【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第1分科会 人口減少後の地域社会と政策 ~国が進めた政策の現状から考える~

 新型コロナ感染症に直面し、北九州市立病院では感染症病棟の拡大、発熱外来の設置など様々な課題に直面しました。市立病院労組は機構本部、各病院現場で団体交渉を通じて、職員の安全と患者市民の命を守る取り組みを行いました。



新型コロナと北九州市立病院の取り組み

福岡県本部/北九州市職員労働組合連合会・自治労北九州市立病院労働組合・八幡病院分会 松本 誠也
八幡病院 久野 順次・高森 泰行・入江 佳世
医療センター 村田美由紀

1. はじめに

 北九州市立病院のうち、医療センターでは感染症・周産期、八幡病院では救命救急・小児科・災害拠点などの政策医療を担っています。今回の新型コロナ肺炎ウィルス感染症にあたって、自治労北九州市立病院労組は、機構本部との団体交渉、各病院との団体交渉を中心に、職員の安全と患者市民の命を守るために、精力的に取り組みました。そこで、現時点までの経過を報告し、今後の課題について考察しました。

2. 機構本部との交渉経過

(1) 北九州市立病院の政策医療
 北九州市立病院のうち市立医療センター(小倉北区)、市立八幡病院(八幡東区)は、2019年4月よりそれまでの地方公営企業法(全部適用)から、地方独立行政法人に移行しました。この他、市立門司病院(門司区)が指定管理者制度のもとに結核医療を、市立療育センター(小倉南区)が指定管理者制度のもとに障がい児医療を担っています。

市立病院

経営形態

主な政策医療

医療センター

地方独立行政法人

感染症、周産期、ガン拠点

八幡病院

地方独立行政法人

救命救急、小児科、災害拠点

門司病院

指定管理者

結核医療

療育センター

指定管理者

障がい児医療


(2) 機構本部へ「要求書」を提出
 自治労衛生医療評議会の助言を参考に機構本部に対する要求書を作成し、3月9日付けで提出しました。
2020年3月9日
地方独立行政法人北九州市立病院機構
理 事 長   中西 洋一 様
自治労北九州市立病院労働組合 
執行委員長 高森 泰行 
要 求 書
 市民医療の向上へ向けた取り組みに敬意を表します。
 さて、新型コロナウィルスの感染の広がりを受けて、感染症医療、救命救急医療、小児救急医療等を担う市立病院の役割は重大であり、現場で働く職員の安全確保対策が急がれます。また小中学校・高等学校・特別支援学校等の臨時休校、保育所の閉所、幼稚園の閉園等により、子育てしながら勤務する職員の負担は重く、こうした職員及び現場の負担軽減も急務となります。患者・市民の安全と職員の負担軽減へ向けた対策強化が求められます。つきましては、下記の要求項目について、労働組合と団体交渉を開催し回答されるよう求めます。
1. 医療現場の職員について
(1) 職員の安全や健康に対する安全確保義務に基づく労務管理を徹底するとともに、ゴーグルやヘアーキャップ、医療用マスク、手袋などの着用の体制を確立し徹底すること。
(2) 窓口業務等対面で業務を行う場合はマスクを着用し、対面する人と人との適切な距離を確保すること。
2. 職場について
(1) 職場において不特定多数の者が触れる場所や発症者が触れた場所については、清掃・消毒を徹底すること。
(2) 病院が主催する学習会・研修等については、当該会議の必要性の再検討や感染機会を減らすための工夫を行う。
3. 休暇等について
(1) 健康上具合の悪い職員は、無理な勤務をせず休むよう呼びかける。
(2) 職員に対し、発熱などの症状がある場合には、職場に連絡させ、出勤を行わないことを徹底し、当該職員には特別休暇を付与すること。また、職員が感染者と濃厚接触した可能性がある場合には、必要に応じ特別休暇を付与すること。契約職員も同様の対応とすること。また委託職員についても同様の対応となるよう、委託元の責任において委託業者と協議すること。
(3) 職員が業務中、特に医療業務に従事するなど新型コロナウィルスに感染したと思われる場合は労働災害の対象として必要な補償措置を行うこと。
4. 保健所との連携について
(1) コロナ感染疑いにかかる患者の紹介、PCR検査などにかかる保健所と市立病院との連携が円滑に行われ職員への情報提供が確実になされるよう態勢を強化すること。
5. 休校に伴う措置について
(1) 職員の子ども等が通う学校施設等が臨時休校その他の事情により、世話が必要となり休暇を取ることが必要となった場合は、国の通知を参考に特別休暇で対応すること。契約職員についても同様の対応とすること。委託職員についても同様の対応となるよう委託元の責任において委託業者と協議すること。
(2) 院内保育所の入所要件を一時的に緩和し、全ての職員からの受け入れについて検討を行うこと。また、院内保育士の負担を考慮し、臨時の保育士の確保など受け入れ体制についても検討すること。
6. その他
(1) 感染症に携わる職員はもとより、他の医療従事者も含め特定の医療従事者に過度な負担にならないよう安全配慮義務を果たすこと。
(2) 感染症受け入れにかかる外来・病棟の拡大を行う場合、人員確保や安全対策などについて、労働組合と協議すること。
(3) 院内で感染症や臨時休校にかかる休暇などで人員不足となり病院機能に影響が出る場合において、外来機能や病棟機能の在り方について、適切な対応ができるよう、労働組合と協議すること。

(3) 機構本部からの「回答」
 病院労組の要求書に対して機構本部から以下の「回答」がなされました。

2020年3月9日付で提出された要求書に対する回答

要求項目

当局回答

1 医療現場の職員について(1)(2)
2 職場について(1)
6 その他(1)

1 各病院において、感染症担当の医師や看護師が中心となって、新型コロナウィルス感染症に関する職員研修を開催したり、患者対応マニュアルを作成して配布したりするなど、適宜、職員への情報提供を行っており、ゴーグル等の着用の徹底等、事業主としての安全配慮義務について、今後とも努めていく考えです。
2 清掃・消毒については、両病院とも基本的な方法に変更はありませんが、医療センターにおいては、疑い患者が使用した機器・病棟の清掃方法について、改めて委託業者へ指示しています。

2 職場について(2)

1 学習会、研修については、外部に参加を呼びかけるものは当面中止し、実施する場合でも、規模縮小、時間短縮の上、体調不良者の確認徹底、マスクを着用するなど、万全の対策をとることとしています。

3 休暇等について(1)(2)(3)
5 休校に伴う措置について(1)

1 「新型コロナウィルス感染症発生にかかる機構職員の服務取扱い等について(令和2年3月5日北九病機人第235号)」及び「新型コロナウィルス感染症拡大防止のための学校等の臨時休業に伴う病院機構職員の服務の取扱い等について(令和2年3月5日北九病機人第236号)」のとおりとし、引き続き状況の変化にあわせて適切に対応していく考えです。

4 保健所との連携について(1)

1 理事会において、市立病院の責務として、機構が一丸となって、中心的役割を担うことを確認しています。
2 また、両病院では、院長及び担当の医療従事者が市主催の「新型コロナウィルス感染症に関する北九州市感染症対策会議」に出席し、市との連携を図りながら、新型コロナウィルス感染症(疑似症患者を含む)に関する医療体制について協議を行っているところです。

5 休校に伴う措置について(2)

1 八幡病院においては、既に未入所児童の一時預かりを実施しており全ての職員からの受け入れは可能となっています。
2 また、令和2年4月1日からは医療センターにおいても同様の対応が可能となる予定です。

6 その他(2)(3)

1 労働組合の意見を踏まえ、当局の責任において適正に取り組んでいきたいと考えています。

(4) 春闘団交の取り組み
 3月26日、病院労組と機構本部との間で「春闘団体交渉」が開催され、これまでの交渉経過を踏まえ、さらに「感染症手当の拡充」等を要求し、前向きに検討する旨の回答を得ました。

(5) 機構本部理事長との意見交換
 4月9日、機構本部の中西理事長と病院労組4役との意見交換会が開催され、理事長より危機感をもって対応している中、労組への協力要請があり、病院労組からは職場の諸問題を解決し、負担軽減に努めるよう求めました。

(6) 「感染症手当」の拡充
 4月17日、機構本部から「感染症手当」について、これまで医療センター感染症病棟のみ対象に1日100円であったものを、感染症に対応したすべての職員に1日1,000円支給する旨、回答がありました。額・対象については不十分であり、今後も交渉を続ける考えです。

3. 各病院職場の交渉経過

(1) 八幡病院との団体交渉
 新型コロナ感染拡大に伴って、八幡病院では帰国者接触者外来を設置して対応してきましたが、新たに感染症病床を設置することになりました。このため4月17日、八幡病院当局と病院労組との団体交渉が開催されました。交渉では、①ゴールデンウィーク中の勤務体制、②感染症病床の設置、③帰国者接触者外来の運用、について病院当局の提案と説明を受け、職場からは患者・市民と職員の安全を確保するよう求めました。

(2) 医療センターとの団体交渉
 医療センターでは、既設の感染症病棟だけでは対応しきれなくなり、感染症病床の拡大、一般病棟の再編成、帰国者接触者外来の運用について団体交渉の開催を要求しました。交渉の設定についてはソーシャルディスタンス等を考慮し、4月28日に事務局長(部長職)と病院労組執行委員長とのトップ交渉、5月1日に各課課長と病院労組役員との拡大事務折衝という形をとり、①ゴールデンウィーク中の勤務体制、②感染症病床の拡大と一般病床の再編成、③帰国者接触者外来の運用、について病院当局の提案と説明を受け、職場から具体的な問題点を出して、すみやかな解決と職員の安全と負担軽減、患者・市民の安全を確保するよう求めました。

(3) 職場における諸問題
 両病院とも、2019年の地方独立行政法人化に伴い、労働条件に対する不安等から大量の看護職員が退職し、中堅職員の夜勤回数が激増していましたが、さらに2020年3月末でベテラン看護師が退職し4月から新規採用職員の教育が重なり負担が増している中で、感染症病床の拡大や急な病床再編成で、職員の負担が増し、メンタルヘルスも多発するなど、職場の疲弊が極限にまで達している中での交渉となりました。
 また医療用マスクやフェイスガード等の防護具が不足しました。保健所からのコロナ陽性疑い患者の受け入れの他に、通常の救急患者が診察の結果コロナ陽性疑いが判明し、対応した職員のPCR検査の保障についても問題になりました。長時間の時間外労働や家族との関係で、帰宅できず病院近くのホテルに宿泊せざるを得ない職員もいました。病院労組として、これらの問題が発生するたびに当局に改善を申し入れ、現在に至っています。

4. 地域医療体制の課題について

 北九州市内には市立病院の他、大学病院、国立病院機構、労災病院、JCHO(旧厚生年金)病院、日赤病院、済生会病院などの公的医療機関があります。今回の新型コロナ感染拡大に伴って、これら公的医療機関のバックアップについて、北九州市当局が中心になって協力体制の構築へむけ、調整が行われました。今後、第2波、第3波が懸念される中、公的医療機関の協力体制の実効的整備が課題となると考えられます。
 また、各医療機関の設備についても、感染症に十分に対応できるよう、陰圧の急患室・診察室・撮影室の整備、院内でのPCR検査体制の拡充など、改善が望まれます。  
 さらに職員の体制についても、十分な人員配置と感染症に対応できるトレーニングの日常的な実施が求められます。

5. 地域保健体制の課題について

 北九州市では過去の保健所再編成で、それまで7区にあった保健所が1ヵ所に統合され、ギリギリの人員で今回の新型コロナに対応することになりました。またPCR検査については、環境科学研究所(地方衛生研究所)で対応しましたがギリギリの人員で業務が過密となり、月100時間を超える時間外労働も生じる事態となりました。保健所、環境科学研究所ともに人員・設備体制の拡充が求められます。  
 北九州市は、市立八幡病院改築前の旧病院施設を利用してPCRセンターを開設しました。こうした施策については、さらに拡充していくことが求められると考えられます。

6. おわりに(自治体の課題について)

 今回の新型コロナ感染症拡大では、これまでの国の保健所統廃合や自治体病院の感染症病床削減の政策のあり方が大きく問われることになりました。自治体としては、国の地域保健・地域医療統廃合の動きを地域市民の立場から厳しく検証し、今後も同様の感染症拡大にそなえて、万全の体制を取るよう体制整備を図るべきと考えられます。