【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第11分科会 青森で探る「自治研のカタチ」

 網走市では、新庁舎の建設に向けた議論が進められているが、より良い庁舎建設に向けて市役所で働く職員が日々住民と接する中での視点や、地方自治を担う市職員としての視点も欠かせない要素と考え、労働組合として議論し、本書のとおり、市役所新庁舎についてレポートとしてまとめた。



網走市役所新庁舎が果たすべき役割
―― 市民・組合員それぞれが考えるより良い市庁舎の姿 ――

北海道本部/網走市役所労働組合連合会・自治研推進部

1. 網走市庁舎の現状

<市役所現庁舎及び保健センター、委員会での
新庁舎建設予定地の位置関係>
 網走市の現庁舎は1964年の建築から55年が経過しており、建物の老朽化や耐震性など、さまざまな問題を抱えている。こうした中、東日本大震災や熊本地震の発生などにより、多くの自治体役場の庁舎が被害を受け、災害復旧や復興に影響を及ぼすこととなり、災害対策機能や市民生活に直結した行政機能の確保の重要性が改めて認識されたところである。十勝沖地震発生の可能性も示唆されている中、今後大きな災害が発生し、庁舎に多大な被害があれば、救援・支援・復旧などのさまざまな活動に支障をきたす可能性がある。
 こうした状況の中、網走市では庁舎建替に向けた議論が開始され、市内20団体の代表者及び市民公募5人から構成される新庁舎建替基本構想策定検討委員会で、構想編として「現庁舎の現状把握や問題点の整理」「新庁舎の基本理念や位置づけ」「新庁舎の建設場所」等が、計画編として「新庁舎の規模や建設計画、事業計画」等について議論がなされ、委員会での新庁舎建設候補予定地は旧金市館ビル周辺敷地とする方針が決定された。
 市職員についても意見募集の機会が与えられたが、労働組合としても、より良い庁舎建設に向けて市役所で働く職員が日々住民と接する中での視点や、地方自治を担う市職員としての視点での意見反映が必要と考え、庁舎建て替えに向けて、「市民の視点」「組合員の視点」それぞれで議論した。

2. より良い市役所庁舎の在り方に関する意見

 網走市労連執行部では、自治研推進部を定期的に開催し、「市民の視点」「組合員の視点」それぞれで次のとおり新庁舎に対する意見をまとめた。また、青年女性部では青年女性部員に対し、新庁舎への意見をアンケートで募り、議論の参考とした。

(1) 市民の視点
<行政事務機能>
項 目 現庁舎の状況 問題点 新庁舎に求めるもの
窓口の設置 各部署ごとに個別の窓口を設置 手続きのたびに窓口を移動するため、手間と感じられる。 ワンストップ化を図り、一連で全ての手続きを可能にする。

<市民活動機能>
項 目 現庁舎の状況 問題点 新庁舎に求めるもの
売店や食堂の設置 本庁舎地下に売店あり
食堂は2018年夏に閉店
庁舎を利用する市民が不便に感じている。(廃止以降、件数は少ないが食堂閉店に関する問い合わせがあった) 売店は継続して設置。食堂も設置し、市民にとって使いやすい施設をめざす。
保育園及び一時保育所の設置 保育施設は設置されていない 子ども連れの市民が子どもを預けるなどの対応ができず、利便性に課題あり。 一時保育所を設置し、子育て世帯が使いやすい施設をめざす。
また、職員の福利厚生の向上にもつながることが期待される。
地域交流スペースの設置 本庁舎ピロティに休憩スペースあり スペース設置面積に課題あり。暖房がなく、冬場は使いづらい。 市民が通年で自由に過ごすことができるよう、待合スペースを設置する。

<庁舎内機能>
項 目 現庁舎の状況 問題点 新庁舎に求めるもの
ユニバーサルデザインの導入 日本語のみの表記 外国人や障がいのある人への対応がなされていない。 外国語の表記導入のほか、点字を取り入れるなどあらゆる障がいのある人が使いやすくわかりやすいものにする。
多目的トイレ設置数の増 議会棟1箇所のみの設置 設置数が少ないほか、場所もわかりやすいとは言えず、利便性に課題あり。 1階層1つ以上の多目的トイレを設置し、市民が使いやすい施設をめざす。
エレベーター設置数の増 本庁舎1箇所のみの設置 設置数が少ない、地下につながっていない、窓口職場から遠いなど利便性に課題あり。台数も1台のみであり、災害発生時の高所への運搬等に課題がある。 台数を増加することで、車いす利用者への対応を十分に図るほか、災害発生時の高所への運搬もスムーズとなる。職員の書類等の運搬等にも対応ができるようにする。
公用車駐車場の設置場所 現庁舎の周辺および道路向かいに駐車場を設置 ※新庁舎建設に当たり、旧庁舎跡地を駐車場とする考えが示されているが、庁舎と駐車場の距離が離れている。 新庁舎1階部分を公用車駐車場にすることで、駐車スペースを広く用意できるほか、窓口や執務室が2階以上になるため、防災上の観点からも望ましいと考えられる。
また、降雪時の除雪対応も抑えられるため、効率化を図ることができる。
庁舎デザイン 一部の窓が開閉しない、網戸がない等、課題が多数あり。 採光により明るさを確保するため、効果的な窓を設置するなど、省エネに配慮した環境にやさしい建物をめざす。

<その他>
項 目 現庁舎の状況 問題点 新庁舎に求めるもの
バス停の設置場所 分庁舎前のバス停が最寄 新庁舎前にバス停を設置し、住民からのアクセスをより便利なものにする。
喫煙所の設置 2019年春に廃止 喫煙者への配慮が必要。 喫煙者への配慮を検討し、喫煙所を設置する。ただし、2018年7月に「健康増進法の一部を改正する法律」の成立に伴い、受動喫煙を防止するための取り組みが進められていることから、その点に十分配慮した設置となること。

(2) 組合員の視点
<行政事務機能>
項 目 現庁舎の状況 問題点 新庁舎に求めるもの
窓口への仕切りの設置 窓口に仕切りが設置されていない 市民のプライバシーの配慮がされていない。 カウンターに仕切りを設置し、窓口相談に来る住民へのプライバシーの配慮を図る。
会議室の部屋数増 本庁舎、分庁舎に1つずつ 様々な規模の会議への対応や各種申告・手続き等、突発的臨時的な業務等への対応が十分とは言えない。 各フロアに会議室を設置し、別に打ち合わせのためのスペースも設けることで、充実した体制が望める。各会議室には、可動式の仕切りを設けることで様々な使い方が可能になる。
相談室の設置場所 各階に相談スペース設置 執務室を通り抜けないと相談室に行けない部署があり、業務情報の保護の観点から問題がある 執務室を通らずに相談室へ行けるような配置にし、業務に係る個人情報保護を図る。
書類収納棚の充実化 各職場の棚および地下の書庫に保管 収納場所の分布が煩雑化しており、他施設に保管する職場も存在している。 現行の地下書庫や別施設への保管体制を改め、各課で十分な収納ができるように書類棚を設置し、業務の効率化を図る。
同時に書類のデジタル化を進め、文書の整理を図る。
保健センターのあり方 別施設に設置 同一施設内で手続き、相談が完結しない。 保健センターを庁舎内に設置することで、健康福祉サービスを同一庁舎内で一連の対応ができるような体制を整える。
公用車の一元管理 各部署で個別に管理 車検手続き等の事務や、他部署への貸出等、個別に対応しており効率性に課題あり。 車検等、車両管理に係る事務を一元化することで業務の効率化を図る。

<庁舎内機能>
項 目 現庁舎の状況 問題点 新庁舎に求めるもの
冷暖房について 暖房のみ冷房なし 原則、各人各職場で対応している。(冬期間は暖房が入るが毎日ではない) 庁舎内の温度管理は業務効率にも影響するため、冷暖房の充実化を図る。職員が働きやすい職場にするだけでなく、市民に与える印象にも影響する。
女性トイレ設置数の増 本庁舎・分庁舎の踊り場、議会棟に設置 設置数が少なく、利便性に課題あり。 女子トイレの設置数を増やし、様々な市民が使いやすい施設を目指すほか、女性職員がより働きやすい環境を整備する。
多目的トイレ設置数の増 議会棟に設置 設置数が少ないほか、場所もわかりやすいとは言えず、利便性に課題あり。 多目的トイレの設置数を増やし、様々な市民が使いやすい施設を目指す。
エレベーター設置数の増 本庁舎1箇所のみの設置 設置数が少ない、地下につながっていない、窓口職場から遠いなど利便性に課題あり。台数も1台のみであり、災害発生時の高所への運搬等に課題がある。 台数を増加することで、車いす利用者への対応を十分に図るほか、災害発生時の高所への運搬もスムーズとなる。職員の書類等の運搬等にも対応ができるようにする。
公用車駐車場の設置 現庁舎の周辺および道路向かいに駐車場を設置 仮に現候補地に建設される場合、旧庁舎跡地を駐車場とする考えもあるが、災害発生時の対応等に課題がある。(※) 新庁舎1階部分を公用車駐車場にすることで、駐車スペースを広く用意できるほか、窓口や執務室が2階以上になるため、防災上の観点からも望ましいと考えられる。また、降雪時の除雪対応も抑えられ、効率化を図ることができる。
洗車場の設置 なし 上記の公用車の一元管理と併せた対応を図る。
セキュリティ関係 出入り制限なし 鍵で施錠された空間以外は誰でも入れる。 市民が入れないスペース(=職員しか入れないスペース)を設け、職場内会議に利用する。また、入退庁にICカードを利用し、セキュリティ強化を図る。
議場 議会棟に設置 議会開催時には議場として、閉会時には会議室とし、効率的な使用を図る。(士別市役所で導入済み)

<その他>
項 目 現庁舎の状況 問題点 新庁舎に求めるもの
休憩室 地下に厚生室あり 部屋数の不足。 十分な休憩や昼食時間の確保、災害時の仮眠スペースとしての使用も想定されることから、十分な面積、数の休憩室を設置する。
ロッカーの設置 全職員への配備なし 作業着や長靴の保管場所に課題あり。 男性を含め、1人1つずつロッカーを配備する。
更衣室の設置 女性は地下に更衣室あり 男性は空いているスペースで個別に着替えている。 更衣室を設置し、作業着への着替えなどへの対応を可能にする。
組合事務所について 本庁舎地下に設置(賃借) 組合員の利用の利便性等を考え、庁舎内に設置する。(全道の人口10万人以下の都市に「組合事務所の有無」等について、照会したところ、全ての自治体が庁舎内に組合事務所を設置と回答)

※建設地については、
・防災上の観点からは高台への建設が望ましいが、災害発生時の災害対策拠点の分散化を考慮すると、消防署南出張所からは離れた位置への庁舎建設が適当と考える。
・網走市内の各種企業および金融機関が中心市街地付近にあることを考慮すると、現在地または現候補地への庁舎建設は市民の利便性からも適当と考える。
等、様々な意見が出された。

3. おわりに

 今回の議論から、様々な意見が出され、新庁舎に対して求めるべき機能がどういうものであるか、利便性の向上や労働環境の整備を図るため、市職員が新庁舎に対し、どういったことを考えていくべきかを整理することができた。これらの議論から、職場環境の改善や、市民目線による市民にとって利用しやすい庁舎をめざすべく、新庁舎のあり方について市民、組合員それぞれの目線でまとめた。
 市庁舎は、市民にとってわかりやすく、利用しやすい施設であることはもとより、職員にとっても市民サービスの提供や政策立案のために、IT等の有効活用を含めた効率的な執務環境であることが必要である。また、市民ニーズの多様化・高度化、地方分権の進展などによる行政需要の変化に柔軟に対応できることや、市民が日常的に集い、憩い、ふれあい、学び、政策を創造していく場として、また、市としての一体感を醸成していく場として、市の象徴としてまちづくりに寄与する役割が期待される。
 網走市労連としては、本レポートを網走市庁舎整備推進室に提出したほか、2020秋季闘争に際し、組合員からの新庁舎に対する声をまとめて独自要求書として当局に提出し、新庁舎に係る課題について今後も労使で協議することを確認した。
 今後も、建設場所の決定含め、建設に向けた様々な動きが進んでいくが、より良い庁舎建設に向け継続して議論を続けていきたいと考える。上記の意見が、より良い庁舎建設の一助となり、行政サービスの質の向上、ひいては網走市の発展に寄与することを切に願っている。