【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第3分科会 民間と連携した公共サービス

 福知山市では、児童数の減少にともない、小・中学校の統廃合等の再編を進めており、2013年以降で16校が廃校となる。廃校にあたっては、地域の財産という位置づけと持続可能な地域づくりの観点から、地域が希望する活用方法を市と調整し、民間事業者のニーズを把握したい場合はサウンディング型市場調査を実施して、持続可能で発展性のあるまちづくりの取り組みを進めている。



大規模遊休資産に係るPRE戦略の推進について
―― 廃校の利活用にあたっての課題と、その解決のために ――

京都府本部/福知山市役所職員労働組合 土田 信広

1. 概 論

(1) PRE戦略の推進
 我が国においては、地方公共団体の財政の健全化に関する法律の施行や新地方公会計制度改革等を受けて、地方公共団体における不動産の合理的な取得・管理・処分等が求められており、地方公共団体が所有・利用する不動産について、公共・公益的な目的を踏まえつつ、VFM(Value for Money)の視点から、不動産投資の効率性を最大化するための「PRE(Public Real Estate)戦略」について、2009年5月に国土交通省において「PRE戦略を実践するための手引書」が作成され、公表された。
 神奈川県横浜市をはじめとして、一部の自治体において先進的な事例がみられているが、多くの地方公共団体が公的不動産のマネジメントの必要性を感じているものの、全庁的・計画的な不動産管理、資産活用に関するノウハウ、人材の確保等の必要な取り組みがなされていない状況であり、国においては先進的なPRE戦略実践の過程を支援するPRE戦略モデル事業を通じて、地方公共団体におけるPRE戦略実践のノウハウ蓄積・人材育成を図り、適正な情報整備・提供等の取り組みと合わせて、我が国の不動産市場の活性化と合理的な土地利用および地価の形成が実現するよう、国として誘導を図っていく必要があるとしている。

(2) 福知山市の人口減少の状況
 京都府の北西部に位置し、京都府綾部市、舞鶴市、兵庫県丹波市、豊岡市等に隣接する福知山市は、2006年に旧福知山市、旧三和町、旧夜久野町および旧大江町の1市3町が合併し、総面積は554.54平方キロメートル、人口約7万7,000人の典型的な地方都市である。
 全国的な人口減少社会となっている昨今、福知山市もその例にもれず、人口減少が続いているが、そのなかでも市内の人口を地区別にみた場合では、中心部と周辺部で大きな格差がある。
 下に掲載している表1は、市内の各地区を、2006年の合併時の旧福知山市、旧三和町、旧夜久野町および旧大江町に分け、さらに旧福知山市内の地区については、地区内に福知山市都市計画における市街化区域を含む地区か否かに分けたものである。
 旧福知山市では、2010年から2015年の間で1%の人口増となっているが、旧3町はいずれも10%以上の人口減少、また、旧福知山市内の地区においても、市街化区域を含む中心部エリアと、市街化調整区域をはじめとする周辺部エリアに分けた場合、中心部は2.7%の人口増に対し、周辺部では8.5%の人口減となっており、旧福知山市内であっても人口減少に大きな格差がみられる。
 つまり、福知山市では、旧3町エリア及び旧福知山市内の市街化調整区域をはじめとする周辺部エリアにおいて人口減少が顕著にみられており、老朽化の進む地区内の集会施設や農業施設等の維持管理、閉園・統廃合となった保育園・小学校をはじめとする教育施設の施設管理等が、持続可能な自治体運営にとって大きな課題となっている。

【表1】福知山市の人口減少の状況

2. 大規模遊休資産の活用

(1) 福知山市の公共施設マネジメント
 福知山市では、2015年3月に、今後、老朽化し改修や維持管理に要する費用がますます増加していく公共施設について、今後のあり方を調査・研究し、取り組みの方向付けを行うことを目的に、「福知山市公共施設マネジメント基本計画」(公共施設等総合管理計画)を策定しており、2015年度から2017年度までの累計削減面積は13,107㎡、全市的な計画達成率は28.9%となっている(表2)
 計画達成率が60%以上で、進捗が順調なものとしては、施設の統廃合について全市的な流れとして認知されており、各地区における合意形成が比較的順調に進んでいる消防団施設や、老朽化により再利用の可能性が低い幼稚園等、老朽が激しく近年の利用が減少または実績のない福利厚生施設があげられる。
 次に、計画達成率が40%以上で進捗がやや遅れているものとしては、完了が1件のみにとどまっている保健センターや、一定の進捗がはかれているものの、施設総数が多く利用者組織等との譲渡等に向けた協議・調整に時間を要している農業施設等があげられる。
 計画達成率が40%未満で進捗が遅れているものとしては、用途廃止を行っているものの新たな利活用を開始していないため、未完了である小学校等の廃校や、公営住宅や集会施設、診療所等の医療施設、観光・宿泊(研修)施設、体育施設の統合・廃止について利用者・住民等との合意に向けた協議が進んでいない生涯学習系施設があげられる。とりわけ、そのなかでも1施設の延床面積が大きく、維持管理や除却等に多大な経費が発生するのが、小学校等の廃校や公営住宅等の大規模施設である。

【表2】用途別進捗状況

(2) 大規模遊休施設の利活用に向けた考え方
 公共施設の利活用を検討するにあたっては、地域における生活拠点の配置、安心・安全な環境の整備、交通手段の確保等、住民が自ら地域の将来像を考え、本当に必要な公共施設を選択することが重要であり、とくに旧学校施設の利活用については、それが地域コミュニティの中心に位置していたこともあり、住民の関心も高く、行政においても地域住民の意向をよりいっそう配慮して活用を検討する必要がある。各地域においても利活用について検討が行われているが、施設規模が大きく、複合的な利活用でないと施設全体を有効に利活用できないため、具体的な検討が進みにくいという大きな課題も含んでいる。
 まず、持続可能な地域づくりの視点から、地域で利活用について検討を行うことが大前提であり、地域から具体的な利活用案が提示されれば、それをもとに利活用の実現に向けて、行政においても協議・検討が行われる必要がある。
 しかしながら、上段で触れたように、一定期間、地元でも利活用の検討を行ったが、具体的な要望等がない場合については、民間事業者のノウハウ等を生かした幅広いアイデアを募集し、新たな利活用について広く検討を行うためのサウンディング型市場調査(※)等を実施し、増加する大規模遊休資産についても、積極的に情報を発信し、民間のニーズや動向の把握に努め、利活用を図っていくことを検討しなければならない。
※ サウンディング型市場調査
 地方自治体が所有する土地などの有効活用に向けた検討にあたって、活用方法について民間事業者から広く意見や提案を求め、対話を通じて市場性等を把握するもの。

3. 廃校の利活用

(1) 福知山市の廃校利活用の取り組み
 福知山市では、人口減少の進む旧3町エリアや周辺部エリアをはじめとする地区における、児童数の減少にともない、小・中学校の統廃合等の再編を進めており、2013年以降で16校が廃校となる。
 廃校は、地域の財産という位置づけと持続可能な地域づくりの観点から、第一には、地域で活用を検討することとしている。地域の意見を反映させるため、地域が希望する活用方法を市と調整し、民間事業者のニーズを把握したい場合はサウンディング型市場調査を実施し、持続可能で発展性のあるまちづくりのため、民間事業者による廃校の利活用に向けた取り組みを進めている。
 今後においては、1日でいくつかの廃校の調査を行うツアー形式や、随意契約型のサウンディング型市場調査等、先進事例の調査・研究を行い、マネジメント計画推進の大きなカギとなっている大規模遊休資産である廃校の活用を進めているところである。

(2) 廃校利活用に係る課題
 廃校は、学校の建設時において、将来その用途が変更されることを想定しておらず、また、公共の目的で使用されていることから、不動産登記法に基づくいわゆる未登記物件であるケースが多く存在する。廃校の利活用にあたっては、一般の不動産として取り扱ううえで、廃校特有のさまざまな課題を、活用目的や活用方法に合わせて解決する必要がある。
 よくある課題としては、敷地内への民有地・里道水路等の混在、隣地との境界確定、敷地の地積測量に長期間を要することや、開発に係る各種法令(都市計画法・建築基準法・文化財保護法等)への対応である。
 廃校の利活用を行う民間事業者にとっては、サウンディング型市場調査から公募、賃貸借等の契約、事業着手に至るまでの間に、これらの課題を一つひとつ解決したうえでの利活用の実現(事業の開始)となるため、年単位の長期間を要する点について十分理解が必要であるとともに、それらの解決すべき課題について、サウンディング型市場調査の参加者募集の段階から、利活用希望者に念押ししておくことも肝要である。

4. 今後の取り組み

(1) 市街化調整区域内の公共施設
 先に述べたとおり、廃校の利活用にあたっては、敷地内の調査や境界確定・地積測量に長期間を要することに加え、市街化調整区域における用途変更の制限が大きな課題となっている。
 2020年(令和2年)4月1日現在、福知山市公共施設マネジメント基本計画における削減目標の延床面積101,800㎡のうち、譲渡等の方針を決定している施設を除いて、市街化調整区域内に存在する公共施設の延床面積は35,859㎡、削減目標の約35%を占めており、市街化調整区域内に存在する廃校の利活用も、PRE戦略の推進にとって避けて通れない課題の一つとなっている。

(2) 国等の取り組みと今後について
 これら市街化調整区域における開発について、国では「開発許可制度運用指針の一部改正に関する技術的助言(2016年12月27日・国土交通省)」において、市街化調整区域の既存建築物の用途変更に対する許可の運用の弾力化を示している。
 また、栃木県では「市街化調整区域内の未利用公共施設の利活用促進に向けた開発許可基準について(2019年1月1日運用開始・県土整備部都市計画課)」で、市街化調整区域において、従来の農産物直売所に加え、観光農園や農村レストラン等のより幅広い機能を持つ都市農村交流施設の立地を認めるなど、地元市町村発意の地域再生に資する用途変更を認める開発許可基準を新設することにより、市町村による地域活性化に向けた取り組みを促進している例もある。
 今後においては、これらの取り組みを全国的な流れとすることで、地方公共団体における不動産の合理的な管理・処分につなげ、PRE戦略を推し進めることで、持続可能な自治体運営に資する地域再生や既存コミュニティの維持・活性化を、さらに図ることが必要である。