【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第9分科会 「やっぱはまりで、ぬぐだまる」(津軽弁)

 高齢化率55%超え、人口1,700人の山間へき地の村で、自治労組合員が地域の住民とともにまちづくりNPOを2005年に結成以来、地域の課題解決に向けて取り組んで来ました。高齢者・障がい者の在宅生活を支援する小規模多機能型居宅介護事業を軸にして、地域の住民が困っている病院への送迎や配食サービス、気軽に寄り合えるコーヒーハウスの運営など、地域の課題を自らの仕事にしてきた・して行く自治研活動を紹介・提案します。



地域の課題を仕事にして15年目
―― 介護でまちづくり ――

奈良県本部/自治労奈良公共サービスユニオン・東吉野村まちづくりNPO 蛯原能里子・辻本 恵則

1. 「高齢者も障がい者も」尊ばれる地域づくりをめざして

 今年春からの新型コロナウイルス対策は、あらゆる行事の中止や介護施設・病院での面会謝絶、お盆の里帰り自粛など、人と人の接触を避けざるを得ない内容となっています。
 私たちの地域では、住民が仕事を求め都会に流出し、子どもが就学を機会に人数の多い学校に転出する、結婚を機会に新居を都会にと、あらゆる機会に人口が減少し続けた結果、高齢化率が55%を超える過疎化の進行で高齢者・障がい者が地域で孤立する実態にあります。
 こうした状況の中で、今回の感染症対策で地域の分断は加速するのではないか、と危惧するところですが、この間、民間の側から「介護で地域づくり」に加えて、感染症対策を意識した取り組みを開始しました。「高齢者も障がい者も」尊ばれる地域づくりをめざし取り組んできた15年間を振り返るとともに最近の取り組みを次に紹介します。
〇2005年9月 ・東吉野村まちづくりNPOを結成、翌年1月に法人登記
〇2008年9月 ・過疎地有償移送サービス開始
〇2010年6月 ・あいの家デイサービス開始
〇2011年1月 ・居宅介護事業・訪問介護事業を開始
〇2011年4月 ・あいの家障がい者福祉サービス開始
〇2016年2月 ・あいの家配食サービス開始
〇2016年10月 ・あいの家コーヒーお茶ハウス開店
〇2017年3月 ・小規模多機能型居宅介護事業所「あいの家多機能ホーム」を開設
〇2020年4月 ・あいの家多機能ホーム・サテライト「オオカミの里」を開設し、8月デイサービスを休止
〇2020年4月~ 日用品の販売、子どもの遊び場設置、「祭壇」の常設、看取り利用者さんの受け入れ開始

あいの家・東吉野村まちづくりNPO事務所

私たちが暮らす奈良県東吉野村高見地区

2. 「自らが起業する」発想

(1) 住民の困りごとを解決するため、自らが起業する
 地域の課題は、地域住民自らが解決に向けて取り組むものと捉え、体制づくりに取り組んできました。まず行ったのは、この地に住む方々が「何に困っているか」の聞き取り調査でした。多くの課題が見つかりましたが、私たちの力量で取り組みが可能なのは、「何か」「誰が行うか」「活動資金をどうするか」など、協議した結果、東吉野村まちづくりNPOを結成し80人の会員を獲得したこと、その会費で中古車を購入、運転手を探し移動手段に困っておられる住民を、門口から目的地まで送迎する有償移送サービス事業でした。バスの乗り降りや最寄り駅までの間が歩けない住民、または、荷物を持って乗降できない住民の移動手段として、陸運局・村行政と協議の上、有償の運行を普通乗用車で2006年から開始、現在も継続しています。自治研活動を行っている私たちは、誰もが地域住民であり、地域の中で公務を遂行していますが、どうしても公務で取り組めない地域の課題は、地域住民として解決するため、自らが起業してきました。住民側からして、行政で行ってくれないのなら「自らが地方自治を行えばいい」、こうした発想は、故須田春海さんが奈良に来て頂いたおりにお話し頂いた「教え」であり、今後も行動に移していく基本として大事にしています。

(2) 地域の声を行政施策に反映させるために
 「官民協働」が叫ばれて久しいが、私たちの地域では、村の行政施策と住民の願いが微妙にずれる事態が生じています。住民の側から提案した施策が行政窓口で門前払いされる事例が発生しています。
 こうした事態に、私たちの代表を村議会に送り出し、行政施策の点検や公平な運営がされているかチェック機能を発揮すること、住民の声を代表して村政に反映させていく提案をするなど、政治活動を展開しています。
 現役自治労組合員で東吉野村議会議員を務めるのは、8人の議員のうち唯一女性一人で奮闘している私たちの「なかま」です。封建的風土がまだまだ残る私たちの地域で、2年前に立候補を決意し、トップ当選を果たし住民の声を村政に反映すべく3年目の活動に取り組んでいます。私たちの代表を政治の場に送り出していく取り組みは、自治研活動の重要な部分であり、政治活動を通して地域の課題を解決する道筋を追求していく取り組みであると捉えています。

3. 住み慣れた地域や家で最期まで暮らし続けたい願いに応えるために

(1) 日用品頒布を始めました
 日用品の買い出しは、車で村外に出かける必要があります。一部の地域で、食料品小売り店はありますが、欲しい物をいつも買い揃えられる訳ではありません。そこで歯ブラシ、慶弔袋、洗剤、ティッシュペーパー、殺虫剤など、あいの家では、感染症対策として身近な場所で日用品が調達できるよう展示頒布を行うこととしました。欲しい商品がない場合、買い物代行(有料)を行っています。
 介護用品で紙おむつ、パットなどの品物も扱っています。風通しのいい村の中で感染症対策も含め、買い物ができ、お届けもする体制を整えています。買い物代行は、以前から行っており、日用品の頒布は、2020年6月より始めました。

(2) 「あいの家に帰りたい」申し出を受けて
 2020年4月、体調不良で入院していたあいの家利用者さん93才男性に肺がん末期がみつかりました。三ヶ月間近くの入院生活で「あいの家に帰りたい」との申し出が病院を通して本人からありました。1人暮らしを続けてこられた男性は、在宅生活で訪問介護、通い、泊まりを組み合わせて利用していた方ですが、病院、家族、施設のカンファレンスを行い、あいの家で連続をして泊まって頂くこととしました。帰って頂いて3日後、脈拍の低下、血中酸素濃度の低下が見られ、呼吸も苦しい状態になり、朝5時の段階で病院搬送か、様子を見るか選択をご家族、本人、そして病院の対応を協議した結果、そのまま見守る事としました。幸いに血圧等も普段時に戻り、半月間が過ぎています。
 利用者のご家族からはあらためて、手紙が届きました。「……今後、病院に戻るような状況になったとしても、父本人、私たちも父の意思に沿い望みませんので、その旨、改めてお伝えしたく手紙を差し上げます。……」こうしたことを受けて、私たちには、「看取りを行う」施設として研修も受け、今回の利用者さんから学びながら、その体制づくりに取り組んでいます。退院をしてあいの家に戻った時、「もうどこにもやらんといてや」(どこにも行かさないで欲しい)と、本人から受けた言葉を大事にしています。

(3) 子どもの遊び場を設置しました
 私たちの地域では、高齢者・障がい者の孤立とともに子ども達が過疎化の中で「あそぶ場がない」実態にあります。子育て中の保護者達が同じ悩みを持つ者同士の交流ができなくて悩んでいます。過密にならない野外で子どもを見守りながら交流できる「子どもの遊び場」を設置しました。ブランコ、鉄棒、ボルダー、ゆらゆら渡り、滑り台、お絵かきボード、砂場を設置し公開しています。2020年4月1日から開設しています。なお、資金は、ニッセイ財団助成事業です。

(4) 「あいの家コーヒーお茶ハウス」に「祭壇」を常設
 あいの家では、身近な場所に会場があって、親しい方々の見送りを受けられる葬儀を模索してきました。昨年に地元自治会から寄付を頂いた葬祭用の「祭壇」を、あいの家コーヒーお茶ハウスの奥座敷に常設しました。死を闇雲に怖がったり、忌み嫌うのではなく、今の今を生き生きと暮らすために、自らの「死」について、家族と語り合うことが必要ではないでしょうか。
 最近では、感染症予防対策が不可欠となってきたことから、家族葬が多くなってきています。会場は、町場で行うもよし、身近な所で行うも良し、選ぶことのできる場をあいの家コーヒーお茶ハウスに設置をしましたので、見学のご希望のある方は申し出て下さい、と住民に広く啓発をしています。
 なお、利益追求のための「祭壇設置」ではなく、葬儀について困っている方々へのサービス提供と感染症予防対策の一つとして、葬儀の形態を変えていく目的であることを誤解のないように啓発内容に付け加えました。従って利用価格は、安くサービスが提供できるよう対応をしていきます。誰もが訪れる「死」について、地域の中で話し合っていきたく思います。2020年7月に設置しました。

日用品領布

葬儀の「祭壇」

子どもの遊び場

4. メンバーの発想、知恵を寄せ合う

(1) 担い手の育成
 「介護でまちづくり」理念を常に点検しながら、スタッフの発想と知恵を出し合うしくみづくりに取り組んでいます。スタッフに知識と技術を会得してもらう機会として取り組んでいるのが、「介護職員初任者研修講座」です。
 今年四月から11人の受講生で開講しています。うち9人があいの家スタッフであり、研修内容を日頃の職務の中で発揮することができるかどうか、問いかけているところです。感染症対策で一時期の中断を強いられることになりましたが、再開をして11月には閉講式を迎える見込みです。
 こうした介護研修に止まることなく、地域づくりを視野に入れた人材育成が重要と考えています。これまでの実績に15年先を見通した取り組みの展開をリードしていく人材を確保することが急務となっています。

(2) 地域には「何か」をしている「誰か」がいる
 介護と福祉で地域づくり(街づくり)に取り組む私たち以外に、身近な所で同じような目的を持って活動している人々がいます。たとえば村の中には小水力発電を復活させた方々、子ども食堂を継続している若い母親達など、同じ地域の中で活動しているのに、今までつながることができていませんでした。
 過疎地が進行する地域にあって、孤立しているのは、高齢者や障がい者だけでなく、子ども達、母親も子育ての有り様を巡って孤立しています。私たちは、今まで介護と福祉のまちづくりを通して、高齢者と障がい者に視点を当ててきましたが、地域を見わたした時、少子化の問題や環境問題に対応した小水力発電の復活は、地域づくりの重要な取り組みであることに気づかされました。こうした取り組みをされる方々と連携することで、この地の住民パワーが増幅されることは間違いのないことです。閉塞感の漂う山村へき地にあって、地域住民の連帯、連携を追求し、施策の柱としていくことが、限界集落が生き残れる唯一の道筋だと捉えています。

5. 活動のための資金について

 企業・団体が社会的課題解決のために、NPOなどを対象に助成事業を公募しています。直近に私たちの取り組みを採択頂いたのは、ニッセイ財団助成事業です。東吉野村まちづくりNPOとしてこの10年間で、丸紅基金、福祉医療機構、日本財団の助成などで採択頂き活動資金としています。
 地域の課題解決に向けて取り組むことを継続できているのは、介護保険事業の収益を母体とする、こうした助成事業のおかげです。情報を収集し知恵を絞って地域づくりのアイデアを提案・提起し続けることで、活動資金はつながっていくと捉えています。
 介護保険事業について、デイサービス、訪問介護、ケアマネ事業と展開してきたのを今年8月で、小規模多機能型居宅介護事業に集約しています。つまり3事業を休止し全ての機能を持つ事業に一本化しています。山間へき地の過疎化が進行する地域にあっても介護保険事業は充分に展開できる見通しが、幅のある地域づくりに活動資金をまわせる状況にあります。

6. 介護でまちづくり

 介護保険制度に基づく事業展開で「まちづくり」ができることを、立証できたと私たちは考えています。特に、高齢化率が非常に高い東吉野村において、介護を必要とする割合が高齢化率と同様に高いわけですから、介護でまちづくりを考えない方が不自然です。介護とは、どのように機械化が進もうと人の手によってのみ成立するものです。従って、地域に仕事が生まれ、それも若者から団塊の世代や米寿を迎えても体が動き、やる気さえあれば、お互いカバーし合い仕事ができます。例えば、喫茶店でコーヒーを入れる、軽食をつくる、来店者の対応などの仕事をして頂いています。
 介護職員初任者研修は、介護技術を学ぶとともに、ひとりひとりの人権感覚を磨くことの重要性を確認し、スタッフ間の連携や利用者さんとの対等な関係で介護に携わることの大切さを身につけてもらうことをめざしています。
 在宅介護を軸に据えながら、地域の交流の場であるコーヒーハウスの運営や買い物、通院のための移送サービス、食事づくりに困っている方への配食サービスの実施など、実践済みのところです。
 10年前は、夢のような構想でしたが、これからの10年も介護でまちづくりにこの夢を持ちながら、自治研活動をさらに実践し提案し続けようと話し合っています。

今年開設した小規模多機能施設「オオカミの里」

古民家を改修増築した多機能ホームで避難訓練