【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 第11分科会 青森で探る「自治研のカタチ」 |
相模原地方自治研究センターは2001年4月に設立され、2020年度で20年目を迎える。コロナ禍という新たな事態のもと、地域の自治研センターの活動においても大きな変容が迫られている。本レポートは、自治研センター活動に関わっている立場から、この20年の活動を振り返り、自己評価方式ではあるが、その実績を点検し課題を取りまとめた。これにより、今後のセンターの在り方と活動に向けて課題を得ることを目的としている。 |
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1. はじめに 相模原地方自治研究センター(以下「センター」という。)は、2001年4月に設立され、2020年度でちょうど活動の20年目という節目を迎える。この間、センターの活動が活発になった時期もあったが、2020年に入ってからの新型コロナ問題により活動が大きく制約されている最近の状態である。他方でコロナ禍はなかなか終息が見えず、新たな事態のもとで自治研活動への期待も求められる。そこで本レポートは、センターの諸活動に関わっている立場から、この間の20年の活動を振り返り、自己評価方式ではあるが、その実績を点検し課題を取りまとめることにより、次の20年の、あるいはそれ以上に及ぶ、新たな状況下におけるセンターの在り方と新たな活動指針づくりに向けた「教訓」を得ることを目的としている。 全国自治研集会というこの機会に、自治労及び地方自治研究センターで活動する全国の仲間に本センターの取り組みを紹介することができれば大変幸いである。 2. センターの活動の概要 (1) センターの設立経緯と目的2000年4月、地方自治法の改正等地方分権一括法が施行され、国と地方自治体の関係が大きく変化し、地方自治体が地域のまちづくりや住民福祉の向上など、住民自治を主導的に実施していく地方分権型社会がスタートした。都市計画、産業、福祉、環境、教育、文化など多様化する行政分野において、自治体と自治体職員にはこれまで以上に政策立案能力や事務執行能力が求められ、複雑化している地域の課題について的確に把握し、対処することが要求されるのである。 そこで、このような地方分権社会をめざす自治体改革を契機として、改めて自治体政策の在り方や行財政の課題等を調査・研究し、地域・住民の観点から地方自治をめぐる様々な課題を分析し、解決策を提言するシンクタンク機能を備えた機関として「相模原地方自治研究センター」は設立された。センターの規約には「センターは、地方自治及び地域の諸問題に関する総合的な調査・研究を行い、地域に根ざした自治体政策づくりを進め、もって相模原市における地方自治の発展に寄与することを目的とする」と記している。 センターの設置と運営に際しては、相模原市職員労働組合(以下「市職労」という。)の積極的な関与がある。次項に述べるようにセンターの責任者である理事長は市職労委員長であり、事務局も市職労書記長が務めている。こうした市職労の責任主体としての関わりは、センターの運営と活動に安定性や継続性が生まれ、持続的な活動の進められる利点はあるが、一方で市職労への依存という点で活動の広がりや視野の拡大に欠ける可能性が生じている。 (2) センターの活動体制
活動の中核的組織は理事会であり、ここでの協議・決定がセンター活動の広がりや成否を左右する。理事会の役職として理事長、副理事長、常務理事(事務局長)、理事、監事などがあるが、実際に就任している理事(監事を除く全理事)の計13人は、市職労関係者7人、学識者2人、地域活動団体3人、他組織の組合関係者1人という構成である。 さらに具体的なセンター業務を担う実務機関として、事務局3人(事務局長、次長、局員)と非常勤の研究員3人が配置され、センターの活動方針に係る実務処理のほか、資料収集や調査研究を実施している。 3. センターの活動実績 (1) 活動の柱センターは、設置規約に基づき、大きく資料収集、調査研究、地域交流、地方自治啓発、資料出版という5つの柱をおいて活動している。
第二は、センター活動の柱の調査研究活動であり、相模原市を中心とした自治体行財政に関する調査研究や地方自治に関する制度・政策の調査研究、住民本位の地方自治を推進するための政策研究などを実施している。主要な研究活動として、これまで大都市自治体の行政制度に関する「政令指定都市研究会」と2013年から2015年に開催した「大都市制度研究会」がある。いずれもセンターの役員を中心に市職労メンバーと外部有識者で構成し、所定の研究期間を終えて成果物をまとめている。また、相模原市の財政状況について分析した結果を「財政状況概観」として発行している。こうした調査研究活動については、次項で詳述する。 第三の柱は、自治に関する活動を行っている市民・団体との情報交換及び交流を進める地域交流活動である。在日アメリカ陸軍の補給施設である「米軍相模総合補給廠」をかかえるという地域の特徴を踏まえ基地問題に関わる地域団体との交流、地域のまちづくりに関わる団体との交流などを実施している。
第五の柱は、必要な資料の出版と配布を進める出版活動である。センターの活動を紹介する定期発行の機関誌「相模原」(図3参照)のほか、ブックレット(通算4号)、センターニュース「NEWS FORUM」(通算22号)などを発行している。機関誌「相模原」は、これまで通算24号まで発行されており、時々の地域問題や社会情勢の動きにあわせて特集テーマを設定し、社会的課題について専門的見地から解説する学識者、地域の実態について紹介する地域団体関係者、行政の動きを伝える行政担当者など多彩な執筆者によって構成している。
(2) 調査研究活動の実施状況
有識者と市職労関係者で組織した「政令指定都市研究会」(図4参照)は、2010年4月の政令指定都市移行を受けて、2009年12月に研究会を立ち上げた。研究会は、相模原市における行財政面での課題や政令市移行の意義と課題を検証することをテーマとして、計9回の研究会の開催と、成果案に関する関係者との意見交換を目的とするシンポジウムを開催した。2013年6月には、その成果を最終報告「相模原市における政令指定都市移行後の行財政分析」(図5参照)として発刊している。また、「大都市制度研究会」は、政令指定都市研究会の成果を引き継いで、大都市制度は相模原市にとってどのような意味を持つのか、特別自治市構想の検討状況を分析するとともに、市民や職員の目線で政令指定都市としての相模原市の今後の在り方について検証することを目的に開催した。2年間の活動期間の中で計6回の研究会を開催し、2015年10月に報告書「大都市制度改革の現状と課題」(図6参照)を発刊したところである。いずれの研究会も、都市自治体に関わる行財政面の課題と在り方を解明する調査研究の取り組みであったが、職員レベルや市民層も含めて共有し成果を活用しきれなかったことが課題である。 また、センターの継続的、蓄積的な研究調査事業として「相模原市 財政状況概観」の作成・発行がある。これは、相模原市の財政状況について総務省公表の地方財政状況調査の集計結果に基づく普通会計の決算状況「決算カード」を用いて、過去の10年間にさかのぼって財政分析を行い、相模原市の財政上の課題等を明確化する取り組みである。例えば、直近の2020年10月発行の「2018年度財政状況概観」(図7参照、138ページ)は、2009年度から2018年度までの10年間に及ぶ財政データを分析している。こうした過去10年という中長期レンジの財政データを分析する手法は研究対象とする相模原市の経年的な傾向の把握・抽出を可能にするとともに、20の政令指定都市を横並びで分析することにより市の置かれている位置や財政状況の規模感などをより鮮明に描いている。さらに、重要な主要項目については、人口規模が類似する5都市(新潟、静岡、浜松、岡山、熊本)を比較候補として選定し、相模原を加えた6市のデータをレーダーチャートで詳細分析するなどにより、相模原市の財政課題を掘り下げて考察している点が特徴である。 こうした財政状況の分析は、地方自治行政の基本指標である財政力や財務の健全性などを明らかにし、政策執行力の基盤を明示するものであり、自治体行政に携わる者にとって大変有用性が高いものといえよう。センターでは、「財政状況概観」の発行を2016年度より開始しており、この取り組みが広く知られるにつれて市会議員等からの提供の依頼を受けるなど、各方面から注目され関心が高まっている。
センターが発足して以来、力を入れてきた事業の1つが講演会・学習会等の開催である。地域社会でいま起きている課題や地方自治の課題、社会的に注目されているテーマ、行政が直面している問題など幅広い話題について、学識者や団体の活動者、他自治体の職員などを講師として招き、講演会等を開催してきた。会の形式は講師単独の講演方式が中心であるが、複数の講師を招いての対談や座談会、連続講演、またパネルディスカッションなど、講演内容に応じて多岐にわたる方式で実施している(図8、図9参照)。 2001年のセンター発足後、講演活動を開始し、表1に示すように2019年度まで33回の開催を数える。毎回、おおよそ40人から80人程度の参加があり、主な参加者は市職労組合員とともに職員や団体関係者、市民などである。講演テーマは平和・基地、まちづくり、合併、福祉、教育、環境、災害など地域課題を反映して多岐にわたる。参加者には、地方自治等に関わる多様な問題状況を学ぶ機会となり、情報発信や啓発の面で一定の効果があったと評価している。残念ながら2020年に入り、新型コロナ問題が拡大する中で、この間は開催を自粛する状況が続いている。
4. センターの活動の評価と課題 センターのこの20年間の活動の経緯を振り返り、活動の実績を点検・評価し、今後に向けての課題を総括しよう。まず活動の総体的な評価として、柱に掲げる5つの活動項目-資料収集、調査研究、地域交流、地方自治啓発、資料出版について点検する。このうち第一の資料収集については、地方自治や自治体行政、地域課題に関する出版物や印刷物を広く収集して、自治体行政に関心を持つ研究者や市議などに相応の利用はされてきたものの、センター事務局の人員スタッフの制約もあり、収集した資料や書籍等の実績面では厚みに欠けていたといえる。今後は、地方自治等に関する情報の収集・発信を担うセンターとして、さらなる活動の強化が求められる。 第二の調査研究に関し、第三の地域交流や第四の地方自治啓発、第五の資料出版とも関連して総合的に点検すると、センターの取り組みは、さまざまな分野に広がり複雑化する地方自治の諸問題や地域の課題に向き合い、多面的に活動して一定の成果を上げてきたと評価できよう。すなわち、地域社会に開かれた実施手法により、財政状況概観の作成・発行や都市問題に焦点を絞った研究会の開催、組合員だけでなく職員・市民を巻き込んだ講演会の開催、定期的な機関誌・ニュースの発行など、この間継続的に積み上げつつ活動してきた成果の一端である。これらは限定的ではあるが、地域社会への情報発信や成果の還元につながる取り組みであり、自治研活動を市民等に周知してきたと積極的に評価したい。実際、講演会に主体的に参加する職員・市民は毎回一定数の参加があり、センターの取り組みが認知され、受けいれられている状況がみて取れる。 しかし、望ましい水準にはいまだ距離があり、改善すべき課題もいくつか指摘できる。ここでは主要な三つの課題を指摘する。センターの内部的な二つの課題と、センターを取り巻く新たな社会環境への対応である。 課題の一つは、センター活動に内在している職員・市民への広がりの促進・強化である。講演会に一定数の市民等の参加があり、センター出版物や報告書に対する各方面からの提供依頼があるといっても、その実数はいまだ少数であり、いわば一部の市民層に関心を持たれている構造である。今後は情報発信をさらに強め、センターの存在と機能に対する認知度を高めて、利用者・参加者を増やしていく取り組みの強化が必要である。 課題の二つ目は、活動のエンジン役である事務局体制、研究員体制の強化である。近年の労務強化や人員削減の流れの中で、いずれの組合組織においても業務過多の状況であり、専任スタッフの補強・強化は大変困難であることは自明である。そこで、新たな試みとして、センター業務を担うボランティアスタッフ制度、パートタイムスタッフ制度など多様な働き方、事務局・研究員体制の在り方を模索することも必要であろう。 課題の三点目は、2020年の全世界に広がった新型コロナ問題を契機として、現代社会の脆弱性があらわになり、私たちが生きる地域社会も重大な変革が迫られている。センターは、新たな社会環境のもとで地方自治・働く仲間・市民はいかに対応していくべきか、新たな地域社会像をどのように構想するか、新しい社会様式「ニューノーマル」の暮らし方・働き方をいかに構築するかなど、極めて根本的な社会問題ではあるが、センターとして腰を据えて取り組むべき課題である。エッセンシャルワーカーの確保、ライフラインの必要性、社会的弱者への配慮など、露呈した社会の脆弱性と地域社会の実態を踏まえながら、関係者を巻き込んでしっかり議論をし、解決策を模索することから始めたい。ウィズコロナ・ポストコロナの社会環境の中で浮上してくるセンターの役割である。 5. おわりに ―― コロナ時代に求められる新たな自治研活動への期待 新型コロナ問題が蔓延する中で、第38回地方自治研究全国集会(青森自治研)はこれまで経験のない新たなオンライン方式で開催された。地域の自治研活動においても、大きくコロナ禍の影響を受け、その活動が制約されているとともに、コロナ時代の新たな社会様式「ニューノーマル」が叫ばれる中で、自治研活動に寄せられる期待は大きい。すなわち自治研活動は、こうした困難な時代状況の中でこそ、地域が直面する多様な課題に焦点を当て、自治体行政の問題点を掘り起こし、その在り方を再定義する取り組みが求められている。新しい問題にいち早く注目し、警鐘を鳴らすなど課題を顕在化させることは、自治研活動の重要な役割であると考えたい。相模原の地で、地方自治等の課題に取り組む相模原地方自治研究センターが発足して2020年で20年目を迎えた。コロナ禍に苦しむ状況下ではあるが、ウィズコロナの新たな事態が広がる中で、今後の自治研活動の新たな展開への一助とするため、これまでの活動の実績を振り返り、改善すべき課題を点検・評価することを試みた。そして今後のセンター活動に求められる課題を考察した。本レポートが、第38回自治研究国集会第11分科会の議論の素材になれば大変幸いである。最後にこのような貴重な機会をいただいた全国自治研集会の関係者、相模原市職労の関係者に深く感謝します。 |