【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第6分科会 使って 広めて 愛して 守ろう公共交通

 全国的に公営交通が苦戦を強いられ、都市交の仲間が幕を下ろすなか、京交では、この難局を乗り越えるべく生存闘争(プログラム21)を打ち出し、厳しい合理化(ルネッサンスプラン)を乗り越え、経営を改善させました。今では市民をはじめ多くの方から支持され、「世界に誇る観光都市京都」の公共交通を支えながら、団結力を盤石なものにし、職場を安定させることで、労働条件を向上させています。



組織強化に向けて
―― 組織率100%をめざして ――

京都府本部/京都交通労働組合 安田  稔

1. はじめに

 京都交通労働組合(以下、京交)は京都における労働運動の先駆者として戦後まもなく再建し、今年で75年を迎えました。再建当初は、市電・市バスが市民の身近な乗り物として「利用者で溢れる」という昭和の華々しい時代のもと、組合員数が最大4,000人を超えていました。やがて、高度経済成長期に入ると「一家に一台」のフレーズが流行り、「マイカーブーム」が到来。モータリゼーションの進展にともない、市電は全廃(1978年9月30日)に追い込まれ、市バス事業でも乗客数を大きく落とすこととなり、結果、組合員が減少しました。その後、1981年に新たな事業として地下鉄烏丸線を開業させ、順調に経営が進むと思われましたが、バブル期に伴い、地下鉄工事の資材高騰や人件費が膨らみ、1990年代に入ると負債額が数千億に上り、京交は存続の岐路に立たされました。
 全国的に公営交通が苦戦を強いられ、都市交の仲間が幕を下ろすなか、京交では、この難局を乗り越えるべく生存闘争(プログラム21)を打ち出し、厳しい合理化(ルネッサンスプラン)を乗り越え、経営を改善させました。今日では「世界に誇る観光都市京都」の公共交通を支え続け、お客様から「愛される市バス・地下鉄」をめざして走り続けています。

2. 労働運動について

 京交は、2013年6月に自治労と統合して7年が経過し、都市公共交通評議会として公営交通の維持・発展をめざし活動を展開しています。しかし、近年の公営交通が置かれている状況は非常に苦しく、多くの都市交の仲間が事業廃止や民間移譲の波に飲み込まれていきました。そのような状況において京交では、いち早く労使一体で「増収・増客」に向けた取り組みを行い、自らの職場を守るため、2000年から「都大路作戦」と銘打ち、エンパワメント活動として、組合員が各主要バス停で案内業務や道路の警戒配置を行い、年末には「全車ピカピカ宣言」をスローガンに掲げ、組合員が自ら率先してバスを手洗した他、駅構内のトイレ掃除も行いました。このような取り組みを積み重ねたことで、両事業ともに大きな経営改善に繋がり、そして現在は「市バス・地下鉄お客様1日80万人」を目標に、労使一体となって公営交通存続に向けて邁進しています。

3. 京交のPRについて

 これまで京交が歩んできた労働運動とあわせて、組合加入へのPRとして、春闘・秋闘などさまざまな要求書を作成し、団体交渉の場で労働条件や、職場環境の改善を要望していることを伝えています。さらに、職場の活性化と組合員の連携を図るために、レクリエーション企画を行い「京交の楽しさ」についてもPRしています。その他に、組合費の領収書とも言える、各種会議内容や連合・自治労・公務労協など、加盟友誼団体との活動などを報告する媒体として、機関紙や通信を発行し、周知を広げています。加えて、今年の4月からはフェイスブックを開設し、今まで以上にタイムリーな報告が発信できるように取り組んでいます。それ以外にも、新人組合員のライフプランの役立てとなる労金やこくみん共済coopを歓迎会に巻き込んで加入の取り組みに活用しています。また、今年4月から慶弔共済制度の充実をはかり、幅広い層に対しても組合加入のメリットをPRしています。
2019年度に開催した白浜アドベンチャーワールド日帰りバスツアー参加者

4. 京交の組織について

 市バス・地下鉄に携わる職員で構成されており、2020年3月現在、1,622人の組合員が加入しています。組織構成として、バス事業(4支部)、地下鉄事業(4支部)、その両事業を統括する経営本体に携わる職員が所属している本局支部を含めた9支部があります。現在、加入率は97%を誇っていますが、組織加入率100%を目標に活動を展開させています。
 京都市交通局では、将来にわたり人材を確保するために、市バス・地下鉄に携わる職員について、さまざまな採用形態を実施しています。採用について現状と課題にふれながら、組織加入の取り組みを説明します。

5. 採用について

(1) 市バス事業について(自動車部 組合員894人)
 市バス事業では、バス運転士を積極的に採用しています。近年では民間事業者が「管理の受委託」から撤退したことも重なり通年採用を行っています。採用方法として、①大型2種免許取得者、②普通免許取得後3年を経過している人を対象とし、試験合格後に大型2種免許を交通局の費用で取得させる2パターンの採用方法を取り入れています。
 ①では、50歳までを対象として募集をかけ、採用後即戦力として活躍しています。一方で、各種報道でも取り上げられている通り、全国的にバス運転士が不足しており、この試験制度では他のバス事業者と運転士の奪い合いが生じ、交通局が経営改善策として2000年度から取り入れた「管理の受委託」の破綻に繋がるといった負の連鎖になることから、2017年度から②の普通免許取得者を対象とした採用方式が取られるようになりました。延べ3年間で①②あわせて150人程度を採用しており、女性運転士の採用も積極的に取り組んでいます。現在21人の女性運転士が在籍し、現場の最前線で活躍しています。

(2) 高速鉄道事業について(電車部 組合員518人)
 高速鉄道事業では、例年、18歳から29歳までを対象として10人前後の採用をしています。競争率は7倍から8倍程度となっており、近年では京都市の職員採用試験後に実施されていることもあり、地方公務員をめざしている方も試験に臨まれているようです。採用後は、駅職員として勤務しながら、研修と経験を踏まえ、車掌、運転士、助役へとステップアップします。
 また、女性職員も採用しており、運転士14人、車掌4人、駅務員6人、助役(駅長)1人が地下鉄事業を支えています。

(3) 京都市交通局について(本局支部 組合員210人)
 京都市職員採用試験(上級Ⅰ一般事務職(行政)試験)の合格者や民間企業等職務経験者など、京都市職員採用試験の合格者が配属先として交通局に採用されます。
 毎年10人程度が入局し、交通局本体に関わらず、市バス営業所などにも配属されることがあります。また、市長部局からの人事異動によっても配属されることがあり、その他に、バス検査技師採用者なども含まれています。
 現在、女性職員は54人で、各年数人が入局してきます。そのなかで管理職についている女性は11人で、交通局の事業運営に携わっています。

6. 各部会の取り組みについて

(1) 自動車部について(組織率96%)
 市バス事業では採用後、約2カ月間の研修を経て、晴れて市バス運転士としてスタートを切ります。研修カリキュラムの終盤には指導運転士と共に営業運転を実施し、実際の勤務仕業に近い状態で研修を行います。指導運転士とは、当局が定めた基準をクリアして、局内試験に合格した運転士です。運転士全体の約1割の人数しかおらず、言わば現場の手本となる立場です。自動車部の執行委員も指導運転士資格を取得しており、指導の一翼を担っています。運転士としての経験と技術を継承しながら、職場の先輩として労働組合の大切さを交えながら指導し、京交加入への足掛かりとしています。
 このような取り組みを行い、さらに研修生の配属先が決定すると支部長が中心となり、業務上で起き得る事故や苦情など労働組合が仲介役として機能していることを説明し、京交への加入手続きを行っています。
 今後の課題として、採用枠を広げた際に生じている高年齢化と、平均賃金の低下により組合費納入負担が重くのしかかり、加入後脱退者が出ています。

(2) 電車部について(組織率100%)
 高速鉄道事業では、採用後、配属された駅で実習がスタートします。指導員のなかには駅の組合役員も在籍しており、業務中の経験をもとに、職場の先輩として労働組合の大切さを伝えながら、指導しています。労働組合を身近に感じさせ、その取り組み結果として京交への加入100%に繋げています。また駅職員は、業務上お客様と接する機会が多く、万が一トラブルが発生した時の仲介役として労働組合があることや、労働条件の改善に組合役員が職場の意見を伝える代表者であることをPRしています。実習終了後には支部長が職場と京交について説明と加入への手続きを行います。今後予想される課題として、職場内で発生している格差を是正しなければ、組合離れに繋がる可能性があります。

(3) 本局支部について(組織率93%)
 本局支部では、採用後、配属先が交通局庁舎とは限らず、バス営業所もあるため、加入活動は支部長を中心に組合役員が一人一人に説明しています。少ない時間のなかで取り組むためPRにも限界があり、加入に至らないケースも生じています。また、職場環境の改善や賃金交渉の実感が少なく、労働組合の必要が感じられないといった理由で加入を拒む人もいます。とくに新規採用者のなかに含まれる中途採用者のほとんどは、民間企業を経験し、労働組合の存在がなく、知らないといった理由で拒む人も増えています。今後は、加入前に、レクリエーションや職場集会を開催することで、職場でのパワハラや長時間労働の抑制、年休の取得率の改善などさまざまな問題に対して労働組合が窓口となり、使用者側に改善要求を行っている取り組みなどをPRし、労働組合を身近に感じさせる活動が必要です。

7. 新たな取り組み

 現在、京交では、加入後の第一歩として、各部会が中心となり新人組合員の歓迎会を実施しています。会の前段では、部会長から職場の特徴や仕事の経験など、「同じ職種で働く先輩」として激励の言葉を送り、また、執行委員長からは、京交を取り巻く状況や、「労働組合の必要性」と「団結の強さと大切さ」を伝え、組合員と「意思の疎通」を図っています。その後、使用者側も巻き込んで懇親会を開催し、労使一体をPRし、労働組合が「怖い団体」というイメージを払拭させています。
 しかしながら、取り組み報告でも課題としてあげたとおり、全国的に労働組合の組織率が13%といった数字が示すように、「労働組合」を知らない、「興味や関心がない」など、入会に難色を示す者や、低い組合費を掲げて活動している他の組合の影響により、加入後、数年で退会するなど問題が浮き彫りとなっています。
 このような現状を脱却させ、組織率を維持するために、「取り組み内容の充実」や「組合費に見合った活動」などさまざまなメリットを打ち出すことが解決のカギを握っています。
 自治労が作成している「ヘルプカード」の活用や、社会人START講座のリーフを京交バージョンに置き換えてツールにすることをはじめ、LineやFacebookなどSNS(ソーシャルネットワーク)の活用も視野に入れながら組織強化を進めると同時に、近い将来には、京交のスマートフォンアプリを開設し、労金やこくみん共済coopなど、各種申込手続きの簡素化はもちろんのこと、日頃の業務日報や健康管理、要求事項に活かせる情報共有、ICTを活用して新たなジャンルに挑戦するなど、「京交メリット」を高めることを協議しています。
新入組合員歓迎会で執行委員長を囲んで集合写真

8. むすび

 感染者630万人以上。世界中で猛威を振るい続けている新型コロナウイルス感染症は、国内でも1,300人以上の感染者を出し、「緊急事態宣言」が発令されました。全国各地で外出自粛要請が出され、デパートや飲食店などあらゆる業種で経営が危機的状況に追い込まれ、いわゆるコロナショックが起こっています。かつてのリーマンショック以上にGDPが落ち込むと報じられ、失業率も大幅に増加すると予測され、265万人が職を失うとも言われています。
 収束の目途が立たない新型コロナウイルス感染症ですが、医療従事者やライフラインを維持させるために、感染へのリスクを顧みず、多くの労働者が業務に励んでいます。京都市は、市民の大切な移動手段として「市バス・地下鉄」の運行を継続させました。職員は常に感染のリスクとたたかいながら職を全うしています。京交では、職員が感染しないように防止対策を徹底させ、一人の罹患者も出さずに運行を続けています。このように労使一体で取り組み、市民の足を守ることで「強い信頼」が得られます。
 数年前まで「京都市のお荷物」だと言われた交通局ですが、今では市民をはじめ多くの方から支持され、信用される存在になりつつあります。どのような状況が生じても、京交が大きな「一枚岩」であることで、波に押しつぶされることはありません。労働組合の根幹である「団結」が力を発揮させています。全国的に組織率が上がらない労働組合ですが、京交では、団結力を盤石なものにし、職場を安定させることで、労働条件を向上させていきます。
 今後も、京交に「入っていて良かった」と思われる活動を展開し、「京交メリット」と労働組合本来の働きを浸透させ、組織率100%をめざして取り組み走り続けます。