【自主レポート】

指定管理者制度導入にあたっての取り組みについて

大阪府本部/大阪市職員労働組合・市民支部

1. はじめに

 政府・総務省は、2003年6月に地方自治法の一部改正(法律第81号、2003年6月6日公布、9月2日施行)を行いました。
 この改正により、「公の施設」(スポーツ施設、都市公園、文化施設、社会福祉施設など住民の福祉を増進する目的で設置された施設)の管理方法について、地方自治体の出資法人等に限定して委託することが可能だったこれまでの「管理委託制度」を廃止し、地方自治体が指定する指定管理者に管理を代行させる「指定管理者制度」が導入されました。
 この制度は、公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の削減等を図ることを目的としており、①営利企業のほか、社会福祉法人などの公益法人、特定非営利活動法人(NPO法人)及び法人格を持たない団体に対しても管理を認める。②施設の利用料を指定管理者の収入とする。③利用の許可等、これまで行政権限で行ってきた事項までも指定管理者自らが権限を行使することが認められています。
 また、既に管理委託が行われている公の施設については、施行後3年の経過措置が設けられ、直営または指定管理者制度のいずれかを選択することになっています。一方で、新設される施設、又は既存の施設であってこれから新たに管理を委ねる場合については、経過措置は適用除外になります。

2. 大阪市における動き

 大阪市は、制度に対する基本的な考え方として、指定管理者の選定にあたっては公募を行うことが望ましいが、施設の事情により公募が適当でない場合も考えられることから、慎重な取り扱いが重要であるとしています。また、複合施設の場合や同一の性質の施設が複数ある場合など各所属、各所管局間での十分な調整や検討が必要としています。
 本市においては、既に管理委託が行われている公の施設は276施設あり、今後、指定管理者制度または直営について検討協議をすすめ必要な手続きを行うとしています。
 こうした中、新規施設として2004年2月オープンの「大阪市立青少年文化創造ステーション」において、本市初の指定管理者制度導入を図りました。

3. 指定管理者制度の問題点

(1) 行政責任・施策の後退
   指定管理者制度は、「効率性」「経費節減」にシフトさせることが特徴であり、利潤追求を原理とする民間事業者に行政を委ねていくことを意味します。各自治体の「公の施設」については、その設置趣旨や経過等、独自の地域性にもとづいた運営が行われており、「効率性」「経費節減」のみを追求することにより、自治体の行政責任をあいまいにし、行政施策の切り捨て、後退につながる重大な問題を抱えているといえます。

(2) 利用料の決定
   「公の施設」は、施設及びサービスの利用料は安価、低廉であることが重要な条件といえますが、利潤をも含めた利用料金を民間事業者が定めることができるとしたことは問題であり、また、「公の施設」の適正・公平な実施を確保し、住民誰もがサービス等を等しく受ける権利の保障という観点からみても重大な問題であるといえます。

(3) 住民参加と個人情報保護
   「公の施設」の運営への利用者・住民参加、住民参加請求を含めた運営に関わる住民のチェックと改善の手続きが法制度として担保されておらず、個人情報の保護についても、法制度上の義務付けはなく、地方自治体での条例化、指定管理者との協定にどう盛り込むのかにゆだねられているのが現状です。

(4) 事業報告義務
   指定管理者には、毎年度終了後に管理業務の実施状況、利用状況、料金収入の実績などの事業報告書の提出が義務付けられていますが、議会への報告義務はありません。また、兼業禁止規定が適用されず、地方自治体の首長などの設置者や議員、その親族が経営する民間等事業者が排除されないことから、腐敗、不正の温床になる懸念もあります。

(5) 管理業務の監査
   指定管理者に対しては、監査委員や包括外部監査人などにより出納関連事務の監査を行うことはできますが、指定管理者の管理業務そのものについては監査の対象にならないとされており、適正・公平な運営等チェック機能が不十分です。

(6) 労働条件の低下
   この制度は、公的セクターの企業体としての経営強化、地方自治体の人的、物的支援の廃止を含めた見直しの動きと連動しています。さらに競争原理を重視し、入札制度に準ずるような選定方法の導入で、民間事業者に大きく移行していくことが考えられます。そうなれば公社・公団等での「公務員に準拠する」労働条件が大幅に引き下げられるなど、そこで働く労働者の身分・労働条件は著しく不安定なものにならざるを得ません。現在受託している第3セクター等が、指定管理者に指定されなければ、退職か新たな管理団体への再就職や解雇など直ちに雇用問題が発生します。

(7) 自治体の合理化
   直営施設の公的セクター、民間事業者への管理代行にともない、反動的な自治体では分限免職にもつながりかねません。また、ある自治体では指定管理者へ移行した分、非常勤職員を削減し、正規職員を寄せていき最終的には地方独立行政法人化するとの考えも示されています。このことは、言葉を換えると、自治体の民営化、合理化、リストラであるといえます。

4. 支部の取り組み

 支部は、既存の管理委託施設も複数あり、また本市初の指定管理者制度適用施設の「青少年文化創造ステーション」があることから、今後の進め方や問題点の解明等、労使間で検討協議を行うとともに、当該職場とも連携しながら支部内の議論も行ってきました。
 既存施設については、一方的な実施は行わせず、施設個々の設置趣旨や経過等を踏まえ、直営か制度導入いずれかの選択と今後のスケジュール等、早急に考え方を示したうえ、十分な議論保障を行うことなど確認しています。
 「青少年文化創造ステーション」については、青少年に対して音楽や美術、その他の芸術の創作、練習または、発表の場の提供及び宿泊施設の提供も行っていることから、青少年相互の交流を促進し、青少年の健全育成に寄与することを目的として2003年度中を目途にオープンする予定で事業が進められてきました。しかし、法改正に伴い、当初のスケジュールの大幅な変更を余儀なくされ、本市初の制度適用ということからも当該職場も大変混乱しました。
 支部は、実施にあたって制度の趣旨や問題点等解明しつつ、労使協議等行いながら、様々な角度から検討を重ねてきました。具体的には条例の枠組み作りのなかで、①利用料の決定については、「民間事業者が定めることができる」とされていますが、条例で規定し市民サービスの低下をきたさない観点から、市の他施設と同じ水準の料金設定としてきました。②使用許可については、市長の許可を受けなければならないとして「公の施設の適正・公正な実施の確保につとめてきました。③個人情報の保護については、本市個人情報保護条例に準じた取り扱いとしてきました。
 こうして市会を経て指定管理者を公募し、ビル管理会社や警備会社など民間企業4社と財団法人2社から応募がありました。結果として外部識者などでつくる選考委員会が、事業計画や収支計画等を総合的に判断し、財団法人1社を選定しました。

5. 今後の取り組み

 今回導入された指定管理者制度は、多様化する住民ニーズに効果的かつ効率的に対応するために民間事業者の有するノウハウを活用するものであり、あくまで、公の施設の管理運営を通じて住民に行政サービスを提供するための手法です。しかしその制度の運用に際しては、まだまだ未解明の問題点が多く、その中には住民サービスの低下を招きかねないような施設も含まれています。
 これまで「公の施設」が果たしてきた意義と役割を踏まえ、具体の検証を行い、安易な市場開放を許さない取り組みが必要です。また、「公の施設」としての実績と専門性、サービスの質、継続性、安定性を確保していくため、日常の仕事を検証していくことが必要です。さらには、職員の身分、賃金・労働条件などが安定的に確保される取り組みをすすめていかなければなりません。
 こうした点を踏まえ、他都市の状況にも常に注視しながら、「何が真の市民サービスの向上になるのか」「何が地域社会の活性化につながるのか」という視点に立ち、今後も労働組合の視点から、指定管理者制度に対する検証を進めていき、取り組んでいきます。