【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第4分科会 多様性が尊重される社会に向けて |
パートナーシップ宣誓制度を導入する自治体が急増しています。2020年12月現在、仙台市では制度導入に至っていませんが、制度の検討を進める方向性が打ち出されました。多様性を認め合う施策についてはこれまで仙台市や労働組合はじめ議会での提言、市民団体との協働の取り組みなどにより進められてきています。人権尊重の立場から性的少数者の権利を守る施策と今後の取り組みについて提言します。 |
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1. はじめに 「性の多様性理解の促進」「多様な性のあり方を尊重」について進めることが自治体施策として不可欠なものとなっています。国においても「誰もが自分の性的指向・性自認を尊重され自分らしく生きる社会をみんなでつくっていきましょう」と啓発しており、世界においてもLGBTを含む多様化する性的マイノリティへの対応が進められています。性の多様性は個人の尊厳に関わることとして尊重されるべき大切なものです。2015年11月から東京都渋谷区と世田谷区で、同性カップルに対して二人のパートナーシップが婚姻と同等であると承認してから5年ほどとなり、2020年9月末現在でパートナーシップ証明書や宣誓書を発行している自治体は59自治体となりました。パートナーシップ宣誓制度を導入する自治体は急増しており、2020年12月には弘前市が東北初自治体として制度の施行がなされました。20政令指定都市では仙台市を含む4自治体が導入をしていないものの、私も複数回導入に向けて議会で提言をし、少しずつの前進が図られてきました。また市民団体も仙台市や議会に対し制度施行に向けて様々な活動を行ってきています。 このレポートでは、性の多様性を取り巻くこれまでの取り組みやこれからの展望に向けて提言します。 2. 議員としての取り組み (1) 市議会で質問し続けてきたこと私は、2011年に仙台市議会議員となり、施策の一つとして社会的に声をあげづらい人たちの代弁者となることを挙げ、議員として10年活動を続けてきています。 2015年2月の一般質問で、仙台市の施策において、性的指向と性的自認による差別禁止などを明記すること、市で行うアンケートなどについても、性別表記への配慮などについて質し、職員の研修の実施や文書への性別表記の工夫なども含め、性的少数者への配慮の明記について検討するとの前向きの答弁を得ました。しかしながら、この質問に対し、重要な課題があるにもかかわらず、今この質問をしなければならないのか、ふざけるな、などのネガティブな反応もありました。 その後、2016年2月の予算等審査特別委員会、2016年6月の一般質問、2016年12月の代表質疑で取り上げ、2017年9月の一般質問ではパートナーシップ宣誓制度について言及したものの市長答弁では市民の皆様方に多様な性のあり方を正しく理解してもらい差別や偏見のない環境づくりをまずは推進していきたいと答えるに留まりました。引き続き2018年9月の決算等審査特別委員会では職員への研修や専門相談電話の設置、災害時の配慮について質問し、2018年12月の健康福祉常任委員会では性的マイノリティの方の自殺防止相談窓口について質しました。 2019年3月の予算等審査特別委員会では、性別にとらわれない中学校制服について質問をし、性的マイノリティーの当事者である児童生徒や保護者の意向を踏まえて、個別の事情に応じ、自認する性別での服装を認めるなど、まず一つ必要な配慮を行っているとの答弁を得ました。2019年10月の一般質問でも言及をし、2020年6月の一般質問でもパートナーシップ宣誓制度の導入について質し、次期「男女共同参画せんだいプラン」についての議論の中で、さらに検討を深めていきたいとの答弁を得ました。 仙台市議会の中では、私は1年に平均して1~2回、質問をし続けています。このことが、アンケートなどの性別表記、教職員への研修、仙台市男女共同参画プランへの明記などにつながっています。 (2) 議員活動として取り組んだこと 議員活動として、当事者の市民活動団体が主に仙台市を会場に行う研修会等への参加や、私の母校でもあり、私立女子大学として初めてトランスジェンダーの入学を認めた宮城学院女子大学での研修の受講を行ってきました。 2014年4月に発足した社民党LGBTgroupの総会に参加し、勉強会や交流などを行いました。さらに2015年7月30日には超党派の地方議員で構成されるLBGTに関する課題を考える議員連盟の会合に参加をし、同性パートナーシップ宣誓の取り組みや性自認および性的指向に関する対応指針やユニバーサルデザインに取り組んでいる自治体の先進事例を学び参加者との交流を行いました。 2017年7月27日から28日に行われたLGBT自治体議員連盟研修会では同性パートナー制度を導入した札幌の事例や渋谷区におけるLGBT施策の取り組みを受講し、夜には新宿2丁目のLGBT啓発センターの現地視察を行いました。 2017年8月24日には、国立市を視察し全職員と議員を対象にしたLGBT研修の実際や推進体制について調査、さらに文京区におけるSOGIに関する取り組みも調査し、自治体での推進体制の参考としました。 (3) 東北アライ議員ネットワークでの取り組み 2020年8月からパートナーシップ制度導入に向けて、アライ(LGBTを理解・支援する人)の東北地方自治体議会議員(青森県弘前市、岩手県陸前高田市、岩手県盛岡市、山形県山形市、宮城県仙台市)5人による東北アライ議員ネットが結成されました。制度の勉強やそれぞれの自治体での取り組みなどの情報交換をはじめ、地域に根差した啓発のノウハウなど、ネットでのミーティングを重ねています。その中で、弘前市では行政職員の熱意もあり、東北アライ議員の質問で同性パートナーシップ宣誓制度導入の方針が示されました。大きな前進であり、他の自治体も次に続くべく活動を行っています。 3. 仙台市の取り組み (1) 施策への反映2003年仙台市は男女平等のまちの実現に向けて「仙台市男女共同参画推進条例」が市民協働で作られ、同年4月から施行されています。これに基づき男女共同参画に関する計画が策定されています。担当課は市民局男女共同参画課です。 男女共同参画せんだいプラン2016(2016年度~2020年度)では、性的指向や性同一性障害など多様な性のあり方を理由とした社会的偏見や差別をなくすための理解の促進、性的少数者への支援がはじめて明記されました。これに基づき、リーフレット「多様な性のあり方を知る」などの啓発や情報発信が行われています。 2020年12月現在、次期プラン(男女共同参画せんだいプラン2021)の中間案が示されており、パブリックコメントが行われています。中間案の公表にあたっては「多様な性のあり方についてのさらなる理解促進や性的少数者への支援を進めていくことも重要となる」と記述され、基本目標のひとつである「一人ひとりの多様性の尊重を通じた地域共生社会づくり」の本文には「多様な性のあり方を尊重しあう環境づくりを推進する多様性を尊重しあう社会づくりに向けては、性自認・性的指向などの多様な性のあり方に関する理解の促進と、不安や困難を抱える性的少数者への人権上の配慮と支援も重要となります。市民の理解促進に向けた啓発事業の実施をはじめ、さらなる支援策の検討と実施に取り組むことが期待されます」と示されました。 仙台市男女共同参画推進審議会では次期プラン作成にあたって、パートナーシップ宣誓制度についても論議がなされ、委員からは導入に向けて積極的な意見が出されています。 また、2021年度から施行される仙台市新総合計画策定に向けては、重点的に取り組む七つの視点が示されその中のひとつである「仙台でともに活きる~多様性が活きるまちの実現~」では、世代や性別、障害、国籍などさまざまな立場の考えを生かし合える社会をめざすとしています。 2018年7月23日には、指定都市市長会が性的少数者に係る窓口の一元化及びパートナーシップ制度を含めた取り組みの強化に関する指定都市市長会要請(内閣府)を行っています。 (2) 仙台市職員、教員等への主な研修 仙台市では2015年11月に仙台市学校保健研究大会で教員向けに「性同一性障害の子どもへの対応」の講演が行われました。 その後、プランに基づき、2017年11月多様な性のあり方を理由とした社会的偏見や差別をなくすための取り組みとして、職員が正しい知識を得ることを目的として研修が実施されました。市民に接する業務や窓口を持つ職場のほか、市民利用施設の指定管理者等からも、合わせて200人以上の職員等が参加しました。 2018年7月には多様な性のあり方について理解するため宮城消防署での研修会を開催し、救急対応時における基礎的な知識やコミュニケーションを図る上でどのような配慮が必要かなどを学びました。 2020年8月18日には、仙台市職員(外郭団体含む)で多様な性のあり方について理解するための研修が行われ、本市・外郭団体・指定管理者から計95人が参加しました。 その他、2017年8月には仙台市雇用労働相談センターの主催で企業の労務・人事・総務担当者向けの「LGBTの方に対して私企業として求められる対応」の研修が行われています。 4. 労働組合での取り組み 2017年2月、全労済共済本部より、組合(慶弔)共済における同性婚への結婚祝金対応について、同性婚も給付対象とするよう要請がありました。背景として、東京都渋谷区や世田谷区、沖縄県那覇市など同性カップルを公的に「パートナー」として認める制度が始まり、自治体においても同性婚を認める動きが広がったこと、自治労共済本部の「組合員の声」に給付改善の要望があったことが挙げられています。さらに自治労第162回中央委員会で同趣旨の発言があり、自治労としても強く要望が出されており、自治労共済本部としても結婚祝い金を支払い対象とすることが妥当であるとしたことです。自治労仙台市職員労働組合もこれを受け、同年8月から同性婚も結婚祝い金対象となりました。このことは仙台市職員労働組合のニュースで広報が行われました。労働組合が行うアンケートについても、性別欄に男女以外の「その他」の欄を設けました。話し合いの中で、男と女以外の性別はあるのかと疑問を呈する声もありましたが、丁寧に論議を重ね実現しました。 2017年3月に仙台市労働組合連合会が行った仙台市制についての本市職員のアンケートでの性別欄で、男女以外の回答者が八人、0.24%でした。当事者がいると思われ、可視化がなされました。 5. 市民協働での主な取り組み 仙台市はNPOはじめ市民協働が盛んな街とされており、2015年には協働によるまちづくりの推進に関する条例も施行されています。拠点施設のせんだい・みやぎNPOセンターやせんだい男女共同参画推進センターを拠点としたさまざまな活動が行われています。2015年7月、仙台市議会議員選挙の際、レインボー・アドボケイツ東北による性的マイノリティーに関するアンケートが行われました。回収率は35.4%でした。 2016年3月21日、LGBTの存在を身近に感じてもらうプロの写真家による生活者としてのセクシャルマイノリティーのポートレートの公開撮影会が仙台市太白区のライブハウスで行われ、私も見学に行きました。 2017年8月19日には、市民団体の東北HIVコミュニケーションズおよびレインボー・アドボケイツ東北の主催による学校の中の性的マイノリティ講座が開催、同年12月23日には、性同一性障害だけじゃないトランスジェンダーの歴史~性的マイノリティのプライドを考える講座が行われ、当事者として長年活動をした講師からの話を聞きました。 2018年1月17日、仙台市市民協働事業提案制度に多様な性のあり方に関する理解の促進と性的少数者への支援の内容で応募した市民団体、東北HIVコミュニケーションズが採用されました。 2018年度から2019年度には市民協働事業提案制度として東北HIVコミュニケーションズと仙台市が事業を協働で行い、内容としては、性的マイノリティーの方を本市の職場研修へ研修講師として派遣するにじいろスピーカー派遣、多様な性に関する基礎知識や本人たちの声、イベントなどを掲載する情報紙にじのたねの発行、居場所づくり事業であるにじのひろば及び市民向けイベント、せんだいレインボーDayの開催という四つの取り組みが実施されました。人権教育研修の中で性的マイノリティーの方に講師を依頼し、当事者からのメッセージや学校現場に望むことを伺い、安心した学校生活を送ることができる環境づくりの学びの提供もありました。市民協働事業は期間が終了しましたが、運動の理念は続いています。 2019年4月24日、セクシュアルマイノリティに関して仙台を中心に活動をしている市民の方々が市議会会派を来訪、性的マイノリティの方々の実情や、施策として行ってほしいことなどの意見交換をしました。 2020年6月10日は市民団体の主催で同性パートナーシップ制度を考える学習会が行われ、実現に向けての様々な取り組みが行われています。 6. 所感とこれからの取り組み 性的マイノリティの方々は昔から一定の数がいたものの、いないものとされていました。それだけに、これまで多くの困難の中、運動を続けてきた方々の苦労は並大抵のものではなかったと推察します。ダイバーシティがメインストリーム化する中、やっと可視化がされ、人権を尊重しあう観点から、当事者の声が施策に活かされる途上なのではないでしょうか。同様に、性的マイノリティへの差別だけでなく、性別による差別、外国人差別、障がい者差別、経済的な格差などあらゆる差別もなくしていく不断の努力が必要です。 ダイバーシティーがマスコミで大きく取り上げられる昨今ですが、このことを取り上げる報道について、都会のどちらかというと経済的にも豊かなゲイのカップルが多く感じられるのです。性別表記の撤廃の視点もありますが、ジェンダーギャップ指数153か国中121位の我が国において、ジェンダー別の統計を行い、女性差別についてもまだまだ見える化していかなければならないと考えます。女性差別撤廃も必要である現在は、ダイバーシティの名のもと、女性差別がそのままになることを危惧するものです。性的マイノリティに対する施策も性差別もどちらも人権を尊重し進めていくことを望むものです。 同性パートナーシップ制度については、広がっていっていますが、青森県弘前市での導入の際のパブリックコメントでは89件あったうち、反対が2/3ほどありました。担当者などの熱意で制度導入となりましたが、2000年代初めから巻き起こったバックラッシュの時と同様にこの機運が低下することを危惧するものです。 カップルとして公的に認められたい。当事者のまっすぐな気持ちを受け止めるのが政治であり行政です。 パートナーシップ宣誓制度は、望む人が幸せになるばかりのもので、誰も不利益となったり、傷つけたりするものではありません。また同性だけでなく、選択的夫婦別姓が認められていない現在、様々な事情で法律婚ができない異性同士でもカテゴリーとして認められる制度となっているところもあります。風通しの良い自治体施策を推進するために力を合わせていきたいです。 |