【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第12分科会 昨日までの働き方…ちょっと立ち止まって考え直してみませんか?

 2019年、自治労名古屋市労働組合教育支部でラオスの子どもたちに絵本を送る「ラオス絵本プロジェクト」を始めました。この取り組みには前身として、自治労愛知県本部に認められた組合員の自主的活動「自治労愛知アジア子どもの家」があります。この活動がラオス・サワンナケート県に図書館を建設し支援してきたあゆみと、図書館・本が身近にあることでの子どもたちの変化、なぜまだ絵本を送ることが必要かを述べます。



「ラオス絵本プロジェクト」始まる
ラオス・サワンナケート県立図書館への支援のあゆみとこれから

愛知県本部/自治労名古屋市労働組合・教育支部 児玉 陽子

1. はじめに

 1995年に自治労40周年記念として始まった国際連帯事業「アジア子どもの家」の活動に共感し、1996年「自治労愛知アジア子どもの家」が自治労名古屋組合員を中心に自主的に始まった。これは、日本語の絵本にラオス語の翻訳シールを貼付してラオスに送る活動で、名古屋市以外の市町村の組合員も参加して2018年まで続けられた。活動期間中、2001年に自治労名古屋組合員ご遺族の寄付、自治労東海地連組合員のカンパを基に図書館を建設することになり、サワンナケート県にラオスで初めての大人と子どもが一緒に利用できる図書館を建設した。2003年に完成すると児童サービスを担当する職員の研修のため名古屋市から司書(自治労名古屋組合員)を派遣、また2009年には移動図書館車を寄贈するなど支援を続けてきた。現地の自立の目途もたち、2018年でサワンナケート県立図書館の支援は終了し、「自治労愛知アジア子どもの家」も解散したが、2019年からは自治労名古屋教育支部が「ラオス絵本プロジェクト」としてその活動の一部を引き継ぐことになった。

2. ラオスについて

 ラオス人民民主共和国(首都はヴィエンチャン)は、インドシナ半島にある内陸国でタイ、ベトナム、カンボジア、中国、ミャンマーに囲まれている。国土は日本の本州ほどの広さ。人口は約675万人。49の民族からなる多民族国家である。
 フランスによる植民地支配と長年の内戦を経て1975年に社会主義国家として独立したが、生活の基盤が崩壊しておりラオス語の本がない状態だった。子どもたちの自立のためにはラオス語で書いた本で教育支援することが必要だと考えた。

3. 地方の学校の教育事情


<地方の小学校・教科書もない>
 初等教育は5年生までだが、学校へ行けない子、途中でやめてしまう子も多い。これは、物理的に学校が遠いということのほか、教科書も文具も不足しており、1年から2年に上がる時の進級試験に合格できず留年してしまうなどの事情がある。背景には首都ヴィエンチャンと地方との経済格差、教育格差、地方における少数民族問題などがあると思われる。
【参考資料】
留年率の統計 『ラオスの基礎知識』山田紀彦 著(めこん)2018年 より 初等教育(公立・私立)2015年-16年度  1年生留年率 一部抜粋
・首都ヴィエンチャン 5.4%
・南部のセーコーン県 26.2% (留年率が一番高い。平均所得が首都の5分の1位。少数民族も多い。児玉補足)
・サワンナケート県(図書館支援県) 19.0%
 そこで、1冊の本を分かち合える公共図書館を作ろう。学びなおしの場としての公共図書館を。という思いから地方都市にこだわって図書館建設をすることになった。

4. 図書館を建設した場所

 サワンナケート県はラオス南部の県で人口87万人。ラオス革命の父カイソンの出身地で教育熱心。図書館への理解もあり、1997年に開館した小規模な図書館(50m2 蔵書4,000冊)があった。職員も2人いた。ただし、資料は古く、図書費は無し。子どもの本もほとんどなかったため大人と子どもが一緒に利用できる図書館を作ることにした。建設に当たってはNGO(シャンティ国際ボランティア会)の協力を得た。

5. サワンナケート県立図書館開館

 人材育成も重要な課題だったので、開館に先立ち現地職員1人の研修を名古屋で実施した。
 2003年7月、移転新築によってサワンナケート県立図書館が完成した。(240m2。蔵書1万冊)
 明るく開放的なつくりの図書館で、ラオスで初めての土曜開館をした。(一般的には土・日休み)  
 蔵書はラオス語の本の出版が少ないので対応策として、言語が似ているタイ語の資料で専門書、若者向けの小説、料理の本など数千冊を受入した。子ども向けには、日本語の絵本に日本のNGOが翻訳したラオス語のシールを貼って準備した。
                              

<旧館の館内>


<新館の外観>
 2003年12月には児童サービスを担当する職員の研修のため名古屋市から司書2人(自治労名古屋組合員)が派遣された。研修の内容は、子どもにとっての図書館とは健全な刺激を与えられるところであるという概論講義から読み聞かせの仕方、紙芝居の演じ方、行事のポスターの作り方といった実務研修までを行い、小学校を訪問して子どもたちの前で研修したことを実践してもらった。


<派遣された組合員と現地職員>

6. 開館記念図書館まつり 

 研修の仕上げとして、自治労東海地連組合員とシャンティ国際ボランティア会の協力を得て図書館まつりを行った。ステージ上で、紙芝居・大型絵本・おおきなかぶの劇などを行い、日本のお祭りの雰囲気が楽しめるように、風船釣り・お面作り・缶バッジの屋台も用意した。学校で宣伝したこともあり、子どもたちが1,500人も来て周りにアイスクリーム屋さんが出る騒ぎになった。
                      

<おおきなかぶの劇>

<多くの子どもが集まった>

7. 開館後の様子

 2004年(開館1年後)に聞き取り調査をしたところ、以下のような声が寄せられた。
 【子どもたち】「図書館ができてうれしい。本も読めるし絵も描ける」「昔話やお話を読んでいるよ。日本からの絵本は絵がきれいで好き」
 【中・高・専門学校生】「いろんな本に出会えるいい機会ができた。小説をもっと増やしてほしい」「40キロ離れた村からバスで来た。高校の図書館は本が少ない」このほか、「図書館の本を利用して作物の収穫量を増やすことができた」「料理の本で勉強しお菓子屋さんを始めた」という声もあり、生活に密着した図書館になったことがうかがえた。しかし、問題点も出てきた。開館後5年で図書費の援助が無くなると新しい資料の補充がなく、利用が減ってしまったのである。図書館を管轄している情報文化省は最も予算が少ない省であるが現在は年間5万円ほどの図書費が付いている。
                              

<親子で利用>

<友達と利用>

8. 移動図書館車の運行開始

 2009年、現地職員からの要望でサワンナケート県立図書館を拠点にさらに地方へサービスする移動図書館車の活動が始まった。図書館の職員と学校を管轄する教育局の職員が一緒に学校を訪問して読み聞かせをしたり紙芝居を演じたりするほか、持って行った本を子どもたちに自由に本を読んでもらう時間も設けている。サワンナケート県は面積が一番広い上、図書館が県の西の端に位置するため、遠隔地にある学校だと泊りがけで出かけることもある。


<移動図書館車で学校を訪問>

<読み聞かせを楽しむ子どもたち>

9. 開館10周年記念イベント

 2013年12月、開館10周年記念イベントが行われた。開館記念のまつりは、日本人やNGOが主体で行われたが、10周年記念イベントは図書館の職員の企画により、子どもたち主体で行われた。内容は、民族舞踊、絵本の読み聞かせ、紙芝居、おおきなかぶの劇、好きな本の紹介、朗読などでこれらすべてを子ども自身が行い、私たちが見せてもらうことになった。特に好きな本の紹介では、ずらりと並んだ子どもたちが、堂々と意見を述べていたのが印象的だった。開館時に図書館の引っ越しを手伝ってくれた近所の子どもたちが大きくなり大学生になって訪ねてきてくれたのは大きな喜びだった。  
                   

<民族舞踊を披露>

<お気に入りの本を紹介する子どもたち>

10. 子どもたちの変化

 図書館ができる以前にも密な人間関係や、豊かな自然、自由な時間という子どもの育つ環境が充分にあったと思う。しかし、10年前の子どもたちは堂々と自分の意見をのべたり、目の前にないものを想像して描いたりすることは苦手だった。お面にする絵を自由に描いていい、と言われて困っていた様子が思い出される。NGOが配置した図書箱を活用している学校への聞き取りからも「絵本を読むことにより身近にないものを理解できるようになった」「本を読むことで新しいアイデアも出てくるようになった」という声がでている。本を通して文字を読んだり書いたり、理解をすることが思考力を発達させることになり、それがそこにないものを想像する想像力や、新しいものを生み出す創造力につながったのではないか。10年間の大きな変化は次の3点であると思う。①自分の考えが言える、②思ったことを文章や絵に表現できる、③新しいものを作り出すことができる。読書によって培われた力は、自分で考え、行動する力であり、すなわち生き抜く力である。

   

11. 図書館支援の終了とこれから

 2018年でサワンナケート県立図書館の支援は終了し、「自治労愛知アジア子どもの家」も解散した。これまでラオスの図書館のために尽力してこられた多くの組合員の方々に感謝する。ラオスではまだ絵本が足りないため、引き続き自治労名古屋教育支部が「ラオス絵本プロジェクト」として日本語の絵本にラオス語の翻訳シールを貼って送る活動に限り続けることになった。ラオス語の翻訳シール及び、絵本が足りていない地域への配布はNPO法人「ラオスのこども」と協力することになった。

12. なぜまだ絵本を送ることが必要か

 ラオスの出版事情は日本と比較にならないほど厳しい。公共図書館、学校図書室も少しずつ増えているが、子どもの本の出版は20年以上たってもあまり変わっていない。地方では絵本を見たこともない子が多いのが現実である。すでに絵本が届いているところでも、絵本は繰り返し読まれてぼろぼろになっている。日本でも絵本はロングセラーで親子二代にわたって読み継がれているものが多い。また、子どもの頃に出会った絵本のおかげで希望を持つことができ、その後の人生が大きく変わったという人との出会いもあった。ラオスの子どもたちの健やかな自立のために、今しばらくは絵本を送り続けたい。できれば組合員自らがラオスに絵本を届け、現地で子どもたちと触れ合うことができるようなスタディーツアーも行いたいと思う。





 
<日本語の絵本がラオス語の絵本になってラオスの子どもたちに届く>