【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第1分科会 人口減少後の地域社会と政策 ~国が進めた政策の現状から考える~ |
高齢化と核家族化が進行する現代において、地域を支える民生委員、福祉ケアとの連携は、ますます重要になっています。安全・安心のまちづくりが、行政サービスとして必要不可欠となる中で、複合的なきめ細かい市民サービス提供の寄与に努めていくことが求められます。本レポートでは、福島県福島市において取り組んでいる、高齢者や障がいをお持ちの方に、安全な生活環境をつくるための、ごみ出し支援の施策について提言します。 |
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1. はじめに 福島市は、福島県中通り地方の北部に位置し、市内西部は吾妻連峰、東部はなだらかな丘陵状の里山の阿武隈高地に囲まれた福島盆地の中に開け、中心地には緑豊かな信夫山があります。明治から平成にかけて数度の合併を経て広大な市域を有しておりますが、2011年3月に発生した、東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所事故による原子力災害からの生活環境を取り戻すため、独自の子育て支援策や高齢者支援策など積極的に取り組んでおります。2019年の福島市における65歳以上の人口は81,940人、高齢化率は29.5%で、その内、ひとり暮らし高齢者は20,169人、寝たきり高齢者は594人となっており、今後さらに高齢化率は高まることが予想されます。 また、2020年4月の身体障がい者手帳所持者数は10,160人で、このうち、1~2級の数が5,334人となっており、高齢者に対しては、介護保険による在宅介護の訪問介護によるサービスや、身体障がい者には居宅介護支援などが行われていますが、どちらかのサービスを受けられない、もしくは受けていない方も少なくはない現状があります。 そこで、ひとり暮らしの高齢者、高齢者世帯・障がい者世帯で、ごみや資源物を日常的に集積所まで持ち出すことが困難な方々を対象に、玄関先から一声、声をかけて安否確認なども兼ねるごみの収集を「ふれあい訪問収集」とし、2007年度より開始しました。 ここでは、高齢者・障がい者世帯における、ごみ出し支援についての取り組みの成果と課題をもとに検討し、今後の必要な施策について提起します。 2. 実施までの経緯 2005年の福島市長選挙において、2期目をめざす当時市長(市職労推薦)がローカルマニフェストの中で「ふれあい訪問収集」を提案いたしました。これは、高齢者のみの世帯や障がい者世帯の中で、ごみを集積所まで持ち出すことが困難な世帯に戸別訪問し、併せて安否確認する事業であることを謳っており、これまでの集積所に排出し収集車で回収するシステムのみから、戸別訪問収集を追加したことで、廃棄物回収システムのオプションを加えるという当時、東北地方初となる新しい考え方でした。 当時市長の2期目の市政運営が確定し、ローカルマニフェストを実現すべく、全庁的な協議がもたれましたが、そこで、①利用対象者をどのように絞り込むか、②担当窓口を福祉部、環境部いずれかの部署とするのかが問題となりました。 ①については、地域の実態を把握している民生委員の方々の協力を得て、「あの世帯はごみ出しに苦労していそうだ」という世帯をピックアップし、利用に関するアンケート調査により、しぼりこむ手法を取り入れることにしました。 ②については、申請書受付け窓口と訪問収集実務に関することは、個人情報やプライバシー保護に関わることから慎重に対応する必要がありました。このため申請受付けと収集業務はともに市直営の事業と位置づけ、ごみの回収についてはデータもあることから環境部が業務を担当し、福祉部が申請と決定に関する相談を担当することが決まり、それまでの縦割り行政の垣根を超えて、新たに庁内連携した事業としての調整がはかられました。 各地区の民生委員の方々にご尽力いただいたアンケート実施結果として、市内全域から610世帯が「ごみ出し支援制度があれば利用したい」との回答があり、この希望者をもとにした収集ルートの作成・収集人員や収集車輌台数の調整を開始しました。 収集ルートについては、集積所管理を業務としている係の現業職員が総出で取り組みを進め、地域での集積所における収集日を基本とすることを原則としました。 また、正式な利用対象者の申請にあたっては、高齢者実態調査と併せて民生委員の方々に世帯を訪問していただき、534世帯からの申し込みがありましたが、利用対象として事業に該当するかの面談調査実施の結果、最終的には386世帯が「ふれあい訪問収集」対象世帯として決定が下され事業をスタートさせました。 3. 事業開始 2007年6月1日より訪問収集事業が開始となり、マスコミからも東北地方初ということで、好意的な報道として取り上げていただくことも多くありました。また、全国各自治体からの照会・資料請求などの問い合わせの中でも、民生委員との地域協働で取り組んできた手法が非常に珍しく、この点について多くの問い合わせがありました。さらに、福祉施策でもあり、緊急時の対応や基本的な知識の習得が必要なことからも、消防署による全面協力での救急救命講座、社会福祉協議会と福祉部協力による高齢者・障がい者の現状や介護保険制度の概要、直接本人と対面することから、相手との接し方や手話によるコミュニケーションの構築、職員研修所協力での接遇などの講座・研修を業務担当する現業職員が受講し、福祉全般に対しての理解を深めました。 (1) 収集の体制 ※ 2008年7月より飯野町合併に伴い、車輌1台増車と2人増員 (2) 申請と面談調査 職員2人体制で車輌ごとに担当地区を割り当て、市内全域9車輌18人体制で訪問巡回し、支所受付による申請後、利用対象の範囲に該当するかの実態調査を担当者2人と利用対象者本人(世帯全員)、その支援者となる親族・民生委員・ケアマネージャー等の第三者を交え、申請住居内にて所要時間30~60分程度行います。面談実施後に調査内容を所属長へと報告し、面談調査時にて聴取した守秘事項に宅内見取り図を添付したものを、個人台帳として記録保管するとともに、福祉サービスや介護・障がい等級などの変更があれば随時更新をします。 4. 事業の状況 (1) 利用世帯訪問時に直接ごみの受け取りと安否の確認を基本とし、利用者と対面時に健康状況、特に顔色や挙動、話し方の変化等に注意をはらいながら、親しみのあるコミュニケーションを心がけています。体調不良時には病院で受診することや、親族・福祉関係といった支援者への情報提供をすることにより、症状の悪化を未然に防ぐことに努めています。 また、訪問時間帯の外出も可能とするために、不在を知らせる合図を利用対象者と訪問担当者のみで取り決めることを利用原則とし、防犯の上からもメモ等による留守のやりとりは行っておりません。さらに、全利用世帯でそれぞれ違う合図を使用することにより、利用対象者とその家族、支援者からの信頼と安心を得ることで事業が市内全域に浸透してきており、利用世帯も開始当初から大幅に増加しております。
(2) 訪問件数 事業が地域に定着してきた近年では、年間300件超の申し込みがあり、1車輌あたり年間約8,000件超、1日あたり約60件近い世帯を訪問し、可燃・不燃ごみ、資源物を回収後に、市内2箇所のクリーンセンターへ搬入します。
(4) 付加サービス 職員が訪問した際に倒れている利用者を発見するケースがあり、軽度な症状であれば親族・福祉支援者へ連絡し到着するまで利用対象者の傍で容体を見守ります。重度な症状に関しては担当者から上司へ緊急連絡するとともに、救急車を要請して救急隊員に個人台帳の記録をもとに現在の年齢や病歴・通院先などの情報を提供し、救急隊からの指示があれば救急救命を救急車両の到着まで行い続けます。 訪問時、すでにお亡くなりになっているケースも年間に数件あり、重度症状同様の対応を行うこととなりますが、第一発見者として警察に事情聴取にて説明対応が必要となり、その際には、緊急時予備車輌にて事務所待機している人員により、個人台帳控えをもとに収集の継続を可能とする体制を整えています。
5. 東日本大震災の取り組み 東日本大震災の発生直後、市内は電気・ガス・水道のライフライン全てが止まり、さらに電話も不通状態に陥り、収集訪問時に安否を確認できなかった利用対象世帯が多くありました。利用対象者の緊急時連絡先への確認や民生委員と連携し、市内全域の避難所・福祉施設に拡声器を持ち込み利用対象者達の名前を呼び探すことによって、2日間で当時645人(入院中及びショートステイ利用除く)の全利用対象者の安否状況と所在・避難所先を確認することができました。さらに、震災直後の刻々と変化する情報を利用対象者に伝達することにより、本人達だけではなく離れて暮らし、即座に駆けつけることができなかった利用者の家族にも大きな安心感を与えることができました。 また、震災時は市内全域に道路陥没等の被害も多くみられ、一部地域では道路崩壊による大型車輌の進入が不可能な山岳集落があり、集積所を回収するごみ収集車が進入不可能な状況に陥った場所もありました。震災時は3月で、まだまだ山岳部には雪も残っていましたが、四駆軽トラックの機動力をいかすことで、集落からのごみを運び出し、震災で困っている地域の人々の暮らしを支えることもできました。 福島市は原発避難区域ではなかったものの、地域によっては比較的高い放射線量を計測した場所がありました。しかし、ふれあい訪問収集業務を止めることはなく、近隣住民が避難する中、何処にも行く身よりのない利用者達の生活に寄り添い、行政の責務をはたしました。 その後、原発避難者(福島市外から市内へ避難)への支援体制として、関係自治体より「ふれあい訪問収集」の支援要望が寄せられ、福島市民と同様の取り扱いとし、現在も8件の利用世帯があります。 6. 新型コロナウイルス感染症対策の取り組み 訪問担当者が感染の媒体とならないよう、通常訪問時や面談調査時において、距離をとった会話などに最大限の注意を払いつつも、加齢による聴力に支障をきたしている利用者が多いことや、寝たきり状態の利用者世帯もあることに難しさを感じています。 国や自治体の様々な政策や感染防止策に併せて、ふれあい訪問収集事業として、より一層の付加価値を高めていくことが重要となります。今後、さらなる感染拡大が予想されますが、利用者に万全の安心を届けられる行政サービスの提供が続けられるよう、職員一丸となって取り組みを進めます。
(1) 特別定額給付金申請
(2) マスクでエールをプロジェクト 7. 今後の課題 団塊の世代の方々が75歳になる2025年には超高齢化社会となり、医療・介護・福祉サービス崩壊のリスクが発生すると言われています。現在も高齢者のみが暮らす住宅街からの申し込みが相次ぐ事例が報告されており、集積所のような収集となってしまうことへの対策や基準を強化するなどの課題が発生しています。また、事業開始当初の利用世帯が386世帯であったのが、現在は1,100世帯に到達しようとしています。加えて、当初は単身世帯での申込みが9割でありましたが、現在では単身世帯が7割・世帯員全員が利用対象となる世帯が3割となり、高齢化による夫婦世帯での利用者が増加しており、人員不足による職員の業務的負担が増加しています。さらに、親しみのある関係性を構築しているため、利用者が倒れている状態や、もしくは亡くなっている姿を発見する場面に遭遇するため、時には職員の心に大きな傷を残すことも考えられることからも、職員の心のケアを可能とする体制の構築が必要となります。 8. さいごに 今ある高齢者・障がい者を支える仕組みの中で、ごみの訪問収集とはどのような位置づけになっているのだろうか?地区にお住まいで生活状態に難儀をしている高齢者・障がい者の方々に対するケアの方法の1つとして、介護保険を使った事業、国の制度を利用した事業があり、当然そのためには介護認定が必要になります。利用しようと思ったら介護認定を申請して認められれば介護保険を使え、ケアマネージャーが付き、その人に見合った福祉プランが提供されます。一方、もう1つのケアの方法は、在宅支援をいかに長くできるかであり、それは高齢者・障がい者の方々が住んでいる地域で見守り支えていくという部分です。 例えば、地区の民生委員、地域包括支援センター、近隣者、友人、そして家族といった方々が定期・不定期に関わらず、色々な事情で弱り、困っている方達を見守っています。 では、この事業は何かと答えを考えると、足を引きずり手がきかなく、ごみ出しができない方たちは、支援制度を利用すればごみ出しは可能となりますが、介護認定を受けていない、費用が払えない方たちは利用できず、地区のごみ出し指定時間に間に合わなかったりします。こうした問題を解消するため、公的サービスと見守りの中間に位置し、公的サービスではできないごみの問題を、見守りの要素である安否確認する生活支援に軸を置くことで、地域の暮らしに役立つ事業であると思います。 地域でできることは地域でやる、町内会などの近隣地域での助け合い気運を高める、といった自治体での様々な福祉計画や制約がある中で、必ずしもそこの輪に入れない人たちが存在します。そういった本当に困っているのに声に出せない人たちを支援するために、行政としても何らかの仕組みがないのか、関われる部分はないのかといった自治体における活発な議論が必要になり、部署内での業務の連携や情報提供する体制を構築し、地域との信頼関係を築くことが重要であり、これからの課題ともなります。 最後に、福島市で取り組む「ふれあい訪問収集」という事業は、未だに発展途上段階で努力をしなければならないという目的意識を持ちながら事業を進めており、引き続き、現場の声と住民の声を拾い上げ、地域で安心して暮らす住民の安心確保を担っていきたいと思います。 |