【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第7分科会 福祉、環境、農業…地域の宝を探し出せ

 2020年1月中国武漢市で発生した新型コロナウイルスは、2月上旬クルーズ船、2月下旬大阪市内ライブハウスでの集団発生(クラスター)など、「新型コロナ」との「未知の恐怖」とのたたかいとなった。保健所に設置された「帰国者・接触者相談センター」の未曾有のたたかいを感じながら、大阪市西淀川区保健福祉センターでも相当な対応を行いつつ、大阪市・大阪府での新型コロナ対策を備忘録的にまとめてみた。



2020年新型コロナウイルス感染症対策【備忘録】
―― 大阪市西淀川区保健福祉センターから
垣間見た新型コロナ ――

大阪府本部/大阪市職関係労働組合・西淀川区役所支部

1. 2020年新型コロナウイルス関連~大阪府の対応を中心に~

2020年1月24日、中国武漢市で発症した新型コロナウイルス関連の対応で、大阪府新型コロナウイルス対策本部が設置され、相談体制は、発熱(37.5℃)、武漢市滞在を目安に、大阪府に電話相談窓口設置がされる。
2020年1月29日 中国武漢チャーター機1便が到着
2020年1月31日 世界保健機構(WHO)が緊急事態宣言。大阪府相談電話回線を2から4回線へ(武漢のツアーバスガイドさんの発症)。
2020年1月下旬、武漢市からのチャーター機、2月上旬、クルーズ船の対応から、全国的な広がりが懸念され、大阪府「帰国者・接触者相談センター」を府内全保健所(18か所)に設置(2月4日)、「帰国者・接触者外来」を8つの二次医療圏に1か所以上設置(病院名は非公表)、大阪健康安全基盤研究所及び堺市衛生研究所で検査体制を整備する(PCR検査40人分受入)。
2020年2月3日 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に帰港
2020年2月17日 新型コロナウイルス感染症への対応(検査・医療体制)として、相談対象者が、「帰国者・接触者相談センター」へ相談(37.5℃の熱が4日以上など)、受診指示(受診調整)、帰国者・接触者外来(受診、府内56か所、病院名非公開)、診察、新型コロナウイルス検査の実施保健所へ相談、検体搬送、大阪健康安全基盤研究所、堺市衛生研究所(最大90人分)の流れが確立する。
2020年2月18日現在 感染者1人
2020年2月27日 安倍首相全国の小中高学校一斉休校(3月2日から)
2020年2月29日 大阪市内ライブハウス、集団発生(クラスター)の対応で、施設名など公表
2020年3月13日 医療供給体制について、陽性者が増えてきた場合に備えて、公的医療機関や大学病院等の対応、重症者への対応に重点を置き、無症状者・軽症者については、休床病床、廃止病棟や宿泊施設の活用、自宅待機といった措置も念頭に置き、対応策を検討する。
各保健所長が陽性者の入院調整を医療機関と個別に行っているが、感染症指定医療機関や10床程度以上の協力医療機関や機関病院等を対象に、入院可能な空き病床を把握し、広域的に入院調整を行う「大阪府入院フォローアップセンター」を立ち上げる。
2020年3月14日 改正新型インフルエンザ対策特別措置法が施行
2020年3月14日 阪神タイガースの藤浪選手会食、26日PCR検査、「味がない」(嗅覚・味覚障害……匂い、味がわからない)
2020年3月17日 コメディアン志村けんさん倦怠感、3月20日入院、3月29日死亡
2020年3月19日 専門家会議が爆発的な感染拡大の可能性があると公表
2020年3月20日 大阪兵庫往来自粛要請、北海道知事による緊急事態宣言、世界150を超える国と地域に感染が拡大、3つの条件(密閉空間、密集空間、密接場面)
2020年3月23日 東京都永寿総合病院(台東区)感染確認、4月13日までに感染者180人、死亡20人
2020年3月24日 東京オリンピック延長 バッハIOC会長と合意
2020年3月25日 東京都が週末の不要不急の外出自粛要請
2020年3月28日 大阪感染ピーク(2020年6月12日大阪府新型コロナウイルス対策専門家会議)
2020年4月 大阪市特殊勤務手当(感染症予防救治従事者手当)の改正。松井市長「4月から医療従事者の皆さんにコロナの手当てがつく」
(写真:医療機関などで貼付されていた新型コロナウイルス感染症対策の案内)
2020年4月1日 布マスク一世帯2枚ずつ配布
2020年4月7日 安倍首相東京都・大阪府など7都道府県に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を発出(2020年4月7日から5月6日)
2020年4月13日 軽症者等の宿泊治療に係る宿泊施設の決定(スーパーホテル大阪天然温泉、大阪市西区)受入室数400室
2020年4月16日 緊急事態宣言を47都道府県に拡大
2020年4月17日 安倍首相すべての国民に一律10万円を給付(特別定額給付金)
2020年4月19日 大阪市生野区なみはやリハビリテーション病院 41人感染
2020年5月4日 緊急事態宣言を5月31日まで延長
2020年5月5日 大阪府独自の基準に基づく自粛要請・解除及び対策の基本的な考え方「大阪モデル」を作成(5月8日から)
2020年5月14日 「大阪モデル」達成、休業要請の大幅解除へ
2020年5月14日 安倍首相緊急事態宣言39県解除
2020年5月21日 大阪、京都、兵庫3府県休業要請解除
2020年5月25日 北海道・埼玉・千葉・神奈川・東京の5都道県休業要請解除

2. 大阪府の感染者

(1) 2020年5月17日現在
  検査実施件数 25,638件 陽性者数(累計)1,770人、現在陽性者数419人、入院306人、重症39人、退院1,281人、死亡70人
  各市町村の累計(上位と下位)
  大阪市732人、堺市103人、東大阪市89人、豊中市63人、吹田市60人
  感染者 0人 島本町、忠岡町、岬町、太子町、千早赤阪村

(2-1) ピーク時の大阪府のPCR検査数・陽性者数
  3月12日 検査件数 1,426  陽性者数  89  死亡0  退院 7
  4月12日 検査件数 7,359  陽性者数 811  死亡6  退院144
  4月21日 検査件数11,513  陽性者数1,349  死亡15  退院273

(2-2) 行政検査の体制拡充について(検査キャパの増加)4月22日
  検体採取⇒拡充・休日急病診療所、医療機関(屋外含む)
  検査キャパ約420検体⇒約890検体(拡充470)
  医療機関140、大阪健康安全基盤研究所440、堺市衛生研究所40、東大阪市環境衛生検査センター20、府保健所50、民間検査機関200
  ドライブスルー、ウォークイン方式 平日16人、休日32人

(2-3) 新型コロナウイルス感染症の陽性者(倍加時間)
  5月1日 1,639人(累計)
  倍加時間 100人から 200人  15日  3月13日~3月29日
       200人から 400人  7日  3月29日~4月4日
       400人から 800人  7日  4月4日~4月10日
       800人から1,600人  18日  4月10日~4月30日

(3) 新型コロナウイルス重症患者の治療を優先
  大阪急性期・総合医療セミナー    4月13日から重篤な患者の受け入れを停止。
  大阪市立総合医療センター      4月7日から救急外来を停止。
  泉佐野市りんくう総合医療センター  4月6日から停止。
  堺市立総合医療センター       4月9日から軽症者の救急診療を休止。

3. 医療崩壊~帰国者・接触者相談センターからみると~

(1) 相談のパニック化
 新型コロナウイルス感染症のフォロー体制は、症状があると感じる(37.5℃など)と帰国者・接触者相談センターへ電話で問い合わせます。そこで要件が合致すると、帰国者・接触者外来(非公開、大阪府では約60医療機関といわれています)での受診、感染が疑われた場合検体採取しPCR検査、大阪健康安全基盤研究所、保健所へ結果報告、重篤な場合指定医療機関、ホテル療養、自宅待機など決定します。
 中国武漢市、クルーズ船、ライブハウスなどの感染状況にくわえ、著名人のコロナ感染で味覚障害や突然の訃報とともに、毎日自治体から感染者発表の報道が、感染爆発への未知の脅威になったのかもしれません。
 大阪での相談センターの件数は、3月末までは、1,000件を上回る件数でしたが、4月以降1日3,000件から4,000件を超える相談数になっています。しかしながら相談センターへいつ電話してもつながらないという苦情も殺到しました。
 相談件数が増えると同時に、感染の判断をする帰国者・接触者外来への誘導も増え、PCR検査も3月末までは二桁の検査数が、200件、300件と日を追うごとに増えていきました。診断の結果入院などの調整は、保健所(大阪府下18か所)から指定医療機関と調整していましたが、急激な増加のために調整不能な状態になり、広域的に入院調整を行う「大阪府入院フォローアップセンター」を立ち上げて改善を図りました。

(2) 数字からみると
 この当時、「医療崩壊」という声が上がり、ピーク時のベッド数と入院患者をNHKさんが調査しています。
 それによると、4月13日東京都ベッド数2,000床、入院・入院必要者が1,959人(98%)、大阪府540床・647人(120%)、4月20日東京都2,000床・2,546人(127%)、大阪府700床・884人(126%)、4月27日東京都2,000床・2,619人(131%)、大阪府900床・423人(47%)という状況があり、相談件数やPCR検査、入院調整、入院という体制は、テレビの報道を見ても「かなり厳しい」という状況があったのかなと思います。
 少し落ち着いた5月11日(緊急事態宣言の一部解除が出た)時点では、東京都2,000床・2,518人、大阪府1,100床・381人(35%)という実績です。

4. 大阪モデル ―― 今後の確保方針について ――

 2020年5月20日に開催された「第3回大阪府新型コロナウイルス感染症対策協議会」において、検査体制・新型コロナウイルス受入病床、今後の確保方針について決定しています。

(1) 検査体制の拡充について
 検査キャパ約890検体、それを約1,430検体に拡充し、約2,000検体まで実施するという目標です。
 検体採取キャパは、約680検体、それを約870検体に拡充し、約1,000検体まで実施するという目標です。
 さらに、検査体制の拡充について、「地域外来・検査センター」を設置し、診療所等が保健所を経由せず、受診調整できる仕組みの構築をめざすとしています。(公表は原則行わない)

(2) 新型コロナ受入病床
 今後の確保方針として、5月19日現在1,151床(重症188床、軽症中等症963床)確保してきた。自粛要請の結果、感染状況は収束傾向にあり、病床使用率は減少傾向となっている。(5月19日現在重症19.7%、軽症中等症24.4%)
 『自粛要請解除後の病床確保の方針は、患者数が減少し、新規感染者数が限定的となった時期(大阪モデルの警戒基準を下回る状態)は、病院の意向を確認し、要請病床の一部ないし全部を、暫定的に通常医療用の病床として柔軟に運用する。ただし、暫定的に通常医療用として運用した病床は、感染拡大の兆候が見られた際は、速やかに(重症1週間以内、軽症中等症2週間以内)新型コロナ受入病床として再び運用できる体制を確保できるよう、各病院に協力依頼する。』

(3) 大阪府における新型コロナウイルス受入病床の状況(5月19日現在)
① 重症188床、軽症中等症963床(合計1,151床)
② 公的医療機関(公立病院・日赤・済生会)31医療機関、665病床数
  その他、民間病院等34医療機関、486病床数(合計1,151床)
③ 二次医療圏別総要請数
  豊 能  8医療機関、  180病床数
  三 島  4医療機関、   71病床数
  北河内  9医療機関、  132病床数
  中河内  5医療機関、  123病床数
  南河内  5医療機関、   94病床数
  堺 市  5医療機関、   87病床数
  泉 州  9医療機関、  151病床数
  大阪市  20医療機関、  313病床数(合計1,151床)

(4-1) 新型コロナ専門病院化に向けて(大阪市淀川区)
 大阪市立十三市民病院の医療提供について
 4月30日 入院患者の転院・退院完了
 5月22日 7階病棟運用開始予定、6月5・6階病棟運用開始予定

(4-2) 新型コロナ専門病院化に向けて(大阪市住吉区)
 医療法人錦秀会阪和第二病院の新型コロナウイルス感染症専用病院化について
 5月1日 新規入院の中止、5月20日転院・退院調整を完了
 6月8日 新型コロナ専用病院として運用開始

参考① とても気になる記事があったので
 2020年6月8日大阪読売新聞では、「コロナたたきとハンセン病差別」と題して、記事が掲載されていました(記事は抜粋です)。
 『今回のコロナ禍で見られる、「感染を防ぐような行動を取らなかった」とみなした感染者への激しいバッシングや、外出者や営業を続ける店舗を厳しくとがめる「自粛警察」と呼ばれる現象は、「民間が国の政策を下支えし、強いプレッシャーをかけるという点では、無らい県運動とよく似ている」と強調する。
 無らい県運動……「らい病」と呼ばれたハンセン病の根絶を目指した国に協力するため、各県が地元警察などと連携して行った取り組み。自治体の職員らが患者の家を訪問し、療養所への入所を勧奨した。1930年代に始まり、戦後も活発に行われた。』

参考② 保健所と市町村保健センターについて
 1994年に保健所法から地域保健法に改正され、1997年に施行されました。地域保健法に基づき、都道府県、政令指定都市、中核市、施行時特例市、保健所設置市、特別区に保健所が設置(必置義務)され、同時に市町村は、市町村保健センターを設置できることになりました。
 全国の保健所数は、意外と思う方が多いかもしれませんが、1994年の847か所から2020年には469か所へと半減しています(保健所長は原則医師である)。市町村保健センターは、全国で2,468か所あります(センター長は医師である必要はない)。(数値は、2020年4月1日厚労省ホームページより)
 大阪府の保健所は、政令指定都市は大阪市・堺市の2か所、中核市は豊中市・吹田市・高槻市・枚方市・八尾市・寝屋川市・東大阪市の7か所、大阪府保健所(池田・茨木・守口・四条畷・藤井寺・富田林・和泉・岸和田・泉佐野)は9か所あり、合計18か所です。
 市町村保健センターは、大阪府76か所(大阪市保健福祉センター24、堺市保健センター8、東大阪市保健センター3など)です。
 主な役割は、保健所では、対人保健(住民に対するもの)と対物保健(地域に関するもの)、市町村保健センターでは、市町村レベルの健康づくりの場であり、母子保健・老人保健・介護保険など住民のニーズに合わせてきめ細かに対応しています。
 今回の新型コロナウイルス感染症対策の中で、保健所の相談対応などについて負担軽減のテレビのドキュメントや新聞の記事などが見受けられました。
 保健所では、電話相談の対応、PCR検査の対応、医療機関への患者の搬送、感染経路の追跡など多くの業務が一度にやってきたためです。
(写真:西淀川区保健福祉センターの窓口に飛沫感染防止フィルムを装着/西淀川区ツイッターより)
 新型コロナウイルス感染症対策において、新型インフルエンザと同程度の感覚を持ち合わせていた感があったので、爆発的な感染力、それに伴い検査体制が追い付かない、医療関係の調整も追いつかない、相談件数の多さと、加えてその未知との恐怖など重なったピーク時は、かなり厳しい状況だったと聞いています。
 所属する西淀川区保健福祉センターでも、相談の電話が鳴りやまない状況でした。
 6月9日現在、大阪でも一定の収束を見た状況ですが、これからも第2波へ備え、手洗い、うがい、マスクなど感染症の予防を十分に継続していければと思います。