【自主レポート】

第38回地方自治研究全国集会
第12分科会 昨日までの働き方…ちょっと立ち止まって考え直してみませんか?

 会計年度任用職員制度の創設にあたり、当事者団体である臨時非常勤職員等連絡会の設立の原点と「常勤職員との権衡」という制度の趣旨などをよりどころに、「臨時・非常勤職員は、地方行政の重要な担い手」である現状、「業務の量」、「業務の性質」、職の必要性や専門性についての根本的な認識、「実態の把握」などを当局に鋭く問うてきた経緯と中間総括、さらには組織と運動の基本的なありようについて報告します。



会計年度任用職員の制度化を人権の視点で考える


広島県本部/神石高原町職員労働組合 森山 郁夫

1. はじめに

 神石高原町は、人口8,813人(2020年5月1日現在)の県内で最も過疎、少子高齢の町の1つで、神石高原町職員労働組合は、組合員166人(うち臨時非常勤職員等連絡会組合員29人)で組織(2020年5月1日現在)しています。
 自治研集会は、地方財政危機への対応に迫られていた自治労が、福祉の切り下げ、賃金削減などしわよせが住民と職員に転嫁されてきた中で、「人員不足、労働強化という問題をそれ自体としてのみ取り上げるのではなく、地方自治体をめぐる多くの問題を明らかにし、自治体を住民のものにする努力が必要なのではないか」として開催してきた、重要な活動のいわば集大成です。
 第33回地方自治研究広島県集会にあたり、そのことにかんがみ、神石高原町職労としての会計年度任用職員の制度化の取り組みについて、「人権・平和・国際」分科会の報告とします。なお、この報告は、制度の概要を述べることを本旨としたものではありません。

2. 制度化への原点

 自治体の政策決定において最も大切なのは、当事者の意向を最大限に反映させた制度を追求することです。子育てや高齢者の支援、女性や障がい者の人権保障のための施策など、いずれも行政が一方的に制定すればそれでよいということにはなりません。とりわけ社会的に弱い立場とされている住民のための政策は、すべての住民のためになる制度としての普遍性をもつものであり、行財政の要点そのものといえます。
 そこで、神石高原町職労としては、連絡会の設立(2013年1月18日)の原点に立ちました。「ゆっくり前進そして確実に」をスローガンとしたその総会資料にはこうあります。
 私たち、臨時非常勤職員等は合併前から、行政サービスを担うために現場で一生懸命働いてきました。臨時非常勤職員だからという理由で住民に対しサービスの質を低下させたことは一度もありません。むしろ職員である前に住民であるがゆえこそ、地域の発展に願いを込めて一生懸命業務に取り組んできました。
 しかし、その労力に対し賃金が向上するわけではありませんでした。むしろ社会情勢は悪化の一途をたどり、国が推し進めた大合併により、地方交付税等は年々減少され、神石高原町もその影響を受けました。これにより、職員の賃金カットばかりか私たちの賃金も一律5%カットされ、職場でのモチベーションは低下していきました。
 そうした日々が経過する中、神石高原町職員労働組合が主体となり同じ仲間同士が交流する学習会が2011年1月28日(第1回目)に開催され、私たちが置かれている労働条件等の学習をすることができました。
 その後も延べ5回となる継続した学習会が開催され、参加した仲間と意見交換を行う中"自分達のことは自分達で学習してひとつひとつ解決していこう"という方向性を見出すことができました。
 そういった経過の中、賛同された方を中心に、また神石高原町職員労働組合や上部組織の支援により、本会設立に至りました。
 これを基本に、①広島県本部第106回定期大会質疑討論(2019年9月21日)、②神石高原町職労連絡会第8回定期総会(2019年10月10日)、③神石高原町職労第18回定期大会(2019年10月23日)で、執行委員長である報告者は次のように意思表示しています。

(1) 臨時非常勤等職員と正規職員との間には「高い壁、深い溝」があるといわれます。執行部役員としては、一人ひとりを大切にできなければ何のための労働組合なのか、ということを特に意識して取り組んできたつもりです。労働運動の中で、「部落の解放なくして労働者の解放なし」と学んできましたが、身分差別のからくりが、「上見て暮らすな下見て暮らせ」という意識を生みだし、低位に沈めておく労働者を存在させているということを、私たちは知っているはずです。差別を許さないことがすなわち人権の保障であるということをよく認識して、制度の構築に最善を尽くしていきます。
(2) 当局から協議があり次第、一人ひとりの処遇が個別具体的にどうなるのかがよくわかるような説明の機会をもち、質疑や意見をふまえて、交渉に臨みたいと考えているところです。その際、任用や職種による号給の差が生じることによってみなさんの一致団結が損なわれることがないよう、あるいは、そもそも2020年度以降の任用が確保できるのかという不安を少しでも払拭できるよう、十分に留意します。
(3) この制度は臨時非常勤等職員のことだから「他人ごと」だととらえていると、結局は正規職員の労働条件とりわけ賃金水準も切り下げられかねません。そうさせないためには、制度の概要を一人ひとりがよく理解したうえで、臨時非常勤等職員のためにという「上から目線」ではなく、同じ労働者であり組合員であるという視点で、自分の課題だという認識を強く持ち、全組合員の力を結集しなければなりません。

3. 交渉にあたって

 前記をふまえ、第一に、①任用・労働条件について他の地方公共団体や民間などとの均衡ではなく「常勤職員との権衡」であること、②「臨時・非常勤職員は、現状において地方行政の重要な担い手」であり、まず敬意と感謝を表しこれまでの貢献をねぎらうこと、そうした心からの言行がなければ職員には何も伝わらず響かないこと、③フルタイム・パートタイムの任用の根拠について納得できるだけの合理的な説明をすること、④「業務の量」と「業務の性質」、職の必要性や専門性についての町長・教育長の根本的な認識や、「定型的又は補助的、その他これに準ずる事務を担当する職種」と「専門職的な知識経験に基づき専任又は主体的に事務を担当する職務」との区分を明らかにすること ―― など、制度の趣旨に徹底してこだわってきました。制度の趣旨は、総務省自治行政局公務員部「制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」にも明示してある、当局も否定のしようがないことだからです。
 次に、制度設計の基礎となる「臨時・非常勤職員等の実態の把握」です。すべての職員の任用根拠、職名、職種、職務内容、任期、勤務時間、賃金などを、当局が実施した管理・監督職へのヒアリングと「臨時職員調査票」の作成によって、正に的確に具体的にわかっているといえるのか、当局がまとめようとしていた「職種別基準表」で現職職員や必要と想定されるすべての職種をもれなく適用でき、規則に定められるのか、問いました。
 とくに、「技能労務職員」の「給料水準」の上限の設定において、「職務の遂行に経験年数が寄与する程度を勘案し、他の職種よりも上限を低くする」との当局の説明が、人事院規則等に基づいたものではあっても当該職種を低位に見ているかのように受けとめられたことから、表現や言動の問題ではなく、主観をこえた客観として、職に関わる根本的な認識の問題、人権尊重の理念に関わる問題であって見過ごせない、と鋭く追及しました。
 加えて、当事者の心情、名前や顔、その具体的な勤務ぶり、生活などが思い描けるくらい真摯に検討した制度案なのか、と強く迫り、職場巡視を行うなど、職員の声を直接聴いて実態の把握ができる機会を継続的にもったらどうか、職場の課題を議論したり共通の目標について情報共有したりするなど、良好な職場環境づくりを促進するように、と付言しました。
 さらに、人間は、労働など社会参加によって充足感、満足感、やりがい、生きがい、連帯感などを得て、自己実現していくものであり、そうであればメンタル不調や職場の問題なども生じにくいはずで、当局は、「生殺与奪」という絶対的な権限をもつことから、相当の緊張感、緊迫感がなければならない、と先述の原点と臨時非常勤等職員の思いをよりどころに、連絡会の代表者たちとともにたたかいを進めていきました。
 あわせて、①臨時非常勤等職員には子育て世代が現に多く、無給では不安を抱えさせてしまう、②不安や疑問を解消し、子育て支援のニーズに応えていくためには、継続任用による職能の向上と人材育成、職務内容の質の向上をはかっていくことなどが重要である、③子どもたちの未来は地域の未来であり、子育て施策はまちづくりの大きな柱である ―― ことから、「子看休暇は、町の施策として子育て支援策の充実をはかる観点から『有休』とする」との当局の提案を確定させました。

4. 中間総括として

 協議・交渉の経緯や妥結内容の概要は割愛しますが、交渉の結果、次のような中間総括(2019年12月26日)をしました。その抜粋を記します。

(1) はじめに
 2019年12月19日の町長・教育長交渉により、会計年度任用職員制度の具体について妥結した。とはいえ、それはいま現在の到達点であり、終着点ではなく今後につながる出発点である。交渉したからといってこれで絶対に決めてしまうものではなく、状況が変わることはある、と当局もいっており、納得できていないことや、運用してみての課題、改善を要するところなどが生じれば引き続き協議・交渉していくことを確認している。
(2) 協議・交渉にあたって基本としたこと
 (略)
(3) 当面の方向性
 協議・交渉に臨むのに、財政上の理由が任用・労働条件の確保の大きな壁となった。「財政上の制約を理由として、制度への必要な移行について抑制を図ることは、法改正の趣旨に沿わない」「合理的な理由なく勤務時間を削るのは適切ではない」などと総務省でさえ明言している。が、「地方団体に、所要額調査を行って、その結果を踏まえ、地方財政計画において1,700億円程度を増額計上し、必要となる一般財源を確保」「制度の円滑な移行に取り組んで」という総務大臣の記者会見は12月18日であり、その会見の内容が今回の交渉には反映できていない。
 労働組合としての要求は「恒常的な業務に携わっている臨時・非常勤職員の正規職員化」がもともとであり、総務省「制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」にある「公務の運営においては、常勤職員を中心とするという原則を前提とすべき」が本来である。したがって、われらにとっての「適正な任用・労働条件の確保」を進めるべく、この財政措置を注視し、当局に善処をさらに強力に迫っていく。
 当局は「何をするにも関わる人のモチベーションやスキルによって取り組みの成否が決まる」「変化に対応できるクリエイティブ思考の人材を未来のために育成したい」「できるだけのことはしたい」といっており、ならば職員を大切にし、その業績や存在そのものを認め、高いモチベーションを保てるよう配慮しなければならないし、継続任用による職能の向上と職務内容の質の向上を図っていかなければならない。
 同じ労働者であり組合員であるという視点で、臨時非常勤等職員の希望にできるかぎり沿う処遇改善、とりわけ、任用の確保と継続性、「職種別基準表」に係る再検討、有給休暇の充実などを求め続けよう。
 会計年度任用職員制度に関係しない職場はない。よりよい会計年度任用職員制度の構築は、処遇改善という課題に単にとどまるものではない。社会情勢の変化や地域事情に対応した質の高い公共サービスの実現にも大いに関わる問題である。引き続き全組合員の力を結集していこう。

 その後、当局による制度説明会、募集、選考、管理・監督職員への説明会を経て、一般事務員、消費生活相談員、レセプト点検員、認知症地域支援推進員、見守り訪問員、介護支援専門員、認定調査員、施設管理員、地域林政アドバイザー、農業委員会事務局員、し尿収集員、子育て支援相談指導員、保育士、保育所調理師、学校給食調理師、学校司書、特別支援教育支援員、非常勤講師、教育連携支援コーディネーターなど、合わせて90人の任用(2020年4月1日)にいたっています。
 神石高原町職労は執行部役員を中心にこれまでできるかぎりの対応をし、2020年4月からも、とくに連絡会組合員が継続して任用されともに運動していけるよう心から望んでいました。しかし、募集に応じられなかった組合員、任用にいたらなかった組合員もあり、会計年度任用職員への移行にあたって脱退もありました。これは、組合員を守れなかったということにほかならず、力量のなさといわざるを得ません。痛恨の極みです。
 今回の取り組みを通してあらためて痛感したのは、伝えるべき情報などが伝えるべきときに、もれなくわかりやすく行きわたるようにすること、話をよく聴いて課題を整理して発展的・建設的な意見へと集約していくこと、みんなで考えて行動に表していこうとすること、これが正しいと思えることを実行していくこと、その結果を総括して組織と自身を常に見つめなおすことなどの大切さです。
 また、当町の会計年度任用職員の87%が女性であることは、当町における女性の就労実態の一端を表しているものととらえることができます。

5. まとめにかえて

 繰り返しますが、あらゆる取り組みにおいて、当事者の立場でその要求や意見を制度政策に反映させようとすることは、「住民ファースト」な公共サービスを行うための基盤となります。疎外されがちな少数者もあたりまえに目線にとらえて「誰一人取り残さない」行政を実現しようとすることが、人権を保障することにつながります。自治研活動では、自治体は住民の要求にどう応えているか、自治労運動が地域社会に影響力を発揮できているのかが問われます。
 そして、社会の不条理と向き合い、弱い立場とされる人びととともにたたかうのが労働運動です。運動は1人ではできませんが1人からはじまり一人ひとりがやっていくものです。2人いれば何かができ、3人以上が集まれば組織になります。そして、われわれの要求を実現していくための1つのカギとなるのは、他の人の気持ちを想像できる力、共感的に受け止めようとする力、理解しようとする力などが組合員に培われていて、お互いを認めあえているということではないでしょうか。
 神石高原町職労は、4つのワーク(①ヘッドワーク:物事の基本を学び、よく考える、②フットワーク:学びを生かしてその時どきにできる行動をする、③ネットワーク:必要な情報を共有、活用し、好ましい関係を創る、④チームワーク:個人を尊重し、つながり、大切に支えあう)を土台とした組織でありたいと考えてきました。
 今後とも、県本部に結集する一単組として、組合員として、人権確立を強固な基礎とする人としてのありようを追求し、あたりまえのことをあたりまえに考えやるべきことをやりとおせる組織として強化に努め、運動を継続していきます。