【自主レポート】
市町村合併と財政上の課題
島根県本部/大東町職員労働組合
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1. はじめに
本年11月1日に、雲南市が誕生します。市町村合併という大きな激動の中で、「住民自治」が置き去りにされたり、弱められる方向の議論はあってはなりません。とりわけ、地域を守る活動がより重要となっています。
本年度の自治研活動は、自治体のおかれている状況や、国の財政破綻から発生している「財政改革」の動向を見極め、その中での自治体合併の取り組みを検証し、今後、私たちが考えなければならない方向性を今一度確認する作業をすすめました。
市町村合併や財政危機の中にあって、私たちは「公共」の解体と再生といった大きな流れの中に位置していることを強く意識したところです。
2. 市町村合併の進捗状況
(1) 全国の情勢
法定協議会の中では合併の枠組みや新自治体の名称、本庁舎の位置などをめぐって対立して協議が進展しない地域や、法定協議会から脱退する自治体、法定協議会自体を解散する事例も出ています。
合併による特例に期限が定められ、必然的に駆け込み的な合併議論をせざるを得ない状況のなか、「合併してもどうなるかわからない」といった三位一体の改革の先行き不透明さなどから、今後さらに解散などの事例がでる可能性もあり、政府の当初目標であった1,000自治体への再編は難しい情勢となっています。
(2) 県内の情勢
県内では、現在は15の法定協議会が設置されています。
合併をしないこととした市町村は、東出雲町、斐川町、川本町、隠岐島前の2町1村という状況です。
(3) 雲南6町村の合併経過
大東町では、2001年11月に町政懇話会において合併問題の説明が行われたことを境に、町当局の合併に向けた取り組みが急速に進展しました。
その後、町民への合併説明会では、合併をうながすかのような説明が行われ、自治会連絡協議会で「合併やむなし」の結論が、2002年2月26日には「雲南6町村で合併」の枠組み決定の新聞報道があり、枠組みについては、住民意志が反映される機会がないままに決定されました。
2002年4月には任意協議会、10月には法定協議会が設置されました。その後事務事業等のすりあわせが行われると同時に、新自治体名や市庁舎位置、新市建設計画が決定され、2004年3月3日には合併協定調印式が行われました。
大東町議会においては、合併関連議案を2004年3月23日に可決し、6市町村で2004年11月1日に合併することが決定しています。
3. 国家財政危機からの「平成大合併」
(1) 市町村合併へのシナリオ
① 失われた10年
バブル経済崩壊後の1992年から、不況対策として、公共事業による緊急経済対策と、超低金利政策が続けられました。
不良債権問題を始めとする諸問題が影響し、164兆円にも及ぶ国債を発行したにもかかわらず、今も平成不況からの脱出の糸口は見つかっていません。この間に景気回復の兆しは幾度かありましたが、消費税率の引き上げ・所得税減税の停止などにより回復しかけた景気は腰折れし、より深刻なデフレ不況へと落込んでいきました。
② 国家財政の建て直しのために
バブル経済が崩壊しデフレ不況に陥った後、国の財政再建として賃金体系の見直し、規制緩和の一層の推進によるあらゆる業種・職種への企業参加、地方分権の徹底的推進と行財政能力を考慮した市町村合併の推進及び公務員の削減、地方分権と対応した地方交付税・補助金の削減、特殊法人・地方自体を通ずる公共事業費の削減、不良債権問題の早期解決といったものが、この財政の危機的状況を打開すべく最後の道として政府が推し進めてきました。
(2) 地方自治体の状況
① 都道府県の危機
島根県の状況です。現在の本県の財政状況は長引く景気低迷により、税収が落込み、さらに地方交付税等の削減により非常に厳しい財政状況に陥っています。「財政健全化指針」を策定し、財政改革に取り組んできていますが、2006年度以降も150億円程度の収支不足が想定され深刻な財政状況となっています。
状況克服のため、効率的な行政運営と事務事業の見直しの一環として、各種県単独事業の大幅な事業縮減や廃止といった方針が示されています。
② 雲南市の財政状況について
今年の11月1日発足する雲南市の予想される財政状況について検証してみます。
<歳入の部>
① 増大する国の裁量 ~地方交付税~
地方交付税は、当初の予定額より単年度平均約5億8,000万円の減収となります。10年間の総額では58億円余りの減収となります。
起債事業及び補助事業等の一般財源化は、国の裁量により大きく左右されるものであります。
② わずかの税源移譲と補助金削減
今回唯一税源移譲された「所得譲与税」。しかし税額はわずか7,700万円で年間予算額の0.2%にしか過ぎません。
税源(財源)移譲が、三位一体改革の大きな柱の一つになっているにもかかわらず、地方への税源移譲に対する国の姿勢はあまりに消極的であると思います。今後、大幅な税源移譲が行われるかは非常に不透明ですが、地方自治体自らがこの問題について発言し、確実に改革が実行されるよう監視していく必要があります。
また国及び県に係る補助事業についても、財政難を理由にさまざまな事業について大幅な削減が行われているところです。その中でも公立保育所の2004年度からの運営費は一般財源化され、本町においては約6,000万円の補助金が地方交付税への算定替えとなりました。今後も補助事業費の一般財源化がますます強化されてくると予想されます。2006年度には国・県支出金の合計額は約35億6,000万円となり、2004年度と比べると約16億円の減額となります。
③ 地方債 合併特例債といえども負債
雲南市においては合併特例債で約252億円の事業が可能となります。元利償還金の70%を交付税措置するこの特例債により、さまざまな事業が可能となりますが、有利とはいえ借金であることに違いはありません。事実他の合併した自治体において、後々の返済が財政上大きな負担となり、財政運営に大きな影響を与えている自治体もあるようです。
昨今、地方交付税の削減幅が予想できない状況の中では、住民要望に答えるという名目のもとに、合併特例債限度額いっぱいに負債を抱えるような施策では、後々新市財政運営に多大な負担と混乱を来たすと言わざるを得ません。このあとの歳出の章にも関連してきますが、合併特例債は起債であり借金であります。事業を精査し、財政状況を見極め必要最小限度に抑えていく必要があります。
<歳出の部>
① 人件費
合併後、退職者補充の抑制により今後10年間で150人(一般職)を削減、議員数削減もあわせ、約14億円の削減を見込んでいます。
また、各種実施事業が大幅に減少することが予想され、人件費に対し住民から厳しい目が向けられ、更なる削減を求められることが予想されます。
合併後の職員数及び賃金水準については、職員数維持か給与水準の維持かといった厳しい選択に迫られる時期がくることも視野に入れておく必要があります。
② 公債費
合併特例債による事業量増加、および事業費の増大が合併後の財政状況と密接に関係していることから、公債費の抑制が健全な財政運営の条件となります。
合併特例債は借金(起債)であることを肝に銘じておく必要があります。
③ 普通建設事業費
道路や上下水道の整備、公共施設建設などの事業については限られた予算の中で公正な事業選定と順位付けが必要となってきます。
新市以降の基盤整備については財政上相当厳しい状況であり、基盤整備の遅れが予想され、整備の遅れている地域の住民に相当な我慢を強いることも予想されます。
④ 基金
合併特例債による基金造成として毎年度3億5,000万円余り総額約35億円を積立基金とする計画になっていますが、地方交付税・補助金等の大幅削減が予想されるので、達成については不透明です。
⑤ 合併がもたらす地域への影響
合併後の非常に厳しい財政状況の中で、住民にとって一番大きな影響があるのは、大幅に削減される普通建設事業費だと思われます。事業縮小・見直し・先送り等により、同じ雲南市でありながら地域基盤整備の格差解消が進まない可能性があります。
また地域経済における建設業の占める割合が大きな本地域において、普通建設事業費の削減は、即地域経済の縮小を意味します。今後建設事業関係者の失業増大が懸念される中、財政的な体力があるうちに、地域の産業構造を見直し、大きく転換していく必要性があると思われます。
財政危機に端を発した今回の国主導の市町村合併によって、私たちの暮らしている地域社会の在り方が脅かされています。
4. 自治体の行政サービスの質と量の低下の懸念
(1) 公務の外部委託化
① 指定管理者制度
2003年9月の地方自治法の改正により指定管理者制度が創設されました。
これは公共施設(公園、市民会館、図書館、保育所、ごみ処理施設など住民福祉を増進するための施設)の管理を、自治体にかわって、民間の団体(NPO、株式会社や民間事業者など)が行うことができるようにするための制度です。
公務の外部への「管理委託」から、料金徴収等も行える「管理代行」へと一歩踏み込んだ内容となっています。将来に向けて、道路、公営住宅管理等についても民間委託の道が開かれました。
地方交付税における標準的な経費の算定に際し、外部委託による効率化が加味されるため、交付額の減少が予想されます。
地方自治体において、厳しい財政事情から今後、この制度の運用範囲は拡大していくものと思われます。
② 地方公務員の任期付採用の拡大及び任期付短時間勤務職員制度の創設
業務の特定期間の増大に対処するため、公務員の採用について期間を限定する短期任用制度や、短時間勤務の職員を採用する制度が設けられました。これは、効率化とともに雇用を流動化しワークシェアリングを進める目的があります。
(2) 民間委託の問題点
指定管理者制度導入により、行政サービスの担い手として多様な組織、団体が参加できるようになったことは、住民自治の拡充の視点からは歓迎すべきことです。しかし現実にはコスト削減の面のみが強調され、職員の流動化(非常勤・パート等)による専門的技量の低下、サービス継続への不安といった懸念に対する自治体における公的責任の後退などの問題はあまり注目されていません。
5. 地域を守るための自治体財政の強化
注目すべき発言として東京都は「地方分権改革の本旨に即した新たな財政調整制度の創設が必要である。そしてその原資は経済活動が活発で富を多く生んでいる地域が主として担い続けるべきである。」と全国知事会「平成17年度における三位一体改革に関する提言」に対する意見として発表しています。
都市と地方の財政力格差を調整し、地方財政基盤の強化を真剣に議論し、地方分権改革の本旨を達成し、「都市」対「地方」といった対立問題をおこさないようにして、全体として住民自治の深化を達成していくことが必要だと考えられます。
6. 「住民自治の確立」にむけた検討状況
<雲南6町村合併協での取り組み>
合併関連3法案で創設された合併特例区制度と地域自治区制度は、住民の自治意識の醸成つながる有効な手段としての可能性をもっています。
雲南6町村合併協では、「地域自主組織」の育成とその支援体制が協議されています。今後住民とともに職員がどこまで理解し、実践につなげていくかが問われます。
7. 地域を守るための自治の強化
(1) 住民との協働作業の強化
地域の在るべき姿を、住民、行政が共に考えていくことが必要です。
行政は情報開示と住民参画の場の提供に努め、住民と行政の有機的関係をつくり、合併に伴って過疎化を拍車させない、農山村の維持・発展につなげていくことができるようにしなければなりません。
8. 中山間地域の発展と自治体の財政基盤の確立を(おわりにかえて)
合併を選択しない中山間地域の自治体の多くは、地域が合併後に荒廃してしまうことを危惧し、合併を選択しなかったものと思います。財政が厳しくても自分たち「地域を守る」という意識は、同じ自治体職員として共感できるものです。
今後、道州制導入による都道府県の再編が実施されれば、基礎的自治体としての私たちの役割はさらに大きくなるものと考えられます。
一方財政問題については、財源の移譲と歳出の削減について、構造的問題として捉え解決していく必要が求められており、情報開示、住民対話、議論していく姿勢が求められます。
「地域の在るべき姿の追求」住民自治の拡充こそが私たちに求められる取り組みであると言えます。
2004地方財政対策による財政計画見直し案(財政分科会)-雲南合併市
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