1. 町の概要
様似町は北海道の南東にある日高管内にあります。管内でも南東に位置し西には浦河町、東にはえりも町があり、高山植物でも有名な日高山脈の麓にある町で中でもアポイ岳は高山植物群落が特別天然記念物に指定され植物学上で、とても貴重な存在となっています。
2015年9月19日にはユネスコ世界ジオパークにも認定され、地球深層部や自然からの贈りものを活かし「大地から学ぶ」・「自然から学ぶ」・「歴史から学ぶ」をテーマにした、自然と人間社会の共生を学び楽しむことができる町です。
主産業としては漁業、農業、軽種馬産業といった1次産業となっています。北海道でも太平洋側に面しているため年平均気温が8度前後で夏場の最高気温が30度になることはほとんどない町となっていて、漁業では昆布、秋鮭などが有名です。また、農業では冷涼な環境を活かして、夏秋どりイチゴ「すずあかね」の生産量が日本でも有数な町となっています。
(1) 人口推移
様似町の人口推移ですが、1980年当時は7,986人となっていましたが、10年後の1990年には7,159人、さらに10年後の2000年には6,210人、そして2010年には5,114人となり、現在(2020年10月末)では4,135人となっています。
1980年に比べ3,851人減少しており、約51.78%の人口減少となっている「ザ・過疎の町」です。
(2) 移住定住の促進
様似町の人口減少は歯止めがかからず進行するばかり!!
近年 急速に進んでいる人口減少問題を解決しようと、わが町の特色を活かして、農業支援や漁業支援を行い、移住定住者が働ける環境整備に力をいれています。受け入れるにあたり、やはり必要なものは、その町での生活基盤が無いと若い世代の移住定住者を取り込むことが難しいのが現実にあるからです。
年金暮らしの高齢者世代をターゲットとしても大きな病院もなく、バスは運行しているものの、高波の影響により線路が破損したことにより、日高本線は2021年4月に廃止予定となっています(現在はバスでの代行運転中)。このように、交通機関が都会のように整備されている訳でもないため、高齢者世代の受入は難しい……
若い世代を取り込むための生活基盤といっても、小さな町では非常に厳しいものがあります。漁業については、最近まで漁業権や漁組等との兼ね合いから、簡単には就業することはできませんでしたが、やはり高齢化や担い手不足により成り手が居ないことから、昔よりは漁業権の問題も緩和されてきている状況です。
さらに、農業となると自然豊かな町ではありますが、海と山に囲まれているため土地が狭く、土質も畑作に向いていないせいか、水田か軽種馬産業の方がほとんどとなっています。水田だけでは生活していくだけの収益も無く、軽種馬産業を生業とするには、多額の資金が必要となるため非常に厳しい状況でした。
しかし、冒頭の町概要でも触れていますが、この町の気候を活かした施設野菜の栽培に力を入れることにしました。様似町は北海道内でも雪が少なく、夏場の気温が冷涼であることを活かして、本州方面が夏場に端境期を迎える夏秋どりイチゴでの就農者を募ることとし人口減少に歯止めをかける取り組みを行いました。
だが、現実として甘くはないのが過疎の町……
(3) 人口減少と同じく飲食店も減少
様似町では人口減少を食い止めるため、就漁、就農支援に加えて、満18歳までの医療費を無償にするなどの取り組みを行い、移住定住者の促進に努めています。新規移住定住者が増えていますが、人口減少(亡くなる人、就職、進学により転出している人)の数には程遠いのが現実です……
ここ数年で感じていることとして、人口減少のせいか町内の飲食店で飲食をする方たちが減少していることです。
漁業者も水揚げが減っており、景気のいい時のように飲食をする方は減少している。飲食店の方たちから「役場職員が率先して飲みに来ないと商売にならないよ」「役場職員も地域貢献のために飲みに出た方がいい」「最近の若手は(20代?)飲みに出歩かないね」などの話を聞くと寂しさすら感じました。
しかし、飲食店も一昔前に比べると店舗数も減少しているせいか、企業努力をしている店が少なく殿様商売? って感じも見受けられていたので、これでは飲みに行く人は減るのは当たり前と思っていました。
町民は飲みに行かない、飲食店は経営が回らない、経営が回らないからどうしようもない、高齢にもなってきているし年金も出るから、後継ぎ居ないそろそろ店閉めるかいという感じで、誰も続けようとしない、やろうとしない、そんな構図が様似町にとっても、飲食店にとっても、完全に悪循環、負のスパイラルに陥っていました。
そんなことを感じながらいた矢先に発生したのが、「新型コロナウイルス」でした……
2. 地域支援の取り組み
(1) この状況で何もできない自治体職員
誰も経験したことのない、新型ウイルスの猛威により、北海道では2020年2月28日に「緊急事態宣言」が出されました。
当初は東京都や札幌市の大きな町だけに影響があるだけだろうという考えでいましたが、感染者が急増していき遠出をすることや飲食店へ行くことも厳しいという雰囲気になっていきました。さらに、4月20日~5月6日まで飲食店に対しての時短営業、休業要請がはじまってしまったのです。
時短営業、休業すると国からの一時金が支給されるのですが、「この額では経営飲食店を続けられない」「家賃にもならない」「従業員への給料が支払えない」などの声を聞くようになりました。
自分自身は、もともと人が出歩いてなかった飲食店だから、「一時金が出るなら何とかなるのかな」「大丈夫じゃない」といった短絡的に考えていましたが、この状況は自分が考えているより、町内の飲食店には大きな影響があったことを知りました。
確かに、この時期は連休がはじまり、実家への帰省や身内が遊びに来たり、ウニ祭りが開催されたりして、本来は飲食店のかき入れ時で様似町内も多くの町外者で賑わっているはずが……新型コロナウイルスの影響により、本当に誰も出歩かない、来ない町になっていたのです。
「過疎が進んで人口減少しているから大変だ」「今後の様似町はどうなっていくだろう」と言葉では言っていましたが、このような状況にならなければ、町民という立場からも、自治体職員という立場からも本当に町が大変だということに気づかなかったかもしれません。この危機的状況になったことで、町内の方たちに何もできないし、何もしてあげられない現実と歯がゆさを感じはじめました。
(2) 地域貢献第1弾 ~ヒントは自治労から脱退した町から~
誰も止められないウイルスだし、すべての町民に対してなんて、すぐには何もできないし仕方ないよ、収束すれば何とかなるよと思っていた矢先に新型コロナウイルスで困っている飲食店を支援している自治体が管内にあることを新聞記事で知りました。
そのヒントをくれたのが、2019年に自治労を脱退した新冠町でした。内容は町内飲食店から弁当を注文、購入して互助会で何割かを補助して職員に配布するという内容だった。
これなら自分たちもできると考え、職員組合と職員互助会で話し合いを行い、それぞれの組織から補助することとなり、5月11日から開始することとなったが、ここからの作業が大変になるとは思ってもいませんでした……
まずは、町内の飲食店でランチ弁当対応していただけるかなどの聞き取り作業から、飲食店と言ってもラーメン店、そば屋、スナックは弁当に対応できないので除くと14件程度の店舗があり、すべての店舗に伺いやってもらえるかの話をしに行くことから始まりました。電話で言うのは簡単なことでしたが、顔を合わせて現状や今後できることがないかなどの話しも含めて聞いて回りました。
話を聞いていると「食材が余っていて大変だよ」「これからどうなっていくだろう」といった声や「仕出しは無理だよ」「パートさんも居ないから対応できない」「いつまでやってもらえるか分からないのに、弁当のケース買うことはできない」といった声も聞こえてきました。
協力してあげたいという気持ちとは裏腹に、落胆というか残念な気持ちにもなり、寂しさと悲しいという気持ちになっていました。しかし、「ぜひ、やって欲しい」「協力してくれて、ありがとう」といった声も聞かれ、自分自身がやっていることが飲食店のためになっているか分からないが、賛同してくれた5店舗のために頑張ろう、やるしかない。
はじめは、新冠町と同じように限定数量での対応を考え、1日あたり20食程度で店舗にお願いをする形で飲食店応援企画を開始し、一週間前までに注文をメールや口頭で受けようと考えていたのですが、職員からは20食と言わず、注文された数量で対応してはどうかという意見が出始めました。
まさに「言うは易く行うは難し」で同じ職場の仲間とはいえ、勝手なことを言うなとの思いもありましたが、店にとってもプラスになるならと思い、発注数量を店舗に対応してもらうことで開始しました。
多い時には、70個まで増えた店舗もあり、休業や時短営業の売上減少の足しにはなったかなと感じています。
この弁当企画を5月11日から6月5日までの4週間続け、飲食店への地域貢献として活動していましたが、弁当の注文、発注、受け渡しや料金徴収を一人でやっていると、周りの職員から大変みたいなので、手伝うよという声があり、地域貢献活動だけでなく職員の協力も得られたことは、自分自身や職員の輪、組合として少し前進できたことなのかなと感じられました。
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◎青年部の協力により、弁当配布の様子
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(3) 地域貢献第2弾 ~ヒントは情報番組から~
6月1日から「緊急事態宣言」が解除になるとの報道があり、飲食店も通常営業が再開されはじめました。それに伴って、弁当企画もそろそろ終了することとしていました。
ただ、町内5店舗のみだけで実施した企画となっているため、これだけでは、他の町内飲食店も経営的に厳しいだろうと常々感じてはいたのですが、他にどんな企画をすれば他の飲食店にも貢献できるかを模索していた矢先に目に飛び込んできたのが、「前金精算制チケット販売」だった。
いまは経営が厳しく、仕入代金の支払いでやっとという店舗に対して、前金での支払いをして、この期間を凌いでもらうためのものであった。「これなら行ける」と思った。
またまた、店舗への聞き取りからはじめ、参加店舗を把握して、職員からは店舗と購入金額の連絡をもらう作業、チケット作成、配布、店舗への支払い、実際やってみると大変な労力ではあった、発案したとはいえ「やらなきゃよかったのかも……弁当だけにしておくべきだったのか……」とも感じていたが、今度は青年部から「手伝いますよ」との一言で救われた。様々な作業を分担してチケット販売に漕ぎつけることができました。町内飲食店の18店舗のチケットを販売することができました。
チケット販売をしていて、売れ行きのいい店舗と全く売れない店舗と売上額の差がひどく、やはり企業努力の差が如実に出てしまった、自治体職員にも人事評価制度はあるが、たぶん考えられない、体感することがないであろう、飲食店に対する周りからの評価ではあるが、厳しい現実を目の当たりにしました。
弁当企画や飲食チケットの販売をして、色々なことを経験させてもらい、大変なこともありましたが、店舗へ飲食に行った時に「ありがとう」「助かったよ」「また頼むね」という言葉がありがたく感じられました。この取り組みをして良かったと初めて思えた瞬間でした。
3. まとめ
今回は飲食店のみへの支援活動でした。新型コロナウイルスが終息するのは、まだまだ先になると感じています。飲食店だけでなく、他の業種でも困っている方たちはいるはずなので協力や支援できることがあれば、この支援活動だけでなく、様々なことを続けていく必要があるかもしれません。
この取り組みを実施して感じたことは、こちらからの支援や協力も大事なことだとは思いますが、支援を受ける側も受け入れ方や努力が必要であり、こちら側だけが頑張っても実らないものだとも思います。
また、自治体職員として窓口業務や申請手続き、支援策等を活用して町の人のために働くことは普通なことだが、このような緊急事態になった時に自治体職員として、「何ができるか」「何をしなければいけないか」ということを考え、実行することは普段働いている以上に労力を使うことや組合だけでなく多くの仲間の助けを借りなければできないとも実感できました。
普段の暮らしが通常の世の中で、そこで普段どおりに働けていることは、たぶん普通なことなのかもしれません。新型コロナウイルスだけでなく、近年発生している災害などに襲われた際には、これ以上に厳しい状況があるのでしょう。自分自身は未だに経験したことはありませんが、普段の暮らしでなくなった時に自分自身ができること、町の人たちのためにできるか、普段の生活に戻すために色々な活動をする必要がある、自治体職員として重要なことなのかもしれません。
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◎手作り販売チケット |
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◎日高報知新聞記事 |
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