【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第11分科会 青森で探る「自治研のカタチ」

 邑南町では団塊の世代の退職や早期退職などによる人員不足解消のため、ここ数年間毎年職員を採用しています。しかし、未だ人員不足は解消されておらず、1人あたりの業務量も増している中、新入職員への支援は十分に行われていないことが考えられます。こうした現状を踏まえ、邑南町職員連合労働組合青年部では、新入職員への支援の充実を図るべく、自治研活動に取り組んだ状況について報告します。



邑南町青年部による独自メンターの取り組み
―― これからを担う新入職員へ
私たちだからこそできる支援のかたち ――

島根県本部/邑南町職員連合労働組合・青年部

1. はじめに

 邑南町職員連合労働組合青年部は30歳までの組合員で構成されており、現在29人が所属しています。主に町内9ヵ所ある保育所へのボランティアや、町内で開催されている駅伝大会への参加などを通じて住民の方との交流をしたり、青年部内で組合活動に関する学習会を開催するなど様々な活動をしています。
 2017年6月に開かれた青年部会で、新入職員に対する支援が不足しているのではないか、という意見が出ました。邑南町では2008年度から新入職員への支援の一環として、所属課の課長がメンターを選任し、1年間業務の支援をすることになっています。しかし、部員の中にはメンターからあまり支援を受けられなかった、メンターが誰か分からないまま1年間が終了したといった人もおり、支援が十分に行き届いていない現状がうかがえました。
 このような状況の中、新入職員が一同に所属する青年部だからこそできる支援があるではないかという観点から、新入職員への支援について自治研として取り組んでいくこととなりました。

2. アンケートの実施

 2018年3月に2008年度以降に採用された職員を対象に、新入職員への支援に関するアンケート調査を実施しました。質問内容は、問1~5を「現在のメンターについて」、問6~7を「仕事の悩みと相談状況について」、問8~9を「現在の新入職員に対する支援の満足度について」の大きく3つに分けて調査票を作成しました。アンケートの集計結果は次のとおりです。
 回答者:19人(男性11人、女性8人)
 実施時期:2018年3月

【集計結果】
①「現在のメンターについて」
問1 あなたは、新入職員に対して各課の上司が1年間メンターとして業務等の支援をする体制があることを知っていますか?
   知っている:16人   知らなかった:3人
問2 あなたは採用1年目の時に誰がメンターとして付いていたか知っていましたか?
   知っていた:13人   知らなかった:6人
問3 メンターは十分に活用できましたか?(※問2で「知っている」と回答した人のみ回答)
   活用できた:3人   やや活用できた:5人   あまり活用できなかった:4人
   活用できなかった:1人
問4 メンターの支援には満足していますか?(※問2で「知っている」と回答した人のみ回答)
   満足している:3人   やや満足している:5人   あまり満足していない:3人
   満足していない:2人
問5 満足いかなかったことについてご記入ください。(自由回答)
   (※問4で「あまり満足していない」、「満足していない」と回答した人のみ回答)
   ・入職当時、メンターが誰か分からなかった。
   ・制度の説明がなかったのでよく分からなかった。
   ・メンターの支援を受けたと感じたことがなかった。
   ・忙しそうで話しにくかった。
   ・上司にいきなり話すのは勇気がいる。

〔問1~5「現在のメンターについて」〕
 現在各課で実施されているメンターについての質問をしました。回答結果から、現在のメンター制度について満足している人が半数以上を占める一方で、メンターが誰だったか知らない人がいる状況や、知っていても十分に活用できなかった人がいることが分かりました。
 また、メンターの支援に満足していると回答した人が半数以上だったのに対し、問5の自由記述欄からはメンターについての説明不足や、上司への話しにくさを感じている人もおり、しっかり取り組んでいる課とそうでない課があることが分かりました。

問6 仕事をする上での悩み事はありますか?(複数回答)
   業務内容が分からない:5人   ミスが多い:3人         残業が多い:3人
   課の雰囲気が悪い:3人     やりがいを感じない:2人     休みが取りにくい:3人
   仕事が自分に合わない:3人   人間関係がうまくいかない:1人
   ストレスを感じる:4人     特に悩みはない:6人
問7 悩み事の相談相手を教えてください。(複数回答)
   (※問6で「特に悩みはない」と回答した人以外のみ回答)
   家族:7人   上司:5人   友人(職員を除く):8人   仲の良い職員:6人
   同僚:5人   労働組合:0人 相談しない:0人

〔問6~7「仕事の悩みと相談状況について」〕
 仕事をする上での悩みとその相談先について複数回答で質問しました。問7の回答結果からは半数以上の人が仕事をする上で悩みを抱えていることが分かりました。悩みのある人のうち、「業務内容が分からない」と回答した人が最も多く、併せて「ミスが多い」、「残業が多い」、「休みが取りにくい」、「ストレスを感じる」といった悩みを回答されていました。次に回答の多かった「ストレスを感じる」という回答には「仕事が自分に合わない」、「課の雰囲気が悪い」、「残業が多い」、「休みが取りにくい」、「業務内容が分からない」といった悩みを一緒に抱えていることが分かりました。

問8 邑南町の新入職員に対する業務に関する支援が充実していると思いますか?
充実している:0人   やや充実している:7人   やや不足している:7人
不足していると思う:3人   業務に関する支援が思いつかない:1人
問9 邑南町の新入職員に対する精神的な支援は充実していると思いますか?
充実している:1人   やや充実している:5人   やや不足している:5人
不足している:4人   精神的な支援が思いつかない:3人
問10 今後新入職員への支援をさらに充実させていく必要があると思いますか?
そう思う:10人   ややそう思う:8人   あまり思わない:1人   思わない:0人

〔問8~10「現在の新入職員に対する支援の満足度について」〕
 邑南町の新入職員に対する支援の充実度について質問しました。問8~9の質問とも支援が不足していると回答した人が多く、問10についても新入職員への支援を充実させていった方が良いと感じている人が多いことが分かりました。

(まとめ)
・メンターの取り組みは各課に委ねられており、課によって環境や取り組み方が異なるため、支援が一律に行われていない。
・若手職員の多くが業務のことや職場環境、その他にも様々な悩みを感じており、その悩みは友人をはじめ、家族や仲の良い職員など関係の深い相手に相談する傾向にある。
・悩みを上司に相談する人は少なく、また労働組合へ相談をしたことのある人はいなかった。
・若手職員の多くが新入職員への支援は不足気味と感じており、今後充実させていった方が良いと感じている。

3. 若者の就労に関する動向

 アンケート結果から邑南町の新入職員に対する支援と若手職員の抱えている悩みについてまとめましたが、この状況が今後どのように影響してくるのかということについて、内閣府が公表している「平成30年版子供・若者白書」によると次のような調査データがありました。
「平成30年版子供・若者白書」~就労に関する若者の意識~
調査対象:16~29歳までの男女(有効回答数10,000)
実施期間:2017年10月17日~同年11月13日まで

【調査結果】
 初職の継続状況(図表6)によると、全体(6,957人)の約4割の人が、「現在も継続して勤務している」のに対し、就職後3年以内に離職したことのある人の割合は5割近くいることが分かります。
 また、初職の退職理由(複数選択可)(図表7)についてみると、全体の内約4割の人が「仕事が自分に合わなかったため」と回答しており、それに続き「人間関係がよくなかったため」、「賃金がよくなかったため」、「ノルマや責任が重すぎたため」と回答した人がそれぞれ全体の内約2割ずつと高い割合を示しています。そして退職の最も重要な理由として「仕事が自分に合わなかったため」と「人間関係がよくなかったため」を選んだ人が3割以上を占めており、邑南町の若手職員が抱える悩みと同じ理由で退職した人が多いことが分かります。
 働くことの悩み相談相手(図表17)によると、全体の内5割の人が「親」を相談相手に選んでおり、続いて「周りの友人・知人」、「恋人・配偶者」が選ばれています。また、相談の効果(図表18)によると、図表中の各項目について相談したことが役に立ったかという質問に対し、「はい」と回答した人がどの項目でも多かったことが分かります。
 このように、仕事へのやりがいを感じられなかったことや、労働条件、職場の人間関係がうまくいかなかったことが原因となり、多くの若者が3年以内に退職することを選択しています。また、働くことの悩みについて、親や友人・知人など関係の深い相手が選ばれる傾向にあり、悩みを相談することで気持ちの整理や今後の方針の参考になったと多くの人が実感しています。

 この調査結果から、職場内でも若者が抱える仕事上の悩みを拾い上げ支援していくことが現在の日本の職場にとって重要な課題であると考えられます。しかし、悩みの相談相手として上司や労働組合などは選ばれにくいことから、職場環境を管理監督する立場の人に悩みの声が届いておらず、支援に繋げられていない現状がうかがえます。このことは邑南町にも同じような傾向が見られ、現に若手職員の中にも転職等を理由として退職する職員が出てきており、この課題を放っておくと、今後も退職者が出てくる可能性があります。また、邑南町では人員不足の対策として、この数年間毎年職員を採用しており、町外出身の新入職員も増えてきています。慣れない環境で仕事をするのは町内出身の職員とは違う様々なストレスや悩みが出てくることが考えられるため、家族だけでなく職場内でも相談相手がいることは安心に繋がります。
 このように、若手職員、特に初めて社会人として就職した職員や、町外出身の職員などの新入職員の支援を充実させていくことが、今の邑南町にとって重要な取り組みであると言えます。

4. 青年部メンターの発足

 2018年3月~8月にかけて、前述の情報分析を基に新入職員への支援内容について話し合いました。その結果、青年部からの支援として、各課が実施しているメンター制度の「課による取り組みのばらつき」や「仕事上の悩みを拾い上げきれない」といった課題に対し、若手職員が全員加入し年齢が近く話がしやすい青年部内で、若手職員の仕事上の悩みを拾い上げ、その相談に乗ることや解決に導くことを目的とした、青年部メンターを発足することとしました。概要は次のとおりです。
【青年部メンターの概要】
・実施期間は4月~翌年3月までの1年間。
・新人1人(青年部加入者)に対し青年部員1~2人。
・メンターは新規採用職員の所属課以外の2年目以降の青年部員で、青年部長・副部長が選任する。
・面談は3ヶ月に1回程度を目安に実施する。
・面談場所は話の内容や状況に応じて場所を選ぶこと。
・メンターはメンティ(被支援者)の同意を得て青年部長・副部長に相談できる。
・面談後、メンターは面談記録を作成する。
・メンターは1年終了後に報告書を作成する。
・メンターは支援をする上で得た個人情報の取り扱いには十分注意する。

5. 青年部メンターの取り組み状況

 2018年8月~2019年3月にかけて青年部メンターを実践しました。2018年度は5人の新規採用職員が青年部に加入したので、1人につきメンター2人でグループを作り、2~3回面談を行いました。各グループが1回ずつ面談を終えるたびに集まり、進捗状況の確認や反省などをしました。
 全体を通して、大きな悩みを抱えた新入職員はいないようでしたが、年齢の離れた上司への話しにくさや課の雰囲気、また、2年目になると業務量が増えることや、上司が新しい新入職員に付きっきりとなり、支援が手薄になることへの不安を感じていることが分かりました。

6. 取り組みのまとめ

 2019年5月23日に青年部メンターに取り組んだメンバーで振り返りをしました。
(意見・感想)
・悩み事に対する話の掘り下げ方やきっかけを掴むのが難しかった。
・今回のように1人に対して2人(できれば男女1人ずつ)のメンターが付く体制が良いと感じた。
・メンターが支援をしていく上で第三者に相談ができるような体制を作ってほしい。
・話が弾むグループと弾まないグループで差が出てしまう。
・仕事で大変になってくるのは2年目以降であるため、取り組みの時期は見直しが必要。

 青年部メンターの総括として、青年部メンターが新入職員の悩みを直接解決することは難しいが、新入職員の身近な悩みの相談相手として取り組むことは無駄ではなく、今後も継続していった方が良いという意見でまとまりました。
 今後の活動としては、2019年度の青年部メンターを選任し、今回の反省を基に取り組み方を見直しながら、新入職員の支援の充実を図るべく、青年部メンターを継続して取り組んでいきたいと思います。

7. 終わりに~自治研活動を通して思ったこと~

 今回は青年部に所属している若手職員が仕事をしていく上で日頃から感じている「悩み」を切り口にこれから邑南町に就職する新入職員がよりよい役場生活のスタートを切ってもらうにはどのような取り組みができるのかを研究してきました。普段は業務に追われて職場におけるニーズの把握やその解決といったことに気を回すことがなかなかできませんが、自治研活動を通じて、組合活動の本分である職場環境の改善ということを、改めて考えることができたと思います。今回私たちが取り組んだことは、職場を取り巻くニーズのほんの一部でしかありませんが、邑南町職員連合労働組合青年部は今後も職場環境の改善に向けて取り組んでいきたいと思います。