の行事に積極的に参加する)

(2) 全組合員向け権利手帳となる「ワーク・ライフ・バランス~仕事と生活の調和を~」の作成
 男女委員会が組織され、行動計画の策定に向けた取り組みをすすめる中で、「豊後大野市職労の権利手帳をつくろう」が、委員会の目標になりました。
 2006年3月に全組合員向けに実施したアンケートの結果から、 多くの仲間が既得権やその取得方法等をくわしく知らない、せっかく勝ち取った権利を行使できていないといった現状が、男女委員会の検討課題になりました。
 分厚い例規集やPCのリンクで検索することのわずらわしさは、委員会のメンバーも感じていました。そこで、“一目で検索できる見やすさ、法規にありがちな専門的な用語を用いずわかりやすく、いつでも取り出せるワンペーパー(両面)の権利一覧を”と、調査班が中心となり準備を進めてきました。
 今回作成するまでには、条例、規則、確認事項等、当初の原案とは随分多く訂正する箇所がありました。改めて制度としての導入や、交渉の結果改正された部分等があり、校正を繰り返しながら「ワーク・ライフ・バランス~仕事と生活の調和を~」を完成することができました。法律・規則等の改編を考え、クリアーホルダーにA4両面印刷で、制度改正の都度差し替えをしていく方式になっています。

3. これからの取り組み

 「ダブルシフト」鑑賞後の男女の意見を検証していく中で、職場・地域・家庭における男性の役割への関心が高まり、「女性が働きやすい職場は男性も働きやすいのではないか?」という考え方が広がりつつあります。これまでの男女委員会の学習会等では、女性のポジティブアクション強化を求めた取り組みが主体となって、とかく男女平等参画の推進というと、女性主体の学習会やイベントの企画が中心でした。女性の意識改革や、職場や地域、家庭といった女性を取り巻く状況を整備していくための活動は不可欠ですが、男性が積極的に地域にも家事・育児にもかかわれるということに気づくための学習会等も必要であると考えます。
 今回作成した「ワーク・ライフ・バランス~仕事と生活の調和を~」を多くの仲間が、手元におきながらワーク・ライフ・バランスの意味を理解し、結婚・出産・育児・介護といったライフイベントに生じる悩みを、相談しやすい職場環境の確立が図れるよう、男女委員会としての役割を発揮していくことが重要です。
 今年は、単組行動計画の見直しの時期でもあります。これまでの男女委員会の取り組みを検証しながら「皆で働きやすい職場、男女参画の地域づくり、家事も育児も男女で楽しむ」という社会が実現できるよう、実効性のある計画の策定をしていきたいと考えています。