【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第6分科会 使って 広めて 愛して 守ろう公共交通

 国土交通省は地域公共交通に求められる主な役割として、①地域住民の移動手段の確保。②街のにぎわいの創出や健康増進。③コンパクトシティの実現。④人の交流の活発化を掲げています。また、昨今、高齢者ドライバーによる悲惨な交通死亡事故の多発を背景に高齢者の免許返納が各地で増加をしており、交通事故の抑制にも公共交通の果たす役割は大きいものがあります。このように地域公共交通とは単に人の移動だけでなく、市民生活を支える重要な社会インフラといえます。更に移動する権利は、生存権(健康で文化的な最低限度の生活をいとなむ権利)にも匹敵すると言われています。しかしながら、2013年12月に施行された交通政策基本法には移動権の保障が残念ながら明記されていませんが、福岡市や熊本市では議員立法による「移動する権利」を盛り込んだ生活交通条例等が各地で制定されています。
 福岡市の生活交通条例には、「地域の公共交通は住民自身がつくる」という趣旨が示され、市民目線での生活交通のあり方が明記されています。今までのような交通事業者中心の取り組みではなく、自治体や地域住民の役割と責任も求められているのです。こうした状況の中、地域公共交通の要ともいえる乗合バス(2002年、貸切バスは2000年)の需給調整規制撤廃(規制緩和)以降の地域の公共交通が抱える現状と課題を再認識しなければなりません。



地域公共交通の現状と課題
―― 誰もが、いつでも、どこでも、
移動できる公共交通をめざして ――

長崎県本部/長崎交通労働組合 室  浩一

1. 貸切・乗合バスの規制緩和

 2002年2月より需給調整規制廃止をはじめとした、乗合バス事業の規制緩和がスタートしました。海外においても一部の国で規制緩和が進められた事例はありますが、日本と比較して格段に多かった公的補助が抑制された以外、効果が認められず逆にサービスの低下で、乗客の減少といった問題が生じました。日本の場合、乗合バス路線の多くが不採算路線であり、採算路線やバス事業以外の附帯事業による内部補助や、外国と比べ極端に少ない公的補助により事業を維持しているのが現状です。
 乗合バスは交通弱者、いわゆる自発的な移動手段を持たない地域住民の「通勤・通学・通院・買物」など市民生活になくてはならないサービスです。しかし、モータリゼーション等の進展等により1970年代半ばをピークに利用者は年々減少し、効率化を進めてきたにもかかわらず、全事業者8割以上の乗合バス事業者がその苦しい経営を強いられています。一方、地方では地域住民の日常生活を支える交通手段としての役割を期待されているのも事実であり、また、都市部を中心として自動車事故の防止・交通渋滞の解消・環境問題への対応など、その役割はますます重要になると考えられます。

2. 無秩序な規制緩和による安全性の低下と乗務員不足

 規制緩和等の影響で採算性のみを優先し「安全対策」が軽視されてきた結果、関越自動車道や軽井沢スキーツアーバス事故をはじめ重大事故が多発し、看過できない問題となっています。さらに、他の事業者との競争が激化したことで、徹底した経費節減を図るために、バス運転者は大幅な給与削減や長時間労働等が強いられることとなり、その結果、時間をかけて大型二種免許という高度な技術を取得しバス運転者になろうという担い手が減少し、近年、バス運転者不足は深刻な問題となっています。
 そのこともバス事業衰退の一因となっています。国土交通省もようやくその対策に乗り出し、女性や若年層等を活用し人材確保をはかろうとしていますが、いまや、地方・大都市を問わず、バス事業は存亡の危機に直面しているといっても過言ではありません。地域の公共交通を確保するために国や自治体が負うべき責任は極めて重いのです。そうした中で、公営交通は、少子・高齢、福祉、環境、大規模災害、バリアフリー等に関わる自治体政策を支える役割も大きく、また、公営交通には、危機に瀕している地域の生活交通を守り、活性化、再生する牽引役としての使命もあるのです。

3. 大規模災害の教訓

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、死者1万5,897人、行方不明者2,533人(2019年3月現在)の方が犠牲となった未曾有の大震災となりました。被災地では主要道路が各地で寸断された影響で、消火や救援活動に向かう車が、渋滞に巻き込まれ立ち往生する光景があちこちでめだち、「車の使用は最小限に抑え、緊急車両の活動をできるだけ妨げないようにしなければならない。」とマスコミが報道を行いました。まさに車社会が災害時の救助活動・都市機能をマヒさせたのです。
 仙台市交通局(都市交評)は、震災後ただちに「災害対策本部」を設置し、「市民の足の確保」を第一に全職員が昼夜を問わず復旧に向けて全力を挙げ、その結果、震災の翌12日には安全が確認された一部路線でバス運行を開始し、翌月の18日には通常のダイヤとしました。地下鉄については、発生直後は全面運休を余儀なくされたものの、震災発生4日後には一部運行を開始しました。更に、阪神淡路大震災・熊本地震発生時においても、それぞれの公営交通(神戸市交通局・熊本市交通局)が行政と連携し、復旧・復興の中心的役割を担ってきました。

4. 車社会からの脱却

 石川県の金沢市では、市交通政策課が中心となって「新金沢市総合交通計画」を策定しました。総合交通計画によると、郊外から都心部のアクセスについては、パーク&ライドなどTDM施策を実施するとともに、バスなど公共交通の利便性を高めることにより、できる限りマイカー利用の抑制を進め、歩行者や自転車が移動しやすく、歩きたくなるような都市空間の整備促進を進めることとしています。手段別交通体系のあり方については、環境問題・人員輸送の効率化・財政的制約の観点から、バスを公共交通機関の基軸と位置付けています。具体的には、市民が利用しやすい路線やダイヤ編成を行い、バリアフリーの促進・サービスの向上に努め、バス利用の拡大を図り、環境にやさしい乗り物として、自転車の活用(駐輪場や自転車専用道路の整備)を進めながらタクシー等と併せて、バスなどの大量輸送機関を補完する交通体系づくりが、行政を中心として今進められています。地域の特性といった違いはあるものの既にいくつかの都市では、車社会からの脱却が開始されているのです。

5. 公営交通と公共交通

 地方公営企業法総則第3条(経営の基本原則)には、『地方公営企業は常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない。』となっています。経済性の発揮と福祉の増進という課題は別として、運営の基本理念として公営交通には生活者の生活向上を図ることが本来の目的とされています。私たちとしてもこの間、「地域住民の足を守る」ことを最大の課題とし、企業の再建に取り組んできました。公営交通の必要性を考えたとき、それは安心の一言に尽きるのではないでしょうか。先に述べたように未曾有の災害発生時における役割。さらには、地域住民の移動手段を確保しながら、生活者への安心・安定した公共交通機関として公営交通の使命は重要です。
 諸外国の規制緩和では、都市部を中心にして業者間の競争が激化し乗客奪取による、接近したダイヤによる運行・需要の多いバス停への早着競争による安全性の低下・利用者の少ないバス停への不停車・運行ダイヤの過度な変更による利用者サービスの低下などで、都市部であっても安定供給が不可能になるという、利用者利便性の低下が問題視されました。こういった事態を招かないためにも「公営交通」の必要性を更に訴えなければなりません。

6. 最後に

 「市バス」の愛称で市民の重要な移動手段を担ってきた(92年間)佐世保市交通事業が2019年3月末をもって廃止されました。ダイヤについては民間事業者(西肥バス)へ移譲され、その後、佐世保市が100%出資する(させぼバス株式会社)へ委託されています。
 2014年8月、佐世保市長を会長とする「佐世保市地域公共交通活性化協議会(法定協議会)」が発足し、翌年3月には一定の方向性が導かれ網形成計画(案)が国交省へ提出されました。その計画案については、民営と公営バス事業がすみわけを行いながら事業を存続していくといったものでした。しかし、国交省の見解としては、利用者サービス(定期券の共通化)が担保されていないとして計画(案)の見直しが通告されました。
 このことを受け2016年2月には、民間事業者との一体化を含めた再検討が開始され、2017年2月の佐世保市経営戦略会議で交通事業の廃止が方針として決定され、2018年9月議会で廃止に向けた議案が可決しました。
 事業廃止問題については県本部対策会議がいち早く設置され、副市長交渉をはじめ、市民を対象にしたシンポジウムの開催等、地域共闘を含め力強いご支援を頂きました。結果、私たちの最終到達点であった行政の関与については、佐世保市が100%出資する「させぼバス(株)」の継続した経営を確認したところです。しかし、一体化後の状況については、主に運行ダイヤの減便に対し市民・利用者からの苦情が殺到しており、早急な改善が必要となっていますが、運転士不足を理由に対応が全く行われておらず、利用者サービスの向上には繋がっていません。
 私たちは92年の市営バスの歴史が終わったと捉えることなく、地域住民の移動手段の確保をめざし、新たなスタートとして位置づけ、あらためて公営企業(市営バス)を復活させる取り組みを進めていかなければならないと考えています。