【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第3分科会 民間と連携した公共サービス

 大竹市では保育施設の老朽化、児童数の減少などを受け、公立保育所の再編計画が現在進行形で行われている。公立保育所の維持とそこで働く保育士の処遇改善をはかり、豊かな保育をめざしていくことは、単に私たち公務労働者の生活を守り、労働運動を拡げていくことだけにとどまらない。保育所の主役は子どもたちである。私たちは子どもたちの明るい未来、夢と希望を支える存在であることを念頭においた運動を進める必要がある。



大竹市保育行政(民営化政策)と市職労の取り組み


広島県本部/大竹市職員労働組合 濱  恵介

1. 大竹市とその保育行政のあゆみ

 大竹市は広島県の西の玄関に位置する臨海工業都市であり、1954年の「昭和の大合併」において3町1村1地域の対等合併により、約78km2の市域をもって誕生した。大竹市は、戦前は大竹海兵団や潜水学校が立地する広島湾有数の軍事都市であり、戦後直後は旧軍施設を活用して在外日本人の引き揚げ港の一つとなった。戦前に立地した三菱レイヨン(現三菱ケミカル)を基礎として、旧軍用地に日本で最初の石油化学コンビナートが形成され、瀬戸内海工業地帯の一角としての大竹市のあゆみがはじまった。
 1950年に2万9千人、1954年の合併当時に約3万2千人であった市域の人口は、1965年には3万8千人を超え、日本の高度経済成長とともに猛スピードで伸びていった。人口急増の主な要因は、産業の発展とコンビナートに勤務する「金の卵」と呼ばれた中学・高校を卒業したばかりの若い労働者の流入であった。これら若年層の急激な増加により、大竹市では保育所の建設が急務となった。私立の三菱レイヨン保育所(現在は廃止)や公立の旧大竹保育所等に加え、1970年代に公立保育所5施設が次々と設置された。最終的には約9.8km2(広島県府中町10.41km2や東京都千代田区11.66km2より小さな面積)という東西に狭隘な市街化区域に対して、1990年代には公立保育所7施設、私立保育所2施設、公立児童館(へき地保育所型)3施設という体制にまで発展した。
 ただし、大竹市の人口は1975年国勢調査の38,457人をピークに減少の一途をたどり、2000年の国勢調査では31,405人にまで減少した。大竹市は広島都市圏の中でもとりわけ少子高齢化が顕著な自治体となり、1970年代に400人以上あった出生数は、2000年には約200人まで減少した。保育所においても、1970年代には1,200人を超える児童数を誇っていたが、2000年には約600人程度に半減した。
 児童数の減少を受け、2001年12月に「大竹市保育所充実のための提言」が取りまとめられ、公立保育所における保育内容の充実(延長保育や0歳児保育、一時保育、病児保育などの実施)、小規模保育所の統合と一部保育所の民営化による効率化が提言された。

2. 2003年の公立保育所・児童館の再編・全民営化計画と市職労の取り組み

 2002年6月に行われた市長選挙において、これまで大竹市施行以来続いていた保守市政を覆し、住民参画を掲げる中川洋市政が誕生した。中川市政の課題は全国で荒れ狂う「平成の大合併」への対応であったが、大竹市の生活圏でもあり隣接する山口県和木町・岩国市との合併構想を打ち出すことで事実上、広島県内での吸収合併を拒否し、単独市制を維持した。
 その一方で2003年に「児童福祉施設再編の基本方針」および「公立児童福祉施設の民営化について」を策定し、すべての公立保育所・児童館の再編・全民営化を打ち出した。この背景には、新自由主義的改革を強行に推し進める小泉政権の三位一体改革(国税から地方税への税源移譲、補助金の廃止・削減、地方交付税の見直し)によって、公立保育所運営負担金(国庫補助金)が廃止され、一般財源化(2004年度から実施)されたことがあげられる。単独市制を選択し、市財政がひっ迫する中、1970年代に建設され、老朽化しつつあった大竹市の公立保育所を建て替えるためには補助金制度が残されている民営化による手段しか残されておらず、また保育所の運営費においても国庫補助金付きの私立保育所の形態が優位であることから、本方針が打ち出された。
 再編・民営化計画では、公立保育所7施設・公立児童館3施設のうち、7施設(保育所4・児童館3)が廃止対象とされ、残る公立保育所3施設もすべて民営化の対象となったため、公立保育所に勤務するすべての保育士が一般事務職への職種変更を求められた。大竹市では、職員の職名に関する規則により、保育士は「事務職員」と位置づけられているため、当局は当初「職種変更」にあたらず、「配置転換」との認識であった。
 これに対し、大竹市職員労働組合(以下、「市職労」)は、2003年に組合員保育士全員による部評組織として「保育所部」を立ちあげ、「公立保育所にしかできない独自性の提案」、「職場環境、労働条件の改善」を訴えた。また、一部の保育士や保護者を中心に民営化反対の署名運動も展開された。
 市職労、保育所部の懸命な取り組みにもかかわらず、結果的に2006年までに、市内最大の保育所1施設が民設民営化、小規模保育所2施設が休園または廃止され、児童館1施設が地元NPOに委託され、新たに子育て支援センターとなった。
 保育所4施設、児童館2施設に減少したことから、一部の保育士の一般事務職への職種変更が行われ(4人が現在も事務職員として本庁で勤務、2人は本庁で勤務したものの現在は保育所に戻っている)、2003年から10年にわたって保育士の新規採用も行われなかった。また、保育士の間で定年前退職を希望する者が相次ぐ事態となった。

3. 2019年の公立保育所等再編基本方針

 2006年の市長選挙において、中川市政から市職労が推薦する現・入山欣郎市政へと交代した。入山市政では保育所の民営化について、拙速に新方針を打ち出すことはなかったが、2012年に保育士の採用が再開されるまで6年が経過していた。2012年度以降、毎年1~2人の保育士が採用されることとなったが、このことが後述する保育士の年齢層の偏差を生み出すこととなる。
 こうした中、2015年に大竹市公立保育所等の今後のあり方が市議会に提出され、公立保育所の維持が正式に表明されたが、この間にも大竹市の人口減少は進み、2015年には27,865人にまで落ち込み、結果的に建て替え等を行わなかったことから、公立保育所の老朽化がさらに進むこととなった。また、2019年度において、公立保育所の定員の充足率は93.7%(実定員350人に対して児童数328人)となっていく一方で、正規保育士の減少は著しく、臨時職員で対応はしていたものの、公立保育所を現状の4施設のまま維持することは困難な状況となった。
 これを踏まえ、2018年3月、大竹市公立保育所等再編基本方針(素案)が出され、市内各地での説明会、パブリックコメントなどを経て、市民から意見を聴取した結果、同年12月に「大竹市公立保育所等再編基本方針」(以下、「新方針」)が出されることとなった。
 新方針では、公立保育所のうち、施設が老朽化した市内東部の保育所2施設(立戸保育所・なかはま保育所)を統合して、子育て支援センターを併設した「小方保育所(仮称)」を認定こども園として移転新設。総合的な子育て支援の充実と連携をはかるため市役所と同じ敷地内に2022年に設置される案が示された。大竹市では公設の幼稚園機能を持った施設がなく、市民のニーズに応えきれていなかったが、幼保一体型認定こども園である小方保育所(仮称)の設置により、解消される見込みとなっている。
 また、市内西部の保育所2施設については、統合・現状維持・民営化のパターンが提示されたが、公設公営として本町保育所が大竹保育所に統合されることとなった。
新方針による公立保育所再編のイメージ

4. 保育所の民営化の問題点

 2018年12月の新方針においても、公立保育所の民営化について言及されたが、保育所は施設と保育士(調理員)があれば良いというものではなく、職員が継続して働くことによって培われる経験や継続性が、豊かな保育にとって極めて重要である。ここで保育所民営化の問題点について改めて指摘しておきたい。
① 保育所の運営母体の変更により、保育士の交代や保育方針の変更により、児童や保護者が戸惑うばかりか、児童への対応が疎かになり、保育事故に繋がる可能性がある。実際に2005年のさかえ保育所の民営化直後には保育事故(児童が保育所内で暴れる、園外への逃げ出し)も発生している。
② 民営化の手段の一つとして、指定管理者制度を導入する場合、責任の所在が不在となる可能性がある。また、有期の指定管理(委託)であるため、長期的な保育ヴィジョンが立てにくく、保育士の継続雇用の阻害につながりかねない。
③ 三位一体改革によって、2000年代に公立保育所の民営化が進んだことから、新規かつ優良な受託者を探すことが困難となっている。
④ 行き過ぎた公立保育所の民営化の推進は、保護者が公立保育所に子どもを預けるという選択肢を奪うこととなり、子育て支援の充実に逆行する施策といえる。
⑤ 課題のある子どもに対応する「加配」保育士については、公立保育所の方がきめ細かな対応ができる場合が多い。
⑥ そもそも民間の保育所は、事業の黒字化により継続性を担保せざるを得ないため、保育士の処遇(人件費)を低く抑えざるを得ない。その結果、勤続年数が14年以上の保育士は民間では約20%なのに対して、公立では約40%と2倍の開きがある。その結果、民営化された保育所では、勤続年数の少ない保育士に現場を依存することによる質の低下が懸念される。(下表:保育サービス価格に関する研究会報告書を参照)
⑦ 民間の保育所は、経営者の身内が運営の中心となるケースが見受けられるが、その場合、第三者性を失う可能性が考えられる。実際に大竹市では、さかえ保育所の民営化を受託した「ひまわり福祉会」の経営者の横領事件が2011年に発生している。
⑧ 上記の問題があるにもかかわらず、国は公立保育所の補助金を廃止し、私立保育所の補助金のみを残存させることで、公立保育所の民営化を意図的に誘導している。

5. 非正規職員の増大(官製ワーキングプア)と会計年度任用職員制度

 全国的な問題でもあるが、2019年度の大竹市の公立保育所において、78人の職員数のうち正規職員は31人にとどまっており、非正規率は実に6割を超える。2001年度の非正規率が16%であったことから、公立保育所の非正規率は悪化の一途をたどっている。
 具体的には、公立4保育所の正規保育士の構成はいずれも、所長1人、次席(副所長相当職:再任用)1人、担任保育士4人となっている。この人数ではクラス担任を正規保育士で充足させることができない状況が長く続き、非正規保育士に頼らざるを得ない状況となっている。職務内容と均衡の取れない低賃金重労働の「担任保育士」のなり手がなかったため、本庁職員の配偶者、かつ保育士有資格者に臨時職員として登録してもらうケースもあった。また、非正規の担任保育士は担任手当がついても、月給が正規職員の初任給並みに抑えられていたことから、同一労働同一賃金とは程遠く、極めて劣悪な条件での勤務を強いられている。
 市職労では、これまで保育現場や本庁等の臨時・非常勤職員の組合加入を働きかけてきたが、組織化にはいたっていない。臨時・非常勤等職員を対象としてアンケートの結果、とりわけ保育所の臨時保育士における労働条件での課題が大きいことから、市職労では臨時保育士に対して説明会や座談会を何度も行ってきた。それにもかかわらず組織化が全く進まない理由として、「①組合に加入しても大きな見返りが感じられず、組合費や動員の負担が重くのしかかってくる」、「②組合への加入者と非加入者との差別化が難しい」、「③過去の経緯から、一部の正規保育士が組合活動に対して、協力を躊躇している」という点があげられる。
 市職労保育所部は、2.で述べたとおり、一部保育所の民営化・廃止という挫折感と組合員数の減少などの結果、2011年に休部を余儀なくされた。保育所部の休部により、保育士同士で集まり、組合活動も含めた横断的なつながりによって保育所現場の課題を学び共有する場は失われ、保育士独自の活動は活発とは言えない状況に陥った。そのため、私立保育所も含めた「大竹市保育連盟」の学習会がその代替機能を果たしているのが現状である。
 近年では、若年層の正規保育士を中心に、組合員同士が集まる機会を再構築すべきとした問題提起もされている。また、2020年には非正規保育士は会計年度任用職員へと移行するが、当局との交渉の結果、国公に準拠した形となり、ある程度の労働条件の改善がはかられることとなった。
 市職労は今後、会計年度任用職員に対して適切なサポートを行うとともに、正規保育士とも連携した取り組みを進めていく必要が求められている。以下、具体的に保育所現場が抱える課題について指摘をしていきたい。

6. 正規保育士の年齢層の偏差

 大竹市の保育所現場で勤務する正保育士は、2019年度において25人(うち育児休業1人、再任用職員5人)であるが、その年齢層には大きな偏りがある。1970年代の保育所建設ラッシュのあおりで採用を控えていた時期があり、現在、再任用を除く最もベテラン層の保育士の年齢層が「45~49歳」の4人と「40~44歳」の3人となっており、50歳代が全くいない状況となっている。このうち4人(具体的には48歳、47歳、45歳、44歳)が2019年度から保育所長の重責を担っているが、所長は本来、国公6級相当職(主幹級)でありながら、いずれも所長になる前は国公4級相当職(主査級)であったことから、同年代の本庁職員との差を極力小さくするため、現在は国公5級相当職(課長補佐級)に張り付けられている。
 本市では、国公6級相当職(主幹・課長級)から管理職という扱いとなっており、当然ながら時間外手当は支給されず、管理職手当が支給される。所長は主幹級とみなされ、現在9%の管理職手当が支給されてはいるものの、金額にして3万円台程度にとどまっている。
 本来、国公5級に張り付けられていれば当然支給されるべき時間外手当が支給されないなど、矛盾が生じている状況となっているばかりか、所長の職責に見合った賃金となっているのかは疑問が残るところである。なお、2018年度から唯一の50歳代の保育士が本庁福祉課に配属となっているが、保育所に戻るかは未定である。
 また、「35歳~39歳」が0人となっているが、これは前述の2003年から10年にわたる保育士の採用抑制が影響している。
 他の自治体では、保育士をはじめとして就職氷河期の採用抑制の職員不足を、社会人経験者枠での採用によって解消している例が見られる。大竹市においても、例えば35歳以上40歳未満の社会人経験枠での正規保育士の採用を要求することによって、年齢層の歪みを解消するとともに、民間のノウハウをもった正規保育士の採用による全体の更なるスキルアップをはかるべきであろう。

○大竹市の公立保育所の正規保育士の年齢構成
20~24歳 25~29歳 30~34歳 35~39歳 40~44歳 45~49歳
5級所長
50~54歳 55~59歳 60~65歳
再任用
5人 6人 3人   3人 4人     5人
※ うち1人は育児休業中、1人(再任用)は子育て支援センターに配属

7. 会計年度任用職員の抜本的な処遇改善と組合への組織化

 2020年度から自治体の非正規職員に「会計年度任用職員」が導入され、地方公務員制度が大転換を迎える。臨時保育士も、フルタイムの会計年度任用職員とパートタイム(代替勤務)の会計年度任用職員に雇用形態が変わることになった。フルタイム職員はこれまでの月給は約13万円程度だったものが、月額171,700円に増額され、パートタイム職員とともに期末手当が支給されることになった。
 しかしながら、事実上、正規保育士となんら変わらない仕事を行わざるを得ない状況は変わっておらず、制度導入後も、同一労働同一賃金にはほど遠く、抜本的な改善とはなっていない。また、勤務労働条件をみても、単年度雇用のため、次年度以降の長期雇用の保障は依然としてない状況であり、引き続き不安を抱えながら働くこととなる。さらに、出産を控えた場合、正規職員にはある「産前産後休暇」がないこともあり、期間中は無収入を強いられることとなる。
 市職労は、会計年度任用職員制度のスタートを機会に会計年度任用職員保育士の組合への組織化をはかり、継続雇用とベースアップ、勤務労働条件の改善を強く求めていく取り組みが必要であると考える。また保育士のみならず、本庁舎で働く事務員、保健師、相談員などの組織化にも取り組んでいかなければならない。
 そもそも会計年度任用職員は、会計年度を超えない範囲内で置かれる非常勤の職としか位置づけられていない。再任用も可能とされているが、恒常的業務に使い勝手の良い安上がりな労働力(官製ワーキングプア)の固定化に繋がりかねない。民間職場の場合、労働契約法第18条により、有期労働契約による労働期間が5年を超えた場合には、労働者は期間の定めのない労働契約の締結を申し込むことができるが、同法22条1項は、「地方公務員については、労働契約法の適用がない」旨を明記しているため、会計年度任用職員は任期の定めのない常勤職員として任用等しなければならないことはなく、会計年度ごとの有期雇用が固定化する懸念が生じてしまうこととなる。
 また、正規保育士は2012年以降に採用された若手職員が多い一方で、臨時保育士は総じてベテラン層と呼ばれる年代が多い。経験に乏しい若年層の正規保育士がベテラン層の臨時保育士をリードしていくという逆転現象が生じており、保育所内の円滑な運営が課題となっている。
 厳しい地方財政の状況が継続する中、多様化する行政需要に対応するため、地方公務員における臨時・非常勤職員数が増加してきており、地方自治体は臨時・非常勤職員なくして適切な行政サービスが提供できない状況となっていた。そういった状況にもかかわらず、これまで本来の臨時職員(臨時的に運用された補助的な立場)としての運用がなされていないばかりか、処遇上の課題もあったことから、少しでも正規職員との均衡・権衡をはかるため、会計年度任用職員制度が創設された経緯がある。一方、公務の運営は任期の定めのない常勤職員を中心とする地方自治制度の原則論に立った上で、保育所現場における保育士の雇用形態のあり方についても模索していく必要があると考える。

8. むすびにかえて ―― 幼児期の保育の重要性とペリー就学前プロジェクト ――

 公立保育所の維持と保育士の処遇改善をはかり、豊かな保育をめざしていくことは、単に私たち公務労働者の生活を守り労働運動を広げていくことにとどまらず、極めて大きな社会的な重要性をも有している。
 家庭的保育が主流のアメリカにおいて1960年代に実施されたペリー就学前プロジェクトでは、児童123人を対象に、6.5人に1人の教師を配置し、1日2時間半の幼児教育と毎週1回の家庭訪問を、就学前の2年間にわたり実施した。その上で、プログラムの対象児童と同水準の家庭の一般の児童について、40年以上にわたり追跡調査を行った。
 この両者を比較してみると、プログラムの卒業者は、プログラムを受講しなかった児童に比べ、高校卒業・大学進学率、読書テスト正答率、就業率、年収が上回る結果となった。また、納税者が増えて、福祉等の費用が減り、投資した1ドルに対して約6~7ドルの利益を生み出すほどの成果となった。
 こうしたプロジェクトの結果からも幼児期の豊かな保育、さらに言えば公立保育所だからこそ可能なきめ細かな保育は、子どもたちの認知力や社会性や情動の各方面の能力を幅広く身につけさせ、その後の人生をより豊かなものとし、生まれながらの家庭環境に関わりなく生涯にわたる不平等を低減する。
 公立保育所の民営化は「行政コスト」の削減というイシューによって実施される政策である。しかしながら、「行政コスト」という点をことさら強調するのであれば、公立保育所を維持した豊かな保育を守ることこそが、もっとも「社会的なコスト」の低減につながるのである。
 ペリー就学前プロジェクトと関わって、保育や子どもをめぐる問題については、①子どもの貧困(子どものうち7人に1人が平均所得の半分以下という貧困家庭で、先進国で最悪レベル)、②保育所の自園調理の維持と食育の推進(1割の保育所が特区により外部搬入)、③不十分な幼児教育無償化(3歳未満児は無償化しない、給食費は無償化しない)、④保育現場における児童虐待キャッチと保護者へのアクセス、といった重要な課題もあげられる。
 本論のテーマは保育所の民営化と市職労の取り組みであるので詳細は割愛をするが、これらの問題も公立保育所であるからこそ、公務労働として児童や保護者に積極的に介入をしていき、関係機関との深い連携をはかることが可能となり、豊かな子育て支援施策を当局に求めていくことができる。
 私たちは保育現場における組合活動を通して、「保育」という公共サービスを守り、公務労働者の勤務労働条件の改善に力を注いでいるだけではなく、子どもたちと将来の社会への責任という大きな役割をも担っているのである。
 私たちの保育現場における労働運動が、将来の日本社会の夢と希望をも支えていることを心に留めながら、子どもたちの未来に光を灯す灯台として、ここに立つことを願ってやまない。