1. はじめに
地球温暖化の問題が議論され、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムでの事業活動や生活様式を見直し、住民と自治体、事業者などが連携し、低炭素都市を目指す取り組みが求められるようになってきている。
高知市では「環境維新・高知市 土佐から始まる環境民権運動」を掲げ、一人ひとりの小さな取り組みを、市内全域へ、日本へ、世界へ広げていくことにより、大きな動きにつなげていくことを目指している。そのため、地球温暖化対策推進計画を策定し、温室効果ガス削減に向けた施策を推進するため5つの構想に基づき、さまざまな取り組みを実践しようとしている。
① 土佐ECO人づくり
全小学校での環境学習の実践や社会人の研修等の市民啓発による人づくりを通じて、森里海が調和して発展する地域づくりにつなげる。
② よさこいECOライフ
自主自立の新たなライフスタイルの提示により、民生部門の温室効果ガスの大幅な削減を促進する。
③ ECOエネルギーの地産地消
バイオマス燃料化等の実現による資源の循環、自然エネルギー導入によるECOエネルギーの地産地消を目指す。
④ コンパクトECOシティ
路面電車等の公共交通や自転車の利用促進により、歩いて暮らせるコンパクトECOシティを目指す。
⑤ ECO地場産品づくり
森林整備等により発生する木製品等の供給、環境保全型農業による「食」のブランド化等、ECO地場産品の開発供給を進める。
構想において、土佐ECO人づくりはその他の構想の基盤となり、取り組みを推進するためには環境に配慮した行動のできる人を増やすための啓発活動および環境教育が最も重要とされている。
2. 高知市の啓発活動の現状と課題
(1) 市民に対する啓発活動の現状
高知市での啓発活動の現状は、環境標語募集や出前講座、清掃施設見学バスツアーなどが実施されている程度である。これらの啓発活動は、イベント中心の体験型であり一過性の取り組みである。また、出前講座等における申し込み状況は、地区により大きく異なるなど全市的な啓発活動には至っていない状況であり、問題点として、ばらつきがある、受け身である、一過性であるという3点があげられる。
(2) 小学校における現状
① 環境教育の現状
市内の全小学校での環境教育の現状は、防災教育など他の教科外学習との兼ね合いの中、学校長の裁量による学校単位の取り組みであり、市内全体での統一された取り組みはなかった。さらに、給食の牛乳パックのリサイクルや、フィフティ・フィフティ制度(子どもたちの努力で削減できた学校の光熱水費の半分を、学校でのエコ活動に自由に使える)など生活の中での継続的な取り組みを実施している学校もあるが、多くは学習時間の中であくまでも授業の一環として取り組まれており、その対象も授業において、ごみについて学ぶ4年生が中心であった。
② 給食における残食問題
学校給食における平均の食べ残し量は1日1校あたり、小学校で16.2kg、中学校では26.3kgであり、市全体で750kgを超える食品が捨てられている。
給食の食べ残し量については、学校のおかれている環境等により変化があること、食育の観点から多様なメニューを提供するため食べ残しは減らないこと、欠席について注文段階で差し引くことができず残る可能性がありゼロにすることが難しい理由もある。
(3) 市民の意識
2007年2月に、20代以上の市民に実施した環境問題やごみ処理に関する市民意識調査の結果報告書によると、環境問題についての関心の有無は、「非常に関心がある」40.6%、「少し関心がある」52.5%で関心派が9割を越す結果となっており、市民の環境問題に対する関心の高さを示している。また、その60%が一番関心のある問題として地球温暖化と回答している。性別でみると、関心派は女性が95.3%と男性90.5%に比べやや高率であるが、「非常に関心がある」は男性が高率となっている。年代別では、40代以上は関心派が95%を超えるのに対し、30代以下は9割未満の結果となっており、20代では87.5%と最低値となっている。
3. 継続可能な啓発活動
今回啓発活動の中心は、「小学生」を想定した。
その理由として、
① 知識として環境問題を学ぶのでなく体験を通じて環境に配慮した行動がなぜ必要かを理解できる感性が養われる時期でもあり、啓発した内容を吸収しやすい。
② 小学校の頃に身に付いた習慣は大人になっても継続する可能性がある。
③ 環境問題への関心が低い20代、30代は、小学生の親世代なので、子どもたちへの小学校での環境教育が家庭に広がる可能性がある。また、子どもに指摘されると素直に受け入れることができ、気づかされることも多い。
以上のことが考えられ、小学生に対して啓発を行うことが最も効果が高いと考えた。
しかし、継続的な啓発活動は効果が現れるためにかなり時間を要する問題があるが、温暖化の問題はできるだけ早く効果を上げることが重要なので、環境に配慮する意識の広がりを加速させるために、大人に対しても即効性のある啓発活動を行うこととした。
(1) 小学校における啓発活動
小学校での啓発活動は環境問題を学ぶだけではなく、その活動を通して子どもたちが環境のために何らかの行動を行うことができるようになり、日常生活の一部になっていくことが大事だと考えた。そのためには、市内の全小学校が6年間の小学校生活の中で継続的に行うことのできる活動を考える必要がある。
① 全ての小学校で実施するためのポイント
全ての小学校で継続的に行うためには考慮するポイントとして、4つのことが考えられる。
・手 軽
授業ではなく、日常生活の中で継続的に実行していくためには、手間がかからず、気軽に取り組めること。
・省スペース
学校の立地や規模等により、用意できるスペースが左右されるので、少ないスペースで取り組めること。
・低コスト
本市は財政再建中であり、新たな予算を計上するのは困難であること、また、継続的に取り組むためにも維持経費はできるだけかからないこと。
・楽しい
何事も楽しくないと続かない。
② ミミズで生ごみリサイクル(ミミズコンポスト)
学校全体の取り組みの中で、給食における食べ残しを堆肥化することができればと、啓発活動としてミミズを使った食べ残しのリサイクル(ミミズコンポスト)を行うこととした。
ミミズコンポストとした理由は、ダンボールコンポストなどでは堆肥を作るという目的だけになるかもしれないが、ミミズという生物が関わることにより低学年でも観察を行うことによりリサイクルに関わるきっかけができるとともに、生ごみが堆肥に変わる過程でミミズという「生物」が関わっていることを知る体験ができる点がある。この体験は環境や生態系への興味のきっかけづくりにつながる可能性がある。
また、コンポストでできた堆肥を使い植物や野菜を育てることができれば、食べ残しが土(堆肥)に帰り、豊かな土質をつくり、その土から再び野菜ができるという物質の循環も体験できるし、自分たちで育てた野菜はおいしく食べることができ、野菜が育つ様子を知ることは、食べ物に対し関心を高め食べ残しの減量にもつなげていける。
さらにミミズコンポストは、
・毎日コンポストへ入れる食べ残しが徐々に減ることや土に帰るという物質の変化を体験することが楽しい。
・毎日の手入れもほとんど必要としない。
・植物や野菜を栽培する際には大きなスペースが必要になるが、ミミズコンポストだけなら大きなスペースは必要としない。
・コンポストの作り方にもよるが、ミミズの購入費程度で低コストに始められ、継続できる。
以上の点からも、全小学校で啓発活動として行うことが可能である。
③ 年齢に応じたプログラム
小学校6年間を通じて継続的に行うためには、年齢に応じたプログラムが必要となる。食べ残しをコンポストに投入することは、全ての学年で、例えば給食当番の子どもがクラスの食べ残しを投入するなど日常的に行うとしても、子どもたちが環境のために何らかの行動を起こしていくようにするためには年齢に応じたプログラムが必要となる。
低学年では、知識ではなく体験を通してさまざまなことを感じることができるように、例えば、透明ケースでミミズを飼育し観察を行い、ミミズという生き物に興味を持たせる、実際に野菜などを栽培している土に触れ、土の中にも生物がいることに気付かせる、食べ残しを使った堆肥で野菜が育つ体験を通し物質の循環を感じさせる、といったような取り組みを行う。
物質の循環を感じた体験があれば、中学年に進みごみについて学んだときに、リサイクルの問題等について理解が進み、あわせて自然界について調べれば、地球全体の環境問題についての理解もできるのではないだろうか。
そして高学年になったときには、環境を良くするために何ができるか考えて行動することができるように、子どもたちの活動を家庭や地域社会にも広げていく工夫をしなければならない。例えば、ホタルを川に呼び戻そうと地域の人と川の清掃活動をする等地域の特性を生かした取り組みも考えられるが、全市的な取り組みとするためには、月1回の不燃物収集の分別の指導を町内会と協力して行うことが有効である。大人よりも子どもたちが指導するほうが比較的スムーズに分別が進むのではないだろうか。また、子どもたちが指導することにより、家庭においても親にも分別意識の徹底が図れるのではないだろうか。
また、子どもたちが地域の活動に率先して参加することは、必然的に親も関わることとなり、環境活動を中心とした新しい形の地域コミュニティ形成のきっかけや、地域における子どもたちの見守りがより進むことにもつながっていく。
環境維新・高知市
マスコットキャラクター
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「ケーちゃん」
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④ 土佐ECO人づくりにつなげるために
これまで環境問題とは無縁と思われていた部署でも啓発活動を行うことができる。例えば、わんぱーくこうちのアニマルランド(動物園)を考えると、今までの動物を見る娯楽施設という役割から、それにプラスし環境啓発の場として、小学校などと連携し、低学年ならば、モルモットやウサギに触れる体験を通して動物の命の大切さを感じる場、中学年ならば、ニホンカモシカやトラといったアニマルランドにいる動物が自然界では絶滅の危機に瀕していることを学ぶ場、高学年ならば、野生動物がなぜ絶滅に瀕しているのか、そのために何ができるのかを考える場といったように、年代別カリキュラムを用意し、遠足の際等に利用することで啓発活動をより効果的にしていくことが可能である。また、家族向けのカリキュラムを用意すれば、休日を使って環境について学ぶことも可能となる。
このように市全体の環境啓発の活動を行うためには、全ての職場で今までの役割にとらわれず、自分たちの仕事と環境問題の関係をもう一度考え、行政として、職員として環境問題について何ができるのか、何をすべきなのかを考えていくことが必要である。
(2) 大人に対する啓発活動
大人を対象とした啓発活動は、すぐに今までの生活習慣などを変えることが難しいという問題がある。
そこで、ます高知市の職員に対し、大人の環境意識を高める取り組みを行い、その取り組みを市内の事業所等に広めることによる方法で行うこととした。
① 自転車通勤の奨励
本市職員を対象に公共交通担当課が実施した通勤方法の庁内LANによるアンケート(回答数856)結果では、通勤距離が2km以下でも自動車7.3%、バイク4.2%であり、2kmから4km未満ではその割合は、それぞれ9%と18.1%となり、通勤距離が短いにもかかわらず、自動車やバイクにより通勤する職員がいることがわかった。自転車の利用促進を目指している本市の取り組みにおいて問題があるとともに、市役所職員として率先して環境への配慮を行うべきであるという点からも、自転車通勤を増やすことが必要である。
金銭的なインセンティブを働かせることが即効性のある取り組みにつながる可能性があるとの理由から、民間企業等を中心に通勤手当の見直しの動きがある。自治体では名古屋市で実施されており、5キロメートル未満の通勤手当を従来の2,000円から、自動車は1,000円と半減、自転車は4,000円と倍増させる等の取り組みを実施した結果、自動車通勤は4割減少、自転車通勤が倍増するという結果がでている。
高知市の通勤手当モデル
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通勤距離
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自動車
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自転車
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~4km |
2,000円→1,000円 |
2,000円 |
4~10km |
4,100円→2,000円 |
4,100円→5,000円 |
10~15km |
6,500円→5,000円 |
6,500円→7,000円 |
15km~ |
8,900円~(自動車・自転車同額) |
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本市においてもこの取り組みが有効と考えられるが、公共交通の維持という課題から、公共交通から自転車通勤への移行を避けるため、他都市のように大幅な自転車通勤手当の増額は困難と考えられる。そのため高知市の通勤手当のモデル(右表)として、自動車通勤手当の減額に重点をおいたモデルを考えた。この取り組みを実施し、市役所における自転車通勤者の増加が見られれば、このモデルを市内の事業者に広めることにより、市全体の自転車通勤者の増加につなげることができる。
② 行動することから始める
市民の意識調査の結果からも、環境問題の関心の高さがわかる。その意識の高さを実際に温暖化効果ガスの削減につなげるためには、まず行動することからはじめ、生活習慣を変えていく方法が有効だと考える。
通勤手当だけではなく、エレベーターではなく階段の利用、エコバッグの利用促進、グリーンカーテンといった行動からはじめる取り組みをまず市役所で試験的に実行し、そのノウハウをHPや各種の広報により市民へ広めていくことも一つの方法ではないだろうか。
まず、市役所から行動し職員の環境意識を高めていくことが、市内全体の市民の意識を変えていくことにつながるはずである。
4. おわりに
環境問題に関する啓発活動が、一過性のイベントや授業の一環として日常から切り離されるのではなく、生活の一部となったとき初めて自然に対する見方や消費生活を変えることにつながっていく。環境問題に対する取り組みはまだまだ始まったばかりなので、市民から自発的な動きを生み出すための環境づくり(人づくり)から始めるため、まず環境に対する意識を高めることを狙いとして、行政は啓発活動に取り組むべきである。
しかしこれからの行政は、一方的な提案だけではなく、市民からの自発的な提案を基本として、いかにそれを事業者やNPOと連携させ実現させていくかである。市民から環境問題に対する提案が行われたとき、その提案を実現することができるよう、我々職員も意識を変えて担当部署以外でも環境問題に対する意識を高めていく必要がある。 |