【自主レポート】
静岡市の政令指定都市構想への問題提起
静岡県本部/静岡県職員組合
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1. はじめに
「市町村に関する合併特例法」の期限(2005年3月)が近づくにつれて合併協議が本格化しています。
平成の大合併は、廃藩置県後の町村制の発足に合わせて実施された「明治の大合併」と、1950年代前半の「昭和の大合併」につづくもので、その目的としては地方分権、少子高齢化社会、情報社会、価値観の多様化などに対応するためと言われています。その一方、国による地方の再編成合理化の一環であることが、合併特例法や地方制度調査会の答申から見ることが出来ます。
全国的にみると、東日本に集中した昭和の大合併と違って、平成大合併の動きは、西日本も含め全国的に活発です。静岡県はその中心地域に位置することや、知事が総務省出身であること、当時の総務大臣が静岡県の総務部長経験者であることもあり、他県以上に積極的な推進が展開されています。県内には2003年3月現在県内74の市町村がありましたが、数年後には30程度に集約され、村はすべて無くなるとも言われています。この中で大型合併として全国的にも注目された静岡市・清水市の合併は、次のステップとして政令市移行へと加速しており、それに続いて天竜・浜名湖地域の12の市町村合併協議が行われており、さらに10年後をめざして東部でも政令都市構想が取り沙汰されています。静岡県は、将来の県のあるべき姿として「政令県」創設を提案しました。一方、地方制度調査会では、都道府県を廃止して「道州制」とする動きもあります。まさに自治体のあり方が全面的に問われる時代に入っています。こうした動きのなかで、職場では地方分権への期待の反面、将来に対する不安と危惧も生まれています。政令市の誕生は本県では初めてのことになりますが、静岡県における政令市は、発想、スケール等どれをとっても前例のないものであり、それが実現した場合は「県のあり方」や県事業の運営に大きな変化が求められてくることは必至と思われます。
合併、政令市そして今後の県政のあり方が問われる中、このことを当局の検討に委ねるだけではなく、自治体職員として積極的に提言することが必要です。
県職員組合では、そこで2003年9月から半年間にわたって政令指定都市「さいたま市」の事例をもとに、限られた期間でしたが、さいたま市と比較しながら静岡市の政令市移行の問題点と課題、県政の関わりについて検討するとともに、自治体労働組合の課題を調査、研究してきました。
まだ、不充分さは多くありますが一定のまとめとして今回のレポートを作成しました。
今回は政令指定都市に軸足を置きましたが、次回のレポートでは、県政のあり方をテーマとして静岡県が示した「新時代の内政構造改革」の論評を中心に、県職員組合としての県政構想を示したいと考えています。
(1) 政令指定都市誕生は「地方分権」か、それとも「分県」になるのか
① この問題を冒頭に提起するのは、実はここに本県特有の問題があると考えたからです。多くの市町村長が、合併して人口が増加すれば「未来は明るい」と宣伝し、合併への道を突き進んでいますが、果たしてそうでしょうか。特に、静岡県では県と同等の権限を持つ「政令指定都市(以下政令市)」に静岡市が移行することは、有史以来の出来事です。しかもその後を追って、浜松市を中心とした天竜川・浜名湖地域、さらに10年後を目指した沼津市・三島市から御殿場市・裾野市を視野にした「政令市構想」があります。そうした政令市が誕生すれば、静岡県は「地方分権」ではなく「分県」といった状況になります。石川知事が「市町村はどこまでいっても必須の組織だし、国も国民にとって必須の組織だけれども、都道府県のような中間的な存在は、分権論議がどんどん進む過程で、いとも簡単に道州制理論に取って代わられてしまう」(「地方分権への道標」)と指摘しているように、県政の方向が明確にならなければ既存の県行政の縮小と空洞化、それに伴って小規模市町村の地方自治が損なわれる恐れがあります。
つまり、市町村合併と静岡型政令市構想は、県政にとっても、表裏一体の課題としてとらえることが必要です。とりわけ市町村合併は全国的に推進されているものの、静岡県のように「分県」の可能性がある東・中・西部を分断する構想を持っている県は他にはありません。
知事は2004年(平成16年)の年頭の挨拶で、こうした状況を踏まえて、内政構造について静岡県を地方自治制度上想定しなかった「政令県」とするよう、国に提案する考えを示しました。地方分権推進の観点からみれば一考に値しますが、その実現性は必ずしも容易なものとは言えません。
② 静岡市と清水市の合併は、それだけでは特例債を除けば、特に魅力や必要性が高いものとはいえません。合併メリット機運を高めるために、合併後は政令市を目指すこととし、横浜市の「みなとみらい21」や千葉県の「幕張新都心」への視察が行われ、政令市になると「(ア)身近な場所できめ細かな行政サービス…区役所が設置され、地域に根ざした身近な行政運営が展開できる。(イ)都市のイメージアップ…都市の活力が向上し、より高次で高質な街作りが推進される。(ウ)行政サービスの向上…総合的で自主的な行政が展開できる。(エ)特例措置の財源で豊かな街作りが図れる」(静岡市政令指定都市準備課)等のパンフを全戸配布し、これまで一般の市では出来なかったことが、政令市になることによって可能になるような宣伝もされました。
しかし、現実はどうでしょうか。そこで、まず、最初に既存の政令市との比較をすることにします。
(2) 政令指定都市実現への検証
① 政令市とは、1947年(昭和23年)以降とってきた東京市=東京都を除く「5大市制度(大阪市、京都市、横浜市、名古屋市、神戸市)」が原点になっています。その後は国による国土改造計画…国土拠点整備事業等による人口集中化政策で誕生した政令市(北九州市、福岡市、札幌市、仙台市、川崎市、広島市)、そして12番目の千葉市、13番目のさいたま市は「幕張副都心」、「さいたま新都心」と、いずれも首都改造計画を基本にした整備計画のもとで指定されています。
このように、これまでの政令市は、国の基本政策と政令市の対象要件を斟酌して指定されおり、人口だけが必須要件ではないと思います。今回「静岡市」がこの基本方針を変更してまで政令市の指定を受けるとなれば、まさに「平成大合併」推進のための政令市拡大策の面をみざるを得ません。
② その一方、2003年(平成15年)11月に発表された第27次地方制度調査会の答申において、当面、人口1万未満の小規模町村の統廃合と、町村合併によって3万以上の市に集約し、10万~15万規模の市を合併させることによって特例市及び中核市にすることを目標としています。合併推進のため、様々な便宜がはかられているのが現実です。
③ 静岡県でも、2004年(平成16年)4月1日に伊豆市(修善寺町、天城湯ケ島町、中伊豆町、土肥町)、御前崎市(御前崎町、浜岡町)が新たに誕生しました。しかし、特例市、中核市と違って「政令市」については、「政令指定都市の要件」(表1)という基準があり、単に人口が70万人以上になったからというだけで、指定されるとは限りません。国はこれまで100万人以上を指定の要件としていましたが、それでも千葉市が83万人で政令市になっていることから、必ずしもその要件をすべて満たさなければならないという、厳格なものではありません。それでも原則的には大都市の形態が整い、かつ一定の要件が整わなければ「政令市」とは認定しませんでした。人口密度や市街化率、産業構造等いずれも指定基準以下の静岡市が政令市になるように緩和されれば、全国いたるところに「政令市」誕生の布石となることは間違いありませんし、その場合、国と県、県と政令市、県と市町村の関係が根本的に変わることになります。とりわけ、静岡県内には、中・西部の市町村が大合併した政令市方針があるだけに問題は大きいものがあります。
① 人口は100万人程度(地方自治法第252条の19「政令で指定する人口50万人以上の市」
② 市域面積が200km2程度
③ 人口密度・産業人口比率等が一定数値以上
④ 行政・経済・文化等都市機能の充実
⑤ 固定資産課税標準額が既存の政令指定都市と比較して隔たりがない
⑥ 区政を実施するための区割り、区役所設置等の区制業務の処理体制が整っている
⑦ 政令指定都市移行について、県と市の意見が一致している
⑧ 地方圏域における拠点性が高い
⑨ 歴史や国際性など都市の風格
*「政令指定都市に備える千葉市」(1983.3)「指定都市と神奈川県」(1990.9)
「地方自治新時代と埼玉県政」(2000.4)等により合成。 |
なお、「市町村合併ハンドブック…総務省監修」(平成15年5月10日5版発行)による、指定都市、中核市、特例市の比較では、政令指定都市対象の要件は「人口その他都市としての規模行財政能力等において既存の指定都市(13の政令都市)と同等の実態を有するとみられる都市が指定されている。」と説明しています。
表2は県と同等の権限を有する政令市との人口と面積、人口密度の比較です。静岡県の行政エリアは県の総面積の52.8%、所管人口は43%で県民の57%が政令市民となります。まさに静岡県は「地方分権」というより「分県」といった状況になります。政令市以外にも、人口30万以上になれば中核市となり保健所政令市の指定を受け、県型保健所から市型保健所に移行します。
さらに人口20万以上になると特例市の指定を受け、一定の権限が県から移譲されることになります。このような状況が進むことによって、これまで県が行ってきた広域行政や調整機能、県全域を視野に入れた「役割」はどうなるのか等、政令市の誕生は、県にとっても県民・県職員にとっても多くの問題や課題を生むこととなります。つまり政令市問題は、県政問題でもあるといえます。
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人口(人)
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面積(km2)
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密度(人)
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県 所 管
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1,626,567
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4,109.01
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396
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静 岡 市
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706,513
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1,373.85
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514
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西部(仮称)
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788,158
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1,264.32
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623
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東部(仮称)
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660,103
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1,032.37
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639
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計
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3,781,341
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7,779.55
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486
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(3) 静岡市長の構想
静岡市長の発言は慎重かつ流動的です。これまでの「2005年に政令市移行を目指す」から「志太2市2町及び庵原3町まで視野に入れる」とした100万人構想にまで言及しています。既存型の政令市としては簡単に実現しないことを知ってのことでしょう。だから広域中枢拠点(地方中核都市を中心に、その周辺に複数の核となる都市が存在している地域において、核となるそれぞれの地域が特色ある機能を持ち、それらが適切な役割分担のもとに、地方中核都市と連携することにより、多様で高次な機能を有する多核型、ネットワーク型の圏域を形成し、あたかも一つの拠点として発展している地域⇒(旧)国土庁計画・調整局特別調整課…定義)として整備することを模索していると思われます。だがそうした構想も、人口の減少と高齢化、周辺地域のスプロール現象(無計画な宅地造成などによって都市・郊外が無秩序に外に広がっていること)という現状の問題点を抱えています。加えて、周辺に複数の核となる都市が存在している地域として期待していた志太2市2町の合併協議会から大井川町が離脱し、庵原3町の合併協議会が分裂するなど、その前途は楽観できません。
いずれにしても、合併に対する住民の意志の把握が不充分なうえ、多くの懸案課題を先送りして「政令市構想」のイメージ先行で合併した(新)静岡市の「政令市移行」の動向は、後発の堺市や岡山市は勿論のこと、国の自治体政策の根幹に関わることから全国的にも注視されるとともに、静岡市を目標としている西部の大型市町村合併にも影響をあたえることは必至と言えます。
(4) 既存型「政令指定都市への道」は厳しい
静岡市は政令市移行に向け、県と事務・事業移譲にともなう協議を行っています。2005年(平成17年)4月1日に政令市に移行するには、(ア)政令市移行への準備(行政行為が円滑に引き継がれるために移譲される県の事務・事業について協議すること)→(イ)市議会で政令市に関する意見書の議決→(ウ)知事・県議会に政令市の実現を要望→(エ)県議会で政令市に関する意見書の議決→(オ)市・県から総務大臣に政令市の実現を要望→(カ)政令市移行の閣議決定→(キ)政令の公布という手続きが必要です。
まず、県と事務・事業移譲にともなう協議ですが、さいたま市を例にとると、法令等必須事務331件、法令等任意事務29件、県単独事務等208件の総数568件という膨大な事務・事業について協議されています。静岡の場合も県単独事務を除けばさいたま市と同様な件数になります。
協議はトップによる基本合意と個別の事務についての協議となります。県と静岡市は2003年(平成15年)8月28日に権限移譲について基本合意しました。問題は移譲にともなう事業経費の財源確保や職員の政策立案能力の向上と養成、人材の確保、さらには施設整備等の受入れ体制が可能かどうかという課題もあることから、相当な時間がかかります。さいたま市でも一例をあげると、身体障害者相談事務等は当分の間、埼玉県がこれまでどおり行い、所要経費をさいたま市が負担することで何とか合意にこぎつけたとのことです。
基本合意にあたり、静岡市長は補助金削減、地方交付税の見直し、税源移譲の三位一体改革や市税の減収など厳しい財政環境などを考慮し「千葉市や仙台市の政令指定都市移行時とは違い、厳しい財政状況下なので、計画的、段階的に移譲を受け入れることも考えたい」(2003年9月静岡新聞)としていますが、財政が厳しいことは県も同様です。
権限が政令市に移譲される場合は原則的には受け入れなければならず、細部にわたる協議には時間がかかります。特に、静岡市は既存の政令市の河川(複数の市町村を経由する河川)と違って、源流から河口まで同一市域に存在する一級河川「安倍川」と二級河川「巴川」がありますから、当分の間はともかく、この管理移譲が今後の大きな課題となります。
さらに、知事は「過疎地域を含む静岡型政令指定都市の実現」と表現しているように、静岡市を既存の政令市と同じ手続きで指定されるには、幾つかの問題点があります。それは、国には「政令指定都市指定の要件」(表1)があり、静岡市の現状はあまりにも不適合が多い実態だからです。無理して合併にはこぎつけたものの、合併=政令市移行への道は厳しいのではないかと考えることが出来ます。では、既存の政令市が指定された時の「指定基準」と静岡市の実態を比較してみると、次の6つの問題が指摘できます。
① 人口が指定基準を下回ること。
国の要件によると「人口は概ね100万人程度あること」となっています。静岡市の人口は706,513人で、しかも人口は減少傾向にあります。要件にはとても達していません。ただ千葉市の例もあり厳格な要件ではないものの、将来性等なんらかの補完する内容が必要と思われます。例えば、千葉市の場合は人口増、首都との業務管理、及び幕張副都心計画など政策的要素を加味して指定されています。
② 面積が広すぎること。
国の要件は、「200km2程度」となっていますが、静岡市の面積は1,373.89km2で要件の6.5倍もの広さです。既存の政令市では200km2以下でも、さいたま市が168.33km2で、川崎市が142km2で指定されていますが、要件の6.5倍もの広さは論外です。
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大 阪 市
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11,182人
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川 崎 市
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8,625人
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横 浜 市
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7,785人
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名古屋市
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6,448人
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さいたま市
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6,243人
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福 岡 市
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3,800人
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千 葉 市
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3,210人
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神 戸 市
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2,676人
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京 都 市
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2,274人
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北九州市
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2,070人
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札 幌 市
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1,615人
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広 島 市
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1,496人
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仙 台 市
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1,252人
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静 岡 市
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514人
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③ 人口密度が少なすぎること。
要件では、「2,000人/km2はあること」となっています。その理由は都市形態・機能を備えているか否かです。人口100万人以下で人口密度2,000人/km2以下で政令市となった仙台市は、人口増と地方圏域(東北ブロック)における拠点性が高いことを加味して指定されています。静岡市の人口密度は、わずかに514人です。(表3)要件は「過密性」をいっているのであって「過疎地域」を有していることは政令市の要件外とみられます。
④ 財政力指数が低すぎること。
要件では、「行財政能力を備えていること」「固定資産課税標準額が既存の政令市と比較して隔たりがないこと」となっています。その理由は、政令市は県と同等の権限を有する「格上の市」であり、行財政能力がなければならないことにあります。
既存の政令市は、指定をうける時の財政力指数は概ね1.0程度であり(指定以後公債費増により低下している)、固定資産課税標準額も若干の差はあるものの、大都市圏として一定の水準になっています。さいたま市の財政力指数は0.999でした。静岡市の場合は0.86であり、今後も公債費増等から改善される見通しがありません。
⑤ 歴史や国際性などが乏しいこと。
要件を補完するために「歴史や国際性など都市の風格」を考慮しています。京都市はもともと五大市構想で指定されていますが、その時にこの項目が考慮されています。
静岡市の駿府城などは、要件でいうところの「歴史性」への該当は困難視され、国際貿易港「清水港」程度では「国際性」にも該当しないでしょう。
また「富士山を眺望する国際都市」と言っていますが、富士山が世界遺産に登録されればともかく、その見通しもなく、ましてや国際会議場や宿泊施設も完備していない中での"国際都市"は、国の後押しもないスローガンの域を出ないと言わざるを得ません。
⑥ その他
要件には「区制を実施するための区割り、区役所設置等の区制業務の処理体制が整っているか」という項目があります。政令市は、区を設置することができる特例が認められています。それはより住民に身近なところで行政サービスが提供されることを期待しているのです。区割りは地理関係もあって基準はありませんが、区の人口は概ね12~15万人とされています。
これは指定の要件というより、権限移譲後の行政が円滑に推進できる体制となっているのかどうかということであり、住民の行政への利便性を求めています。このことからも、現在検討されている3区制が問われます。
(5) 政令指定都市の限界と現状
このような困難の中、なぜそんなにしてまで、政令市移行が必要なのでしょうか。政令市はそんなに魅力的でしょうか。静岡市の広報紙では「一般の市では出来なかったことが、政令市になれば可能になる」という宣伝がされています。だが、現実はどうでしょうか。制度上政令市は一般の市と比べて5つの特徴的な違いがあります。問題点を含め示してみたいと思います。
① 県が持っている権限と事務の多くが移譲されること。
地方自治法で規定している移譲事務の他、個別の法令によって移譲される事務があります。静岡市は以前から「保健所政令市」の指定を受けているため、保健所が設置され、保健衛生に関する事務や建築基準法や老人保健法などの一部事務が行われていますが、政令市になると県が行っていた国道や県道及び児童福祉、場合によっては河川の維持管理の仕事等が移譲されます。これら移譲された事務についての申請や事業に伴う補助金、負担金等は国との直接折衝となります。
② 財政上の特例措置が受けられること。
政令市移行の最大のメリットとして宣伝されているのが財政面です。しかし、政令市には県税などの独自の税制があるわけではなく、税制上は従前どおりの市町村税が適用され、特例として工場など価額が40億を超える大規模償却資産の固定資産税が移譲されるにすぎません。税制以外では地方交付税算定における基準財政需要額について大都市加算が行われ、国道、県道の維持管理が移譲されることへの対応として、地方道路譲与税などの道路目的財源が交付されるほか、宝くじが発売できるようになりその収益金が配分されることや、地方債発行の許可が県をとおさず国の許可で行うことができます。
「さいたま市」の2003年度(政令市になって最初の年)の移譲に伴う歳入歳出の分析結果によると、当初予算では政令市移行前に比べて約304億円超の収入増を予定しています。
歳出は、税・財政の特例措置を上回り、市の財政を圧迫し住民負担は増加します。
政令市になって県から移譲された事務・事業に見合った財源が保障されればともかく、現実は特例に伴う税・財政措置の不足額が大きく、また、従来は県が負担していた補助金を市単独で負担することになります。
ちなみに、さいたま市の移譲事務に伴う支出増は、予算書でみると約399億円となっています。この内訳は、法定等移譲事務経費283億円、県単独事務の移穣事務経費は115億円で、これだけで94億円の持出しとなりました。「それ以外に区役所設置や譲渡された財産の管理費用と債務(借金)付の財産の返済額と埼玉県の有料道路(債務超過)の有償譲渡財産」が加算されたことから、さいたま市の財政を圧迫し、合併前や政令市移行前の『負担は低い方、サービスは高い方に』の当初方針どおりにならず、住民への負担増と人件費の削減が行われています。
特に、静岡市の場合は既存の政令市と違って過疎地域を含む広大な面積を有し、しかも、県道井川湖・御幸線など南アルプスに通じる南北に長い山間地や過疎地に通ずる県道等の維持管理 に要する負担が見込まれます。
また、さいたま市と同様ですが、利用者も少なく不採算道路である「日本平パークウェイ」の購入費8億4千万円とその維持管理費等や、法定移譲事務による市負担額(従前の県負担分が政令市に転嫁)が増大します。つまり、歳入は増えても、移譲事務の経費は相当な額が見込まれます。
③ 行政組織の特例として、行政区がおかれ区役所が設置されること。
ただ、この行政区は東京23区の特別区と違って、「行政を能率的に執行する」ためのもので、区長や収入役は市長の任命であり、区議会も置かれません。いうならば支所機能を拡大した程度のものです。市の広報によると「身近できめ細かな市民サービスが受けられる」といっていますが、住民票等の届出や印鑑証明等の窓口事務はともかく、権限や予算を伴うものは市役所で行うことに変わりはなく、住民参加もありません。さいたま市の場合は、合併前の3市役所が1市役所、9区役所となり、区役所には区民会議がおかれ、区長決済で1億円の予算措置がなされています。限られた中でそれなりの市民サービスへの配慮がされています。
一方、静岡市はこれまでの2市役所が1市役所、3区役所でいく方針です。この方針ですと清水地域の住民全員と静岡の中心地から北部の県境までの住民は、印鑑証明や住民票等の届出や証明等の窓口事務は従前通りで、許認可等の権限や予算を伴うものは東静岡市に設置される予定の市役所に来ざるを得ず、「身近できめ細かな市民サービスが受けられる」とはとても言えません。なにより大事なことは、地域住民にとっての利便性です。これが区制度の本来の目的です。
④ 選挙が公職選挙法の規定により行政区単位の小規模選挙区になること。
市長は全市一区ですが、県議会議員や市議会議員の選挙区は、行政区ごと小規模選挙区となり、議員定数も減少されることから、民意を反映しにくい制度となります。
もっとも、県議会議員の場合は、地元誘導型の選挙活動が市議会議員に移行することから、大局的視点にたった「政策能力向上」への改革が期待されるかもしれません。
⑤ 住民には直接影響がありませんが、人事委員会が設置されること。
人事委員会制度は、労働基本権の代償措置として都道府県と政令市に設置されることになっています。しかし、現実の人事委員会制度は国の人事院の方針を踏襲し、本来の目的にそった勧告や意見を述べる等、代償機関としての役割は機能していません。
プラスの部分もありますが、これまでの政令市の人事委員会勧告は、資料の千葉市の例やさいたま市に合併した旧大宮市、旧与野市の処遇改悪に見られるように、「行政コスト削減措置」等から総じて、政令市以前の職員組合が多くの努力によって改善した権利や処遇が、国や他の政令市に準ずるとして「人事委員会勧告」によって改悪されています。この人事委員会制度による勧告は表面にはでませんが、政令市職員にとどまらず、地域の賃金水準にも影響するもので、見逃せないものです。
(資料)千葉市職の政令市移行に伴う報告から抜粋(自治労自治研集会報告)
【人事委員会制度の果たす役割】 |
92年の賃金確定闘争は、千葉市人事委員会の発足後最初に行われた賃金闘争となった。従来、本市の賃金・労働条件については、春闘期の交渉で課題を絞込み、8月の人事院勧告を受けて、11月の確定交渉で決着をつけるというパターンで改善をされてきた。交渉の基準は、国の勧告が基準となるものの、労使での交渉範囲は相対的に大きいものがあった。例えば、自治体独自の判断が困難な課題に直面しても、労使交渉において他の課題の改善により克服してきた。人事院勧告が凍結された時期の交渉がこれにあたる。ところが、人事委員会制度の発足により、この従来の交渉制度が大きく崩れる危機に見舞われている。つまり、人事委員会の勧告が交渉内容の大部分にわたり足かせとなり、国の人事院勧告や他の政令市の賃金改定率を大きく下回るなど、政令市に設置が義務付けられている人事委員会の存在が、賃金・労働条件を大きく抑制することを思い知らされた結果となった。 |
このように、政令市は県に準ずる位置づけによって、一般市とは違った税、財政上の権限をもった制度ですが、権限も財源も非常に限定されたもので、とりわけ拠点整備、交通網整備等の公共事業では補助金や負担金の持出しが増えることから、さいたま市でも合併の公約であった「サービスは高いほうに、負担は低いほう」とはならず市民への負担増大と給付の削減や住民サービスの引き下げ、市職員の削減や処遇の改悪、業務の民間委託等が強化されています。
静岡市も合併した途端に、さいたま市と同じ道をたどり、「国保税の大幅引上げ」が実施され、まさに、政令市になれば「夢」が醒め、厳しい財政運営をさらに余儀なくされる心配はないでしょうか。
(6) 「静岡型」政令市とは何か、その課題と県政は
① 静岡市は「2005年(平成17年)4月1日に政令市に移行する」として、準備を進めています。しかし、前述した「さいたま市」の政令市移行の状況や、検証結果報告、さらには国の「政令市の要件」等を考慮すれば、既存の政令市型への移行は難しいと考えられます。このため、県知事はあえて「過疎地域を含む静岡型政令指定都市を目指す」と言明したのではなかったかと思います。
では、静岡型とはなんでしょうか。一口で言えば、「既存の政令市ではない新しい型の政令市」と言うことになります。静岡市のような日本一広い面積の中に、国立公園(南アルプス)と長い海岸線が存在している政令市は、既存の政令市のイメージからでは想像することができません。それが静岡型政令市ではないでしょうか。問題点や課題があるものの、「地方分権型政令市」の新たなモデルとして考察する必要があります。
② 知事は、2003年(平成15年)4月の静岡商工会議所会報で『例えば、新市は一級河川の安倍川や二級河川の巴川の源流部から河口までを、その行政区域に含む全国最大の面積を誇る政令指定都市となります。このような新市の今後のまちづくりを考えた場合、この河川空間を抜きにしては考えられないと思います。河川法の改正により、県と政令市が合意すれば、一級河川の県管理部分や二級河川の管理を、県から政令市に移管することが可能となりました。県としては、このような県の権限を可能な限り政令市に移譲する地方分権時代の全国モデルとなる「静岡型政令指定都市」の実現を目指し、新市とともに取り組んでいきたい』と期待を述べています。
しかし、日本経済新聞の合併先進県「静岡の光と影」では、2005年(平成17年)4月の政令市入りを目指し調整を進めるが、政令市昇格後のビジョンはいまだに示されず、「新市の核地区」となるJR東静岡駅周辺の開発(プロジェクト)も大幅に遅れ、人口減、高齢化進展、地方税減等があり"政令市へ展望欠く"と評される始末です。
③ 新市の核地区と宣伝されているJR東静岡駅周辺整備地域に建設されたのは、県が採算を度外視して建設したグランシップとNTTの建物、JR東静岡駅、他にマンションやビジネスホテルなどです。さいたま市のような国家的プロジェクトによる整備計画や、民間企業の進出計画も現状見当たりません。このため2004年(平成16年)1月4日の報道によると、劇団四季の劇場をこの地区に誘致する方向で話し合いがされているとのことです。劇団四季の劇場が進出することは結構ですが、劇団四季は一文化団体であることや採算制をとっていることから、進出するか否かは不透明な部分があります。合併時のグランドデザインにあった「オペラハウス」のような採算を度外視した誘致であっては、地域の活性化等にも貢献できず、不採算のハコ物が立ち並ぶ地域になりかねません。
④ また、地方制度調査会の「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」と2003年(平成15年)12月に設立した既存の13政令市長会の動向もあって、静岡市の既存型政令市または静岡型政令市のいずれであっても、何らかの補完すべき条件が付けられることは避けられません。「平成の大合併」のモデルとして「人口70万人で政令市実現」のお墨付き(「静岡・清水市の合併記録集」…静岡市発行によると2002年(平成14年)2月に片山総務大臣(当時)を招いた講演で、大臣は「県が同意すれば指定する」と明言した。と記載しているが、これは旧清水市の合併機運を高めるためのリップサービス)でも貰っていればともかく、それがないなかで政令市への移行をめざすなら、静岡型への決断が必要です。知事の指摘を待つまでもなく、地方分権時代の全国モデルとなる「静岡型政令市」の実現を目指すためにも、既存政令市を模倣したこれまでのグランドデザインを見直し、住民の参加による本格的な「街づくり」計画への検討が求められます。
⑤ すでに問題点と現状は指摘しましたが、静岡市は2003年(平成14年)12月24日に市議会で「政令市移行を国、県に求める意見書」を賛成多数で採択されたのを受けて、知事と県議会に要望書を提出しました。これを受け、県議会としては要望書を採択し、現在、県と国との実質的な協議に入っています。
この協議の中心となるのは、既存型の政令市か、それとも静岡型政令市かの選択になります。すでに触れたように既存型への政令市は難しく、また県の今後の方向がはっきりしないもとでは、たとえ「静岡型」であっても、それは「分県」に繋がりかねません。まさに「静岡県政のあり方」が問われることになります。
(7) 「政令県制度」創設の壁
① このレポートの最後として静岡県政のあり方について若干の提言をしてみることにしました。知事は静岡型政令市の誕生と、国が構造改革強化のために新たに打ち出した地域再生計画区域プランに併せて、国の権限の一部移譲を求める「政令県制度」創設を提案しました。
この内容は、(ア)国の行政分野における所管の特異性、(イ)交通体系と経済のグローバル化による経済圏域の2局化の進行、(ウ)県土と県行政を分割しかねない政令市の誕生と市町村の大合併の動向、(エ)地方制度調査会の道州制の動き、(オ)静岡県の行・財政の規模、能力の水準、(カ)地理的特性と歴史的事情等から、本県事情を考慮した将来的県政のあり方の提案となっています。職員の意識改革や行政管理の一元化等で一考する価値があります。しかし、提言の基礎となっている「新時代の内政構造改革」によれば道州制は避けられないと推定していること、さらに政令市以外の市町村の区域や行政については、当面、県が加わる「広域連合」を設置し、県内を2つの政令市と3ブロックの広域連合で構成する「政令県」を構築するとしています。ここには一定の疑問や棚卸的内容もあり、加えて「新公共経営」(ニューパブリック・マネジメント、NPM)の手法導入に見られるように、効率性に重点が置かれ、地方分権や住民自治の視点が不透明です。「県の機能・役割のあり方に関する市町村長アンケートの実施結果」(神奈川県)にもあるように、基礎的自治体である市町村の意見が反映しにくい広域連合は充分な議論が必要となります。
② この「政令県制度」創設については大きく分けて5つの壁があります。その壁を検証してみました。
ア 地方制度調査会では道州制や広域連合の論議はあるが、「政令県制度」論議は少なく、ましてや政府が官僚の温床となっている「国の権限の移譲」に極めて消極的であること。
イ 小泉内閣の地方分権に伴う税源移譲の「三位一体」改革の混迷に見られるように、基幹税源の移譲を回避するなど消極的であり、こうした構造改革路線のもつ具体性の欠如と継続性への批判が生まれていること。
ウ 「政令県」構想は、地方自治制度全般の改変となり、法令整備にかなりの時間が必要であること。
エ 全国知事会でも合意が得られることは容易ではないこと。政令県制度は、人口や財政力、産業構造等を総合的に考えて国の「地域再生計画区域プラン」に提案されたもので、端的に言えば主要県を視野においた制度であり、このため、地方交付税財源に依拠している多くの県や自治体の同意を得ることが難しいこと。また財政力が比較的豊かな県による「格上県(政令県)」創設は「地方分権に逆行」「地方差別」として反対されかねないこと。
オ 大都市の諸問題と今後の対応を協議するため、既存政令市が2003年末に急遽「政令市長会」を発足させたが、これも平成合併による新型「政令市の出現」や、「大都市のあり方」を既存政令市で検討するのが目的といわれており、この動向も無視できないこと。
これを突破してこそはじめて静岡県が「分県」ではなく、地方分権推進の基礎となる「政令県」になり、静岡市や天竜川・浜名湖地域等の新しい静岡型の政令市の意義を見出すことが出来るといえる。しかも、地方からの具体的な構想としての意義は極めて大きく、政府や地方制度調査会の「道州制」を座して待ち、それから論評するだけでなく、地方から分権推進を進めるための具体策として評価し、この「政令県構想」を分析し、広げるべく取り組む方針である。
資料 「静岡県内政改革研究会報告」抜粋
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