【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第9分科会 「やっぱはまりで、ぬぐだまる」(津軽弁)

 人口減少と少子高齢化が進行しており、平均寿命は延びていますが、健康寿命は長くない状況です。今日、平均寿命と健康寿命の差が大きいことが問題となっています。本レポートでは、誰もが安心して暮らせる地域づくりをめざして、健康寿命を延ばすための提言として、社会福祉協議会が取り組む地域共生社会づくりに関し、「にこにこサロンあさひ(常設型サロン)」の立ち上げに関する地域づくりの取り組みを報告します。



誰もが安心して暮らせる地域づくりをめざして
―― 健康寿命を延ばそう ――

広島県本部/三原市議会議員 高木 武子

1. はじめに

 三原市は2005年に1市3町が合併しました。
(人口動向分析)  (人)

 

2005年

2015年

2030年(予測)

2050年(予測)

総人口

104,196

96,194

81,972

61,963

年少人口

13,594

11,719

9,069

7,145

生産年齢人口

63,803

52,933

41,844

31,693

老齢人口

26,714

31,542

31,060

27,799

 人口ビジョンの動向を見ると、人口減少と少子高齢化が進行しています。人生100年の時代を迎え、平均寿命は延びていますが、健康寿命は長くありません。
 健康寿命とは、介護を受けることなく一人で生活できる期間であり、長寿でも不健康期間が長いという結果が、「厚生労働省都道府県生命表」でも明らかになっています。
 広島県 平均寿命(2016年)女性 87.33歳 男性 81.08歳
     健康寿命(2017年)女性 73.62歳 男性 71.97歳
 平均寿命と健康寿命の差が大きいことが問題になっています。そのような状況の中、今回は健康問題について、社会福祉協議会のサロン立ち上げに関する地域づくりの取り組みを報告します。

2. 施策動向を踏まえた社会福祉協議会の取り組み

 少子高齢化の進行により、ひとり暮らし世帯や高齢者世帯が増加する中、家族のあり方や暮らしの変化により、人と人の関係性が希薄化していることが社会問題となっています。さらに近年では、生活困窮や社会的な孤立などさまざまな問題が絡み合い、複数の生活課題を抱えて暮らす人への支援が大きな課題となっています。これらの課題に対し、介護保険制度の改正や生活困窮者自立支援事業など、新たな制度の施行に続き、社会福祉法の一部が改正されました。施策の方針には、地域住民や地域の多様な主体が「我が事」として参画し、「丸ごと」つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい・地域をともにつくっていく「地域共生社会」の実現が盛り込まれています。
 地域共生社会の実現にむけて、制度やサービスの充実だけでなく、改めて、地域住民が主体的に、身近な圏域(町内会・自治会内)の地域課題を把握し、その解決をはかる住民活動の育成やその環境整備とともに、住民活動だけでは解決ができないことを、包括的に受け止める体制づくりや福祉専門職との連携も求められています。
 社会福祉協議会では、町内会・自治会等が実施する「ふれあい・いきいきサロン」、「常設型サロン」、「地域見守り活動」、「生活支援活動」などの小地域福祉活動を通じ、同じ地域の住民同士がお互いを認め合い、つながりづくりを支援するとともに、住民と専門職との連携を推進することで、誰もが孤立することなく支え合う地域共生社会づくりに取り組んでいます。
 今回は、2019年7月に旭町と古浜地域が合同で取り組みをスタートさせた、「にこにこサロンあさひ(常設型サロン)」を通じた地域づくりの取り組みをご紹介いたします。

3. 地域概要

   (人)

地  域

三原市全域

旭 町
旭町町内会
旭町自治会
仙場町内会

古 浜
古浜町内会

人  口

92,669

515

623

高齢者数
(高齢化率)

32,312
(34.87%)

258
(50.10%)

153
(24.56%)

世帯数

43,725

276

301

ふれあいサロン活動数

204か所

1か所

1か所

  (2020年3月31日現在 三原市データより)

 三原市は広島県の南部に位置し、山陽新幹線・山陽本線・呉線・三原港・広島空港・山陽自動車道など主要交通が整っており、広島県における交通の要衝です。2005年3月に旧三原市、豊田郡本郷町、御調郡久井町、賀茂郡大和町が対等合併し、現在の三原市が誕生しました。
 旭町は、漁師町で、現在も漁民の親戚関係が多い地域です。高齢化率が高く、その上サロンがある町内は、3町内会のうち1か所で、活動が年に数回と少なく、集いの場を求める声も聞かれる地域でした。
 古浜町は、海を塩田に開拓した埋め立て地域です。比較的高齢化率が低く、区画整理も進み、若い世代が新たに転居し、人口も増加傾向にあります。集会所で実施されるサロン活動がありますが、車通りの多い国道を挟んでいるため、行き来の難しさから一部の地域の人の参加にとどまっています。

4. 活動のきっかけと設置までの経緯

内 容

2018

11

・社会福祉協議会が各町内会、民生委員、サロンなどの福祉活動者を対象に、制度動向を踏まえ、これからの地域福祉について考えることを目的に「地域福祉懇談会」を開催。参加者の一部が、元気づくりとつながりづくりを目的とした「サロン活動」に関心を持たれる。

2019

・趣旨に賛同した住民よりサロン立ち上げの意向があり、説明を行う。
地域状況を踏まえると、将来的に1自治会の活動では発展的な取り組みは難しいことが予想され、旭町全域と古浜を含む4町内合同のサロン活動として設置していくことを検討する。

2019

・趣旨に賛同した住民へサロン事業の説明と運営方法について打ち合わせを実施。
・関係者(各町内会長、民生委員等)へ相談し、4町内合同サロンとして設置する了解をいただく。
・プレサロン(百歳体操)がスタート。

2019

・関係者(各町内会長、民生委員等)へ常設サロン事業の説明と運営委員会の日程を調整する。
・プレサロン(百歳体操)継続。当初8人だった参加者は、口コミで20人まで増加。

2019

・にこにこサロンあさひスタート
・第1回 運営委員会開催


地域福祉懇談会の様子

プレサロン(百歳体操)の様子

5. 活動概要(2019年度)

(1) 活動状況
活動名 にこにこサロンあさひ
日  時 毎週水曜日 9:30~11:00
場  所 旭町自治会集会所
対  象 旭町・古浜にお住まいの方
参加者数 1日平均25人程度
参加費 無 料
開催日数 35日(2019年7月10日~2020年2月26日)
※3月から新型コロナウイルスの影響で中止。
活動内容 ① 血圧測定
② 百歳体操
 (※高知県発祥のDVDを見ながら椅子に座ってできる筋力アップの体操。三原市がDVD・重りの貸出、出前講座の実施などを通じて推奨する。)
③ 休憩(水分補給)
④ 健康に関する情報提供(感染予防、口腔体操など)
⑤ 専門職(社協・包括・病院)による支援
⑥ 健康ダンス

(2) 運営委員会

目  的 誰もが生活しやすい地域づくりを進めるために町内会、住民、地域のボランティア、民生委員等関係機関が連携、協働し活動の推進をはかること。
委員構成 各町内会長、民生委員、住民ボランティア、社協(総勢12人程度)
開催頻度 年3回(7月、10月、1月)※3月は新型コロナウイルスの影響で延期。
協議内容 ◯運営について
・参加者出席状況の確認
・運営に関する課題の検討(冷房の整備(熱中症対策)、感染予防対策、サロンの啓発について等)
・今後の取り組み(イベント等)についての意見交換 など

◯地域づくりについて
・活動の効果に関する協議
・サロン参加者の様子で気になることの協議
・地域で困っていること、気になることの協議
・上記を踏まえた今後の取り組みについての協議 など

(3) 緊急時・急用時連絡先カード

・疾患を抱えた高齢の参加者が多いことから、活動中の事故に備え、参加者の任意で「緊急時・急用時連絡先カード」の記載をお願いしています。
・記載したカードは運営委員長が保管します。活動日毎に持参し、必要時に活用します。

6. 取り組みの成果

(1) 参加者の介護予防・健康意識の向上
・「以前は閉じこもりがちでしたが、サロンができて毎週出かける場所ができました。」
・「運動することで足腰の痛みが軽減した。」「以前よりも疲れにくくなった。」などの体操の効果に関する声が聞かれています。
・「毎週のサロンの後に家周辺を散歩するようになった。」など、健康に対する意識がより強く持てたという声も聞かれています。

(2) 地域住民のつながりづくり
・高齢になり、人と会う機会が減っていたが、サロンに来ればご近所の人と会えるので、話す機会が増えました。
・住民ボランティアからも、「あいさつや声掛けの機会が増えた。着実に地域間で気にかけ合う意識が高まっている。」といった声が聞かれました。
・毎週会うことで、お互いが気にかけ合えるようになりました。そのことで、体調変化等の情報が参加者を通じて、サロンに集まるようになり、集まることが見守り的な機能にもなっています。

(3) 関係者間の連携意識の向上
・包括支援センターによる認知症予防や、病院のリハビリの先生による健康体操を教えてもらうことができました。
・出前講座を通じて、専門職に相談しやすい関係づくりが進みました。
・緊急連絡先の把握について、町内会と民生委員が連携して把握していく方向性について意見交換ができました。

7. 課題と今度の取り組みついて

NO.

カテゴリー

課題(気になること)

対策(できたらよいと思うこと)

活動の周知

・旭町と古浜を対象にしているが、4町内会のうち2町内会の地域の方しか参加していない。
・町内会未加入者にはサロンの情報が届かない。
・百歳体操を知らない人に体操の効果を知ってもらうと良いと思う。

・引き続き各自治会の集会時の周知と回覧を行う。
・民生委員の訪問時に、サロンの案内を行う。
・近隣のお店(コンビニ、商店など)にチラシを置く。
・地域のふれあい・いきいきサロン活動とも連携して、体操の効果を広める。

活動の充実

・体操が苦手な人は参加しにくい。体操以外のこともやってみたらいいと思う。
・茶話会の実施は、親類関係も多い地域なので、うわさ話の場所にならないように注意が必要。
・参加者のニーズが分からないと何をしていいのか分からない。

・体操が苦手な方も参加しやすいように、イベント的に茶話会を実施してみる。
・将来的に体操以外の趣味活動ができるような機会を設けたら良い。
・参加者のニーズ把握の方法として、アンケートは有効だと思う。

マンパワー
(支援者)不足

・ボランティアが増えないと、これ以上の取り組みは難しい。

・参加者の中でボランティアになってもらえそうな方に声かけする。
・水分補給時のお茶の配布など、自分たちでできることは参加者にも協力してもらう。

関係者との
連携強化

・これ以上参加者が増えると場所が狭くて入り切らない可能性がある。
・予防の観点から健康面(病気、運動等)に関する啓発が必要。
・専門職とのネットワークづくりにむけた話し合いの場が必要。

・他町内や町内会以外の実施場所(空き店舗など)の活用の検討。
・引き続き出前講座などで専門職と連携し、認知症やリハビリに関して予防を促す。
・運営委員会に地域包括支援センターが参加し、地域づくりにむけて連携する機会を設ける。

8. 取り組みを通じての気づき

(1) 「サロン活動」を通じて得られる効果
 今回の取り組みの一番の成果は、住民同士の気にかけ合う意識が育まれ、つながりがより強いものになったことだと考えます。「にこにこサロンあさひ」では、体操が始まる前や、体操の休憩中には、参加者同士の会話がにぎやかにされています。会話を通じて、相手の体調や、身近な地域のできごとを知ることで、必然的に相手や地域のことを気にかける機会になっています。これは活動の頻度が高いほど、その意識が高まります。こうした住民同士の気にかけ合いがあることが、福祉サービスや制度だけでは得られない、地域で暮らす上での安心感になるのだと感じています。

(2) 運営委員会の必要性
 福祉活動にボランティアとしてかかわることで、地域住民のさまざまな福祉課題への気づきも生まれています。運営委員会は、そんな住民ボランティアの気付きをそのままにせず、地域の福祉課題として協議する性質を持ち合わせた会議であり、これは、福祉活動を継続・発展させていく上で最も大切な機能だと考えます。
 会議には、住民ボランティアだけでなく、地域の各町内会長や、民生委員も交えて、住民ボランティアの気づきを関係者全体で共有し、困ったことや気になることを考える体制をつくります。課題の解決を住民ボランティアだけに丸投げにしない関係づくりと、各関係者の立場でできることを考えるきっかけづくりにもなっています。
 また、運営委員会に福祉の専門機関が参加することは、住民活動だけでは解決できない福祉課題を包括的に受け止め、専門的な支援や関係者へつなぐなどの、専門職との連携体制づくりにもなると考えます。近年では、介護サービスだけでなく、地域住民とのつながりを切らない重層的なサービス調整が求められる中、地域のサロン活動や見守り活動への関心も高まる中、三原市では市および地域包括支援センター等とも相談しながら、サービスと福祉活動の連携のあり方についても一緒に考えているところです。
 現段階では、にこにこサロンあさひの運営委員会には、地域包括支援センターの会議出席はありませんが、今後は積極的に声かけをしていく予定です。

(3) 小地域福祉活動を通じた地域づくり
 社会福祉協議会が取り組む「小地域福祉活動」は、「住民主体」を原則としており、地域を基盤にした福祉活動を一緒につくり、普及することで、住民間の気にかけ合いや支え合いの意識を育むことができます。活動をつくり、活動するだけで終わらせず、話し合いの場(運営委員会)を設置することで、地域の福祉力を高めるサイクルができあがります。このサイクルを繰り返すことで、住民同士の支え合いはより強いものに、また多くの住民がかかわることができる活動へと発展していくと考えます。この活動を通じて、誰もが安心して暮らせる地域づくりを進めていきます。

9. おわりに

① 市内全体においての活動はまだまだ広がっていませんが、できるところからやろうという取り組みが進められています。「にこにこサロンあさひ」も準備段階から、中心となる人が社会福祉協議会との連携のもとで進められ、本格実施に結びつきました。
 「血圧測定」「百歳体操」「健康ダンス」は途中、水分補給の時間や健康情報を伝える時間をとりながら、毎週1回、約1時間実施しています。参加者のみなさんは、知り合いもでき、大変元気です。
② 介護予防事業が、健康づくりを具体的に取り組まれることによって、結果として「健康寿命」をのばすことにつながっています。
 「運営委員会」が設置され、計画的にサロンの活動が進められていることが重要で、今後の活動の強化につながっています。
③ 「にこにこサロンあさひ」(常設型サロン)の取り組みを、行政、社会福祉協議会、包括支援センター、町内会へ広げていくべきだと考えています。
④ 「協働のまちづくり」をただのスローガンでなく、一人ひとりの健康と、災害にも強いまちづくりに今後もつなげていきます。
 現在は新型コロナウイルス感染症の拡大の影響もあって、取り組みが中止されていますが、一日も早い再開ができるよう頑張っていきます。