【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第2分科会 「ラッセーラー」だけじゃない! 地域に根付いたねぶた(祭り) |
新型コロナ感染が世界規模で深まり、各国とも観光旅行は厳しい制約下に置かれている。青森県観光の新型コロナ感染症の影響や東日本大震災時の打撃度などを整理するとともに、災害時における危機対応について観光活動の視点から検討した。観光産業が地域の中核産業である沖縄県は先進的な観光危機管理計画を策定しており、先行事例として分析している。また、ポストコロナ社会の観光産業としての事前の備え方について考察している。 |
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日本政府は外国人観光客を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人と大幅に増大させる目標を掲げていた。2020年には東京オリンピックが開催されるなどの好条件も重なり、この目標達成も可能と考えられていたが、この度の新型コロナウイルス感染の世界的流行によって潰えてしまった。観光産業は平和の産業といわれるように、自然災害や政情不安、感染症、交通途絶などの発生によって多大な影響を受けることになる。 日本は地震や台風、洪水などが多い災害大国と指摘されており、様々な観光危機に的確に対処できるか不安視されている。最近の胆振沖地震が残した観光被害では、外国人のみならず日本人観光客も困り果て、地域の観光事業者も多大な打撃を被ることになった。台風が直撃した関西国際空港ではタンカーによる連絡橋衝突事故も重なり、大問題を各方面に発生させた。適切な情報提供がなされず、空港に数千人もの利用客が取り残されることになった。あまりにも災害に対する準備体制が不充分であったと指摘されている。 青森県は観光産業を県経済の中核産業に育成していく基本方針を示しており、観光産業の振興に注力している。世界的にも観光産業は成長産業として発展しつつあり、今後も確かな成長が期待されている。しかし、観光活動は災害などの影響を受けやすく、他産業への影響波及も大きいため注意を要する存在となっている。 1. 災害が観光活動に及ぼす影響 様々な種類の災害や大事故などが観光活動に影響を及ぼすといわれている。一般に観光危機とは、地震や津波、台風、洪水などの自然災害・危機、武力攻撃やテロ、凶悪犯罪、大規模火災などの人的災害・危機、新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症・健康危機、海洋汚染や大気汚染などの環境危機、他地域で発生した様々な危機が当該地域に影響を及ぼすものとされている。観光産業を維持・発展させていくためには、これらの想定される危機に対して事前に準備をすることによりその被害を最小にするとともに、危機発生時に観光客の安全を確保し、災害後の復興や風評被害に適切に対処して、地域の観光産業の事業継続などの支援を組織的かつ計画的に実施することが必要といわれている。観光危機の主要な影響波及は第1に観光客自身であり、第2に観光サービスを提供している産業、そして第3に観光産業を支えている地域経済や地域の住民、行政組織等であり、第4に観光客の母国や関係者等ということになる。先ずは観光客が安全に安心して旅行を楽しめることが基本であり、魅力的な旅行商品を安定的に提供できる観光関連産業の充実や観光インフラの整備が求められる。また、観光リピータを獲得し地域経済の核として機能させていくためには、観光客を受け入れる地域のホスピタリティが期待される。観光産業は地域の総合産業と表現されるように、その関連産業の裾野は広く、関係者の広がりは地域全体に及ぶ。地域に居住する人々は子どものころから観光客と接し、地域の小さなセールスマンとなる。観光客と地域の人々との交流の輪は格段に広がり、それが旅行の大切な楽しみとなっている。 また、観光活動には定休日はなく、地域のお祭り期間も災害発生時も対象となる。従って、日常空間を観光客と適切に共存できるように社会デザインする必要がある。訪問する観光入込客数に従って対応する観光システムを柔軟に組み替えることが求められ、逆に地域の人々の意志で訪問客数を制御することが必要とされる。 2. 観光災害の影響波及の事例 災害大国の日本は、地震や台風、豪雨、感染症、政情不安などの観光危機が毎年のように発生している。地震では2011年に東日本大震災、2016年に熊本地震、2018年に北海道胆振東部地震が発生した。また、台風や豪雨関連では2011年に和歌山・奈良を襲った台風12号、2013年に伊豆大島で発生した大雨による土石流、2014年の広島豪雨による大規模土砂災害、2018年に広島・岡山・愛媛で200人を超える死者を記録した豪雨、2019年に関東・甲信・東北地方を襲った台風15号・19号などがあげられる。さらに、2014年には御嶽山が噴火し57人が亡くなっている。また、感染症ではこの度の新型コロナウイルスをはじめ、2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS:サーズ)、2012年の中東呼吸器症候群(MERS:マーズ)が発生しており、過去には様々な感染症に人類は苦しめられた。政情不安については、最近では韓国の反日政策で2019年に訪日客が減少し、同様に中国では2005年に政治的要因で訪日客減少が発生した。また、1991年の湾岸戦争も戦地からは遠く離れていたが、観光活動に大きな影響を与えている。ここでは、青森県との関係が深いということで、新型コロナウイルス感染と東日本大震災を取り上げ、その影響波及について検討する。 (1) 新型コロナウイルス感染症の影響 中国の武漢で発生した新型コロナウイルス禍はグローバル社会の進展を背景として、欧州から米国、日本を含む世界各国に蔓延した。世界の主要国は非常事態宣言やロックダウン(都市封鎖)などを実施したが、それでも悲惨な状況を世界各地で招いている。日本の新型コロナウイルス感染は、その第1波が中国からもたらされた。水際対策を中国の武漢と河北省に限定していたため、中国からの観光客などを数多く受け入れる結果となった。その結果は主要観光地などでの感染者増として現れ、北海道では緊急事態宣言を発令するまでに追い込まれた。また、ダイヤモンドプリンセス号に乗船していた1人の乗客から船内感染が広がり、最終的に横浜港で検疫と健康観察を受けることになった。世界中のメディアが注目し、日々に深刻化していく状況が世界に発信された。2月段階では各地で発生する感染者クラスターを調査して、感染の芽を摘むことで国内感染を比較的に低い水準で押しとどめることができた。その後、欧米からの新型コロナウイルス感染の第2波がもたらされた。この頃から陽性者の感染経路不明の割合が高まり、クラスターつぶし戦略は崩壊してしまった。大都市圏だけではなく地方の各都市でも感染者が増加してしまい、政府は緊急事態宣言を出さざるを得なくなった。 青森県の新型コロナウイルス感染は全国的には「一定の封じ込め」を実現しているといわれていた。青森県は首都圏に比べれば人口密度も低く、車社会で人々の接触機会は少ないと見られる。一方、経済面への影響はかなり大きく出ている。中国・台湾・韓国からの観光客はほぼ皆無であり、国内観光客も僅かである。印象的には、1~2月に観光関係、2~3月に飲食関係、4月以降は全業種に影響が波及していたと見られる。具体的には宿泊業の休業について見ると、八甲田ホテルなどのリゾート系ホテルからはじまり、青森市のホテル青森、青森国際ホテル、ホテルサンルート青森、弘前市のホテルニューキャッスル、むつ市のむつグランドホテルなどに休業が拡がった。また、酸ヶ湯温泉や下風呂温泉、浅虫温泉などの各温泉地も休業に追い込まれた。さらに、春から夏の青森を代表する各種イベントが中止された。弘前さくらまつり、青森ねぶた祭りなどの祭り系イベントやあおもり桜マラソン、十和田湖ウオークなどのスポーツ系イベント、田舎館村の田んぼアートや、津軽三味線日本一決定戦などの文化系イベントなど、人の集まる大型イベントは全滅状態となった。 青森県は観光産業を中核産業として育成していく方針であるが、観光関連産業の宿泊・飲食・サービス業などは災害や危機状況に弱く、観光客の安全確保とともに産業としての事業継続等にも配慮した観光危機管理が求められる。 ここでは青森県の新型コロナウイルス感染の観光産業への影響について検討する。青森県の観光観光入込客統計で利用可能な最新の年次データは2018年統計であり、これとは別に県内の主要な観光施設(35施設)と宿泊施設(77施設)を対象とした2020年月例の速報値が利用可能である。新型コロナウイルス流行以前の状況を簡単に見ると、観光入込客数は2015年頃から35,000人規模で横ばい状況が続いている。この様な状況下で、海外航空路の開設などもあり、外国人旅行客は飛躍的に増加した。2015年の57,130人から2018年には296,240人に5年間で5.18倍も増加した。入込客は台湾が32.3%、中国が24.4%、韓国が12.8%、香港が8.1%と主に近隣の東アジア諸国からの来青となっていた。これが感染症の発生により激変する。速報値の宿泊人泊数を対前年比ベースで見ると、2020年1月の100.9%から2月93.4%、3月68.8%、4月26.8%と激減しており、5月以降は現時点では公表されていない。政府の3月28日に発布された緊急事態宣言や外出自粛要請等の影響が強く反映され、各地の観光地訪問は極度に制約されることになった。 なお、インバウンド関係について見ると、日本政府観光局の統計データでは、2019年は韓国を除いた主要アジア諸国からの訪問客数は増加したが、韓国の年間実績は対前年比で25%減となり、10月以降は60%を超える減少となった。総訪日外客数は2020年の1月は前年比で横ばい状況であったが、2月はマイナス58.3%、3月はマイナス93.0%、そして4月にはマイナス99.9%となり、実数でも僅か2,900人を数えることになった。 5月25日に政府の緊急事態宣言は解除され、経済活動規制が次第に緩和されて6月19日には県境を越えた移動も自由となった。国内の観光活動は少しずつ動きはじめ、7月22日以降には政府のGo To キャンペーンの支援もあって観光産業は一定程度の回復が期待された。しかし、インバウンド市場では入国制限が継続されると見られ、そう簡単には回復が期待できない状況にある。 ここで、青森県の新型コロナウイルス感染症の観光ルートからの影響を途中段階ではあるが試算することにする。分析対象は2020年の1月から6月までとし、観光入込客数の統計データは青森県の月例統計集計表の速報値を採用することにした。 青森県の速報値ベース(主要76施設)では、2020年の1月~6月期間の観光宿泊者数の減少は前年の同期間に比べて482,461人と把握されている。この減少宿泊数に対応した観光消費額の減少分を推計する。ここでは宿泊減少に比例して観光消費額も減少すると仮定した。なお、青森県観光消費額の実績データの公表は数年遅れとなるため、利用可能な最新データは2018年実績額となる。そこでこの統計データを利用して宿泊減少効果を観光消費額の数値に変換すれば、1月~6月の観光消費額の減額は392.3億円となる。この数値は宿泊減少に対する直接効果であり、地域経済にはこのマイナスインパクトに対する間接効果も発生する。ここでは、青森県産業連関表を利用してこの間接的な波及効果について把握することにする。なお、6月以降も観光宿泊者数の減少は継続しており、青森県経済に与える影響はさらに大きなものになっていくと想定され、推計されたマイナス効果はあくまで中間段階の数値である。
ここでは2011年青森産業連関表の40部門表を利用する。産業区分を40部門に統合したこの連関表では、交通費は運輸・郵便部門に区分され、土産代は商業部門、宿泊費とその他費用は対個人サービス部門に含まれることになる。図表2の諸元を新型コロナウイルス感染に伴う観光消費額の直接的減少インパクトとして、産業連関表を利用してその間接効果を推計する。この推計結果を示せば、次の通りである。前述したように直接効果は392.3億円の減少であるが、間接効果は第1次生産波及効果が全産業で108.2億円、第2次生産波及効果が78.0億円で直接・間接効果の合計が578.5億円の減少インパクトと推計される。また、このマイナス効果を従業者数・雇用者数に換算すれば、直接・間接効果で7,364人の減少に相当することになる。なお、業種別の波及効果額について見ると、直接効果のあった対個人サービスや商業、運輸・郵便が上位を占め、次いでこれらの業種と関連性が深い不動産や対事業所サービス、飲食料品が続き、事業活動の停滞によって電気・ガス・熱供給や金融・保健、情報通信などが影響を受けていると思われる。
(2) 東日本大震災の影響 2011年に発生した東日本大震災は青森県を含む東北各県に壊滅的な被害を与えた。日本観測史上初のマグニチュード9.0と推定された超巨大地震は岩手県、宮城県を中心に合計で、死者数15,899人、行方不明者数2,529人を数えることになった。この大震災の観光産業への影響は、当初は観光施設の被害や交通制約などの物理的な要因で減少し、その後は風評被害で長期にわたって観光需要を低減させた。東北6年の延べ人数ベースの観光入込客数は全体で25.8%減となった。青森県では2010年の34,213人から2011年は31,543人と7.8%減となった。その後緩やかな回復によって4年後の2015年に35,219人と震災前の水準まで回復してきた。 ここで、青森県内の影響程度について見ると、前述したように全体としては年間延べ入込客ベースで7.8%減ではあるが、地域によって影響の出方が異なることが分かる。県下の主要観光宿泊地である十和田市と三沢市は各々20.7%減、21.6%減と大きな減少を記録し、大規模地震による風評被害が如実に現れる結果となった。しかし、市内に浅虫地区を抱える青森市は0.4%の増加であり、八戸市や三戸町、七戸町も各々4.50%、23.9%、8.8%の増加を記録した。これは被災地に震災復旧や復興を支援する人々が大量に派遣された影響であり、これらの人々が周辺の都市部や新幹線の停車都市に訪れたのではないかと推察される。また、県内観光客が主な観光地では、地区によって大幅な観光入込客の減少を招いている地域もある。中泊町は54.4%減となり、同じく佐井村42.4%減、平内町40.6%減、平川市39.6%減、風間浦村29.8%減などがあげられる。なお、月次データで見ると青森市は3月と4月の2か月間で観光入込数が大きく減少し、5月以降では入込人数が回復している。同様な現象は八戸市や弘前市、五所川原市でも発生しており、ごく一時的な影響が地域経済にもたらされたと考えることができる。各地域が観光産業にどの程度依存しているかで地域経済が受ける影響度が相違してくる。今後青森県が観光産業を中核産業化していくのであれば、充分に配慮していく必要がある要素といえる。実際に東日本大震災の影響で廃業したホテルや土産物店は複数件に上っている。
3. 今後の対応策 上述したように、各種の観光災害は、地域経済や住民生活に多大な影響を与えることになる。また、外国人を含む観光客にとっては「天国から地獄」への環境変化であり、帰還困難者を含めて、適切な情報提供や救護、一時的な滞在施設の提供などが求められる。このような要請に対処するため、地域防災計画や観光危機管理計画などの整備と日常的な運用が求められるといえる。(1) 防災計画 先ず、法制度的な観点から整理すると、災害・危機対応については国レベルでは災害対策基本法や国民保護法、災害救助法などで規定されているが、これらの法律のもとで、各都道府県及び市町村が当該地域の計画策定をしている。自然災害等に対しては地域防災計画を設け、感染症等に対しては健康危機管理計画を整備し、テロや凶悪犯罪等に対しては国民保護計画を準備し、各行政組織と消防、警察、海上保安本部、自衛隊等が協力・連携して様々な対応策を実行していく仕組みとなっている。各地域の自然災害対応は基本的に地域防災計画で定められ、住民も観光客も地域内にいるという意味で同じ扱いとなるため、観光客が特別扱いされることはない。しかし、これらの諸計画では観光客や観光産業への記述や配慮は必ずしも十分とはいえず、観光活動を主体的に取り上げた危機管理計画を策定することが望まれる。 地域防災計画では、地震や風水害、土砂災害など様々な自然災害への対応策を取りまとめている。そこでは地震・津波対策としての避難訓練などの予防計画や災害発生後の避難所開設・救護、物資輸送と配給管理などの応急対策が整理されている。また、地域防災計画の対象者は当該地域の外国人を含む住民とされているが、押田佳子等の各都道府県における地域防災計画の計画内容の分析結果では、30都道府県で災害時には外国人への対応も行うとし、観光客への記述は11都県にとどまったという。さらに、観光事業者向けの観光客への対応マニュアルを作成している自治体は、2017年10月現在で北海道、秋田県、三重県、兵庫県、高知県、沖縄県の6道県に限られたという。これらの各道県では、災害時の対応パンフレットによる情報発信や避難のためのサイン計画等が行われ、観光事業者への意識啓発が実施されている。なお、内閣府ではJISで制定された災害種別ピクトグラムの普及を進めている。 次に、地域防災計画と観光危機管理計画との関係について見ると、観光危機管理計画は、その内容が地域防災計画で定めてある分野については、地域防災計画の下位計画として観光分野の具体的な行動等を記述し、地域防災計画に定めのない分野については、独自計画を定めることになる。観光客や観光施設等に関しての詳細な規定は観光危機管理計画で行うので、地域防災計画を観光の側面から補足していく意味合いがある。例えば、風評被害防止や他地域で発生した危機波及への対応措置、観光産業の復興に関する対応などがあげられる。なお、地域防災計画と観光危機管理計画との関係は県ベースでも市町村ベースでも共通している。 (2) 観光危機管理計画 観光危機管理計画については、計画整備が全国で一番先行している沖縄県を対象事例として検討する。先ず、沖縄県の観光産業の状況を概括した後に、観光管理計画を策定することになった経緯について簡単に紹介する。 沖縄県の観光産業は県経済の基幹産業として位置付けられており、その安定的な成長が期待されている。県観光政策課の分析では、就業者ベースで沖縄県の約20%、生産額ベースで約35%のシェアを占める観光関連産業の集積は県経済にとって非常に大きな意味を有しており、その減災対応や危機管理、復旧・復興に向けた事前準備が不可欠な状況にある。特に、将来的には観光客の半数がインバウンド客で占められると予測される状況にあっては、風評被害を含めた危機対応が求められる状況にあったと見られる。 次に計画策定までの経緯について紹介する。沖縄県は、2001年の9月11日に発生した米国の同時多発テロの影響で大きな風評被害を受けた。米国で発生した事件で直接的な関係のない日本の沖縄が影響を受けたことになる。米軍基地を数多く抱える沖縄も危険だとの風評被害が発生し、修学旅行の80%がキャンセルされた。当時のマスコミ各社が連日にわたって沖縄の米軍基地を映像で紹介してテロ事件の可能性を示唆したためと思われる。これを見たPTA関係者が学校に働きかけた結果の風評被害であり、本来であればマスコミ報道の姿勢が問われるところである。また、文部科学省が米国への修学旅行に関する注意喚起文書を都道府県の教育委員会に送付したが、これを受けて一部の教育委員会が韓国、沖縄への修学旅行に関する注意書を各学校に発送してしまった。PTAルートと教育委員会ルートが合わさり、沖縄への修学旅行キャンセルが全国的に連鎖してしまった。 このような経緯を踏まえて、沖縄県は「沖縄県観光危機管理基本計画」や「沖縄県観光危機管理実行計画」を策定し、その計画内容を関係者に周知すると共に、適切に役割分担するとした。ちなみに、この計画には緊急時における外国人対応の強化や観光客の帰宅支援、誘客に関する緊急プロモーション、事態発生後の事業継続支援計画の作成支援などが示されている。なお、計画策定までのプロセスを補足説明することにする。2011年の東日本大震災の発生以降、沖縄県の観光危機管理事業は着々と整備されてきた。大震災の直後から災害時の避難・救助マニュアルや避難ルートなどの作成に取り掛かり、セミナーやシンポジウム開催を通じて意識改革を進めてきた。避難誘導板の設置や避難マップ・会話支援シートの整備、災害情報配信システムの周知などを進める中で、2014年には観光危機管理基本計画、2015年には観光危機管理実行計画を策定した。また、2016年からは県下の各市町村の観光危機管理計画の策定を支援する取り組みを開始している。 ここで、沖縄県の観光危機管理計画の主要ポイントや特徴について整理する。観光危機管理としての対応は、平常時と危機発生前、危機発生時、危機後の各段階でその対応が異なる。平常時では、情報伝達体制の整備や施設等の耐震化促進、防災マップ等の整備、観光危機管理知識の普及・啓発などが重要となる。危機発生前では、管理計画やマニュアルの策定や避難訓練等の実施、支援備蓄品の準備などが求められる。危機発生時には対策本部の設置や情報収集、避難誘導と安否確認、帰宅支援や救護・医療活動、風評被害対策を実施しなければならない。そして危機後には復興策の企画・実施や事業継続支援、復興プロモーションの展開などで適切な対応策を迅速に行っていくことが期待される。このように各段階別に、主要な行動内容が明確に示されている。 また、組織体制に関しては、観光危機管理対策本部の組織が示され、総括班、情報班、帰宅班、復興企画班、復興推進班が設けられた。各班の行動内容が明記され、観光協会や宿泊、飲食、土産店、交通機関などの観光関連事業者との連絡、連携活動が示され、医療機関や警察・消防、マスコミ等との情報共有と連携、周辺地域の市町村や観光協会等との連携、必要に応じて国や自衛隊、外国の大使館等への連絡や要請、業務依頼などが示されている。 なお、沖縄県の観光危機管理計画では、観光事業者の事業継続計画を事前に策定して観光危機に備えることになっているが、実際には計画策定はほとんど進んでおらず、今後の大きな課題となっている。沖縄県の観光産業は全体としては拡大しているが、個々の事業者を見ると経営基盤が脆弱であり、企業体質の強化が求められているといえる。このような状況は、沖縄県に限らずほとんどの地域で該当し、事業継続計画を策定している事業者は例外的な状況にあるといえる。短期的には対応が難しいが、事業の適正規模を保ちながら経営体質を強化し、長期的な展望のもとで事業改革を進めて行くことが期待される。
4. ポストコロナ社会における観光産業に向けて 新型コロナウイルスの感染状況は今後も数年間は継続すると見られ、観光産業に与える影響は多大といえる。観光産業は「平和の産業」と言われるように様々な危機状況に対して脆弱な体質を有しており、観光産業を中核産業とする地域はこの特性に充分な配慮を行う必要がある。適切な事業継続計画を地域全体として策定・共用し、日頃から地域経営に努力する必要がある。観光活動に関連した機能や業務内容を他の用途に転用したり、他業界と連携・補完できるように工夫する必要がある。この度の感染症の経験は、今後の観光産業発展の貴重な警鐘となる。観光地が他業種と連携して組織的な対応を取ることが求められる。観光地発のバーチャル・トラベルでは、テレコミュニケーションや宅配システム等を活用して、他地域に仮想旅行体験を提供するなども行われはじめている。また、テレワークとバケーションを組み合わせた「ワーケーション」といった長期旅行形態も推奨されている。このためには、観光地側にテレワークを可能にするサポート施設や機能が整備されている必要があるが、今後のネットワーク型社会の進展によって災害時でなくとも日常的に需要が見込める新分野に発展する可能性もある。このような未来志向的なアクトも、地域の特産品や文化イベント・祭りなどが全国に向かって配信され、取り寄せ品として重宝されている。観光旅行の本質は異日常性との遭遇であり、居住地においてもテレコミュニケーションなどを利用してバーチャル観光が可能となる。ポイントは提供する観光コンテンツの高品質化であり、満足・共感・感動させるオリジナルな内容が問われるといえる。そこでは体験型の要素や地域の人々との交流機会が求められ、双方向の交流に発展すれば、地域ファン・リピーターが形成されることになる。一方、インバウンド型の観光旅行では、安全・安心の確保が大前提となる。多言語対応型の危機管理が求められ、地域の支援システムの整備が待たれる。また、遠方からの観光旅行では際立った観光資源・コンテンツが求められるが、青森県には自然景観や歴史文化遺産、美味しい食事など、観光客を魅惑する資源が豊かである。しかし、青森県の知名度は未だ低く、広報・PRを継続的に展開することが必要である。リンゴをはじめとした貿易産物との連携や留学生の活用なども求められる。さらに、北海道や東北各県などとの広域連携も必要不可欠となる。それぞれの国の旅行シーズンや旅行ニーズ等に配慮した着地型のプログラム開発も不可欠であり、来訪した外国人観光客に本国に発信してもらえる観光地づくりが期待される。 ポストコロナ社会の観光旅行では、当分の間3密を避け、ソーシャルディスタンス等を確保した形態の観光活動となるため、各地の観光ガイドや観光活動などには新たな配慮が求められることになる。また、地域の感染者数を低く抑え込むことは、青森の安全・安心イメージを売り込むことにつながるといえる。 なお、青森県観光国際戦略部では、青森県災害対策本部の的確かつ迅速な業務遂行のために、観光国際戦略部の運営に係る標準的な業務処理の手順、方法等について定めたマニュアルを作成している。対象範囲は限られているが、沖縄県の危機管理計画の考え方が部分的に導入されている。風水害と地震・津波の災害に対してタイムラインごとに実施が求められる対応策が整理されている。残念ながら感染症への対応は考慮されておらず、市町村での危機対応や連携活動等については検討されていない。なお、組織的な対応として誘客交流班と国際経済班を設けて、通訳派遣などの外客対応を行うと共に、風評被害への対応策にも配慮している。しかし、事業継承に向けた取り組み等、観光産業を中核産業に育て上げる仕組みや制度については検討されていない。観光危機管理計画づくりのスタートを切った段階といえる。今後の早期の計画整備が期待されると共に、市町村や観光事業者における事前準備や訓練・ネットワークづくりなどが求められるといえる。今回の新型コロナ感染症被害を契機として対策が加速されることが望まれる。 |