【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第9分科会 「やっぱはまりで、ぬぐだまる」(津軽弁)

 新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、公立病院の職員は日夜感染する危険性と隣り合わせで業務を遂行しています。この間、政府も医療従事者の状況を踏まえ、手当等の対応をしてはいますが、現場での交渉力により、対応に差がでています。このようなときだからこそ、公立病院の組合が頑張らなくてはいけません。この間の活動を見てきた中で、今後の医療職場の組合活動の参考になればと考えます。



新型コロナに対応する医療職場の状況について
―― これからの医療職場での組合活動に必要なこととは ――

北海道本部/衛生医療評議会・担当執行委員 南部谷康史 

1. はじめに

 2019年12月、中国の武漢で原因不明の肺炎患者が発生しました。その後、発生源は海鮮市場ともいわれましたが、はっきりとはせず現在でも感染源は不明のままです。2020年1月、中国では感染が拡大し、瞬く間に中国全土に広がり、さらには全世界へと拡大しました。   
 そして、日本にも感染は拡大し、今なお収まっていません。この間、医療現場の組合員はこれまでと同様に、地域医療を守り、住民の命を守るため日夜、勤務を続けています。そのような中で見えてきた課題等について報告いたします。

【これまでの経過】
2019年12月 中国武漢市で原因不明の肺炎患者が発生
2020年1月 武漢市の公共交通機関運航停止が始まる
中国国内で初の死亡例が確認される
中国全土へ感染拡大、海外への団体旅行が禁止
日本で感染者を確認。
世界保健機構(WHO)が緊急事態宣言
2020年2月 指定感染症に指定される
乗客の感染が確認されたクルーズ船が横浜港に入港
※災害派遣チーム(DMAD)に出動要請がかかる
潜伏期間が12.5日と報告される
28日 北海道で緊急事態宣言
政府による休業要請が出される
東京ディズニーリゾート、ユニバーサルジャパンが休業を発表
北海道知事による独自の緊急事態宣言が出される。
2020年3月 都道府県によるPCR検査が始まる
感染者数は全世界で10万人を超える
中国政府、臨床試験アビガンを治療薬として使用。
WHOがパンデミックの状況にあると認識を示す。
東京五輪・パラリンピック2021年夏に開催を延期
※東京の感染者は開催延期決定後に急増
2020年4月 国内感染者が1日で最多の700人を超える
緊急事態宣言が全国に拡大
東京で宿泊施設を使った軽症患者の管理が始まる
アベノマスク配布方針が出される
2020年5月 政府の緊急事態宣言が5月末まで延長
厚生労働省が米国の製薬会社が開発した抗ウイルス薬「レムデシビル」を治療薬として特例承認
各公立病院で感染者の受け入れ態勢ができる
医療物資の不足が深刻化する
緊急事態宣言が解除される
これまでの「37.5度以上の発熱4日以上続く」との基準が削除される。
2020年6月 都道府県をまたぐ移動の自粛要請が全国で緩和される
2020年7月 『Go To トラベル』キャンペーンが始まる
WHO「パンデミックは加速し続けている」と発言
2020年8月 4月~6月期GDP 年率27.8%減 戦後最悪の落ち込み
2020年9月 アストラゼネガが新型コロナのワクチン臨床試験を一時的に中断、その後再開する
2020年10月 トランプ大統領が新型コロナに感染
フランスが3ヶ月ぶりに非常事態宣言
国内大学生の内定率は前年同比より7.0ポイント減の69.8%となる。リーマンショック後の2009年7.4ポイントに次ぐ下落幅となる。
2020年11月 クラスターが急増、全国で100件を超える
北海道 警戒ステージ「3」ススキノで営業時間短縮など要請
18日、国内感染者数が過去最多の2,201人に
政府分科会「Go Toキャンペーン」の見直しなどを政府に求める提言
感染者数(2020年12月1日現在)
全世界 感染者数 6,327万9,026人 死者数 146万8,458人
日 本 感染者数 14万8,962人 死者数 2,076人

2. 医療現場の状況

(1) 緊急事態宣言がでたことによる影響
① 学校・保育所等の休校、休園
② 在宅勤務・テレワークの推進
③ 通勤時間の混雑緩和
④ 不要不急の外出の自粛
⑤ イベントの人数制限
 緊急事態宣言が出されたことにより、急激に私たちの生活に変化がでました。学校が休校になることにより、小学校低学年以下の子どもがいる家庭では、子どもだけで留守番もできず、預ける施設も休みとなったことから、親が会社を休まないと食事など面倒をみなくてはいけない。卒業式、始業式などの行事も縮小され、一生に1度のことができない状況に陥りました。休む親に対して国は休職補償策を出しましたが、浸透していないのが事実であり、在宅勤務の推奨によるテレワークなど新たな働き方も示されましたが、医療従事者には無理な話でした。
 医療従事者に対して学校や幼稚園・保育園の休校、休園は死活問題となり、勤務と家庭の両方に挟まれ、厳しい環境に追い込まれました。それに加え、言われのない差別をうけた職員もいます。「医療機関の子どもは感染症の可能性があるので受け入れられない」「親が病院に務めているから近寄るな」などと言われた実例も聞こえてきていました。最近になってやっと医療従事者に対する見方が変わってきたようにも思います。寄贈も増え、モチベーションも上がっている職員もいると思いますが、このような差別が実際に行われていました。その要因の一つがマスコミで、情報番組で必要以上にあおり、不安になるような中途半端な情報をいまだに流し続けています。今回の新型コロナに対する報道の在り方が問われます。
 通勤時の密を避けるために時間差通勤も推奨され、JRなどの公共交通機関の利用者数は減少し、不要不急の外出をしないよう言われ、イベントも人数制限がされ、外食産業はいまだに大打撃をうけ、これまでに多くの店舗が閉店となっています。経済的損失も甚大なものとなっています。

(2) 医療の現場
① 見えないウイルスへの恐怖、メンタルヘルス対策
② 感染予防のための医療資材の不足
③ 偏見・差別
④ 医療体制の構築
⑤ 職場の感染防止策の徹底
 当初、新型コロナウイルスは実態がすべてわかっていない病原菌であることから、家族や知人に感染させてしまうのではとの不安から、宿泊施設での生活を余儀なくされた医療従事者もいました。また自分が感染した場合、入院、外来患者にも感染させる可能性があることから、気を抜けない日々の勤務は神経をすり減らし、精神的負担も大きくなっています。長期化する新型コロナ対応に対し、看護師の退職が増加傾向にあることも報道されています。医療従事者のメンタルヘルス対策が今後の大きな課題と言えます。
 4月~6月頃にかけて、医療資材の不足は危機的でこれまで感染対策では認められていなかったフェイスマスクを消毒しての再利用やウイルスの透過性が低いN95マスクも再利用するなど、危機的な状況だったと言えます。このような特殊な医療物資の確保は病院だけでは厳しいことから、今後は行政としても備蓄していく必要があると考えます。
 一時よりも世間に、医療従事者が感染者の対応をしている重要性が浸透してきたことから、偏見・差別が減少してきたかに思われますが、医療従事者に対する偏見はいまだ残っています。最近では医療従事者だけでなく感染患者に対しても差別的な態度をとる人も多く、社会問題になっていると感じます。ある自治体では「新型コロナウイルス差別防止宣言」をしたところもあり、今後は社会全体でコロナ差別をなくす取り組みが必要と思います。
 今回のように急な感染症の拡大により、感染病棟を設置した場合、対応する看護師不足が問題となっています。通常業務の他に、新たに感染症病棟を管理することは通常以上の労力が必要となります。今回のような有事に対応するためには通常時から一定以上の看護師を確保していく必要があります。それができるのも公的・公立病院しかありません。政府は目先の医療費削減ではなく、不測の事態に備えることが必要といえます。
 公立病院の職場では、感染防止のため、日常生活でも外出、外食を自粛し、外部との接触をさける生活が続いています。その他にも医療従事者として自主的に感染防止策をとっている職員がほとんどです。この間、1年近くたちますが公立病院でのクラスターが報告されないことは、このような努力の結果といえます。また、感染防止に対してのノウハウや知識があることも強みと言えます。

3. 新型コロナに関連する手当等について

(1) 特殊勤務手当(防疫作業手当)

 3月18日、人事院規則9-129(東日本大震災及び東日本大震災以外の特定大規模災害等に対処するための人事院規則9-30(特殊勤務手当)の特例)の一部を改正する規則が公布されました。新型コロナウイルス感染症対策に従事した職員に対し作業1日あたり3,000円を支給。患者またはその疑いのある者の身体に直接接触する作業、患者またはその疑いのある者に長期間にわたり接して行う作業については1日あたり4,000円を支給する。1月27日に遡って適用するという内容になっています。
 これにより新型コロナ感染症により生じた業務に対処した職員への防疫等作業手当の特例が定められることとなりました。
① 各単組での対応について
 「航空機、船舶における新型コロナウイルス感染症患者対応のため、措置に係る作業を対象」として支給された、特殊勤務手当の特例でしたが、全国で新型コロナウイルスの感染が急速に拡大したことにより、各単組でも業務にあたる職員に対しての手当について、協議が行われてきました。病院や宿泊施設等での患者対応が増加していることも受け、総務省は各自治体に対し「本改正内容(人事院規則の一部改正)及びその趣旨を踏まえ、適切に対応していただくようお願いします」との通知を各自治体に公布し、手当の付与という方向に協議は進みましたが、交渉結果により運用差がでることにもなりました。
② 協議でポイントとなったこと
 ア 3,000円と4,000円の対象について
 イ 適用月日について
 ウ どの職種まで適用させるのか
 今回の協議のポイントは3点ありました。まずは3,000円と4,000円の対象についてです。国の基準で言えば、「患者と直接、接したり、長時間対応した場合には4,000円、それ以外は3,000円」となっていますが、この『接触』『長時間』という解釈により対象が変化してきました。直接触れることが接触になるのか、何分で長時間となるのかなど、各自治体で取り扱いが違うことも見受けられました。
 次に適用月日についてですが、これによりいつまでさかのぼるのか、各自治体で交渉していたのは3月~5月が多かったことから、実際にコロナ患者が発生したのが2月ですのでいつから適用させるかにより、支給額に大きな変化がでることとなりました。2月までさかのぼって適用させる自治体と、4月から適用させる自治体とに分かれる結果となりました。
 そして最後にどの職種まで適用させるかです。どこの自治体でも看護師は対象としているのですが、コメディカル職場や事務職についてもどこまで適用させるのかということが協議されました。
 これらの協議は、大きな問題となったことから、基本組合で取り組みを行う単組もありました。病院職場に足を運び、状況を聞き取り現場職員と一緒に交渉した単組では好条件を勝ちとっていました。
③ 協議結果から
 今回の特殊勤務手当については、各所の働きかけや、医療従事者へ対する世間の後押しもあり、国としても適用するよう通知も出しました。しかし、これまで手当等の協議を行政職当局にまかせっきりであった当局や基本組合まかせの病院の組合は協議をするとの認識が薄いことからか、対応が遅い自治体も多くみられました。コロナの最前線ということもあり、患者対応を優先して協議はあとからとの感覚もあったかと思いますが、こういう時だからこそしっかりと安心して働くためにも待遇面の確保は必要と考えます。
 常日頃より、色々な課題について当局と話し合う場をつくっておく必要があります。今回のように国からも通知がでている場合については、行政全体への通知でもあることから、基本単組に相談し、行政職当局に働きかけることも手段として必要と思います。そのためには当局だけでなく基本単組とも常日頃より情報交換など関係を作る必要があります。

(2) 慰労金の支給について
 「二次補正予算における医療機関支援」で、医療従事者に対する慰労金が支給されることとなりました。主旨としては、『医療機関で働いている職員は、新型コロナの対処をし、心身ともに負担がかかっているなか、使命感をもって業務に従事していることから、慰労金を給付する』との趣旨で予算計上されました。対象期間と条件については新型コロナ感染症患者発生日から6月30日までの間で10日以上となっています。金額についても対象となる医療機関、介護施設等ということでした。
① 支給内容について
 支給対象には、出入り業者である清掃委託業者やリネン交換者なども含まれていましたが、院内に設置されている売店、レストラン、敷地内薬局は対象外となっていました。最前線で共にたたかっていた保健所、働く者を支えている児童福祉職場も対象外となったことは遺憾と言えます。
② 注意点等
 急な支給となったこともあり、一部職場では混乱をきたしたことから、下記のことを注意するよう各単組に働きかけを行いました。
 ア 医療機関が代理申請とするが、基本は本人の申請であること、当局が範囲を勝手に決められるものではない。
 イ 職種は問わない。(事務職も該当)
 ウ 同じ施設内では金額に差はない。
 エ 「患者と接する医療従事者や職員に対し」という文言の患者は新型コロナ患者に限らない。

〔 要 約 〕
都道府県から役割を設定された医療機関
1. 新型コロナ患者の診察を『行った』 20万円
             『行っていない』 10万円
2. 1以外の病院、診療所、訪問看護ステーション 5万円
 都道府県から役割を設定された医療機関でない病院、診療所、訪問看護ステーションであっても、新型コロナ患者の「入院」を受け入れている場合は20万円となります
介護施設・障害福祉施設
1. 新型コロナ感染症が発生したり、濃厚接触者について
             『対応した施設』 20万円
             『対応していない施設』 5万円

③ 結果について
 今回は管理職も該当ということもあり、あまり協議が難航したところも少なく、当局が自主的に動きだしたところもありました。多くの単組で全職員を対象に支給させることができました。しかし、当局作業に手間がかかることから支給されるまでの時間に差がでる状況も見受けられました。

4. コロナ禍での組合活動の課題について

(1) 組合活動について
 厳しいコロナ禍で、医療職場の組合がどのような活動を行っていくべきなのか、いままで経験のない状況から、正解はなかなか見つけられていません。通常実施している執行委員会ですら開催がままならないのが、現状と言えます。
 しかし、何もやらないというのは非常に不安と言えます。特に医療職場は合理的な考えをもっている組合員も少なくないことから、「やらなくても大丈夫ならいらないのでは」との考えに発展することも懸念されます。時間短縮や消毒、少人数開催など感染対策をしっかり行い、『できることをやる』『活動していることを見せる』ことが大事ではないかと考えます。何もしない期間が長期化すると本当に組織としての存続問題につながります。できないときだからこそ、せめて情報提供や個別対応を強めていく必要があると考えます。
 また、課題の多い医療職場の課題解決のためには、基本組合と連携することもよいと思います。協議のノウハウや情報提供をしてもらうことにより課題を解決することができます。
 医療の問題は議会で解決することもあることから、地方議員との協力も今後は積極的に行う必要があるかと考えます。医療職場の環境改善には多くの助けが必要になると考えます。

(2) 医療機関の課題
 現在蔓延する新型コロナにより色々な問題が起こっています。他の病気の通院を控えることにより、重症化する問題や救急搬送の受け入れに支障がでていることなど、このまま新型コロナが長期化すると、助かる命も助からなくなるのではとの懸念の声もあります。これから冬にかけてインフルエンザも感染が拡大していきます。単純には比較できませんが、データ上では2018年は1,176万人、2019年は感染予防対策もあったことから減少しましたが、それでも725万人(死者数約3,000人)にもなり新型コロナの感染者数を大幅に上回っています。
 もしこのままの状況が続けば、医療現場はさらに逼迫することが予想されます。新型コロナの感染状況に関する検証を行い現在とは違った民間病院も含めた新たな医療対応が必要と考えます。
 そして、新型コロナの対応をしている病院の7割は公立病院であるとの調査結果もあります。公立病院の必要性を今一度国民全員で考える機会になればと考えます。