【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第11分科会 青森で探る「自治研のカタチ」 |
本レポートでは、近年停滞気味であった自治研活動を活性化させるために何から始めたら良いか考えた時、先ずは「地域自治研活動」に取り組もう! とし、目前に迫ってはいたものの子ども達の職業消費体験事業で市役所の仕事を理解してもらうために奔走した自治研推進委員会の活動をレポートします。 |
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1. はじめに 「市役所の仕事って何をやっているの?」子ども目線から見た時に我々の仕事はどのように映っているのでしょうか。多くの市民に触れられる部門での窓口対応や、執務室内でのPC作業、又は市議会でしょうか。子ども達に市役所ではいろいろな計画を作ったり、皆が安心安全に暮らすためのお世話をしたり、お祭り等の行事を開催したり、この街が良くなるための仕事をしているということを理解してもらい、将来の奥州市役所を担う人材を育成することで、持続可能な地域をめざすきっかけになるのではないかと考えます。そこで、市役所の仕事に興味や面白さを感じてもらうことを目的として、胆江青年懇話会が主催する子どもの職業・消費体験事業「OneLoveタウン・キッズワーカーズ」へ参加し、子ども達に市役所の仕事を紹介することとしました。 また、活動の中で普段の業務の見直しや、組合員が公共的事業に積極的に参加することによる新たなネットワーク形成等、業務への好影響を併せて期待し取り組みを行いました。 2. OneLoveタウン・キッズワーカーズとは この事業は「子どもたちが働くことの楽しさや大変さについて身をもって経験し、職業観や就労観を育成する機会として、また子どもたちのまちへの関心が高まることにより現実の地域社会の活性化につなげるきっかけとする」ことを目的として、2017年に胆江青年懇話会(奥州YEG、前沢商工会青年部、金ケ崎商工会青年部、(一社)水沢青年会議所、江刺JCで組織)が主催し第1回「OneLoveタウン・キッズワーカーズ」(以下「OLT-KW」)が開催されました。OLT-KWは、1日だけ誕生する町で入国を許可された胆江地区の小学5・6年生が最大300人参加し、胆江管内の企業、事業所等の出展により実際の仕事を体験します。1回の仕事体験は30分又は60分で、1日最大9回仕事ができます。仕事をすると仮想通貨「クラー(蔵(※1))」で給料をもらい、買い物やサービスを受けるといった消費の体験ができます。2018年は約200人の子どもたちの参加で開催されました。 日時:2018年11月11日(日)8時30分~15時 会場:奥州市江刺総合コミュニティセンター 参加企業等:26団体
3. 準備段階の取り組み (1) 子ども達に何を伝えるか子ども達にどのような市役所の仕事を伝えたいのか。全体的な世界観を確認した後、子どもに伝えたいことや事業のイメージを自由にあげてみたところ沢山のアイディアが出てきました。以下に意見の一部を紹介します。 ① 市役所は幅の広い仕事をしているので、沢山の業務があるということを知ってもらう。複数のパターンを作る ・不足を作っておいて、まちの機能を向上させる ・他人がやらないようなことをやる ・税金の徴収 ・広報作成 ・苦情処理をする ・固定資産税の調査 ・窓口、現業 ・犬やカモシカの死骸処理 ・熊が出た ・ごみ処理 ・介護認定 ・決裁体験(証明書申請⇒決裁⇒公印押印⇒交付) ・見たことがある業務の方が興味が湧く ・市総合計画を分かりやすく説明し、興味がありそうなものを掘り下げる etc. ② 誘導することが必要=市長役(大人)が方針を掲げ、実現するための方法を考える ・計画があって、事業をしているということが分かる ③ 大人が相手をするより、子どもたちが仕事をする人と消費者として交流することで盛り上がる ・役所でやっていることのクイズ(例:カヌー大会、おまつり、消防はNGなど) ・市民課で住民票交付、婚姻届(友達届)を受理、証明書交付、マイナンバーカード ④ 形として持ち帰りができる物があれば良い ・物が残らないと、子どもは来ないかもしれない ・役所は用事が無いと来ないところ ・ネームプレートを作る(写真入り) ⑤ 我々の業務の見直しになるようにする ・役所の仕事が知られていないのが分かるだけでも良い ・クイズの結果で認知度が分かる⇒市総合計画の6つの体系に合わせた問題をつくる ・体験にきた人にアンケート ・仕事としてアンケート調査 (2) 全組合員を巻き込んだ取り組みへ この事業は、自治研推進委員だけでは当日の運営は難しく、そして何よりも「絶対面白いはずだ!!」という思いから、教宣紙「きずな」で全組合員へ参加者を募りました。実際は直接声をかけ一本釣りした組合員が多かったのですが、少なからず反響があり、一定の事業周知はできたものと考えます。 (3) 対象年齢(小学5・6年生)へのアンケート調査 最初の会議で出た「小学生は市役所のことを知っているのか」という疑問について、事前に調査をしてみる事にしました。幸い自治研推進委員の中に小学校のPTA会長が2人おり、その小学校2校を対象に「市役所に対してどのようなイメージを持っているのか」アンケートを実施しました。 ○アンケート結果 回答数:269人 【質問1】「市役所の仕事」にはどんなものがあると思いますか。思いつくものを全て書いてください。
【質問2】質問1で書いた仕事で、やってみたい仕事がありますか。
【質問3-1】質問2でやってみたいと思った仕事は何ですか。またその理由を書いてください。
【質問3-2】質問2でやってみたくないと思った理由を書いてください。
【質問4】その他、市役所の人にしてほしいこと、聞いてみたいことがあったら自由に書いてください。
【まとめ】アンケート結果から、多くの小学生は市役所では「市の役にたつ事務の仕事」をやっているという認識があり、実際に目にしている窓口等の業務や、聞いたことがある業務以外の具体的な仕事は知らず、或いは市役所の仕事は難しいと思っているため、市役所の仕事に興味を持っていない。また既に将来なりたい職業や夢があるという児童が多くいることが分かった。 (4) どのように伝えるか 小学生へのアンケート結果を踏まえ、「市役所はいろいろな仕事をやっているということを知ってもらう」「総合計画と窓口業務をベースに+αを考える」「市役所は人気薄なので、難しそうだと体験者が来ないだろう」という3点を前提に5つ業務を選択し事業設計しました。しかし、参加者が募集定員の300人に対して約100人少ないことが判明し、一番難しいと思われる「計画策定業務」をボツにし4つの業務で運営することとしました。
1回の仕事体験の流れは、60分で「朝礼⇒総合計画と組織体系の説明(資料1)⇒市役所のお仕事クイズ(資料2)⇒仕事の体験:4つの業務から各自仕事を選択し体験を同時進行⇒終礼:委員長訓示と給与支払い」とし、最大で10人受け入れることとしました。 (資料1)
体験内容を4つに絞り自治研推進員が手分けをして体験内容を検討し始めましたが、担当者自身が経験していない部署であったり、保健師などの一般職では詳細が分からない分野があったりと、子ども達に分かりやすく的確に伝えるためには現在その業務に携わっている組合員が必要だということになり、その道のプロに声をかけ計画段階から協力してもらうことになりました。 また、体験希望者を増やすための手法として出た答えは「魅力的なアイテム」でした。市役所は何をやっているか知らず、仕事は難しそうというイメージを持っているのは分かったので、そのイメージを払拭するために①「大谷翔平選手のレプリカTシャツ」を着て仕事をする(※2)、②「赤ちゃん人形」を使った計測、③「聴診器」で心音を聞いてみる、④固定資産税の「デジタル計測器」、⑤リアルな「名刺」による自己紹介等、各体験で普段触ることない道具を使うことで興味を持ってもらう作戦にしました。
4. 当日の運営と課題 (1) 市役所は不人気な職場!?予想どおりといえば悲しいのですが、朝一の出足は不調で、大谷Tシャツや赤ちゃん人形で集客してみるものの、1回目の仕事体験希望者は4人……。しかし、ここで委員長が機転を利かせ「市役所のしごと高収入!」「クラーがっぽり!!」(※実際はどこで仕事しても同じ給料です)などPOPを作成したおかげで!? 徐々に子ども達の目を引きはじめ2回目の予約は7人まで伸びました。 さて、実際の仕事体験は開始予定時間より15分早く始まり、1回目ということで我々も手探り状態で市役所の体系説明、クイズ、仕事選択と想定時間より若干短めで進行し、各仕事の体験を終えたところでまだまだ時間が残る状況に。 ここで、皆の気持ちは2つ目の業務にチャレンジしてもらおうという方向で一致し、違う業務の体験をすることになりました。この人事異動システムこそが実は市役所の仕事の肝なのではないかとさえ思う出来事でした。 (2) 予想外の反響 人事異動システム発動後、2つ以上の業務が体験できるように、それぞれが体験内容の見直しを行い、少々忙しくはありましたが2回目、3回目と順調に体験を受け入れることができました。そして4回目はリピーター6人を含む10人の満員御礼であり、2回来てくれた子は全ての業務を体験することとなりました。 事前アンケートの結果から、窓口業務の人気が高いのかと思っていましたが、固定資産評価、物産PR隊の名刺交換から宣伝、赤ちゃんの抱っこの仕方や聴診器で心臓の音を聞くなど、全ての業務を楽しんで体験してくれました。ただし、ごみの分別とメタボ健診は人気がありませんでした。 (3) 各体験業務の様子 ① 市民課窓口業務 窓口業務では、「住民異動届受付と住民票の交付」、及び「婚姻届受付と戸籍謄本の交付」を体験することとし、各証明書は「公印を押印し発行」すること、発行には「手数料が発生」することを体験しました。キーボードに慣れていないため入力に手間取る子もいましたが、全員が無事に証明書発行を行うことができました。 異動届への住所記入時に自分の住所が分からずに困っていたお友達に対して、架空の住所(ワンラブ市ワンラブ町……)を、場を和ませながら書いてもらうことができました。職員役の子もお客様役の子も楽しそうに体験しており、子どもたちの機転の利いた対応に驚くとともに、微笑ましい雰囲気にこちらが助けてもらいました。また、予想外のお客様(参加団体の一つで岩手県警の方)に対しても、丁寧に接客してもらい住民票を無事お渡しすることができました。 ② 相談等業務(ごみの出し方、ハザード説明、乳幼児健診、成人健診) 相談業務では、市民のさまざまな相談に対応していることを実感できるよう、4クールでそれぞれ別の業務体験を用意しました。ただし、専門的な相談対応は難しいため、「ごみの分別ポスター」や「ハザードマップ」といったアイテムを用いた対応や、「乳児健診・成人健診」といった測定を行う業務としました。沐浴体験用の赤ちゃん人形を用いた乳児健診は女子に人気があり、本物の保健師さんがそばに付きながら赤ちゃんの抱き方や測定の仕方、養育時のアドバイスを体験したほか、聴診器で鼓動や呼吸音を聞くなどし、命や健康の大切さを実感できたと思います。また、ハザード説明では、自分の家がどのような土地にあるかを調べ災害時の避難行動などを説明するなど、相談に対応しながら児童自身が学ぶ機会になったと感じました。なお、市民役は市職労きっての役者が演じ、アドリブをきかせた相談を投げたかと思えば、乳児健診で赤ちゃんの泣き真似をしてみせるなど、いかんなくその実力を発揮。臨場感たっぷりの業務体験となりました。 ③ 固定資産税 「固定資産税を計算して、税金を集めよう!」では、指定されたブースの面積を測定し、固定資産税を計算して税金を徴収。最後に徴収した税金を市役所の会計課へ納めるというところまで設定しました。当日は、多くの出展団体の方々にご協力をいただき、さまざまなブースの面積を計測し、税金徴収の流れを作ることができました。 この業務の目的は、固定資産税について知ってもらうことも勿論ですが、「市民から徴収した税金は、自分の給料になるわけではなく、まちづくりに使われるものである」ということを実感してもらうことをめざしていました。結果は、予想通りというか、1,000クラー程度の税金を徴収した子が、当初「ニヤリ」としていましたが、これが自分の給料になるわけではないと分かると、一瞬落胆した表情を見せ、本人にとっては、大人の現実体験ができたものと実感しています。同様に、税金がまちづくりに使われるとなると、「税金を納めてもらえない場合はどうなるのか?」などまで踏み込んで考えた子どももおり、非常に有意義な体験になったと思います。 ④ 観光物産PR 「観光物産PR隊~あなたはまちの営業マン~」では、他のブースを訪問して、まちの特産物である「りんご」のPR活動を行うという業務を設定しました。この業務では、自分のまちの良いところを見つけ、それを市内外の人にPRする仕事の重要性を学んでもらうことをめざしました。まずは奥州市のパンフレットを使用し、地域の名産品や観光施設について学び、この地域のりんごの特徴について学習しました。また実際にりんごを2種類試食して品種による味の違いを体験してもらいました。 最初はりんごの試食目当てで参加した子どもたちもいましたが、名刺の受け渡しの練習やPR原稿を考えていく中でどんどん真剣な表情になっていきました。実際に他のブースでPR活動をした際には「観光物産係長の○○です!」と緊張した面持ちで名刺を渡す子どもたちの微笑ましい様子に、どのブースでも笑顔(爆笑?)で対応してもらい、子どもたちの緊張もほぐれたようでした。りんごの試食では「うまい!」「もっと食べたい!」などの声をいただき、自分たちが宣伝している商品を褒めてもらい、子どもたちも嬉しそうな様子でした。自分のまちの良いところを発見し、それを他の人に知ってもらう喜び、自分のまちを誇りに思う気持ちなどを感じてもらえたと思います。 (4) 目的は達成できたのか? 事業目的としていた「子ども達に市役所の仕事に興味や面白さを感じてもらう」ことについては、正直どの程度伝わったのか分かりませんが、税に興味をもって帰った子や、帰宅後に「将来は市役所の職員になる」といった会話があったと伝え聞いており、一定の成果はあったと考えます。 また「自分たちの業務の見直しになったか」という部分については、具体的な業務の見直しとまではいきませんでしたが、普段の業務とは違ったスタンスで市役所の仕事を考え、市役所の仕事は暮らしと密接にかかわっていることを伝えるということはできたのではないかと考えます。そして何よりも「楽しんだ」ことが一番良かったのではないかと思います。参加した組合員皆が充実した一日になったと感じます。 5. 今後に向けて 今回の活動は、組合三役から「自治研活動を活発化させろ!!」というミッションを与えられた担当執行委員が、先ずは地域自治研活動からということで以前自分が関わっていた事業に自治研で参加しようと提案し、事業開催日まで約1ヶ月という短い期間での取り組みながら、自治研推進委員をはじめ協力いただいた組合員のおかげで無事に終えることができました。反省点は多々ありますが、既に来年度も参加したいという声も聞こえてきておりますので、自治研推進委員会のみならず全組合員を巻き込んだ取り組みになるよう検討を進めて参ります。また、日々の業務を見直すきっかけとなる事業展開をし、業務改善や提言に繋げることができるよう、一過性の活動ではなく継続した取り組みとなるような仕組みづくりが必要と考えます。 |