【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第2分科会 「ラッセーラー」だけじゃない! 地域に根付いたねぶた(祭り) |
現在、地域づくり活動において、課題となっている「地域活動の担い手不足」について「なぜ、若者世代は地域活動に参加しないのか」を着眼点にアンケート調査を実施した。それを基に自治研推進委員会で議論を行い、地域の現状、未来の姿についてレポートにまとめた。これを当市における自治研活動の当面の研究課題とし、将来的には、市のまちづくり施策に対する提言をまとめていきたい。 |
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1. はじめに 2006年に2市2町1村が合併して誕生した奥州市は、現在、総合計画に「地域の個性がひかり輝く自治と協働のまち」をめざすべき都市像として掲げ、また地方創生実現に向け、まち・ひと・しごと創生総合戦略を策定し、基本目標の一つに「地域愛の醸成と、安心・安全に生活できる個性豊かな地域社会の実現」を定めている。しかしながら、実際には、地域活動の牽引役となっている役員とのヒアリングや市民との懇談会では、地域活動の担い手不足や高齢化が進んでいることへの不安の声、このままでは地域活動が維持できなくなるとの声が多くあげられている。 協働のまちの実現には「自分たちの地域は自分たちで創る」という住民一人一人の意識が重要だが、若者世代の参画が少なく、限られた人材で現状維持の活動に終始している状況にある。 市としても、地域の要望に呼応する形で地域人材育成事業等を企画して6年が経過しているが、いまだ地域が望むような成果が上げられず、逆に若者の地域活動離れが深刻化している現状を浮き彫りにする結果となっている。 打開策がみつからない中、行政に携わる者として、このままでは地域社会を維持できない日が来るのではないかという不安、危機感を感じている。 今回のレポートでは、まず現状を分析し、問題の背景や原因を明確にすることで、漠然とした不安、危機感の正体をあきらかにし、今後の解決策の鍵を見つけることを目的に書き進めていきたい。 2. 検証「若者の地域活動離れ」は本当か?
まず、最初に「若者」とはどういった世代を指すのか。このレポートにおける「若者」とは、統計上よく使われる「生産年齢人口」に当たる世代(15歳以上65歳未満)と定義する。家族構成でいうと、学生以上祖父母未満といったところだろうか。 つぎは「地域活動」を取り上げてみる。地域活動には地域色がある。一般的なものは子ども会活動、環境美化、イベント、郷土芸能などが考えられるが、観光地であれば観光地なりのオモテナシが地域活動の一種であったり、雪が多いような土地柄であれば除雪作業が地域活動の一種であったりする。いずれにしても、地域を愛し人を育て、誰かを祝い、みんなで助け合う共助の精神が活動の動機となっている。 「若者世代」と、65歳以上の地域活動の牽引役でもある「高齢者世代」の地域活動への参画状況、世代間の意識の違いを分析するため、アンケート調査を実施した。ここではその結果をいくつか参照したい。 まず「地域活動への参加状況について(資料1)」の回答をみると、6割以上が地域の活動に参加していることがわかる。これを「地域活動への参加の有無×年代別(資料2)」でさらに詳しくみると、20代は「参加していない」の割合が高く、30代以降は「参加している」の割合が高い。この結果により、年齢を経ることに地域活動に参加する傾向が高くなることがわかり、子どもを育てる年齢に満たない世代の地域活動離れは実態として捉えることができる。 資料2 地域活動への参加の有無×年代別 3. 分析「なぜ、若者は地域から離れるのか?」を考える ここまで若者世代が地域活動に参加していない状況について検証してきた。その背景や原因は何なのだろうか? アンケート結果等を通して、奥州市自治研推進委員会の中で議論し、分析した結果についてここで述べていきたい。(1) 人口動態 地域活動に若者がいなくなった社会的な背景として、まずは少子高齢化によって単純に若者世代の人口が減っているということがあげられるのではないか。実際に「奥州市人口動態(資料3)」をみると人口全体における若者世代の比率がここ40年で10%以上減少しているのがわかる。 一方で、若者世代が減少しているのに対し、社会が若者世代に求める役割は増えているという実態がある。例えば、部活動の保護者会や地域の消防団活動など、減少している若者世代にさまざまな活動への参加を求め「取り合っている」状況にあるといえる。人口増時代、上手に若者を分散し、割り当てていた社会の中での役割は、いまでは減少した若者世代に過重にのしかかっている。一度でも何らかの活動を経験した若者は、その負担の大きさに活動への参加をためらうようになり、地域社会に参加したがらなくなる悪循環を生んでいるといえる。 資料3 奥州市人口動態(国勢調査結果より抜粋) (2) 世代構成や生活様式の変容 今回のアンケートの「地域活動に参加しない理由×年代別(資料4)」について、最も多い回答は「忙しい」であった。先にも述べたとおり、少子化により一人当たりの社会での役割が増加しているうえ、農業者などが中心であった一昔前と比べ、多くの人が会社勤めとなっている現在は、労働環境も大きく変化している。 また、ここ30年は女性の社会進出も増え、これまで地域活動を支えていた専業主婦も地域社会にいなくなりつつある。さらに、年金受給年齢の引き上げによって60歳定年後も働く人が増えたことは、生産年齢人口の枠組みに曖昧さをもたらし、地域社会での役割分担の構図を崩し始めている。 世代構成の変化や生活様式の変容は、社会全体に対し、地域活動に参画できる「余裕」や「余暇」を奪うことにつながっているのではないだろうか。 資料4 地域活動に参加しない理由×年代別 (3) 膠着する地域組織 今回のアンケートの地域活動に参加しない理由に「親が参加しているから」「旧態依然の活動には参加する意味が感じられない」などの記述が散見された。 単純な「高齢化」ではなく「健康長寿化」によって元気に活動できる高齢者が増え、地域の役員は70~80代が中心となり、その多くが10年以上役員として地域活動を支えている。 当市では、社会教育の拠点施設「公民館」を地域づくりの拠点施設「地区センター」へシフトさせた。地域の振興会が指定管理者となり地区センターを管理・運営し始めて10年が経過したが、その役員にはイベントの企画や社会活動に留まらず、「組織運営」という経営感覚が求められている。その結果、過重な負担がかかり、なり手が不足し、固定化する傾向にある。 役員が高齢化し、さらに固定化している現状は、若者世代が新規に参入しにくい環境といえる。高齢者世代の地域活動の頑張りは、若者世代の役割の軽減につながり、結果、地域活動から若者を遠ざけてしまう悪循環を生む原因にもなっている。 4. 予測「懸念される地域の未来」を描く (1) 少子高齢化から人口減少時代へ少子高齢化が問題といわれているが、実はその元気な高齢者に支えられ、何とか地域活動が維持できている状況がわかってきた。かつて「高齢者」という言葉が持っていた社会的弱者のイメージとは違い、現在では、65歳を過ぎても健康で活躍する人が増え、意欲と能力のある高齢者が地域社会の支え手となっている。また、核家族化による女性の社会進出は、これまで大家族の内部にいた「子育て・介護を支える」から「家庭を支える」に変化している。こういった状況からも、元気な高齢者の活躍を期待する声はますます強まっている。 しかし、今後はその高齢者さえいなくなる「人口減少」時代がやってくる。間もなく75歳を迎える団塊の世代が地域の中心となって活躍してくれるのも、あと10年といったところだろう。そうなればいずれ、地域社会が維持できなくなるときが訪れ、若者世代と同様に、減少していく高齢者を社会全体が「取り合う」時代がまもなくやってくるだろう。 (2) 希薄化する地域の絆 現在、当市においても学校の統廃合が進められている。これまで学校を基軸としたPTAや子ども会活動などで地域に住む親同士のネットワークが形成され、地域活動の基盤になっていた部分がある。ところが、学校の統廃合で都市部に子どもたちが集中し、地域活動に子どもたちとその保護者がいなくなってしまう。地域活動に参加する機会が減少した子どもたちは地域への愛着を育む機会を失い、地域の大人たちも子どもたちとの交流がなくなる中で、地域社会全体で子どもを育てるという感覚も徐々に薄れていくだろう。 資料4のアンケートの回答においても「地域とのつながりがない」「参加する理由がない」との回答があった。 また「将来心配なこと×年代別(資料5)」のアンケート結果でもわかるように、地域の将来について一番大きな心配事は「地域役員の担い手・参加者不足」になっている。特にも若者世代の中間層である40代の危機感は強く、これは、現在の高齢者が地域活動の中心として活躍する姿を横目で見つつ、自分より下の世代の意識の変化を敏感に感じとっているからではないだろうか。 これから地域への思いや愛着がない世代が増加し、地域活動の維持はますます難しくなっていくだろう。 資料5 将来心配なこと×年代別 (3) 地縁団体から志縁団体へ 当市では、6年前から地域人材育成事業「協働のまちづくりアカデミー」を実施している。これは65歳未満の市民を対象に地域リーダーの養成をめざしているもので、イベントの企画や会議の進行方法などを学び、修了時には地域の振興会とコラボして事業を実施するなど、受講生が振興会と交流する機会を作っている。この事業には毎年20人程度の若者が参加していて、いずれも地域づくりに関心をもつ意欲ある若者である。 しかしながら、この講座を機会に振興会との交流が生まれ、講座修了後も一過性のイベントを企画提供する者として振興会との関係は続くことはあるが、振興会組織に所属するまでには至っていない。どちらかといえば、受講生同士で地域づくり組織を新たに立ち上げて活動する流れができ、NPOなどの「志縁団体」の活動が盛り上がる一方で、従来からある振興会などの「地縁団体」への参画には遠ざかる結果となっている。 ここまで議論してきた中で、若者が持つ背景が大きく3つに分類できることに気づいた。それは①生涯、同じ地で暮らす者、②学生時代などを違う地で過ごし戻った者、③結婚・就職等を機に新たに住民となった者である。これまで地域活動の中心となっていた者は「一度も家を離れることなく就職し、家を守り、地域を守る跡継ぎ」という①の若者が多く、この若者は、子どもの頃世話になった大人や幼少期からの仲間がいる地縁団体に何のためらいもなく参加してきただろう。しかし、すでにその形は崩壊しているのではないか。 現在、多くの若者は、高校を卒業すると地元から離れて地域との関わりに空白ができ、地元に戻ったとしても親世代が活躍するうちは空白の時間が続くことで、地域との関係が希薄になる。前述③の若者はもちろんのこと、②の若者であっても地縁団体に参加するハードルは高くなっている。 また、ネットやSNSの普及により、共通の興味や関心をもつ人とのつながりが簡単に生まれることは、地域づくりに関心のある若者が「地縁団体」に所属しなくても、同じ志を持った仲間で組織する「志縁団体」に参加して地域づくり活動を行うことができる。 高齢化・固定化する役員への負担や責任が重い「地縁団体」よりも、同世代で構成され気軽に活動できる「志縁団体」での若者の交流がますます顕著になっていくだろう。 (4) 求められる意識改革 最近、地域活動の在り方について考えさせられるニュースを見つけた。下妻市消防団は、"消防団の甲子園"とも呼ばれる「消防操法大会」への参加をやめる決断をした。同消防団によると「操法大会は団員の士気を高め、技術向上をはかる意義があるものの出場に向けた訓練は、働きながら消防団活動を行う多くの団員に大きな負担となる。新入団員の確保がままならない現状で、家族や職場にも大きな負担をかける大会への参加は困難。活動を根本的に見直さなければ、手遅れになると感じた」というものだ。長野県辰野町の消防団でも同様に、団員の負担が大きく訓練の形骸化を懸念していた操法大会への参加を取りやめるとともに、訓練の内容を地域の特性に合わせたものへ見直しをしたとのことであった。 どちらの組織も消防団は地域に欠かせない存在だと話す一方、消防団員の減少が全国的な課題となる中、旧態依然とした組織の在り方では、消防団を維持していけないとの危機感を口にしている(出典:NHK WEB特集2020/04/21)。 当市においても自治防災組織の組織率向上などに力を入れ、2018年度末の組織率は95.1%となっている。組織率は高い状況であるが、普段、お互いに顔を合わせる機会のない者が、有事にどの程度機能するかは未知数といえる。今後は、日頃の声がけや防災訓練により、いかに有効な取り組みができるか、地域社会の維持に絶対に必要な存在だと住民の理解や協力が得られるかが課題となるだろう。 ここまで若者の地域に対する愛着、関心がますます失われていくだろう未来を描いてきた。しかし一方で「居住している地域に定住したいか×年代別(資料6)」にみるように、世代に関係なく多くの人が、いま居住している地域にずっと住み続けたいと願っていることがわかる。そのためには、これからも安全・安心な地域社会を維持するため、地域活動を継続していかなければならない。 限られた人的資源の中で、地域にとって本当に必要な地域活動を実行していくため、今後、形骸化した活動、システム、組織を変えるための意識改革が求められていくだろう。 資料6 現在の居住地に定住したいか×年代別 以上、奥州市でも、懸念される地域の未来が見え始めており、抜本的な対策へ舵を切らなければならない待ったなしの状況であるといえる。 5. おわりに 以前、協働による地域づくりを実践する先進地を視察したとき、70代の地域リーダーに「なぜ地域活動に参加しているのか?」という質問をしたことがある。その人は30代~40代の頃、公民館の青年教育の一環で地元の集会所に集められ「将来ここをどんな地域にしたいか」を議論する、今でいうワークショップのようなものに参加した。一緒に朝まで議論して酒を酌み交わし、ああでもないこうでもないと話し合っていたメンバーがいま、ここの地域活動に集まっていると話していた。私自身、退職後に地域活動に参画できる「余暇」ができたとして、何の素地もないのに地域活動に参加するだろうか? 本音は、「可能な限り親世代には頑張ってもらい、その後は地域を維持するのに必要最低限の活動にだけ義務的に参加する。なぜなら、仕事に、趣味に、家族サービスに"忙しい"から。それでも、この地域にずっと住み続けたいと願っている」というものだ。今回のアンケート結果をみて、正直、ホッとした。なぜなら、自分が日々思っていたことが、現在の若者世代がもつ典型的な本音だったと知ったからだ。 今回のアンケートにより、若者世代の本音を明らかにし自治研推進委員会で議論する中で、現状分析からみえてくる地域の未来の姿をこのレポートで描いてみた。 具体的な解決策を提言するところまで至らなかったが、この研究を継続し、より深め、来期の自治研活動においては、今後の方策や打開策を市に提言する内容のレポートを作成していきたい。 |