【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第3分科会 民間と連携した公共サービス |
松江市本庁舎は、1962年に建設され、現在、築後50年以上を経過し、耐震性の不足、老朽化の進行による安全性の低下、窓口の分散化による市民サービスの低下及び窓口スペースの狭あいなどが顕在化している状況となっている。市民のための意匠にこだわった新庁舎ではなく、庁舎の中で一番多くの時間を過ごす職員が働きやすい職場環境を整備することが、ひいては市民サービスの向上につながるものと考え、松江市職員ユニオンが当局に対しどのように働きかけ、関与したかを記す。 |
|
1. はじめに 松江市本庁舎は、1962年に建設され、現在、築後50年以上を経過している。これまで、軽微な修繕等は行われてきたものの、庁舎本体の大規模改修を行っていないため老朽化が進行している。 また、行政事務のボリュームが大きくなるに従い、近隣の建物の買収(第2別館・第3別館・第4別館)や、西棟を増築することで対応してきている。 このため、耐震性の不足、老朽化の進行による安全性の低下、窓口の分散化による市民サービスの低下及び窓口スペースの狭あいなどが顕在化している状況となっている。 このことから2016年2月に、現市庁舎の現状と課題を整理し、新庁舎整備の基本理念とコンセプトを定めるとともに、以降の検討の方向性を示す「松江市庁舎整備基本方針」が策定され、2018年2月、これまでの検討の経緯並びに「松江市庁舎整備基本方針」に示された内容に基づいて検討、会議を実施し、「松江市庁舎整備基本構想」が策定されている。 そして、2018年9月に、「松江市庁舎整備基本構想」で示した整備方針の実現に向け、新庁舎に求められる機能を具体化し、規模や空間構成の方針及び事業計画、運用管理計画の基本的な考えについて定めた「松江市庁舎整備基本計画」が策定されている。本論文では、「松江市庁舎整備基本計画」が策定されるにあたり、労働組合として松江市職員ユニオンが当局に対しどのように働きかけ、関与したかを記していく。 表1 新庁舎建設に係る主な経緯
2. 労働組合が新庁舎建設計画に関与する必要性 松江市本庁舎は、「1. はじめに」で述べたとおり、耐震性の不足、老朽化の進行による安全性の低下、窓口の分散化による市民サービスの低下及び窓口スペースの狭あいなどが顕在化している状況となっているため、新庁舎においてはこれらの課題が解決されることは当然である。また、建設に際しては、多大な税金が投入されることから、市民の財産として、特に市民サービスの向上のためにパブリックコメントや市民参加ワーキングを実施し、市民の意見を随時反映しながら計画の策定は進められている。しかしながら、市民の利便性や市民が思う理想の意匠にばかりこだわり建設を進められてはならない。庁舎建設はこの先50年以上の市政に関わる問題である。一時の市民感情や、予算を理由に必要な機能が欠落し、働きにくい職場となっては職員の最大のパフォーマンスが発揮されず市政の発展はおろか、松江市の発展に関わる問題となってしまう。 まずは、庁舎の中で一番多くの時間を過ごす職員が働きやすい職場環境を整備することが重要であり、そのことがひいては市民サービスの向上につながるものと考える。つまり、執務室の広さや環境、会議室の数、職員休憩所や更衣室の適切な数の設置、空調管理の徹底など細部にわたり要求することが必要であり、そのことが市政の発展につながっていくのである。 3. 要求に係る労働組合の体制 要求を行うことの必要性は上記で述べたとおりであるが、要求を行うためには、庁舎計画の進捗状況を常に把握しながら、必要なタイミングで行動を起こす必要がある。そこでまずは、当局が各職場選出の職員を対象に開催を計画した「新庁舎整備検討ワーキング会議」に松江市職員ユニオンの職員を出席させることを当局と交渉し、3人の出席を獲得することができた。それに合わせ、松江市職員ユニオン内部の組織である、「まつえ地域政策研究センター」において庁舎建設についての研究を始めることとした。「まつえ地域政策研究センター」とは、松江市の政策課題に対する市長への提言を目的に調査・研究を行う組織として、労組と組織内議員で構成された組織であり、これまでに公営交通のあり方や学校給食のあり方について調査・研究し、これまでにも「しまね自治研究集会」においてレポートを提出するなどの活動を行っている。 この体制とすることで、検討ワーキング会議で得た進捗状況や他の職員からの意見などの情報を地域政策研究センターで共有し、その意見を基に、近年庁舎が建設された他自治体の視察や意見聴取を行うことができ、そこで得た考察を検討ワーキング会議で発表、共有することに成功している。 4. 実際の動きの詳細 2017年10月30日に市職員を対象とした、第1回新庁舎整備検討ワーキング会議が開催され、新庁舎整備の具体的な検討が始まった。開催を受け、松江市職員ユニオンは2017年11月29日に「まつえ地域政策研究センター」の総会を開催し、庁舎建設プロジェクトに対する政策提言を行うことの承認を得た。そして、第2回新庁舎整備検討ワーキング会議が同年12月末に開催されたのち、間髪入れず2018年1月末には第1回目の他自治体視察を行っており、その後基本計画が策定されるまでの間に、(表2)のとおり検討ワーキング会議に合わせ、2回視察調査を実施している。表2 新庁舎整備事業に係る意見集約の足跡
それぞれの視察の際には、当然のことではあるが、相手方の労働組合単組に連絡をとり、当日の案内を依頼し日程を調整のうえ実施している。また、新庁舎建設に際し労働組合がどのように関与したかなど、事前にこちらが知りたい内容、疑問点をまとめ相手方に送付しておくことで、受け入れ単組に対して過度な負担をかけず、視察を簡潔に行えるよう実施した。視察中には実際に業務を行っている職員の生の声を聞く機会をそれぞれ設けていただき、供用開始してから実際に問題になる可能性がある点を事前に把握することができた。 第3回の視察調査の際には、松江市の新庁舎整備室で実際の設計や引っ越し等の計画事務に携わっている組合員2人にも同行してもらい、視察を実施した。この視察の際には、受け入れ労働組合側の当時の設計担当者や引っ越し等の事務担当者にも同席していただき、供用開始までの手続きの流れや導入してよかった設備、また苦労した点や失敗した点など、実際に携わった人間にしか分からない情報を提供いただいた。また、実際に業務に携わっている組合員とともに視察に行くことで、当局を介さず、直接情報交換ができる体制を整えることもできた。 以上のように、随所に「まつえ地域政策研究センター」として視察調査を実施することで、その後の直近の庁舎ワーキングにおいて視察で得た情報を発表、共有したことで、実際に計画の変更がなされている。 特に大きな成果として、床面積の決定における職員数の根拠を、正規職員だけでなく臨時職員を含めるよう提言したことで計画が変更となっている。これは視察先自治体で実際に発生した事象を現地で聞き取った内容であり、独自の視察調査を行ったことから得た成果である。 当局サイドは、上記以外にも我々労働組合の独自の取り組みによって得た視点を、直接業務に携わっているからこそ気づかない視点として受け入れ、基本計画の策定に結び付けている。
5. まとめ 2019年6月時点で新庁舎整備計画は実施設計に移行している。今後、詳細な執務室配置や職員休憩所、更衣室の設置数などが決まってくる。実施設計にあたっては、基本計画と同様に職員を対象とした庁舎内ワーキングが発足しており、松江市職員ユニオンからも3人が出席をしている。また、今後も新庁舎整備室の実際に業務に携わっている組合員とともに視察調査実施を計画しており、今夏には松江市の新庁舎計画と計画内容が近い茅ケ崎市に行く予定とするなど、継続的に取り組みを進めている。 また、松江市新庁舎整備計画に合わせて発生する課題として、周辺の庁舎が新庁舎に集約された後の、不要となった庁舎建築物の跡地利用についても同時に検討していかなければならない。松江市においては、公共施設適正化計画を2016年度に策定し、30年後の松江市を見据えて適正に管理運営していく計画としている。不要となった公共施設の老朽化が進み、施設の維持、改修、更新などに多額の費用が必要となることが見込まれることや、人口減少や少子高齢化に伴う市民の施設需要の変化を捉え、民間に払い下げることや、地域住民の憩いの施設、もしくは地方創生の一環とした施設利用計画を検討していかなければならない。 今後は、新庁舎建設のみならず、周辺施設全体を捉え、松江市の市政発展のために運動を進めてまいりたい。 |