【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第7分科会 福祉、環境、農業…地域の宝を探し出せ

 公立施設の役割とは何でしょうか。自治体職員にできることは? 福祉、介護の中からの自治研活動を通して、地域とつながり、自分たちの未来について考えましょう



自治研活動をNPO法人かいごつたえ隊に。
~地域共生社会を市民と協働でつくる~

愛知県本部/自治労名古屋市労働組合・民生支部・厚生院分会 蟹江 光哉

1. はじめに

 公立福祉施設の民営化が進む中、業務から得た知識や技術を地域住民に還元するイベントを開催することで、もっと市民に必要とされ、喜んでもらえるのではないか? と、2014年3月より、自治労名古屋民生支部厚生院分会の介護員有志グループで自治研活動を開始しました。その頃、地域には介護に関する様々な問題がクローズアップされてきていました。私たちが地域に出て活動することで、それらの問題解決の力になれるのではないかと考えたのが始まりです。「市民向け介護教室」から始めて、その後、認知症カフェである「かいごカフェ」を始めました。今では市内の四カ所で月1回ずつ「かいごカフェ」を行っています。そして、2017年6月に「NPO法人かいごつたえ隊」にしました。自治労から出来たNPO法人は他県にも例があります。「NPO法人東京ケアネットワーク」、奈良の「NPO法人あいの家」、大阪の「NPO法人フェアロード」などです。このレポートで労働組合、自治研、NPO、福祉について考えるきっかけにしていただければ幸いです。

2. 市民向け介護教室 

 私たちの勤務する名古屋市厚生院(名古屋市名東区)は特別養護老人ホーム、付属病院、救護施設からなる利用者定員約600人の大規模複合施設です。しかし近所に住む住民のほとんどが、何の施設なのか知らず、市民の多くが名古屋市に厚生院が存在しているのを知らないという、閉ざされた施設でした。「こんなことではいけない 市民と接点を持って、厚生院を宣伝しないと」という思いもあり、2014年3月から「市民向け介護教室」を3ヶ月に1回、市内各所で始めました。開催して分かったのは、市民の皆さんは私たちの話を聞きたがっているし、私たちに話を聴いて欲しがっているということでした。私たちが地域に出たのをすごく歓迎してくれました。俗に言う公務員バッシングを感じたことは全くありませんでした。市民の反応は「介護が楽しいという話を聞いて、明るくなった。」「厚生院が名古屋にあると安心。」などでした。
 「市民向け介護教室」の内容は、介護に関する講義、市民とコミュニケーションを取りながらお茶を提供する、介護の相談を受ける。開催時間は約2時間、参加は無料です。市民の参加人数は1~15人程度。毎回違う場所で行うため、告知が大変です。ですが、様々な悩みを抱える方々に会うことができる利点があります。コミュニティセンターを借りる代金とお茶代は、自治労名古屋民生支部にサポートしてもらっています。また、この教室は神戸市従業員労働組合の活動を手本にしています。

3. かいごカフェ「優風(ゆう)」

 「市民向け介護教室」を行っていると、定期的に同じ場所で同じ市民を対象に、イベントを開催する必要性を感じ、2015年4月より「かいごカフェ」を始めました。内容はクイズやペーパーパズルなどの脳トレエクササイズ、お茶とお菓子の提供、介護などの話、参加者への手紙。開催時間は約2時間、参加は無料です。こちらも経費は組合にサポートしてもらっています。しばらくは名古屋市名東区梅森坂で月1回開催でしたが、同僚から「自分の親のためにやってほしい。」と希望があり、2017年9月から名古屋市名東区牧の里、2018年12月名古屋市中村区、2019年12月から職場である厚生院でも始めました。
 毎月、2日間休みを使って4カ所で開催するのは準備も含め大変ですが、参加者の方々が楽しみに待ってくれているので、とてもやりがいがあります。参加者は1カ所あたり、平均で10~15人、シニアの女性が多く、男性は少ないです。いきいき支援センター(地域包括支援センター)の職員や、自治会役員、民生委員の参加もあります。市民の反応は「いつでも、どんなことでも相談できてほっとする。」「ここで友達ができた。」「一人暮らしだけど、みんなの顔をみて話ができる。」などです。認知症の方や、持病のある方、家族を介護している方などを継続的に支援できるので、地域には必要な社会資源だと思っています。

 

牧の里かいごカフェ

 高針住宅集会所にて
 店名の「優風(ゆう)」はあなたが主役という、介護の専門性を表しています。シニア、認知症の方、ケアラーの居場所と役割を提供できています。

     
 

梅森坂かいごカフェ

 梅森坂コミュニティセンターにて
 左の方は配偶者の介護をしています。右の方は開催の最初から来てくれています。
 皆さん笑顔が絶えません。

     
 

中村かいごカフェ

 中村コミュニティセンターにて
 右側の男性は認知症の配偶者の介護をしています。
 テーブルにはロバ隊長がいます(認知症サポーター研修のマスコットキャラクター)。

4. コミュニティ食堂

 以前より、かいごつたえ隊のメンバーの中から、「子ども食堂をやらないか。」と話がありました。また、牧の里かいごカフェの場所を借りている高針住宅の自治会長から「この住宅はシングルマザーが多くて、貧困の子どもが多い。」と話を聞いていました。そこで高針住宅で子ども食堂をやりたいと、NPO法人として申し出たところ、自治会長はとても喜んでくれて、「ここで子ども食堂をやりたがっている知り合いがいるが、踏み出せないでいる。」と元教師のA夫妻を紹介してくれました。その後、2019年12月より、つたえ隊メンバー、自治会長、A夫妻と毎月一回話し合いを持ち、2020年6月からの定期的な開催に向け準備をしています。

5. 活動を通して

 すべての人が、いつ介護をするようになるか、いつ介護を受けるようになるかは分からない。介護をするのは楽しいし、介護を受けるのも楽しい 認知症になっても、障がいを持っても幸せに生活できるまちづくり、をテーマに掲げ活動しています。かいごつたえ隊の活動は人権活動、アドボカシー(権利擁護)活動の一つだと思っています。カフェでは毎年、5月には狭山事件に触れ、7月にはやまゆり園事件に触れ、12月の人権週間や障がい者週間にはすべての人権について参加者と考えるようにしています。一回一回のイベントの開催が市民との協働で、地域共生社会実現のための過程です。労働組合も人権のためにあります。労働組合、自治研活動、NPO法人は地域の人たちの福祉(幸せ)に密接に関わっているのです。また、これらの活動をする中で、タテ割行政の中でヨコの繋がりをつくることができるのは現業職員ではないか、と思っています。
 今では、かいごつたえ隊の会員に他局や一般の方が参加してくれるようになり、イベントに色々な方が関わってくれるようになりました。小さな活動が広がっている感触があります。シニアの方、認知症の方、障がい者は行動範囲が狭いので、このような場所が一つでも多くあれば、自分たちの将来も安心なのではないでしょうか。

6. NPO法人

 NPO法人は未来の課題を先取り、社会を変えていくのに最適なツール(朝日新聞2018年6月20日朝刊より)です。NPO法人化することで、自治研活動をより市民と協働を促進させると言えます。NPO法人化するメリットは①しっかり継続した活動ができる、②何か事故があった時は責任がNPO法人になる、③市民からの信頼を得やすくなる、④寄附を集めやすくなる。短所としては、①設立手続きが大変、②毎年総会を開かなければならない、③毎年活動報告と減免申請が必要、などがあります。市民からの信頼は確かに大きくなった感じはします。活動がスムーズになりました。関わり方は人それぞれ(朝日新聞)ですので、皆さんもNPO法人に目を向けてみて下さい。

7. おわりに

 いままで活動してきて、告知のポスティングで市民から苦情を受けたり、仲間を作ろうとして「なぜ自分の時間を使ってまで、そんな活動をしなければいけないの」と断られたり、平坦な道のりではありませんでした。また、厚生院のあり方検討委員会で厚生院の廃止が決まってしまいました。ですが、私たちはあきらめてはいません。
 西尾祥之さんの講義「あなたの自治研ストーリー」では「市民に職場のことを知ってもらい、市民とともに考えることも自治研のひとつでやり方は自由。」「組合は賃金闘争に目がいきがちだ。実際は職員が働き続けられ、良質な公共サービスを提供するためにも活動しているが、市民には見えにくい。自治研を通して組合から地域と行政の橋渡しができるのではないか。自治研の裾野の広さがある。」とのことでした。厚生院を残していくために、糸口を見つけたいと思います。自治労の皆さん、力を貸してください
 この活動は、今では私たちにとっても役割、居場所であり生きがいになっています。40・50歳代の認知症予防はプレクリニカル期、中年期に予防することが最も効果的(婦人公論jp.伊東大介)、といわれています。実は自分たちの介護予防でもあります。私たちのイベントに参加後に、亡くなった方や施設に入った方がいます。その参加者にとって地域での最後のライブになっていたと思うと、市民にとって大切な活動だと実感しています。
 皆さんの見学、参加をお待ちしています。お気軽にどうぞ 詳しくは内閣府ホームページNPO法人、名古屋かいごネット、自治労名古屋まで。一緒に頑張りましょう

追 記
 2020年3月から新型コロナウイルス感染予防のため、イベントが開催できないでいます。新型コロナの前では無力だなぁ、と実感しています。家に閉じ込められている市民のために何かできないか模索しています。