【自主レポート】

合併によらない自治体の自立

三重県本部/「合併によらない自治体の自立」ワーキンググループ

1. はじめに~自治体の真の自立の道とは~

 合併特例法の期限が迫り、全国の6割を超える市町村が法定合併協議会に参加するなど、「平成の大合併」と呼ばれる市町村再編への流れが加速しているが、一方で、「平成の大合併」に背を向け、自立の道を模索する自治体も多く存在し、その自立に向けた行財政手法が注目されている。国の施策として市町村合併が推し進められる中で、合併を選択することなく「地方分権の受け皿」となり得る、自治体の真の自立とは何か? をテーマとして考察する。

2. 地方自治体を取り巻く状況

(1) 地方自治体に求められているもの
   我が国の地方自治制度は、地方分権一括法の施行により、新たなステージを迎えようとしている。市町村は、基礎自治体として地域において包括的な役割を果たすことを従来以上に期待されるとともに、コミュニティ組織、NPOなどの様々な団体による活動が活発に展開されている中で、これらに呼応して新しい協働の仕組みを構築することが求められている。このように、基礎自治体が将来にわたりその役割を十分に果たしていく、すなわち自立を果たすにあたって、以下のようなことが地方自治体に求められている。
  ① 地方分権の推進
    地方分権は、住民に身近な行政の権限をできる限り地方自治体に移し、地域の創意工夫による行政運営を推進できるようにするための取り組みである。これを円滑に進めるためには、自治体にも行財政基盤を強化するための努力が求められている。
  ② 少子高齢化への対応
    今後、各地域で少子高齢化が一層進展し、高齢者への福祉サービスがますます大きな課題となる。とりわけ高齢化の著しい市町村については、財政的な負担や高齢者を支えるマンパワーの確保が懸念されている。
  ③ 多様化する住民ニーズへの対応
    住民の価値観の多様化、技術革新の進展などに伴い、住民が求めるサービスも多様化し、高度化している。これに対応するため、専門的・高度な能力を有する職員の育成・確保が求められている。
  ④ 生活圏の広域化への対応
    交通網の発達などにより日常の生活圏が拡大し、これに伴い行政も広域的に対応する必要がある。また、都市近郊では市町村の区域を越えて市街地が連続しており、より広い観点から一体的なまちづくりを進めることが求められている。
  ⑤ 効率性の向上
    危機的な財政状況にある中で、より効率的な行政運営が求められている。とりわけ、隣接市町村での類似施設の建設には批判がある。

(2) 国の制度
   前述のような状況の中、国は、今後の基礎自治体のあり方を展望すると、市町村の規模・能力の拡充を図るために市町村合併を引続き推進すべきであるとしている。
 そのため、次の法律に基づき、市町村合併の推進を図ることとしている。
  ① 市町村の合併の特例に関する法律(合併特例法)
  ② 市町村の合併の特例に関する法律の一部を改正する法律(改正合併特例法)
  ③ 市町村の合併の特例等に関する法律(合併新法)
  ④ 地方自治法の一部を改正する法律(改正地方自治法)

(3) 三重県の施策
   三重県は、市町村合併について、新しいまちを作ることによって、住民の今の暮らしを守り、さらに向上させることができるという考え方の下、様々な支援策を設けている。
   具体的には、三重県市町村合併支援方針に基づき、現時点において考えられる支援策をまとめており、今後、地域における合併の議論の深化に伴い、新たな支援が必要になる場合には、支援方針を踏まえ、各部局・関係機関の連携により、積極的に検討を行うこととしている。一方で、「三重県のユニバーサルデザインまちづくり」や「東紀州ワンダーランド」など、市町村合併とは直接的な関係のない様々な地域づくりの支援事業も展開しており、単に市町村合併を推進するのではなく、住民にとって魅力のある地域づくり・まちづくりに関する事業を展開している。

(4) 市町村を取り巻く状況
  ① 人口推計と少子高齢化
    全国推計(中位推計)(*1)によれば、日本の総人口は2006年にピークを迎え、以後長期の減少過程に入る。多くの自治体で人口規模が縮小し、人口規模5,000人未満の自治体の割合は、2000年の22.2%から2030年には34.6%へ著しく増加する。また、市区町村別人口においては、1995年から2000年にかけて既に67.6%の自治体で人口が減少しているが、その割合は今後も増加を続け、2025年から2030年にかけては95.3%の自治体で人口が減少する。総人口に占める年少人口(0~14歳)、老年人口(65歳以上)及び生産年齢人口(15~64歳)の割合をみると、年少人口は、2000年の14.6%から2030年には11.3%に低下する。市区町村別にみても、99.3%の自治体で低下し、年少人口割合10%未満の自治体は、この間に3.2%から31.4%へ著しく増加する。一方老年人口は、2000年の17.4%から2030年には29.6%に上昇する。市区町村別にみても、99.6%の自治体で上昇し、老年人口割合40%以上の自治体は、この間に2.3%から30.4%へ著しく増加する。また、生産年齢人口は、2000年の68.1%から減少を続け、2020年には60.0%に縮小する。そして、その後も緩やかな縮小を続け、2035年に現在の水準より10ポイント低い58.0%に達する。その後も減少傾向が続き、2043年の54.9%を経て、2050年に53.6%になるものと見込まれる。
    日本における少子高齢化の進行は、他の先進国と比べてそのスピードが非常に早いものとなっており、従来の制度のままでは様々な問題が生じることとなる。労働力人口の減少、増加する高齢者の社会保障給付などの財政的課題をはじめ、住民ニーズの変化への対応や少子化対策、女性・高齢者の就業促進に取り組む必要がある。
  ② 財政状況
【表】地方財政の各種指標(全地方団体合計)
 
1994年度
2003年度
経常収支比率
79.4%
90.3%
+10.9
公債費負担比率
11.9%
19.2%
+ 7.3
起債制限比率
9.3%
11.6%
+ 2.3
    2004年度の地方財政は約14兆円に上る財源不足を生じており、その多くが借入金などの特例措置で補填されるなど、地方財政の借入金残高は2004年度末で204兆円に達することが見込まれている。また、財政構造の弾力性を判断する各指標がいずれも悪化し、硬直化が懸念されている(表)。
    三重県内の市町村の財政状況をみてみると、2001年度の市町村合計で地方債残高が6,616億円で歳入決算総額比93.8%、自主財源割合は51.8%となっている。自主財源割合については、川越町の90.3%を除き70%を超えている市町村はなく、50%超が21市町村、30%未満が15市町村という状況であり、地方交付税などに対する依存度が高くなっている。また、財政状況と人口との関連については、人口が少ないほど自主財源割合が低くなっており、人口10,000人未満の28町村(*2)では、50%を超えるのは朝日町、御薗村、関町のみで、その平均は34.6%となっている。
    国と地方の税財政のあり方を見直す「三位一体改革」は、補助金の廃止、税源の移譲、地方交付税の改革の三つを同時に行うはずであったが、2004年度は国庫補助負担金を縮減し、所得譲与税、税源移譲予定特例交付金が創設されるにとどまったため、地方は緊縮予算を強いられている。2006年度以降には地方への税源移譲が予定されており、地方の自己責任において独自判断での執行が可能になるものの、都市部に税源が集中することから小規模自治体では補助金廃止に見合う確保が困難と考えられる。地方自治を確立するためには、税源移譲が必要であるものの、市町村間の格差解消のための財政調整機能は確保されなければならない。
    地方への税源移譲がどれだけ進むかは不確定であるが、各自治体が独自に判断し特色ある施策を進めていくためには、財政基盤の確立、高すぎる経常収支比率の改善など抜本的な財政構造改革が必要である。
  ③ 地域特性
    各自治体には自然形態、歴史や文化、産業構造などこれまで培ってきた地域特性が存在する。産業構造の違いは、自治体の人口や年齢構成、財政に影響を与えるとともに施策にも変化をもたらす。地方分権が進むことによりその影響は一層大きくなると考えられる。地域に存在する資源を十分に活用し、特色ある自治体づくりを進めていかなければならない。
  ④ 住民意識
    経済成長期においては、「住民は税を負担し、議会が施策を決定し、行政が自治体を運営する」という構図がそれぞれ別々のものとして考えられ、「住民は行政に口出ししない、行政は住民に説明しない」という状況が作られてきた。また、税の自然増収を見込んだ借金体質が負担に見合わない施策をもたらしたといえる。
    地域住民が主体的に取り組める自治体づくりにおいて、最も重要になるのが住民意識である。住民ニーズを的確に把握した施策を講じるとともに住民の役割についても理解を求めていく必要がある。

3. 自立のための方策

 合併の如何にかかわらず、自治体は地方行政主体として自立をめざさなければならないが、地理的、社会的、財政的条件などは個々の自治体で異なるため、自立に向けた方策も多様であり、各自治体の現状と課題を十分に認識し検討していくことが重要である。
 以下、自立のための方策について考察する。

(1) 広域行政制度の活用
   広域行政制度には、一部事務組合と広域連合があるが、自立のための方策として広域連合に注目する。広域連合は、自治体単独での対応が困難な地域課題の解決、特定の政策遂行、財政上の効率運営などにおいて、複数の自治体が連合を組むことで国や都道府県から直接権限移譲を受け、「地方分権の受け皿」となることができる仕組みとして、また、既存の行政区域を越えて戦略的な地域づくりを構想し、展開する有力な手段ともなり得るものとして、1994年の地方自治法改正で制度化された。ところが導入後、
  ① 広域連合には独自の財源がなく、構成団体の拠出する負担金を主要な財源としているため、構成団体から一定の独立性を保つことができない。
  ② 広域連合の長及び広域連合議会議員は、制度上は直接選挙の導入も可能であるものの、全国にその例はなく、それぞれの構成団体の長及び構成団体議会で互選されるため、住民の意思を広域行政に反映させようという設立目的に反しているといわざるを得ない。
  ③ 「地方分権の受け皿」として期待されたが、都道府県からの権限移譲の事例は限られており、進展していない。
などの問題点が指摘され、2000年8月「市町村の合併の推進についての指針」の中で、自治省(現総務省)自らが、広域行政制度による事務の共同処理は、責任の所在が不明確、意思決定過程が不効率などを理由として、広域行政制度より市町村合併によって意思決定、事業実施などを単一の地方公共団体が行う方が効果的であると位置付けるに至った。しかし、自立をめざす自治体にとって合併を選択したからといって、広域的な根本的課題が全て解決できる訳ではなく、新たに広域行政制度を必要とすることも考えられる。また、2003年1月北海道町村会と北海道町村議会議長会が提案した「連合自治体」案や同年2月全国町村会が提唱した「市町村連合」案を代表とした、広域連合を改良・拡大したり、新たに広域的自治体を創設し、市町村合併と選択できるようにしようとする動きに見られるように、広域行政制度によって自立への道が開かれることも十分にあり得るはずである。同志社大学政策学部今川晃教授が論文(*3)の中で、新たな広域連合のポイントとして、
  ① 広域的な政策運営が可能となりうる権限移譲(一定の課税権も含む)、あるいは都道府県も参加
  ② 連合長、連合議員の公選、その他、条例による民主的な仕組みの構築(この点からは、広域連合にも自治基本条例のようなものが必要)
  ③ 構成市町村の自主的選択的業務範囲の設定(広域連合で一定の市町村業務受託)と市町村の自立運営の支援業務などを挙げ、市町村が自治の範囲を自主的に設定又は選択できることを前提として、自治体連合といえる広域連合が設定されるべきであると論じているように、このようなタイプの新たな広域連合が創設されれば、自治体単位よりも広域で対応した方が効果的、効率的な事務・事業を処理、執行する機関として、補完性の原理の上においても非常に有効であると思われる。

(2) 健全な財政運営
   自治体の財政状況は、長引く景気低迷による税収の落ち込みや少子高齢化への対応経費の増加、また、国における国庫補助負担金の廃止・縮減や地方交付税の見直しなどにより非常に厳しい状況である。しかし、自治体が自立するためには、財政面での自立がその鍵であり、以下に挙げる改革を早急に行わなければならない。
  ① 財源の確保
    積極的な企業誘致や地域の特色を再発掘するなど地域の活性化を促し、税収の回復を図るとともに、適正化、公平化の観点から使用料・手数料など受益者負担の見直しを行い、自主財源の確保に努める。その一方で、三位一体改革を進める国に対して、補助金廃止・削減分に見合った税財源の適正な移譲を求める必要がある。
  ② 歳出の抑制
    これまでの右肩上がりの経済成長を前提とした「あれもこれも」という実績優先の旧来型の行政手法から脱却し、「あれ」か「これ」かの「事業の選択性」や、必要性の高い事業を重点的に実施する「事業の優先性」を十分検討し、遂行する必要がある。バブル経済時代の公共事業中心の膨張した歳出構造を抜本的に見直し、健全で堅実な財政運営を行わなければならない。
  ③ 効率的な行政システムの構築
    限られた財源を有効に活用するため、最小の経費で最大の効果が得られるよう行政評価制度などの導入が不可欠である。行政に経営の理念を取り入れ、成果重視型へ転換しなければならない。また、業務によっては民間委託・PFI・指定管理者制度などアウトソーシングによるメリットを活用し、組織・機構などのスリム化を図るとともに、サービスの質の向上を図り、簡素で効率的な行政システムを構築する必要がある。
 なお、これらの財政基盤の強化を推進するにあたっては、自治体は行政と住民との共同経営であることを念頭に、まちづくりのパートナーである住民のニーズを的確に把握することに努めながら財政運営を行わなければならない。

(3) 資源の活用
   自治体が自立するためには、特産物や祭りなど元来地域に存在する有形無形の資源を活用し、地域を活性化することが重要である。旧来の発想を転換し、外部から新しいものを取り入れることも一部には必要であるが、地域に古来より脈々と流れる、歴史・文化・伝統といった、そこにしか存在しないものを地域の財産として尊重し、さらに発展させることが、自立のための大きな力になると考える。
  ① 地域資源
    個々の自治体には、人口、面積、産業構造、特産物などそれぞれに違った特徴がある。それらを形づくるものは、地形、気候、歴史など諸々の事情であり、それらが複雑に絡まり合ってそのまちの個性として光を放っている。観光や物産など既に何らかの他に誇れる資源を有する自治体においては、合併の如何にかかわらず、住民はそれぞれのまちの存在感を示すものとして、その資源を守らなければならない。
    また、資源を見いだせないでいる自治体においては、その地域にしかない埋没した資源が必ずあるはずであり、それを住民と行政、時には企業などが一体となって発掘し、その情報を内外に発信しなければならない。情報が発信されたその時、まちづくりのパワー、自立のためのパワーが地域にみなぎるはずである。
  ② 人 材
    地域における活動団体には様々な形態があるが、町村部、都市部ともに従来から存在する自治会や町内会などの地縁団体がその中核を形成していると思われる。しかしながら、一般に町村部では、団体構成員及び役員の高齢化が進み、特に過疎地域においては、若年層の流出により地域社会の担い手が減少する傾向にあるため、団体そのものの機能が失われかねない状況になっている。一方、都市部では、新規流入者が地縁団体に溶け込みにくいという理由から加入率が低下する傾向にあり、このことが地域の連帯性が希薄化した要因の一つであることを疑う余地はない。
    このように、従来型の活動団体には地域社会の担い手が育成されにくい状況が生まれているが、地域には多数の英知・才能を持つ人材が潜在しており、特に都市部のシニア世代の中には、生涯現役志向が強く豊富な経験と優れた価値判断を有する層も多い。自治体は、これらの人材が地域で活躍できる住民組織への活動支援を行うとともに、行政運営において有効に機能するような参画機会を整備しなければならない。また、自治体が自立をめざし、協働型の行政を展開するには、従来型の活動団体だけでなく、ボランティアやNPOなどを含めた地域公益活動団体の活動支援を行い、地域社会の担い手やまちづくりのリーダー的存在を育成することが必要である。さらに、忘れてはならないのは、自治体職員自身が地域づくり、まちづくりの人材であるということである。当然職員には地域づくり、まちづくりを担うという強い意識がなければならないが、職員の情熱は必ずや住民を変え、地域を変える。合併せず単独を選択した自治体の中には、人件費圧縮のため職員数の削減を打ち出す例が見られるが、自治体職員が災害対策など特別な業務の中で担う役割や地域で行うボランタリーな活動を軽視して、むやみに職員数を削減することは、地域の衰退を招くことになりかねない。自治体職員は地域の資源なのである。

(4) コミュニティの確立
 自治会や町内会などの地縁団体を行政の末端機関と位置付け、行政の押し付けで自治が行われた結果、新興住宅地も農村部も関係なく、また、人口構成、環境、歴史などその地域独自の文化や習慣をも無視し、どこを切っても金太郎式のまちづくりが行われてきた。分権型社会においては、自治体は自己決定・自己責任の下に、これまでの国が示す基準に沿った統一的、画一的なまちづくりから脱却し、地域の個性、特性を生かした多様性と創造性に満ちたまちづくりを展開していかなければならない。そのためには、地域社会の担い手である地域住民及びコミュニティが、行政と協働しながら取り組むことが不可欠であり、以下のことに着目しながらコミュニティを活性化し、住民意識を高揚することが必要である。
  ① 情報の共有
    住民及びコミュニティの自主的・主体的な活動や行政との協働を展開していくためには、住民が単なる受け手としての立場だけではなく、行政に参画する立場として尊重されなければならない。自治体は、住民及びコミュニティの意思を行政施策に反映させることができるよう、自治制度や行財政に関する情報などを積極的に提供し、共有化しなければならない。
  ② 説明責任と住民参画
    自治体は、住民に情報の公開・共有を進めるとともに、わかりやすい説明を行い、説明責任を果たす必要がある。どのような事業が行われるか、計画、実施、結果の全ての段階で住民と情報を共有することにより、開かれた行政運営が図られ、公平、公正で透明性のあるわかりやすい行政を実現することができる。これらによって住民参画による行政運営の機会を提供し、住民及びコミュニティと行政のパートナーシップを図らなくてはならない。地域には、様々な専門知識を持った住民が生活しており、彼らの英知と意欲をまちづくりに活用していくことが必要不可欠となる。
  ③ 協働の推進
    これまで、公の領域の多くは公共が担ってきた。今後は、住民、コミュニティ、NPOなどの団体や民間の多様な人々と共に支えるシステムに転換を図らなければならない。個人ができることは個人が行い、できない部分をコミュニティや民間が補完し、さらにコミュニティや民間でできない部分を公共が補完するといった補完性の原理に基づき、多様な人々による役割分担が求められる。役割分担によって、それぞれが長所、機能を最大限に発揮し、協働型の行政を推進しなければならない。

(5) 先進自治体に学ぶ
   平成の大合併の流れに乗らず、既に単独自立を選択した自治体も多く存在するが、それらの自治体が取り組んでいる自立のための方策には学ぶべきところが多い。
   千葉県我孫子市は、周辺自治体との研究会で合併を検討するための資料を作成後、広報による情報提供、懇談会、意向調査などで民意を探り、それらの結果を下に議会の支持を得て、単独自立を選択した。我孫子市は、従来から市民と協力して、子育て支援、高齢者や障害者福祉などの分野で特色ある施策を進めてきており、市民と行政の距離が近い今の規模の良さを生かした独自のまちづくりをさらに進めるため「自立したまちづくりに向けての8つの提案」を示し、その実現に取り組んでいる。また、先進的な取り組みとして、21世紀のまちづくりを市民・企業・行政の適切な役割分担に基づく「協働」により推進する旨を指針にまとめ、各種の市民公益活動・市民事業支援活動施策を積極的に行っている。
   長野県朝日村は、合併広報誌による情報提供、懇談会及び参加者アンケート、講演会、全世帯アンケートで民意を探り、それらの結果を下に議会の議決を経て、単独自立を選択した。朝日村は、5,000人による5,000人のための行政・住民が一体となったむらづくりを行うため、今後10年間の自立に向けた目標を明示した「朝日村自立計画」を策定している。この中で、むらづくりの基本姿勢として「美しい自然の中で、住民が安全で安心して暮らせる福祉の充実したむらづくり」を掲げ、ハードからソフトへの転換、行政改革の断行、住民協働の推進を重点項目として自立をめざしている。2003年秋から村長の私的諮問機関として住民約100名で構成される「あさひ未来会議」を発足、また、村内の各地区毎に職員を交流員として配置する「地域交流活動」も開始し、住民の行政参加及び行政との交流活動を促す取り組みが始まっている。
   埼玉県志木市は、周辺3市及び周辺2市との任意合併協議会が解散消滅し、単独自立を選択した。志木市は、市民との協働による市政運営に向け「志木市・地方自立計画」をスタートし、公募市民250名規模の市民委員会を設置するなど、市民が主役のまちづくりを推進している。市の業務を「行政パートナー」として位置付けた市民に段階的に委託し、これからの時代に耐えうる新しい自治体をめざしている。これまでの常識とされていた「行政サービスは全て公務員が行うべき」といった固定観念を問い直す、意欲的な試みが行われている。
   また、身近なところでは、周辺6市町村との任意合併協議会に参加後、合併の是非を問う市民投票を行い、その結果を受けて単独自立を選択した名張市は、地区公民館単位で市民による地域づくり委員会を創設し、同委員会が行う地域づくり事業に対して一定の金額を交付する「ゆめづくり地域予算制度」を創設している。この制度は、自分たちの地域に必要な事業を市民自らが考え、優先順位も自分たちで決める「小さな地域政府」への試みといえる。

4. おわりに~合併によらない自立をめざして~

 自治体が自立するための方策として、
  ① 従来の広域連合を改良又は新設計した広域行政制度を活用することによって、一部の事務・事業を効果的、効率的に処理、執行する。
  ② 財源の確保、歳出の抑制により財政運営を健全化し、簡素で効率的な行政システムを構築することによって、標準的な行政サービス水準を維持する。
  ③ 地域の特性、人材を資源として捉え、そこに存在するもの、存在する人を尊重し、まちづくりのパワーの源、地域社会の担い手として発掘、育成する。
  ④ コミュニティを確立するため、住民及びコミュニティと情報を共有するとともに、行政運営に対する説明責任を果たし、住民の行政参画を促進することによって協働型の行政を推進する。
の4つを提示し、さらに、先進自治体の取り組みからは、補完性の原理に基づき、住民及びコミュニティが自らの責任の下で、行政と協働してまちづくりを行うための仕組みを構築し、住民自治を実現することが自立する自治体の姿である、という共通項を見いだした。
 合併が求められる理由として、地方分権の推進、少子高齢化社会への対応、多様化する住民ニーズへの対応、生活圏の広域化への対応、効率性の向上などが挙げられているが、合併を自治体が自立するための一つの手段、若しくは自立を検討するためのモラトリアムを得るための手段とみるならば、地域の諸課題を全て解決するような魔法の薬でないことは明らかである。国は地方分権を進めるにあたり、基礎自治体はその受け皿として相応しい行政組織でなければならないとしているが、既述のとおり、広域行政制度を工夫することで十分にその対応は可能である。また、小規模自治体にとっては、三位一体改革による税源移譲で、地方税中心の財政構造となっても税源の確保が難しく、同時に地方交付税、補助金などの依存財源もかなり目減りすることから、財政的に非常に厳しい状況が訪れることが想定されている。しかし、自治体の歳出の約7割は国の事務の義務付けがあり、これらに対しては交付税による財源保障が行われるのであるから、バブル時代の歳出水準を交付税によって維持しようとすることが間違いなのであって、歳出構造を見直し、投資的経費を抑制すれば、標準的な行政水準は維持されるはずである。
 前述の方策を実行することにより、すべての自治体が合併によらず自立できるという保証はないが、中央に依存しない「住民の、住民による、住民のための自治」が実現できれば、自立した自治体として生き残る可能性は大きく広がるものと確信している。
 当ワーキンググループの提言が、真の自立をめざそうとする自治体の一助となり、希望となれば幸いである。


(*1) 国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(2002年1月推計)」及び「日本の市区町村別将来推計人口(2003年12月推計)」による。
(*2) 2002年10月1日現在の数。ただし、2003年12月いなべ市となった員弁町、藤原町を除く。
(*3) 「市町村合併と自治体連合の展望」(自治研中央推進委員会発行「月刊自治研」2003年5月号)
     発表時論者は四日市大学総合政策学部教授。