【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第7分科会 福祉、環境、農業…地域の宝を探し出せ

 中山間地域の現状と課題、その解決方法を考えることをテーマに自治研活動に取り組む中、2017年から継続的に現地調査を行っている三次市川西地区の取り組み報告です。川西地区は、連合自治組織として住民自ら地域の将来像を描き、地域拠点づくりや地域交通の実証実験等のハード・ソフト両面の取り組みを進めています。地域づくりの参考例、住民主体の地域づくりにおける行政の役割について考える内容となっています。



時代に適応した住民自治活動の取り組み
―― 行政・民間を活用し地域力を上げる ――
(三次市川西地区の取り組み事例)

広島県本部/自治労広島県職員連合労働組合・北部自治研 中島 聡子

1. はじめに

 北部自治研では「中山間地域の現状と課題を把握し、その解決方法について考えよう」というテーマで活動しています。具体的には、中山間地域にU・Iターンした人にインタビューをしたり、先進事例を調査してきました。
 今回は、2017年度から継続的に現地調査(1回目:2017年3月、2回目:2018年1月、3回目:2019年12月)を行ってきた三次市川西地区の取り組みについて報告します。

2. 川西地区の概要と取り組み

(1) 川西地区の概要
 三次市川西地区は、三次市中心部から約15km南部に位置し、三若町、海渡町、石原町、上田町および有原町の5つの町で構成された川西小学校区を区域とする地区で、各町内会および諸活動団体で川西自治連合会を組織し活動を行っている。
 人口は1950年代の3,500人をピークとして現在は1/3に減少しており、2019年1月1日時点で1,049人、高齢化率は49%となっており、毎年約20人ずつ人口が減少し続けている。
 主要公的施設は、川西保育所、川西小学校、川西コミュニティセンター、川西診療所、川西郵便局および三次警察署 川西駐在所で、すべてが三若町にあり、若干の商店とともに中心部を形成している。
 高齢化が進む中、市役所の出張所や農協の支店が廃止され、食料品などの生活必需品を販売する小売店やガソリンスタンドもなくなってしまい、人口減少に歯止めをかけることだけでなく高齢者を中心に買い物が困難になっている状況を解消することが大きな課題となっていた。

(2) 川西地区での取り組みの経緯
 三次市川西地区は5つの町内会が連携し、まちづくり活動を行っている。その活動のベースとなる川西自治連合会は、平成の大合併で市町村が合併した際に、三次市が自治組織と公民館を一体化した連合自治組織の設立を推進したことにより2005年度に発足し、属地組織(町内会)、属性組織(女性部、老人会etc.)、目的別組織(社会福祉協議会etc.)で構成されている。
 高齢化や人口減少が進む中、住民自治活動をどのように行っていくか議論を重ねる中で「地域の過去の歴史は記録があるが、地域の未来を描いたものはない」という声があがり、地域の将来像を描き全住民で共有しようと2006年に地域住民全員アンケートを実施し、住民手作りの「まめな川西いつわの里づくりビジョン」を策定した。
 そのビジョンづくりの話し合いの中で、「田舎性」こそが地域の最大の「宝」であることに住民自身が気づき、田舎暮らしそのものがステータスとなり住民一人ひとりが美しく豊かで文化的な環境の中で、安全・安心で快適に楽しく、存在感を持って暮らせる里をめざそうと「田舎暮らしが楽しい里づくり」をスローガンとして掲げ、都市農村交流と地域生活拠点づくりの2大プロジェクトに取り組んできた。


【「まめな川西いつわの里づくりビジョン」で描いた将来構想図(2008~2017年:第1期)】

(3) 川西地区での取り組みの経緯
 関係人口を増やすための都市農村交流の取り組みは、2002年に上田小学校が廃校になった際に都市住民親子を対象とした田舎体験型交流拠点「ほしはら山のがっこう」を整備したことに端を発している。2000年に行政から廃校の話があり、約10人の検討委員が集まり1年間かけて跡地利用について検討する中で"ふるさとを持たない都市の人達に農村体験ができる場を提供する"というアイデアが出てきた。この検討過程の中で地域の資源や魅力を探したことが、自分たちの地域(=田舎)のよさを見つめなおすきっかけになった。2011年には運営組織をNPO法人化し、地区外の人達をスタッフやボランティアなどの位置づけで巻き込みながら、地域資源を活かした農作業体験や里山体験を実施している。
 また、田舎の生活のよさを伝えていきたい、農村での生活を体験してもらいたいという思いから、2009年に都市農村交流モニタリング事業を活用して、農村民泊の交流プログラムを検討し実際に実施・検証しており、現在地区内の4戸が農家民宿許可を取得している。2019年度からは地域に伝えられている「食」の記録を残し伝えていくため、「川西レシピ」を集める取り組みも行っている。このレシピは将来的には農村民泊や川西郷の駅でも活用していく予定である。
 さらに都市農村交流の取り組みが地区全体の地域資源の掘り起こしや環境整備につながり、2016年には川西いつわの里体験交流協議会を立ちあげ、地域資源を知ってもらうための「川西いつわの里めぐりMAP」の作成や、自転車や徒歩で地区内を巡り魅力を知ってもらう「川西ライド&ウォーク」「川西レンタサイクル」などの取り組みが新たに始まっている。「川西ライド&ウォーク」は、川西郷の駅を拠点として「川西いつわの里めぐりMAP」を片手に地区に31ヵ所ある辻堂(地域の人達は「堂さん」と呼んでいる)を巡ってもらうゴールデンウィークのイベントである。また、「川西レンタサイクル」は川西郷の駅で電動自転車をレンタルできるようにし、地区内を自由気ままに散策してもらえるようにしている。

 

(4) 地域生活拠点づくりの取り組み


国が示している「小さな拠点」イメージ図
 地域生活拠点づくりの取り組みでは、2012年に川西地区に合う拠点のあり方を検討するための組織「川西郷の駅づくり推進委員会」を設置し、2013年に国の「小さな拠点」づくりモニター調査地域の指定を受けた。これは、国が2013年度から推進している施策で、小学校区など複数の集落が集まる地域において、商店、診療所等の生活サービスや地域活動を集めた「小さな拠点」をつくり、各集落をコミュニティバス等で結ぶことで、持続可能な地域づくりをめざすものである。
 このソフト事業を活用し、全住民アンケート、女性・若者対象のヒアリング、ワークショップなどを通じきめ細かなニーズ調査を行い、地域生活拠点のコンセプトや備える機能を決定した。住民からの意見で「身の回りの日用品が手に入らない」「ゆうちょ銀行以外の金融機関の払い出しができない」との声が多かったため、ファミリーマートを誘致し、さらに直売所、農産物加工所、イートインスペースを整備した。
 2017年7月にオープンした地域生活拠点となる川西郷の駅の周辺整備は地方創生推進交付金を活用した単市の地域支援事業を財源に充てて川西自治連合会が整備し、運営管理は(株)川西郷の駅が行っている。(株)川西郷の駅は住民出資の組織で、地元住民が85%、残りを川西地区出身者や地区内の集落法人が出資している。当初計画では年間30万人が訪問し、地区内に30人の雇用を生み、200人がボランティアとして参画する計画だったが、訪問者数、雇用人数はほぼ計画通りとなったものの、地区内で雇用者を確保できず地区外からも雇用している。また、ボランティアの組織化が今後の課題となっている。
 この川西郷の駅ができたことは、地域の人達に「便利さ」を提供するだけでなく「うちの地域には郷の駅がある」という自慢にもなっている。また、直売所で野菜などを販売し収入を得ることができるようになったことは、多くの人達の生きがいにも繋がっている。最近では生産者自らテントで対面販売を行う動きも出てきた。
 そして、川西郷の駅は「かわにしマーケット」「秋の収穫感謝祭」などのイベント会場として使われたり「川西レンタサイクル」の貸し出し窓口になるなど地区内外の人達が集まる拠点として機能し、都市農村交流の取り組みにも十分活用されている。
 なお、今回の施設整備は第1期として位置づけており、第2期として農家レストランやカフェを整備して地元住民や都市からの観光客、国道375号の利用者などに利用してもらい、さらに長期的には敷地内に相愛センター(健康福祉拠点施設)を整備し、警察、郵便局、消防署も移転し、ワンストップで色々なことができるようにしたいという構想を描いている。
 

(5) 地域交通の実証実験
 住民と地域生活拠点を結びつけるためには、そこまでアクセスする手段が必要である。地区住民の20%が免許を持っておらず、高齢者の移動手段が課題となっていたが、地域内交通を確保するためのバスの購入予算が地域にはなかった。だが、地域内交通で地域生活拠点と地域とを結ぶ構想を知った三次市が広島県に相談したところ、地域内交通の実証実験ができるところを探していたマツダ(株)とのマッチングが実現し、車両を無償でリース提供してもらうことができた。
 2018年12月から運行しているが、家族(息子・娘・孫)が家に来てくれるときに買い物などの用事をすませる人が多いようで想定より利用者は少なかった。だが、地区の高齢者世帯数の割合が76%にのぼることから、今後ニーズが増える可能性はある。試験運行の目的の周知や、「人に迷惑をかけずに自分のことは自分でどうにかしないと」という意識をどう変えるかが今後の課題である。実際に利用した人からは「一人で美容院にいけた」「選挙の投票にいけた」などの声が聞かれた。
 2019年度からは川西自治連合会、(株)川西郷の駅、マツダ、中国電力、広島県、NTTドコモ、NTTデータ経営研究所でコンソーシアムを立ち上げ、スマートシティモデル事業先行モデルプロジェクトに取り組んでいる。地域交通の継続に加え、電力消費データの収集による在宅確認、都市農村交流の来客者の行動分析などを行っていく予定である。

3. 川西地区の取り組みのポイント

 川西地区は先進的なまちづくり活動を継続して行ってきているが、その活動の核であると感じた点をまとめてみる。

(1) 町内会の存在
 多くの地域組織は「自治連合会-常会」という2層構造であるが、川西地区では「自治連合会-町内会-常会」という3層構造になっている。自治連合会役員が数百戸ある各常会の状況を把握するのは不可能だが、町内会役員は町内の住民の家庭状況を把握しているため、全住民のアンケート調査でも家族全員の意見集約が可能となった。この町内会組織があることで、住民の意見をきちんと吸いあげ、できあがったビジョンを周知することが可能になった。

(2) ビジョン策定委員会、まめな川西いつわの里づくり委員会の構成
 一般的に地域づくりの検討を行う場には各戸の家長である年配男性が出席するケースが多いが、川西地区が地域のビジョンを作るために「ビジョン策定委員会」を発足した際に、各町から男女、老若のバランスが取れるよう2人ずつ委員を選出してもらった。このことにより多様な年代の意見や女性の意見がビジョンに反映できた。また、ビジョン策定後にこの委員会が「まめな川西いつわの里づくり委員会」に移行し、川西自治連合会の諮問機関としてビジョンを達成するための調査研究を行い、具体的な取り組み内容を検討・提案する組織として機能している。

(3) ビジョンの存在
 全住民アンケートに基づきビジョンを検討・策定し、住民に周知したことで、川西地区のめざす将来像が明確になった。このことにより、ビジョンに位置づけられている取り組みをはじめる際に住民への説明がスムーズにできるようになった。ビジョンは毎年進捗状況を確認し、必要に応じ修正をかけている。
 さらにこのビジョンがあることによって行政や企業に対し地域のめざす姿を示すことができるため、国庫事業の活用やコンソーシアムの立ち上げ、社会実験の取り組みなどに繋がっている。

(4) 事業活用
 川西地区では、ビジョンを実行するためにさまざまな事業に取り組んできた。「ほしはら山のがっこう」の整備にはじまり都市農村交流モニタリング事業、「小さな拠点」づくりモニター調査事業、地方創生推進交付金などさまざまな事業を活用してきており、現在も農村集落活性化支援事業で軽トラ朝市や農畜産物加工所、農家レストランなどのビジョンに位置づけられた事業を実現するためのソフト事業を行ったり、農山漁村振興交付金で空き家活用による古民家コミュニティハウスのソフト整備を計画している。
 これは明確なビジョンを地域が持っていることと、そのビジョンを実現する熱意とスキルをもった人材がいることによって可能となっている。

【「まめな川西いつわの里づくりビジョン」で描いた将来構想図(2016年~:第2期)】
 

4. おわりに

 川西地区は全住民の意見を集約し、まちづくりに取り組んできた。多様な意見をまとめビジョンをつくったことで、ビジョンが「みんなのめざす川西地区の姿」として地域住民に受け入れられている。そして、このビジョンを住民がまとまるための旗印にして「まめな川西いつわの里づくり委員会」が推進エンジンとなり、川西自治連合会が地域内の多種多様な組織と有機的に連携し主体的に住民自治活動に取り組み、さらに行政や民間企業の支援を受けることで様々な地域課題を解決し、未来の中山間地域のあり方やコミュニティ・ガバナンスを模索しつつ、確実に「地域力(ハード、ソフト両面の社会資本)」を底上げしてきた。
 地域の将来に不安を抱えている中山間地域は多いが、川西地区は地域の将来像を描くことで具体的な対処法を見出し、前向きな取り組みを継続してきている。現在も人口減少が続いている状況ではあるが、取り組みを着実に進める中でU・Iターンした人達の子どもで小学校の生徒数も増えてきている。小学校区をひとつのまとまりとして地域の将来ビジョンを描き、まちづくりを考えるという手法は、他の地域で参考になるのではないかと思う。
 我々行政としては、地域が将来ビジョンを描きその姿の実現をめざしていけるよう、住民自治組織の成熟度に合わせてリーダーやファシリテーターの育成、話し合い活動支援、事業のマッチング、事務支援などの支援策を用意する必要があるのではないだろうか。