【自主レポート】

第33回愛知自治研集会
第13分科会 温暖化ガス25%削減 地域での可能性を模索する

原子力発電は温室効果ガス削減の切り札か?
脱原発・脱化石燃料への取り組み

岡山県本部/脱原発専門委員会・委員長 平岡 正宏

1. はじめに

(1) 原子力発電をめぐる近年の情勢
 2007年頃から急激な上昇を見せた原油価格の高騰と、近年の地球温暖化に対する世界的な危機感により、温暖化を促進する温室効果ガス(二酸化炭素)の排出量が少ないという「メリット」を持つ、原子力発電が注目されることとなりました。
 昨年12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15では、2020年までの温室効果ガス(二酸化炭素)の削減目標を世界各国が定めました。
 日本は原子力を温室効果ガス削減の「切り札」と位置づけ、2009年6月に経済産業省が「原子力発電推進強化策」をとりまとめ、原子力を更に推し進めようとしています。

(2) 「温暖化対ガス削減に原発」という政策は正しいのか?
 確かに、原子力は「発電時に二酸化炭素を排出しない」のは事実ですが、燃料のウラン採掘や施設建設、運転中などでは二酸化炭素を必然的に排出しているのです。また、廃炉となる原子炉の解体・処分には、莫大なコストとリスク、そして他の発電施設の処分により排出される二酸化炭素とは比べものにならない量が排出されるのです。さらに使用済燃料を再処理する場合、高レベル放射性廃棄物の処分のために更に大規模な処分施設とその後数万年にわたる管理が必要であり排出されるCOは莫大な量になります。「使用済み燃料の処理」は原発に特有の問題であり、決して無視できないものです。
 このようにトータルでの二酸化炭素排出量は簡単には比較できないのです。
 しかし、現状は「発電時に二酸化炭素を排出しない」というロジックだけで原子力発電をより強力に推進しようとしています。

(3) 対テロ対策にも脱原発は必要
 原発を保持し続けることは、テロに対して高いリスクを負い続けることにもなります。
 9・11同時多発テロ等のようなテロは現実的に防ぎようがありません。この場合、原発はテロの対象として極めて「有効」な対象物となり、より甚大な被害を与えるための「標的」となり得ます。特に偏西風などの風を利用することで、日本に縦断的に被害を与えることが可能となります。
 対空ミサイルの配備や自衛隊の増強で対処できるものではありませんし、日米安保は抑止力にはなり得ません。
 こうした危機管理の観点からも、これ以上原発を運転し続けることは、国民全体に高いリスクを背負わせ続けることになるのです。

(4) 災害に強い町づくりと自然エネルギーや小規模発電の活用
 現在、日本各地では地球温暖化に起因すると思われる「ゲリラ豪雨」により、道路が寸断され、集落が孤立するケースが発生しています。こうした災害が起こった場合に、現在の大規模発電による送電方式は、送電線の破断が起こった場合、日常生活の基盤となっている電気が使えない事態が発生します。これは病院などの施設では生死に関わる問題に発展します。
 太陽光発電や燃料電池の普及は、こういった災害発生時に大きな効果を生むことが期待できますし、小規模水力発電など天候にあまり左右されない発電や小規模風力発電などの自然エネルギーの活用で、災害に強い町づくりが可能となります。
 また、こうした発電方式を日本各地に普及することで、地方部にも新たな雇用が生まれ、経済効果が期待されます。
 原発のような一部の大企業の利益でなく、日本全体の雇用の底上げにつながります。

(5) まとめ
 「発電時」の一点のみを見るならば確かに原子力は二酸化炭素を少量しか排出しません。
 しかし、「原料採掘から放射性廃棄物処分」までのプロセスを追跡すると、決して原発は「温暖化対策で優れている」とは言えず、トータルで見ると、二酸化炭素の排出量は多く、全く、温暖化対策に優れているとは言えません。むしろ地球温暖化に加担しているといって過言ではありません。
 そして何よりも考えなければならないのは、原発から発生する放射性廃棄物は二酸化炭素以上に全人類的、地球規模での環境破壊を引き起こす可能性があるということです。日本は原爆で被爆を体験し、その影響は戦後65年を経過した今でも残っているのです。また、チェルノブイリで学んだように、「万が一……」の時には国境を越えて世界規模での環境破壊を起こしかねません。
 目に見えない放射能汚染の恐怖は計り知れないものもあります。特に原発から発生する高レベル放射性廃棄物は環境に影響が無くなるまで何十万年もかかり、その間の管理と、将来的な責任を誰が負うのか未だに明らかになっていません。こうしたことから、世界は脱プルトニウムの方向に向いているのに、日本は気がついていないふりをしているとしか考えられません。これについては、市民が問題意識をもっと持つべき状況となっています。
 また、災害対策やテロ対策などの危機管理の観点からも自然エネルギーやエネルギー効率の良い小規模発電に順次切り替えることにより、脱原発に向けた舵切りをすることで、これから原子力政策につぎ込まれていく莫大な国家予算を縮減できます。

2. これまでの私たちの取り組み

 私たちはこれまでも、「原発は温暖化ガス削減にはなり得ない」ということを様々な角度から検証し、脱原発への運動を進めてきました。
 これまでの我々の運動をまとめて紹介したいと思います。

(1) 高レベル・低レベル廃棄物拒否運動について
 岡山県内では、高レベル放射性廃棄物地層処分に関連して、法律が制定される遙か以前の1980年代から数ヶ所であやしい動きが確認できていました。地元住民は『岡山県が狙われている』という危機感と『故郷を放射能から守りたい』という素朴な願いから、1981年以降反対運動を展開してきました。
 その後、高レベル処分法の成立により、高レベル廃棄物の地層処分実施主体が原子力発電環境整備機構(原環機構・NUMO)となり、2002年12月、全国の市町村長を対象に処分場の公募を始めました。
 そこで、県内78市町村すべての自治体首長から「高レベル拒否」を求めるべく、市民団体「放射能のごみはいらない 県条例を求める会(県条例の会)」を中心に、すべての市町村長に直接会って「公募に応じないよう」要請しました。各自治体には事前に趣旨と申し入れ書を提出することを伝えた上で、2002年11月15日に「STOP 高レベル放射性廃棄物」キャラバン隊として最初に岡山市を訪問し、以後各地域の団体・労働組合からも協力を得ながら、要請行動を行いました。その結果、現時点で県内すべての首長から「高レベル拒否」の回答を得ています。このことは、当面の到達点といえます。つまり理論的には、現時点で岡山県内に高レベル廃棄物が持ち込まれる状況はなくなったということです。この「岡山方式」は全国へ波及しつつあります。
 全国では、エネ庁・原環機構など原子力業界が、公式・非公式に自治体への打診をつづけています。中には受け入れの検討を進める自治体もありましたが、各地の反対運動により、未だ候補地の選定は行われていません。こうした現状から、更に強力に、今後も継続的に全国すべての首長から「高レベル拒否」の回答を求め続けることが必要ですし、全国の自治体がこれを拒否すれば地層処分ができなくなります。
 低レベル放射性廃棄物については、岡山県鏡野町に原子力機構人形峠環境技術センター(人形峠センター)がありますが、財源確保対策として鏡野町議会で「低レベル処理施設処分場を選択肢としてどうか」など議論されていることが、2007年に発覚しました。この他にも、「RI・研究所等廃棄物」についての集中審議や「低レベル放射性廃棄物処理処分場」の実証試験についても審議を行っています。また、鏡野町原子力対策委員会・町長らが、六ヶ所村の「日本原燃低レベル放射性廃棄物埋設センター」や東海村の「原子力機構放射性廃棄物処理処分研究施設」などを視察していることが発覚、同対策委員会は、2008年2月に人形峠センターでの新たな事業へ向けた答申を提出し、放射性廃棄物の処理・処分を示唆しています。このように鏡野町議会で、新たな交付金獲得目的のために、低レベル放射性廃棄物処分施設の誘致問題が議論されているところですが、これは県外からの持ち込みになります。
 こうした一連の動きに対して、岡山県平和センターをはじめとした市民団体が、2009年1月11日岡山県知事に対し、低レベル放射性廃棄物の県内処分の拒否を求め申し入れを行いました。これに対して岡山県知事は、6月議会で「低レベル放射性廃棄物の処分場誘致に反対する」ことを答弁しました。そして現在、鏡野町教育施設への3万個のウランれんがの持ち込みは行われていません。

3. 今後の見通し

 これまで、私たちは原子力発電でも最終段階の「廃棄物の処分」問題を中心に運動を行ってきました。それは「自治労」という組織の垣根を飛び越え、「広く市民運動の一翼を担う」という意識のもとに運動を継続してきたと認識しています。ここまで、運動が継続できたのも、岡山を発信拠点として、核燃料サイクルとたたかう全国の仲間と脱原発政策の目標が共有できたからこそと思います。
 日本では、6月18日の閣議でエネルギー基本計画と新成長戦略が決定され、基本計画では、再生可能エネルギーの導入拡大が、原子力発電の推進より優先順位が変わり、若干、太陽光などの「クリーンエネルギー」へと向きだしましたが、世界が脱プルトニウムに向いているにも関わらず、「温暖化ガス削減」という錦の御旗のもとに、「原子力はクリーンでエコな電力です」という宣伝をまだまだ続けています。
発電時だけ二酸化炭素を排出しないことは事実ですが、それと引き替えに数万年レベルの毒性を持つ放射性廃棄物を生産し続ける、時代に逆行した原子力発電を「温暖化ガス削減」の手段としてより推進していくことは到底、容認できません。
 我々は自然エネルギーへの転換を追い求め、全国津々浦々でエコエネルギーを育てる(開発・普及)時期に来ていると考えます。

4. おわりに

 これまで、「脱原発」を訴えてきましたが、最後に今後、エネルギーはどうあるべきかを記しておきたいと思います。
 原子力発電については、原子力施設の「電源立地交付金」や高レベル放射性廃棄物処分候補地の「文献調査・概要調査」受入による「交付金」という「飴」を使って、一部の地域に高いリスクを背負わせるのではなく、原子力発電に頼らず、各地域、自治体で広く浅くリスクを分担することで、国民全体で温暖化ガス削減に向けた意識改革を進め、災害に強い町づくりを実行していく必要があります。
 さらに、我々個々の生活についてですが、自然エネルギーを利用した発電は、原子力や火力に比べてコスト面ではかなり割高ですが、普及率がアップすればコストは下がります。政策として進められている助成金・補助金などを国の政策として補助を大幅に引き上げることでも普及は進みますし、ドイツが進めたように、電力会社に「全量買い取り制度」を義務づけすることで、家庭だけでなく工場などの事業者の新規参入が期待でき、普及効果が現れます。太陽光などの自然エネルギーと発電効率の良い燃料電池を設置するなどし、自然エネルギーへの転換を図ることが必要です。
 こうしたエネルギーの転換は、全国的な経済効果も期待できますし、需要が広がれば、普及・メンテナンス等のサービスも向上し、地域を限定しない全国的な雇用拡大への期待もでき、メンテナンスや更新などにより継続的な雇用も生まれます。まさに、一石二鳥三鳥の効果が発生するのです。また、地域の特徴にあわせて、小規模の水力発電や風力発電などを併用することで安定した電力供給が可能になり、災害に強い町づくりにもなりますし、身近な場所でそういった技術が普及していくことで、国民全体のエネルギーに対する意識の改革にもつながります。
 「全量買い取り制度」の導入により、割高分を利用料金に上乗せするため、個人負担は増えます。そのため、低所得者層への電気料金の減免制度の検討も必要となりますが、電気料金の引き上げの議論は「~放し」しがちな日常生活の見直しにもつながります。
 また、太陽光や水力、風力などによる発電は、埋蔵量に限りがある地下資源を消費せず、半永久的に利用が可能です。「COを出さない」「原子力発電」でさえも地下資源であるウランを使用し、調達は輸入に頼らざるを得ない中、少資源国である日本が自然エネルギーの利用を進めていくことは、エネルギー安全保障の面からも重要な意味を持ちます。 
 日本として、こうした技術開発を進めることで、国内はもとより新興国に対しても、クリーンエネルギー技術の輸出や援助を通じて日本の責任を果たしていくことは重要であります。
 そのために自治労は全国の自治体で、こうした取り組みを進めるための旗振りをしていける立場にありますし、政府に対しても政策提案をしていける立場にあります。
 特に民主党連立政権になってエスカレートしている原子力政策の中でも、破綻したプルトニウム利用と原発の輸出に関する政策転換は、喫緊の課題といえます。
 私たちは、子や孫の世代にこれ以上の負担やリスクを残さず、地球規模で考えたときにどの選択肢がよりベターなのか、真剣に考え、決断し、行動する時期に来ています。