【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第2分科会 「ラッセーラー」だけじゃない! 地域に根付いたねぶた(祭り) |
九州北部豪雨災害で母子や女性に特化した支援の必要性を感じ、被災した母子が心を落ち着ける避難所とするために、休業中の産婦人科医院を利用し朝倉災害母子支援センター「きずな」を開設した。「きずな」では育児の悩みや心と身体のケアや生活再建にむけた相談も行った。避難所では災害弱者である、母親や子どもへの支援が後回しになりがちだ。女性の視点での、母子に特化した支援の必要性について提言する。 |
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1. はじめに 2017年7月5日の九州北部豪雨災害では、朝倉市は数十年に一度といわれる豪雨に見舞われ、甚大な被害を蒙りました。線状降水帯が同じ場所に長時間停滞し、大雨を降らし9時間で774ミリという観測史上初めての記録的雨量となったのです。一夜明けると、家屋や田畑が流され、村ごとなくなり地形は一変していました。犠牲者は33人、行方不明者は2人、全壊家屋約260戸、半壊、一部損壊まで入れると約1,500戸の被害状況です。土砂崩れは約450か所から上り、被害総額約2千億円とも推測されています。 災害直後は約1,200人からの避難所があり、11か所開設された避難所を巡りながら、地元の市会議員を務めていた私は女性議員として何をなすべきなのだろうか、と悶々とした思いでした。避難者の中には乳児や子どもを連れた母親の姿もあり、「赤ちゃんの泣き声が心配」「授乳の時に周りに気を遣う」「遊ばせる場所がない」等、大変気苦労をされている様子がうかがえました。産後は特にホルモンのバランスが崩れやすく、通常の5~6倍ストレスを受けやすくなっており、産後うつになりやすいとも言われています。又新生児の赤ちゃんは、暑さと湿度が高い中で、アセコが沢山できており、お乳も飲まなくなり身長も体重も増えていませんでした。感染症の心配もあり、それだけに一日も早く安心してゆっくり休める場所に避難させてあげたい、という思いが強くなり災害母子支援センターを立ち上げようというきっかけになりました。 昨今、全国で災害が起きていますが、災害弱者である母子支援には手が回っていないのが現実です。それだけに、災害時の母子や女性に特化した支援の必要性を感じていました。 先ずは女性の視点での取り組みをしていくためには、「災害母子支援センター」という拠点を作る必要性があると考えました。幸いにも休業中の産婦人科医院に相談し、快く協力してもらうことができました。 7月20日に第1回の実行委員会を立ち上げ、8月1日の開所に向けて動き始めました。女性議員のネットワークやNPO団体等、様々なネットワークに協力を依頼し、すぐに応援に駆けつけて頂くことができ、日頃のネットワークの大事さを感じました。安心安全な防災減災のまちづくりのためにも、災害弱者となりやすい女性や母子に特化した母子避難所の必要性について提言します。
2. 災害母子支援の拠点として 拠点の名称は、「朝倉災害母子支援センターきずな」と決定し、次の3つの柱で活動を始めました。(1) 母子、又は女性の避難所として 「きずな」は元産婦人科医院だったので個室の部屋が6部屋、ツイン3部屋と合計12床のベッドが設置され、個室にはトイレ、冷蔵庫、洗面台も完備されています。プライバシーも守られ、気兼ねなく安心して休むのに最適でした。 「きずな」は災害から25日目の開所となったので、長期利用者は生後2か月と2歳児を連れた母子と、発達障害のある女性と母親、災害によりPTSDとなり仕事に行けなくなった女性と疾病のある母親の3家族でした(延べ利用200人)。 又、被災地は地盤が緩んでおり、大雨が降る度に、避難勧告が発令され、雨の音を聞いただけでも怖くて眠れなくなり、一時避難所として利用される母子もありました(延べ利用37人)。 長引く避難所生活の中で、一番早く退所されるのは小さい子ども連れの家族です。又最初から、避難所に子どもを連れて行くという選択肢はなかったとも言われています。それだけに小さい子ども連れの家族にとって避難所生活はストレスが大きいことがうかがえます。 (2) 女性ボランティアの宿泊・拠点として 空き部屋を、全国からの女性ボランティアに無料で宿泊所として提供しました。海外からは台湾の女子大学生の利用もありました。 ボランティアセンターまでは、20キロ程離れているので、朝夕無料で送迎を行いました。 女性ボランティアへのセクハラ被害も出ていましたので、全員に防犯ブザーを配布しました。 他の被災地では、女性ボランティアが性被害に巻き込まれる事件も起きていますので、未然に防ぐことができたと思います。 近くの温泉では、被災者やボランティアには無料で入浴をサービスされており、又「きずな」は個室であり冷暖房完備で、プライバシーも守られ安心して休むことができ、疲れも癒されたと大変感謝されました(延べ利用143人)。 (3) 母子、女性と子どもの相談・支援として 1階フロアは広いスペースがありますので、平日は午後1時から4時まで、毎日無料相談を行いました。 ① 月曜・金曜日は週2回、助産師による母子相談とデイサービス事業を行いました。
沐浴室では、赤ちゃんの沐浴を行い、その都度、身長体重測定や健康チェックを行い、カルテに記入し健康観察を行っています。母親には、おっぱいマッサージから骨盤矯正など、身体のケアやメンタルケアを行い、自立支援を行ってきました。 母親のメンタルケアが終わった後は、個室のベッドで休息をとられています。その間、子どもは見守りボランティアによって託児をしています。日頃の睡眠不足を解消し元気を取り戻して自宅に帰られ、里帰りに来たような安心感があると言われ、毎回来るのを楽しみにされていました。 母子への支援物資も渡すことができ、大変助かると喜ばれていました。 ② 火曜日は、元養護教諭による子どもの心や生活相談を行いました。災害により学校は翌日から夏休みとなり、子ども達の生活は一変しました。避難所や、みなし住宅で生活している子ども達は環境の変化で大きな不安やストレスを抱えていました。2学期になって学校に行きたがらない子どもや、いじめなどの心配も出ていました。 夏休みの間は、「きずな」で、親子の無料相談を行っていましたが、2学期が始まってからは、小児科の医師も同行のもと、被災地の学童保育所を巡回し、子ども達の心のケアと支援に回りました。 ③ 水曜日は、人権擁護委員による生活相談を行いました。朝倉地域人権擁護委員会から協力していただき、毎週1回派遣していただきました。被災者の方々の気持ちに寄り添いながら、相談を傾聴し人権問題や避難所でのパワハラやセクハラ、DV等の相談を受け、県や専門機関と繋ぎ、問題解決に繋げていきました。 10月からは仮設住宅の中に集会場ができましたので、集会場で無料相談を行いました。 相談所が身近な所になり、利用者も増えてきました。生活の中での困りごと等も気軽に話せ、気持ちが軽くなったと喜ばれました。又、「きずな」では夜8時まで、電話での相談も行いましたが、直接顔を合わせないほうが話しやすい方もあるようです。 ④ 木曜日は弁護士による無料法律相談を行いました。奔流弁護士事務所より協力していただき、毎週1回弁護士を派遣していただきました。災害後の生活再建や、財産権、不動産所有権など様々な問題が起きており、司法的な解決が重要であり、各行政機関に繋ぎ、問題解決に取り組み生活再建の支えになることができました。 時間が経過するほど、司法的に解決しなければならない問題が多くなり、相談日を待ち望まれていました。 仮設住宅の集会場で相談を行うようになってからは、更に多くの相談が寄せられるようになりました。 ⑤ 土曜・日曜日は、親子での遊び場として1階ロビーを開放していました。
① 2017年9月13日は、福島県立医科大学の精神神経科、前田正治教授をお招きして、「被災者を支える人々の心のケア」というテーマで講演会を行いました。前田教授は、東日本大震災後の住民や自治体職員のストレス問題などを研究されています。震災後8年経っている現在でも、ストレスから自治体職員の自殺が多くなっていることも話されていました。自治体職員が倒れては、復興は進まないので、心のストレスケアの大切さや、ストレスをリスペクトし軽減していくことの大切さも話されました。 「又、災害後に直ぐにしなければならないのは、母子支援である。母子の心が安定してこそ、家庭が安定する。家庭が安定すれば地域が安定する。地域が安定して、ようやくコミュニティが安定し、復興に向かっていける。 建物や道路などのハード面は、お金と時間をかければ元に戻るが、人の心は、病んだり壊れたりすると、なかなか元に戻らない。人の心が病んでは、本当の復興には繋がらない。ハード面と同時にソフト面の復興が大事。」と話されていました。しかし、災害時に母子支援をしている被災地は今までになく、全国で初めてのことであり「きずな」の取り組みに期待されていました。 ② 10月26日は、飯塚市立総合病院小児科医の穐吉秀隆先生を囲んで~子育ての困りごと~をテーマに、子育ての悩みの懇談会を行いました。小児科医の立場から、子ども達の心や身体の問題についてわかりやすく話していただきました。子育ての育児書も寄贈していただき、皆さんに貸し出しをして活用しています。
④ 12月3日は、「きずな」で被災者・支援者・地域の方々との交流の場として「きずなまつり」を開催しました。おでんやちゃんこ鍋・おにぎりなどを一緒に食べながら、電子ピアノやフルート演奏を聴き、被災者が孤立しないように、地域との交流を持ち一日楽しく過ごしました。又、日本セラピューティック・ケア協会の協力により、手や肩や足の施術を受け、心も身体もリラックスされ癒しの時間となりました。届いている支援物資も必要な方に渡すことができ、喜んでいただきました。
⑥ 2月25日は、NPO団体、住みよいあさくらをめざす風おこしの会との共催で、「復旧・復興と住民の力~これからのコミュニティ再生に向けて~」というテーマで講演会とパネルディスカッションを行いました。その中できずなの取り組みの報告を行いました。又、東日本大震災の経験から仙台男女共同参画財団理事長の木須八重子さんの講演を行い、災害に強いまちづくりには、女性の力が不可欠であり、男女共同参画の視点が求められていることを話されました。 ⑦ 3月4日は、「あなたと仲間への応援歌~癒し・きずな・明日へ~」というテーマで、山口裕之さんのオカリナ演奏会を行いました。優しいオカリナの音色に包まれ、明日への希望に想いを巡らせる時間を過ごしました。 ⑧ 7月22日は、may music factory の皆さんによる、ゴスペルコンサートを開催しました。元気な歌声に、被災者の方も、多くの元気と勇気をもらい楽しく参加されていました。 ⑨ 12月15日も同じくゴスペル・クリスマスコンサートを開催しました。2019年で2度目の正月を迎えることになり、仮設住宅の期限も約半年後と迫っており、将来の見通しの立たない不安な気持ちで過ごしておりました。 引きこもられる独居老人の方もおられるので、なるべく参加されるように、チラシを各戸配布し、地域放送で放送し、各戸呼び込みに行き、なるべく関わりを持つように努力しました。参加した後は、皆さん元気な明るい顔になり大変喜んでいただきました。
3. プレーパーク(冒険遊び場)の取り組みについて 被災地では災害の次の日から、夏休みとなりました。しかし体育館は避難所となり運動場は自衛隊の駐屯場に、公園や空き地はガレキ置き場となり、子ども達の遊び場も一瞬のうちに奪われてしまいました。浄水場は被災し、2か月間近く断水状態でした。暑い夏でしたが、プール遊びもできない毎日で、子ども達は暗い顔をして毎日本を読むか、ゲームをして過ごしていて笑顔一つない状態でした。 子ども達のストレスを軽減したいとの思いで、「すくすく朝倉の未来隊!」というママ友グループと共催で、プレーパークを開催することにしました。1か月間は、熊本県益城町からプレーカーを借りることができました。 プレーカーの中にはおもちゃが30種類程入っていて、広場でおもちゃを広げると、どこでも遊び広場ができるのです。最初は被災していない甘木地域で、開催しました。被災地では、親は家の片づけ等で忙しいので、子ども達をジャンボタクシーで送迎することにしました。 ボランティアスタッフには、小児科医、看護師、保健師、助産師、保育士、大学教授、児童心理学者、教員、学生ボランティア等、多くの専門ボランティアに関わっていただき、遊びの中で子ども達の心のケアをしてもらい、専門的な助言もして頂くことができました。 最初は断水していない地域でプレーパークを行ったので、水遊びも充分にさせることができ、子ども達は思う存分水をかけ合いながらのびのびと遊ぶことができていました。児童心理学博士の先生が、水害に遭った子ども達が思いっきり水で遊ぶ姿をみて、「この子たちは水害の様子を再現し、その恐怖のストレスを発散している。このストレスを早い時期に発散させることが大事であり、それができてとても良いことだ。プレーパークは大成功ですね。」と言われ自信につながりました。 夏休み中は1週間に1回以上は開催し、子ども達のストレスを発散できるように遊ばせました。2学期になってからは、月1回、第3日曜日に定例化しています。当初は100人足らずでしたが、今では毎回100人を超えるようになり、多いときは300人を超えることもあります。定例化したことで、リピーターや親子・家族での参加も多くなり、遊びも四季折々の自然に触れながら、創意工夫し逞しく伸び伸びと遊ぶことができています。
4. 支援物資の配布について 災害の夏から冬を迎える季節になると、布団や衣類等、全て流されており、寒い冬をどう過ごしたらよいのだろうか。という不安の声が上がっていました。早速、SNSで発信し、又、知り合いに頼んで冬物の支援物資をお願いしました。全国から冬物の支援物資が届きましたので、仮設住宅の集会場に持っていき被災者の皆さんに配布することができました。 11月から3月まで6回に分けて持っていきました。「寒い冬が、これで温かく過ごせます。」と大変喜ばれました。その時にはお茶やお菓子も持参し、お茶を飲みながらお話をして、その都度様々な悩みなどを傾聴してきました。布団や衣類と共に、安心を届けることができて良かったと思います。
5. おわりに この「きずな」の取り組みは、全国初めてのことであり、2017年度の福岡県防災賞を受賞し、2018年には、福岡県男女共同参画表彰「困難な状況にある女性の自立部門」を受賞することができました。被災者の皆様方からは仮設住宅を退去される時に、感謝状の贈呈を受けました。「長い間被災者に寄り添い支援していただき、心に希望と灯をともしていただき、誠に有難うございました。心から感謝と敬意を表します。(中略)」と書かれていました。現在でも先進的なモデルとして、全国の大学教授や国会議員・自治体議員、行政や市民団体等からも視察を受け、その数は1,200人を超えています。県内外から講演の依頼もあり、講演にも出かけています。 この「きずな」を立ち上げたことにより、多くの課題とニーズが見え、専門ボランティアに協力を依頼して問題解決に繋ぐことができ、又必要な物資や情報を集め被災者に届けることができました。 避難所や福祉避難所では、高齢者や傷病者、母子も同室か近隣の部屋であり、赤ちゃんの泣き声がお互いのストレスになっていました。乳児や母親は遅くとも3日~1週間以内に、母子に特化した支援ができる「母子避難所」に避難するのがベストだと考えます。 そのためには平常時から母子避難所になる場所を選定し、自治体と協定をし、保育ボランティア等の応援も依頼しておくことが大事です。ハザードマップなど、母子避難所として明示されていれば、妊婦や幼児のいる母親は、避難方法をシミュレーションでき、安心感につながります。 いつどこで災害が起きるかわからない昨今、平常時から母子避難所を考えておくことが大事です。 これからも「きずな」の取り組みが全国で取り入れられ、防災・減災の安心安全なまちづくりが進められることを願っています。 朝倉市は、まだまだ復興は道半ばですが、これからも被災者の方に寄り添いながら、できることを継続してやっていきたいと思います。 |