【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第9分科会 「やっぱはまりで、ぬぐだまる」(津軽弁)

 「子ども・子育て支援新制度」の施行により、福山市においても「福山市放課後児童クラブ整備方針」が提示され、2020年4月の完全実施にむけた、施設整備や事業運営の向上についての方針が示されました。本レポートでは、これまでの取り組みの歴史や、多様化する保護者ニーズに対して、利用児童が安全で安心して過ごせる支援員体制の確保、環境改善にむけた取り組みなどについて報告します。



子ども子育て支援新制度への取り組みについて


広島県本部/自治労福山市職員労働組合連合会・放課後児童クラブ部会

1. はじめに

 2015年4月「子ども・子育て支援新制度」の施行により、放課後児童クラブ事業について、量の拡充や質の向上がはかられることとなり、福山市においても、2017年1月に「福山市放課後児童クラブ整備方針(以下、「整備方針」とする。)」が提示され、2020年4月の完全実施にむけた、施設整備や事業運営の向上についての方針が示されました。
 整備方針の主な内容は、次の通りです。
 ・対象年齢……小学校に就学している児童(全学年)
 ・集団の規模……概ね40人以下
 ・施設・設備(1教室あたり)……児童1人につき概ね1.65m2以上を確保
 ・職員体制(1教室あたり)……2人以上配置。内1人は有資格者
 本レポートでは、子どもたちの安全・安心な居場所づくりを基底に据えながら、これまで取り組んできたこと、そして現在の多様なニーズを踏まえ、公だからこそできる放課後児童クラブ運営について現場の取り組みを報告します。

2. 福山市の放課後児童クラブ事業

 1966年文部省による「留守家庭児童補助事業」により、福山市では、保護者の就労支援や子どもたちの健全育成を目的とした「鍵っ子」対策として、樹徳小学校内に「留守家庭児童会」を開設しました。その後、「福山市校庭開放事業開設要綱(1972年)」が制定され、「校庭開放教室」となり、当時劣悪であった雇用・労働条件の改善と児童へのよりよいサービスの提供を求めて「校庭開放指導員協議会」が結成されました。しかし、厳しい環境のなかで運動の前進がはかれないことから、福山市職員労働組合へ相談し1981年に協議会の仲間51人が福山市職員労働組合へ加入し、1983年「校庭開放教室部会」が誕生しました。
 そして福山市が中核市に移行した1998年4月には、放課後児童クラブ事業の条例化に伴い、部会名も「放課後児童クラブ部会」となりました。
 以降、現場での議論と実践、利用者ニーズの把握に努めながら、必要な児童すべての受け入れや、利用する児童にとってのよりよい環境整備、そこで働く指導員(現:支援員)が安心して働ける環境づくりのため、学校の余裕教室改修や、教室の分割化(プレハブ設営などによる規模の適正化)、特別支援児童を含む利用児童の拡大等を行いながら、2007年には全小学校区で開設となりました。
 2020年度には「子ども・子育て支援新制度」の完全実施に伴い、全クラブ6年生までの受け入れがはじまりました。(2020年5月1日現在69クラブ・149教室・在籍児童数6,192人)
 これまでも、法改正や市民ニーズを敏感に把握し、自分たちでできることを議論しながら、量の拡充や質の向上をはかってきました。しかし、利用児童数の増加とともに児童や保護者対応も複雑化し、さらには支援員不足による配置や支援の課題など、まだまだ乗り越えていかなければならないことが山積しています。
 引き続き、現場で仲間とともに議論し実践を積み重ねながら、公としての放課後児童クラブ事業の充実にむけ取り組まなければなりません。

3. 子どもの安全・安心、保護者のニーズに対応するため

(1) 児童受け入れの拡充の取り組み
① 三期休業期間における開設時間の拡大
 春・夏・冬休みといった学校の三期休業中は、当初、8時30分~13時30分の半日開設でした。保護者の要望を受け、部会でも繰り返し議論し、1999年7月に市内6か所に、8時30分~16時で開設する「拠点クラブ」を設け、試行運営をはじめました。この際、拠点クラブの支援員の負担にならないよう、周辺の半日開設のクラブの支援員が交代で、協力しながら、拠点クラブの勤務にあたりました。
 こうした取り組みを経て、保護者ニーズに応える形で段階的に開設時間を拡大し、現在では全クラブで、平日は8時30分~18時、土曜日は8時30分~17時の開設となっています。
② 希望する児童の全員受け入れ
 放課後児童クラブの利用を希望し、かつ特別支援を要する児童について、当初は「条件が整えば受け入れ可能」というものでした。しかし「入会希望者は全員入会させること」を要求に掲げ、自らも研修や実践交流を積み重ねながら、受け入れにむけての取り組みを行った結果、特別支援児童についてもクラブを利用できるようになり、その後、利用可能な学年も段階的に引き上げていきました。現在では約460人の特別支援を必要とする児童が在籍しています。
 また、利用区域についても、放課後児童クラブについては、児童の自宅所在地や通学経路の状況等を考慮する中で、利用区域を小学校区外まで拡大し、希望するすべての児童の受け入れを行っています。
③ 全学年受け入れ
 整備方針に基づく2020年度からの全学年受け入れにむけ、2016年10月より3クラブ(霞・高島・福相)で受け入れを試行実施し、大きな課題は生じなかったことから、2017年度から本格実施としました。児童のクラブ利用見込み数の推移を踏まえながら、必要な施設整備が完了したクラブから順次全学年の受け入れを行い、2020年度からすべてのクラブにおいて6年生までの受け入れが実施されています。
 高学年を受け入れるにあたって、高学年の学習時間・活動時間の確保、工作・遊びの工夫、役割・育成などのさまざまな課題も生じており、部会で議論しながら改善にむけた取り組みを進めていく必要があります。

全学年受け入れ実施クラブの推移
実施年月 新たに全学年
受け入れ実施
したクラブ数
全学年受け入れ実施クラブ名
2016年10月 霞・高島・福相
2017年4月 有磨・柳津・大谷台・内海・常金丸・箕島・中条・山南・東村
10月 光・緑丘・伊勢丘・網引
2018年4月 14 松永・津之郷・桜丘・駅家西・新涯・野々浜・日吉台・明王台・
熊野・藤江・長浜・新市・金江・竹尋
11月 深津・南・大津野・瀬戸・西深津
2019年4月 11 鞆・東・今津・駅家・御幸・山手・千田・宜山・旭丘・戸手・湯田
6月 西
11月 樹徳・手城・泉・幕山・春日・神辺
2020年4月 17 水呑・川口・引野・旭・曙・坪生・加茂・久松台・川口東・多治米・神村・駅家北・赤坂・蔵王・本郷・御野・道上
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④ 規模の適正化
 放課後児童クラブの利用者は、女性の社会進出や共働き家庭の増加など社会情勢の変化によって、年々増加していました。一方、児童が健全に過ごすため、1教室40人以下とする規模の適正化の考えが当局より示されていましたが、多くのクラブで、教室の分割、教室の増設が必要となり、結果として教室が不足する状況にありました。
 教室の不足に対して、学校の空き教室の活用や、プレハブの設置による対応がなされてきましたが、二階建てのプレハブ教室を設置する際には、児童の安全面での配慮や、過ごしやすい環境づくりの観点から、設計段階から部会の意見を反映させる取り組みを行いました。
 そうした規模の適正化および教室の確保により、大規模クラブの子どもたちの安全と快適なスペースが確保され、クラブの活動内容が充実されてきています。また、スペースの改善から、クラス編成における特別支援学級在籍の児童への配慮もしやすくなっています。

二階建てのプレハブ教室(4教室)

平屋のプレハブ教室

規模の適正化に伴い教室の分割・増設を実施したクラブ
実施年月 適正化
クラブ数
適正化を実施したクラブ名
2008年2月 緑丘
2009年1月 瀬戸
2月 松永・手城・川口・駅家・御幸
3月 新涯
4月 曙・川口東・駅家東・湯田
2010年2月 坪生・千田・春日・戸手
3月 水呑・深津・駅家西・多治米・神辺
2011年3月 樹徳
2012年3月 加茂
2014年4月 伊勢丘
2015年4月 駅家・御幸・緑丘
10月 湯田
2016年7月 日吉台
2017年10月 光・緑丘・伊勢丘・網引
2018年4月 松永・新涯
7月 西
11月 深津・南・大津野・瀬戸・西深津
2019年4月 10 東・今津・駅家・御幸・山手・千田・宜山・旭丘・戸手・湯田
11月 樹徳・手城・泉・幕山・春日・神辺
2020年4月 15 水呑・川口・引野・曙・坪生・加茂・久松台・川口東・多治米・神村・赤坂・蔵王・御野・道上・駅家北

(2) 事業内容の充実にむけた取り組み
① クラブ間における支援・派遣体制について
 在籍児童数に基づき支援員配置を決定し、クラブ運営を行っていく中で、支援員が休暇などを取得する際のフォロー体制として、他クラブから支援員が赴く『支援』を行っています。クラブの所在地(エリア)毎でブロック割りを行い、近隣のブロック同士を合同ブロックとしてまとめ、その合同ブロック内に「調整担当クラブ」を位置づけています。支援順番表を作成し、その表を基に各クラブの負担が偏らないよう自分たちで調整しながら『支援』を実施しています。(2020年度現在:全69クラブ・11ブロック・5合同ブロック)
 この体制は、お互いが協力しあい、助け合うことを基本として、課題があれば部会自らで見直しをはかってきたものであり、子どもの安全・安心を確保し、より必要とされる放課後児童クラブとしていくため、支援員がお互いに「支援していく」「支援させていただく」という気持ちを根底に据えつつ全体で取り組んできました。
 整備方針に沿った運営の中、分割クラブも増え、支援員の複数体制を確保していくため、引き続き支援員の確保を要求していかなければなりません。現状の支援員数でどのように働きやすい職場環境を構築していけるかを、当局任せではなく、自分たちで考え、当局と議論する中で、引き続き安心して子どもが預けられるクラブ運営をめざして取り組みを進めています。
② クラブ間のサービスの平準化
 部会では、子どもの状況や保護者のニーズなどから各クラブでのカリキュラムの違いが生じていた実態をふまえ、市内のどこの放課後児童クラブを利用しても同じサービスが受けられるようカリキュラムの見直しを行ってきました。
 また、その他の活動として、合同ブロックでの学習会を年に2回と、状況に合わせての学習会を随時行いながら、支援体制などについての話し合いをしています。また、課題別学習会を行い、その年のテーマに沿ってクラブで困っていること、工夫していることなどを持ち寄って交流しています。出された成果と課題を整理して、当局にも申し入れ、その後の活動につなげています。
③ 障がいのある児童やとくに配慮を必要とする児童への支援
 放課後児童クラブを利用している障がいのある児童やとくに配慮を必要とする児童の健全育成を支援していくため、障がいについての知識・理解を深める研修の実施や児童クラブ学校連携推進員による巡回指導の充実をはかっています。
 また、学校をはじめ、就学前に児童に関わってきた幼稚園・保育所などと、これまでの児童の状況などについて緊密な連携をはかり、安全確保や継続した支援に取り組んでいます。

4. 今後にむけて

 2020年度から実施された「子ども・子育て支援新制度」に伴う、すべてのクラブでの学年拡大、また規模の適正化により、教室数および利用児童数も増加してきています。その中で、三期休業中の職員体制の確保が困難な状況が続いており、業務に負担が出ているということについての改善策を当局に求めていきます。
 施設整備の課題としては、学校を含め市内公共施設にはほとんどイントラネット環境が整備されてきていますが、放課後児童クラブには、1クラブに1回線のみの整備しかされておらず、複数教室で、各教室が離れた場所に設置されているクラブなどは、緊急時など、迅速な情報共有や連絡などに支障が出る場合もあり、現在、早急なネット環境の整備を要求しています。
 子ども達が放課後を安心して過ごせる場、育ちの場として放課後児童クラブの必要性が高まるとともに、利用者のニーズも多岐にわたっています。
 子育てを取り巻く環境が変化している時代にあって、公だからこそできる、児童や保護者視点に立ったきめ細やかな運営を心がけ、必要とされる事業となるよう、最前線で働く私たちが、地域・利用者のニーズをしっかり把握し、質の高い子育て支援体制の構築をはかるために何が必要で、どう対応していかなくてはならないのかを、放課後児童クラブ部会員全員で知恵を出し合い実践していかなければなりません。そうした児童や保護者に寄り添いながら取り組んでいく活動を弛まなく進めていかなければ、これから公として必要とされる児童クラブ運営は困難だと思っています。
 今後も部会員一人ひとりが、児童の健全育成と安全・安心のために、社会的責任を担っているという自覚とやりがいをもって、支え合いながら取り組んでいきます。