1. はじめに
都市部のヒートアイランドの抑制や夏の省エネ対策として屋上緑化が導入される例が見られる。しかし屋上緑化は土壌を湿潤状態に保つことが必須であることから、通常よりも大がかりな屋根防水処理や、芝類による屋上緑化で約300kg/m2、高木類を伴う屋上緑化では約1,000kg/m2程度の屋根荷重を見込む必要性がある。また何よりも定期的な散水や植生の手入れなど維持管理が必要であることから、屋上緑化は建物所有者にとっての負担が大きくなり、施工できる建物が限定されてしまうのが実情である。
そこで、低比重かつ低熱伝導資材である木材の特性を活かし、また県内産スギ並材の新たな用途開拓を目的とした屋上木化を実施し、冷房効率の増進による省エネ効果を図る試みを行った。
本研究は2009年度より3ヶ年の予定で実施し、その初年度にあたる2009年度は主に屋上木化による直下階の室内温度への影響を調査した。
2. 方 法
(1) 木製デッキの作成と設置
野地板(群馬県産スギ・厚さ 18mm)と野縁(群馬県産スギ・厚さ30mm×幅40mm)を木ネジで接合し、2階建て鉄筋コンクリート建物の屋上部分に南北方向7,400mm×東西方向3,700mmのスノコ状の木製デッキを設置した(写真1・写真2)。
|
|
写真1 施工中の木製デッキ |
写真2 木製デッキ設置状況 |
(2) 温度の測定
木製デッキ直下に位置する実験室A(以下「屋上木化区域」)、並びに木製デッキ未設置箇所の直下に位置する実験室B(以下「対照区域」)の室内温度を測定した(写真3・写真4・図1)。室内温度の測定位置はいずれも室内中央部の床上高さ約1.8mの位置とした。またデッキ下のコンクリート表面温度、及びデッキ未設置箇所のコンクリート表面温度を併せて測定した。
温度の測定はT熱電対とデータロガー(キーエンス社製NR250)を用いて測定開始から終了まで、5分間隔で継続的に実施した。
また室内温度測定の際には部屋の窓やドアは全て締め切り、測定値が窓やドアの開放による影響を受けないよう職員の出入りが無い晴れた週休日(2009年8月29日(土曜日)から8月30日(日曜日))に行った。
|
|
写真3 実験室A(屋上木化区域) |
写真4 実験室B(対照区域) |
|
図1 試験区位置図(鉄筋コンクリート構造物2階) |
|
3. 結 果
(1) 屋上木化区域の温度推移
表-1に測定を実施した8月29日から8月30日にかけての前橋の気象データを示す。
このうち8月30日の午後は降水があり最高気温も20℃を下回った。このため8月29日0時から8月30日正午までを対象期間とした室内温度測定の結果を図2に示す。
対象期間全体の屋上木化区域の室内温度は平均で29.7℃で、対照区域の室内温度の平均30.7℃より1.0℃低かった。また対照区域の室内温度は調査対象期間全体を通じて30℃以上で、かつ変動が小さかったのに対して、屋上木化区域は対照区域に比べて変動が大きかった。8月29日の屋上木化区域の室内温度は、午前7時頃から9時頃にかけて1.5℃も上昇し、対照区域とほぼ同じ値となった。その後は対照区域よりも0.5℃~1.0℃低い値で推移し、さらに夕方から翌30日の朝まで対照区域の温度を1.0~1.4℃下回った。
翌8月30日は天候が雲りであったが、この日も午前10時頃を中心に屋上木化区域の室内温度が一時的に上昇する傾向が見られた。
表-1 8月29日から8月30日の前橋の気象データ |
|
|
図2 屋上木化区域の温度推移(8月29日~8月30日) |
|
(2) 屋上木化による室内温度への影響
測定期間の内、屋上への日射が得られ、かつ外気温が概ね26℃以上であった29日午前8時から午後7時までの外気温と屋上木化区域、対照区域それぞれの室内温度の相関を図3に示す。屋上木化区域、対照区域の室内温度のいずれも外気温との相関が認められた。
外気温が高く日射を受ける場合でも、屋上木化区域の室内温度は対照区に比べて約0.8℃低くなることが確認できた。
図3 外気温と室内温度の相関(8月29日午前8時~午後7時) |
|
(3) 屋上木化によるコンクリート表面温度と室内温度への影響
(1)で述べた屋上木化区域の室内温度が短時間の間に上昇する原因について検証するため、屋上木化区域の室内温度、デッキ下コンクリートの表面温度、外気温の他、室内温度が上昇する要因として考えられる日照時間の推移を図4に示す。なお日照時間は温度測定間隔である5分間の内、日照が得られた時間数(分)表示とした。
屋上木化区域の室内温度が短時間に上昇した時間と日照が得られた時間がほぼ一致していることが確認できた。室内温度が短時間に上昇した原因が日照によるものであれば、デッキの野地板厚さを増すことで、室内温度の上昇をさらに緩和することが可能である。
しかし一方で、日照が得られた時間には外気温も同時に上昇していることから、外気温の上昇に伴って室温が上昇しただけであることも考えられる。
屋上木化区域で室内温度が短時間に上昇した原因が日照によるものか、または外気温の上昇によるものか、今後デッキの野地板厚さを変更して再確認する必要がある。
図4 屋上木化区域の室内温度とデッキ下コンクリート表面温度の推移
(8/29 0:00~8/30 12:00) |
|
4. 考察及び今後の課題
以上の結果から、屋上木化は熱伝導率が小さい木材の特性により、日射によるコンクリート表面温度の上昇を抑え、鉄筋コンクリート建物の冷房効率化に一定の効果があることが確認できた。
しかし、屋上木化区域と隣接するデッキ未設置箇所直下の部屋を隔てる隔壁が天井裏まで達しておらず、天井裏でデッキ未設置箇所からの熱貫流が生じていた可能性もある。今後屋上木化区域の施工面積を大幅に拡大した上で、同様の測定を再度実施する必要がある。
さらに、今回は屋根だけに限定された屋上部分の木化を実施したが、この屋上部分をバルコニーなどとして利用する場合も考慮し、美観や耐久性、輻射熱などの点から防腐や塗装も検討していく予定である。
|