【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第9分科会 「やっぱはまりで、ぬぐだまる」(津軽弁) |
青森県は短命県であるとの認識が幅広い県民の意識に深くに刻まれている。青森県の平均寿命の推移を他の都道府県と比較分析するとともに、主な死亡要因について、時系列的な検討とともに、県内各地域別の現状分析を行った。また、主要死因別の特化度や構成比分布を実施して戦略的に対応すべき病気や疾患群を明らかにしている。さらに、青森県の健康政策を分析し、近年に平均寿命を大幅に伸ばしている滋賀県との比較を試みた。 |
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青森県の地域課題として「短命県返上」が掲げられて久しい。健康で長生きしたいとの思いは県民共通の願いであるが、一朝一夕には問題解決はしない。病院スタッフや病院施設などの医療環境の整備、食生活や日常的な運動、喫煙・飲酒習慣の改善などに関する健康意識の向上や健康診断の普及、ポジティブヘルスの推進などが求められる。子どものころからの食育、地域風土に合致した生活スタイルの工夫、地域内外の人々との交流などを通じた社会関係資本の形成・維持など様々な取り組みが重層的に展開されることが期待される。 青森県では2001年に「健康あおもり21」を策定し健康増進政策を推進してきており、男性・女性とも平均寿命は着実に延長されてきているが、他都道府県との比較では必ずしも目標を達成していない状況にある。そこで、この研究では青森県民の健康状況、特に平均寿命や死亡要因などに焦点を当てて実態分析を行うとともに、今後の政策展開の方向性について検討することにする。 1. 青森県の健康状況 健康状況については様々な観点から分析が可能であるが、ここでは青森県の主張でもある「短命県返上」を念頭に、平均寿命の動態に視点を絞って分析を進める。ここで約50年前の1965(昭和40)年頃の平均寿命について見ると、男性で全国平均が67.74歳であるのに青森県は65.32歳と全国で最下位であり、女性も全国平均が72.92歳であるのに青森県は71.77歳に留まり、全国で44位の低い水準に位置していた。その後は男女ともに着実に平均寿命は上昇し、平成27年には男性が78.67歳、女性が85.93歳とそれぞれ13.35歳、14.16歳も長命化した。しかし、全国の平均寿命も男性が13.03歳、女性が14.09歳と長寿化しており、地域間の格差はほとんど縮めることができていない。人間の寿命は様々な要素が複雑に絡み合う事象であり、短期間に結果を残すことは難しいとは思われるが、「短命県返上」は未だ果たせていない状況にある。
ここで、都道府県間の平均寿命の比較を行うことにする。図表では横軸を男性の平均寿命とし、縦軸を女性の平均寿命としている。1965(昭和40)年時点では北東北の青森県、秋田県、岩手県の3県が最下位層を構成し、東京や神奈川県などの大都市圏が上位層を占める結果となった。医療環境の格差や人口の年齢構成の相違、生活スタイルなどの様々な要因の結果と思われる。その後政府は2001(平成13)年に国民健康づくり運動を展開し、これを契機として各都道府県で健康増進計画が作成され、実施されるようになって、平均寿命の大幅向上が実現されたといえる。2015(平成27)年の図表を見ると、全都道府県の水準向上が見られる中で、長野県や滋賀県、福井県などのように、1965(昭和40)年時点では中間層に位置付けられた各県が平均寿命の上位県にランクされる結果となった。一概には判断できないかも知れないが、各県の健康増進計画などが効果的に機能したのではないかと想定される。
各都道府県における1975(昭和50)年と2015(平成27)年の40年間に長寿化された程度を示した図表5及び図表6を見ると、前述したように地方圏の諸県が上位を占めている。男性では滋賀県、高知県、大分県で10歳以上の長寿化を達成している。また、女性では31道府県で10歳以上の長寿化となり、滋賀県、富山県、福井県などが上位にきている。青森県は男性が全国平均と同一水準の8.98歳であり、女性は9.48歳で全国平均の10.00歳をかなり下回る結果となった。
人口の高齢化等を背景として全国的に健康問題に対する意識が格段に高まり、医療施設や医療スタッフ、医療制度が整備されていくにつれて、平均寿命は長命化するとともに地域間の格差も縮小傾向にある。1965(昭和40)年時点では男性で東京都と青森県では平均寿命が4.52歳も相違した。女性でも東京都と秋田県で3.46歳も違っていた。これが2015(平成27)年には男性で1.43歳、女性で1.72歳も縮小した。全国的に行政などの健康増進政策が効果を上げて、地域間の平均寿命が均一化してきているといえる。しかし、青森県は2015(平成27)年時点で男女とも全国最下位の平均寿命に留まっている。男性では1970(昭和45)年の調査時点を除いて1965(昭和40)年から最下位が連続しており、短命県の構造から脱せないでいる。
2. 青森県の健康政策の概況 青森県は政府の「21世紀における国民健康づくり運動」(健康日本21)を踏まえて、2001(平成13)年に「健康あおもり21」(健康増進計画)を策定して、本格的に健康づくりの諸施策を展開することになった。前述したように、青森県の平均寿命は全国の最下位を続けてきており、国の健康増進の基本方針が示されたことで計画立案・実施となった。計画では、平均寿命と健康寿命を延伸させて全国との健康格差の縮小をめざした。その考え方は、県民の健康意識の向上と生活習慣等の改善により、生活習慣病の発症予防と重症化を予防するとした。そのために地域社会の絆や職場の支援などによって、社会全体で県民の健康を守る環境整備を図ることとした。また、この計画では重点課題として、肥満予防対策と喫煙防止対策、自殺予防対策の3課題に戦略的に取り組むことにした。 青森県では悪性新生物や心疾患、脳血管疾患の3大死因が長期間にわたって全国平均より高い比率で推移してきており、生活習慣の改善と発症後の適切な治療継続が強く求められていた。全国と比較して肥満児比率が高く、食塩摂取量が過剰で、野菜摂取量が少ない状況にあった。また、車社会や冬場の雪環境などもあって成人男女の平均歩行数は全国最下位層にあった。さらに、飲酒慣習者の割合は男女ともに全国に比べて高く、高い喫煙率と受動喫煙には問題を抱えていた。 一方、自殺者については、計画策定までは全国水準を大きく上回り、若年層ではなくて40代以降の中高年層が中心となっていた。自殺死には経済的問題や周囲・社会とのコミュニケーション、病気問題など様々な要因が複雑に絡まるが、その基盤には社会的な孤立問題が横たわっていると見られている。 このような状況を踏まえて、具体的には以下のような目標が設定され、平均寿命と健康寿命の延伸に向けてがん・生活習慣病対策が展開されることになった。 ① 無理のない減塩推進ムーブメント創出事業 ・減塩商品の入手環境の整備と県民の健やか力の向上 ② 糖尿病と歯周病を切り口とした医科・歯科連携事業 ・連携体制の構築と県民啓発、糖尿病と歯周病の重症化予防 ③ あおもり型健康経営プロモーション事業 ・健康経営事務所の業種拡大と健康づくり・取り組み内容の活性化 ④ 女性発信! 農業者・漁業者の健やか力向上事業 ・農協と漁協の女性部と連携した健康づくりの推進 ⑤ 県民の未来と健康を守る! タバコ対策事業 ・受動喫煙防止の推進と喫煙防止対策の推進 また、がん対策の推進計画として、がん予防・がん検診の充実や患者本位のがん医療の実現などを推進するとしている。さらに、本県の高い自殺率の低減に向けて以下の重点課題が設定されて計画的に取り組むことになった。 ① 高齢者対策……高齢者の居場所づくり支援事業、心の健康づくり支援事業 ② 勤務・経営問題対策……アルコール依存症家族支援事業、事業所の健康教育の実施事業 ③ 子ども・若者対策……SNSを活用した相談事業、学校でのSOS出し方教育の普及事業 3. 青森県における死亡要因の分析 全国の死亡者の死因動向について見ると、1981(昭和56)年以降は一貫して悪性新生物(腫瘍)が増加し、2018(平成30)年には死因の27.4%を占める第1位因子となっている。次いで心疾患が1985(昭和60)年から脳血管疾患を上回って14.3%を占める第2位の死因となり、人口の高齢化や平均寿命の長命化を受けて老衰が8.0%で第3位になった。また、7.9%とほぼ同じ構成比の脳血管疾患が第4位になっている。
なお、主要な死因の構成比率は、性別・年齢別にも相違している。80歳以上になれば老衰や肺炎が増加し、40歳代から高齢者層まで心疾患が一定程度を占めている。また、第一位の死因である悪性新生物は50代~70代前半までがピークであり、自殺は10代後半から30代で多くの比率を占めている。なお、脳血管障害は高齢者層だけでなく、30代後半から高齢者層まで一定の比率で幅広く広がっている。 次に、青森県の死因構造について見ると、全国の死因構造と類似したものとなっている。悪性新生物が第1位で、次いで心疾患、脳血管疾患、肺炎、老衰と続いている。悪性新生物の比率が非常に高いことが再認識される。また、性別には男性は肺炎や不慮の事故、肝疾患が相対的に高く、女性は脳血管疾患や老衰、腎不全の比率が高い。男性の肺炎は全国1位の高い喫煙率が反映していると考えられ、職場での不慮の事故死や飲酒による肝疾患も連想される。女性は高い塩分摂取による高血圧症を反映して脳血管疾患や腎不全が相対的に多く、平均寿命が高いため老衰の比率も男性を上回っている。地域別の相違は大きくはないが、津軽地域と青森地域で悪性新生物が若干多く、上十三地域で低くなっている。肺炎は下北地域と西北五地域で若干多く、脳血管疾患は八戸地域と下北地域で多い。また、糖尿病は上十三地域と八戸地域で比率が若干高くなっている。
ここで、青森県の死因別特性を全国と比較するため、主要死因別の特化係数について検討する。特化係数は人口動態調査(2018(平成30)年)の主要死因別死亡者数の青森県と全国における各々の構成比割合(青森県構成比/全国構成比)である。1.0で全国と同一割合となり、1.0を多く上回るほどその死因が強い特徴を示すことになる。図表11に示されるように、青森県の特徴としては血管性及び詳細不明の認知症が1.39で一番高く、次いで糖尿病の1.36、脳血管疾患の1.17、腎不全の1.09、肺炎の1.07が続く。糖尿病や脳血管疾患については、TVなどのマスメディアで度々に指摘されているが、認知症の特化係数が一番高かったのは意外に思われた。
次に、この特化係数と各々の構成比をセットで分析すると、青森県が「短命県返上」として取り組むことが望まれる戦略的領域を明らかにすることができる。特化係数が高い死因は、適切に取り組むことで全国と同様な水準まで死亡率を低減させることが相対的に容易と判断される。当然な事として、地域の気候風土や歴史文化的な条件、特有な生活習慣、あるいは病気等の特性などの影響も強く、全てを全国平均で論じることは困難である。しかし、他地域では死亡率を抑え込むことに成功しているわけであり、取り組む価値は高いといえる。また、戦略的に対応するのであれば、特化係数と構成比がともに高い死因を対象にすることが一番効果的と思われる。しかし、図中の破線部分には主要死因は存在しないので、次善の選択となる。第1は肥満などが因子となる糖尿病であり、第2は塩分過剰摂取などが因子となる脳血管疾患や腎臓病である。また、喫煙習慣が大きなリスクとなる肺炎も戦略的領域の対象にすべきと考えられる。現在の生活習慣を見直し、健康的な生活スタイルに変革していくことが期待される。なお、特化係数は1.01とほぼ全国平均に近い悪性新生物は容易に改善することは困難ではあるが、構成比率も高く低減の努力を傾注すべき対象といえる。早期発見・早期治療を実現すべく、健康検診システムの構築・運用などを的確に推進することが期待される。 4. 今後の政策展望 以上で検討したように青森県の平均寿命は延伸されてきているが、他の都道府県と比較すれば依然として最下位を争う状況が継続している。確かに、上述したような健康政策が現在も実施されており、医療関係者や知事を始めとした行政担当者の努力も認められるといえる。今後も主要死因別に対応した予防医療的な戦略や社会的な意識・環境整備の充実・強化が期待される。近年、滋賀県は平均寿命を大幅に延伸して全国トップレベルに到達しているが、この顕著な成果達成には全県的な戦略的な取り組みがあったと指摘されている。滋賀県では企業やNPO法人、大学、地域団体、自治体などが広く連携して健康づくりを推進している。「健康しが」共創会議を設立し、健康なひとづくり&健康なまちづくりに注力している。健康増進を目標に栄養・食生活、身体活動・運動、休養・心の健康、飲酒・喫煙の改善、歯・口腔の健康に取り組んでいる。また、生活習慣病発症予防や重症化予防のためにがん、循環器疾患、糖尿病、COPD対策に努力している。一方の健康なまちづくりでは、健康を支援する住民活動推進として健康推進員活動、スポーツ推進員活動、ボランティア活動、民生委員活動、体操サロンなどの活動を積極化し、健康を支援する社会環境整備として受動喫煙ゼロ、健康づくりサポート、企業の健康づくり、禁煙サポート、総合型地域スポーツ、公園・散歩道整備などを図っている。これにより、県民の行動変容と健康づくりの多様な支援が整うことで、社会全体の意識や生活の質が向上され、健康寿命の延伸につながったといわれている。 青森県の実施政策の内容などは滋賀県の施策と類似しており、その方向性としては間違っていないと考えられる。今後は如何に健康づくり活動を全県的に推進していくことができるかが問われているといえる。 |