【自主レポート】 |
第38回地方自治研究全国集会 特別分科会 AI・RPAと自治体 ―― これからの公共サービスのあり方 ―― |
地方自治体の業務が複雑化・多様化してきている状況下において、より効率的かつ効果的に行政サービスを提供することが求められている。その打開策として、様々なIT技術の活用が、より一層脚光を浴びている。その中でも、本書では、Excel VBAによるマクロを取り上げ、それを地方自治体の業務に活用することについて述べる。 |
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1. はじめに (1) 概 要本書では、地方自治体の業務にExcel VBAによるマクロを活用する上での課題や効果について考察する。
(2) マクロとは
(3) Excel VBAとは エクセル操作のマクロを実現するための、命令(処理)を記述するプログラミング言語のこと。
(4) 用語の定義
2. 背 景 2010年国勢調査では1億2,806万人であった人口が、2048年には1億人を割ることが見込まれるなど、日本の人口は大幅に減少する見通しである。それと同時に、少子高齢化に伴う労働力人口の減少(2030年問題)が社会的にも問題視されている。地方の財政状況については、地方財政収支の不足額を補填するための地方債(臨時財政対策債)の残高が年々増加しており、依然として厳しい状況にある。 これらのことを受けて、地方自治体では、地方公務員の総数と給与の抑制傾向が長く続いている。[2] 一方で、地方自治体の業務は複雑化・多様化してきており、これらのような状況下においても、より効率的かつ効果的に行政サービスを提供することが求められている。そして、昨今の地方自治体の業務は、情報システムが深く関わり合うようになり、日々の業務を遂行する上で必要不可欠な存在となっている。その業務を支援するためのツールとして、「AI」「IoT」「クラウド」などのIT技術の活用が、より一層脚光を浴びている。 3. 目 的 本書では、2章で言及したIT技術のうち、Excel VBAによるマクロを取り上げて説明する。八雲町では、業務でマクロを運用しているケースは少なからずあるが、それは「コピーする」「印刷する」など非常に単純な操作に限られており、業務でマクロを有効活用している状況とは言えない状況である。 そこで、マクロを地方自治体の業務で活用する上での課題や効果について考察する。そして、本書を通じて、地方自治体の職員がExcel VBAによるマクロを学ぶきっかけを提供することを、目的とする。 4. 検 討 筆者は、前職はソフトウェアのエンジニアであり、主に上流工程(要件定義、システム設計など)に従事してきた。そして、現在は八雲町の職員として、地方税の徴収業務や収納管理業務に従事している。そこで、これまでの経験を活かして、IT技術で実際の業務を支援するために、Excel VBAによるマクロでツールを作成する。さらに、そのツールを同様の業務に従事する職員にも配布し、全体としての業務の効率化を図る。これにより、マクロの有用性を職員に体感してもらい、業務に与えた効果や意識(マクロを学ぶ意欲など)をアンケートにより評価する。5. 事 例 (1) 業務内容八雲町の徴税吏員は、地方税の徴収業務において、滞納管理システムを用いて滞納整理を行っている。滞納管理システムの画面上では滞納者一人一人の滞納額や折衝履歴を管理しているが、滞納者全体の一覧管理は滞納者一覧(CSV)から滞納者管理リストを手作業で作成して、それで管理している。八雲町の徴税吏員は1人当たり約300人の滞納者を担当しており、リストの規模も相応に大きくなる。しかし、滞納状況は日々変化するため、それに応じてリストを随時更新することが困難であった。これにより、一度作成したリストを長く運用し続けることで、実際の滞納状況とは乖離が生まれてくる問題が発生していた。 そこで、この問題を解決するために、滞納者管理リストの作成作業の自動化をめざし、滞納者管理ツールを作成することとした。 (2) ツールの仕様
このツールでは、まずユーザーは図5-1に示す画面で元のデータとなる情報を入力し、その後「滞納者管理リスト作成」ボタンを押下することで、滞納者管理リスト作成のためのユーザーの操作は完了する。 このツールの操作は、前述で説明した手順の他は滞納者管理システムから滞納者一覧(CSV)を出力するだけであり、従来の手作業と比較してユーザーの作業時間は非常に少なくなる。そして、定期的に(1回/月など)ツールで前述の操作を繰り返すことで、滞納者管理リストに対して、常に最新の滞納状況を反映することができるようになる。 なお、このツールを作成するにあたって、他業務と連携させることを目的とした財産調査支援機能や、ツールの普及を目的とした滞納管理リストのフォーマット変更機能も搭載したが、それらの機能の詳細については本書では言及しない。
(3) ツールの処理
このことを実現するために、図5-3に示す処理を、Excel VBAによるマクロで実装する。まずは、①一時シートに入力された滞納者一覧(CSV)をコピーする。そして、②一時シートに過去の滞納者管理リストの情報の必要な情報のみコピーする。最後に、③一時シートの内容を滞納者管理リストとしてエクスポートする。 滞納者一覧の入力処理(前述①の処理)については、図5-4に示す通り、滞納者一覧(CSV)のN行目を一時シートにコピーして、それを滞納者一覧(CSV)の最終行まで繰り返すことで実現する。 過去の滞納者管理リストの結合(前述②の処理)については、図5-5に示す通り、過去の滞納者管理リストのN行目の滞納者が一時シートに存在するかチェックした上で、もし存在していたらN行目を一時シートにコピーして、過去の滞納者管理リストの最終行まで繰り返すことで実現する。
(4) 工 数
6. 考 察 滞納者管理ツールを配布した職員(5人)に対して、滞納者管理ツールとに関するアンケートを実施した。
(1) 滞納者管理ツールに関するアンケート
(2) Excel VBAに関するアンケート
3章では業務でマクロを有効活用できていない旨に言及したが、職員のほとんどが滞納者管理ツールを使用しており、マクロで作成したツールそのものに対する抵抗感はないようだった。また、職員のほとんどがExcel VBAに関心があるが、それを活用することに対する課題を強く感じていることから、マクロに触れる機会や学ぶ機会が少ない環境にあることが、業務でマクロを有効活用できていない理由のひとつであると考えられた。 以上のことから、地方自治体の職員にとっては、セミナーの開催など自己啓発の機会を提供することの需要は高く、それを行うことで一定の効果を上げることが期待できる。 7. まとめ より効率的かつ効果的に行政サービスを提供することが求められている中、本書では、Excel VBAによるマクロを取り上げ、それを地方自治体の業務に活用することについて述べた。そして、実際の導入事例を通じて評価し、そのことの有用性を示した。本書が、できるだけ多くの地方自治体の職員にとって、Excel VBAによるマクロを学ぶよいきっかけになることを期待する。 8. 文献目録 [1]大村あつし、"Excel VBA本格入門"、2017年[2]総務省、"地方自治体における業務の標準化・効率化に関する研究会"、2015年 |