【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第1分科会 人口減少後の地域社会と政策 ~国が進めた政策の現状から考える~ |
総務省が2018年度より新たに開始した「課題解決型自治体データ庁内活用支援事業」における「データ活用型公務員育成手法」の検証を行う地方公共団体として、中国地方の地方公共団体の中から唯一、安来市が選ばれました。その中で、今後の厳しい社会情勢の中で公共施設をどのように管理、運営していくのか、職員目線で検討、討議したので、その状況を報告します。 |
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1. はじめに 「課題解決型自治体データ庁内活用支援事業」とは、庁内で保有するデータ(業務データ、個人データ、許認可データ等)を部局・分野横断的に活用して、住民サービス向上や地域課題解決等を実現するための事例・人材の創出をノウハウ面で支援が行われるものである。これにより、IT技術を活用した地域課題の解決をめざす非営利団体による指導のもと、様々な部署に所属する若手から管理職48人がグループに分かれ、各部署に散らばるデータを駆使し、公共施設のあり方と展望等について、課題整理から解決へ向けた施策立案に至るまで、2018年10月19日から2019年1月9日までの4ヶ月間に渡り、職員目線で検討、討議を行った。2. 安来市の現状 (1) 人口の現況と将来推計本市の人口は、1955年の54,889人をピークとし、過疎化や少子高齢化の進行により人口は減少しており、市町村合併時(2004.10)45,030人だったものが、2019年4月末では38,707人であり、2060年(令和42年)において30,442人になると見込まれている。生産年齢人口(15歳~64歳)は減少の一途をたどり、2060年には、生産年齢人口である現役世代約1.62人で高齢者1人を支えることになるものと予想されている。
(2) 人口減による公共施設への影響 3. 課題確認と仮説の作成 (1) 課題の確認各グループはミーティングにより、下記表のとおり、安来市に点在する「学校」「市営住宅」「集会施設」について、現在及び10年後の状態の課題の洗い出しを行うとともに、集約、改善できそうな点について検討を行った。
(2) 仮説の作成 課題の確認を踏まえ、各グループそれぞれが仮説を検討し、「小学校、中学校の配置状況が適切ではないのではないか」「学校と交流センター(集会施設)を統合できるのではないか」といった仮説が立てられた。 これ以降は、報告者が属したグループの 仮説:市内の交流センターは適正な数・配置となっているか? ~バリアフリー化や耐震対応の有無は、利用者数に影響しているのか~ について報告を行うこととする。 4. データ分析及び検証 前記仮説を検証するにあたり、下表のとおりのデータを必要とし、それぞれの保有部署に照会の上、検証に要するデータの収集を行った。また、データの分析にあたっては、収集したデータを利用し、「因果関係(Aの原因が元でBという結果が発生」の有無、「相関関係(一方が変化すると他方もそれに応じて変化する関係)」の有無について確認しながら分析を行った。
5. 分析結果の評価 仮説主題:市内の交流センターは適正な数・配置となっているか?適正な数、配置についてはっきりした答えはでなかったが、 ・ 人口に対する高齢化率が低い地区の交流センターは、高齢者の利用率が高い(市街地高齢者の地域活動は活発? 働き盛りの世代は地域活動が鈍い?) ・ 中山間地域ほど高齢者一人あたりの利用回数が高い(市街地高齢者より中山間地高齢者の方が、より地域に出ている?) ・ 人口が少ない地区ほど、交流センターが活動拠点となっている(中山間地域の住民の交流の場としての位置づけが強い?) という結果であった。 仮説副題:バリアフリー化や耐震対応の有無は、利用者数に影響しているのか 相関関係はなかった ・ 交流センターのバリアフリー化(身障者用駐車場及びトイレ、床の段差)の有無は、利用回数、利用率への影響は見られなかった ・ 交流センター建物の耐震化の有無は、交流センターの利用回数、利用率への影響が見られなかった 収集したデータから仮説に対する検証は概ねできたが、交流センターの利用回数や利用率を分析するにあたり、人口密集地区と中山間地域の各交流センターそれぞれに利用回数の大小、利用率の高低がある施設があり、地域活動の活発性について人口や高齢化率が影響しているといえるような結果を得ることはできなかった。 6. 政策立案 今後も続く人口減少、高齢化率の高まりを考慮しつつ、前記データ分析及び検証結果も踏まえ、見えてきた安来市の未来の姿から最終的に達成したいゴールを設定した。ゴール:交流センターが地域の拠点となるまちづくり ~環境や利便性を向上し、継続的な利用(交流)を図ることにより、顔のわかる安全・安心な地域にする~ その達成のための施策として、下表のとおり立案した。
7. 施策の費用対効果 地方自治体法第2条第14項は、「地方公共団体は、その事務を処理するにあたっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と定める。前記政策立案のとおり、サービスや施策は複数案でてくるため、どちらの案がより効果があるか確認する方法が必要となる。そのために利用されるのが費用対効果である。
(1) 費用対効果 (2) 分 析 8. 安来市職員労働組合として 市の行政改革が進み、当局が変化の気持ちを持つようになったため、組合は当局の動きのチェックや歯止めをかけるほうにだんだんと移行し、組合としての自治研活動も昔に比べ縮小、停滞しているといえる。そのような中であっても、地域に根差した質の高い公共サービスを提供することにより、それが市民の期待に応えることとなり、信頼感を獲得することができるということは、昔も今も変わらない。今回の研修はデータの利活用に重きをおいたものであり、情報(データ)を集約の上、それを分析、検証することで、公共施設のあり方や今後の導きを得るのに、データは大きな役割を果たした。各部署に散らばって蓄積されたデータを集約したものに、様々な分野で活躍する組合員の経験や吸収力、多角的な視野から生まれる発想力を結合させれば、物事を総合的に検討するにあたって大きな成果を生み出すものであると思う。 データという財産を十分に活かし、刻々と変化する地域ニーズをいち早く探知しながら常に「仮説」「実践」「評価」「再考」を繰り返し、公共サービスの担い手として信頼感を得るような積極的な取り組みを労働組合として推進していきたい。 |