【自主レポート】
多様就業型ワークシェアリングに対する
取り組みについて |
北海道本部/ワークシェアリング調査・研究会
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1. はじめに
2001年12月に北海道が緊急雇用型ワークシェアリングという名称で正規職員の時間外手当の削減を原資とする新規卒業者の臨時的雇用を提起しました。このことに対し、各自治体への波及が懸念されたことから、自治労北海道本部は、一定の対応方針を作成するとともに、本来のワークシェアリングのあり方を研究することと提言をまとめる作業を行うため「ワークシェアリング調査研究会」を設置しました。第1期においては、緊急雇用対策事業に対する対応方針をまとめることを目的とし、第2期においては、政労使でまとめようとしているワークシェアリングに対する提言を行うことを目的として作業を進めました。
調査・研究を行った目的と理由については、上述の緊急雇用型ワークシェアリングへの対応とともに当時は雇用を確保する必要性があったため(現在も雇用を確保する必要性はありますが、ワークシェアリングに対する関心・期待は薄れてきている)に、①諸外国のワークシェアリングが本当に日本社会に適応するのか、②雇用を切らせないための制度はあるのか、③自治体に導入することが可能なのか、等についての労働組合としての提言のとりまとめが必要と判断したことによります。
しかし、「提言」ということまで踏み込める内容とならなかったため、今回は「考え方」としてまとめました。
よって、内容としては、まだ不十分なものであり、今後も調査・研究を要するものと考えますが、現段階の到達点として一定の整理ができたものと考えます。
*なお、緊急雇用対策事業に対する対応方針については、第29回地方自治研究全国集会にて報告済みです。
2. ワークシェアリングに関する調査・研究会の考え方
(1) 社会構造の変革を必要とする課題
① 日本社会の生活環境及び労働環境の変革を求める必要性が生じる。
これまでの記載のとおり、欧米と日本では生活環境及び労働環境に大きな違いがある。 日本は未だに「家社会」であり、「個人社会」中心の欧米とは大きな違いがある。家族を養うという観点が強く、生活費を男性が稼ぐという観点が未だに強く残っている。合わせて、女性は家庭を守るという考えが根強く残っている。よって、男性が働き、女性が家を守るという発想の転換が必要であり、そのことなしには、ワークシェアリングという観念を根付かせることは極めて厳しいものと考えられる。このような観点から、女性はパートという観念が出てきており、労働環境の変革には道半ばと言わざるを得ない。
また、現在フリーターと呼ばれる定職をもたない・もてない労働者が存在する。若年層にその傾向が強いが、そういう人たちの雇用の場の確保も必要ではないか。特に、社会保障制度等への影響や少子化問題も含め大きな問題となる可能性を秘めた状況といえる。
② 余暇の活用等、労働時間の削減に伴うライフワークの変革を確立する必要性がある。
未だに、時間外労働が必要不可欠なものとして認識されており、四六時中仕事という人も多く存在している。さらに、時間外勤務を多く行う人が評価される職場も存在する。仕事を効率的に行うことが重要な事項であることの全体的な認識が必要である。
例えば、大型休暇をとり余暇生活を重視する欧米に対し、日本は、仕事中心のライフスタイルであり、余暇を有効活用できないような状況にある。ただし、日本の場合は、仕事に生き甲斐を見いだしている人や自分の好きな仕事という考え方の人も存在することは否定できない。
また、仕事とプライベートの隔離と余暇の有効利用が大きな課題であり、この課題を克服することなしに、ワークシェアリングは語れないのではないか。
(2) ワークシェアリング実現への課題
① 政労使、それぞれが負担を分かち合うことにより成立する政策である。
現在のワークシェアリングに対する政労使の考え方は大きな相違がある。政府は、自らの政策を打ち出すことなく、使用者は、自らの負担を負うことを提言せずにいる。労働者のみが、連合が「勤務時間による賃金の減額」もありうることを提言しているのみである。本来のワークシェアリング実現に向けては、政労使がそれぞれの負担を明確に合意し、いずれかに偏ることのないように基本的な合意が必要であり、現状は極めて自己本位の立場に立っての政労使の合意をめざしていると言わざるを得ず、ワークシェアリング実現までの道のりは遠いものとなっている。
② 正規職員と非正規職員の賃金・労働条件の均等待遇を確保する必要がある。ただし、労働時間の違いによるものを除く。
あるシンポジウムで使用者側は、極めて虫のいい発言をした。「均等待遇は実現しなければならない事項である。しかし、均等待遇と言っても、下が上に合わせる方法と上が下に合わせる方法があるのではないか。」。明らかに、正規職員に処遇を合わせるのではなく、非正規職員に正規職員の待遇を近づけて均等待遇を確保するかのような内容であった。これまで使用者側は、同じような仕事をさせていながら待遇を抑えてきたのであり、そのことを解消するという形で均等待遇の実現が必要であろう。
③ その場合の賃金・労働条件については、正職員の待遇を最低の基準として採用することを基本とする。
上述のとおり。
④ 総賃金の抑制を行うことなく実施する必要性があり、賃金の割愛については、時間単位で必要最低限に行う必要がある。(使用者側はこの部分を勝手に都合良く解釈しないこと)
使用者側は、賃金の抑制の一端と考えるであろう。しかし、総賃金を抑制することは、不況克服の政策として雇用創出をめざす目的であれば逆に消費の縮小をもたらし、逆作用となる。また、労働者の勤労意欲の低下をもたらすものである点も指摘して置かざるを得ない。さらに、前述のとおり、政労使の負担の分かち合いが必要であり、総賃金の抑制はもっとも行うべきものではない。
勤務時間の短縮に伴う賃金の減少・・・勤務時間に基づく賃金算定は、労働の対価として、これまでの8時間が7時間に減った場合は、算定根拠を7/8とすることは、必要最低限の範囲で認めざるを得ないと考える。
⑤ 税制、福利厚生等については、最大限の労働者の負担減を確保することが必要となる。
賃金は、労働者が「労働の対価として得る」成果であり、上述のように勤務時間に応じた賃金の算定変更を承諾した労働者に対し、国、使用者は最大限の負担減を恩恵として労働者に与えなければならない。その意味において、税制の軽減措置や福利厚生の厚遇を労働者の要求に応じ行わなければならない。
⑥ 仕事の分割に対しての幅広い選択肢が必要となる。
一律的な時間の短縮は認めがたい制度である。このことも前述しているが、日本には未だに「家」を中心とした考え方が根強く残っている。よって、本人の選択により、勤務時間を選定できなければ、生活に破綻をきたす労働者が生み出されていることとなる。それぞれの家庭や個人の意志を最大限尊重した勤務時間の設定と選択が必要となるのは言うまでもないことである。
(3) 日本でのワークシェアリングは可能か
① ワークシェアリングのあり方については、それぞれの職場・職種での違いが存在することから、一律的な適用は求めないことが必要である。
ワークシェアリングの実施が雇用創出につながることに対する認識は、政労使で一致する事項であると考える。しかし、職場・職種でそれぞれの事情が存在することも否定できない。つまり、職場・職種によっては、ワークシェアリングの実施が不可能であったり、仕事の効率の悪化をもたらすことも懸念される。よって、それぞれの職場・職種で判断し実施することを基本とすべきである。
② 男女平等の立場からの取り組みが必要となることは明白であるが、専業主婦(夫)を希望する女性(男性)の立場又は働くことが困難な女性(男性)等の立場を考慮した制度設計が必要である。
それぞれのライフスタイルは、それぞれの家庭なり労働者が決定すべき事項である。例えば、数十年専業主婦であった女性がすぐに労働者となることは、極めて厳しい環境に遭遇させることとなり、メンタル面の不安や体の不安を与えることとなる。よって、それぞれの家庭なり人なりが判断すべきものである。
③ 一世帯での労働力については、1.5人口を基本とし、多くの希望する労働者の雇用確保に取り組むことを原則とする。
ワークシェアリングの目的の一つは、より多くの労働者に労働の機会を与えることである。よって、均等待遇を確保した上で、世帯労働の縮減を行い、より多くの労働者の雇用を確保することが必要となるであろう。その場合、男性・女性の区分無く世帯内で1.5の振り分けを選択することを基本として設計することが原則と考える。
また、ワークシェアリング実現には柔軟性も必要である。つまり、今の日本では一度辞めた労働者が同じ職場に再就職することや長期休暇等が極めて難しい環境にある。また、夫婦二人で子育てのための休暇を取ることも難しい。それらに対する柔軟な制度転換も必要である。
④ 1人口の労働を希望する男性(女性)の立場に配慮した制度設計が必要である。
②の状況を加味し、世帯内で1人口の労働力(収入)を確保しなければならない事情を考慮する設定が必要となる。ただし、条件の設定も必要となるものと考える。なぜならば、多くの労働者が労働時間の短縮に協力することを前提とする制度であることから必然的なものと判断する。
⑤ 全体として、一律に数%削減し、新たに職員の採用を行う方法、現行の数人の職員に新規の短時間職員を加えて総体での仕事を行う方法、熟練年代と若年年代を組み合わせ賃金総体を変えずに行う方法等創意工夫した取り組みが必要である。
これから具体的な方法論が検討されることとなる。現段階で考えられる方法として、上記の4つの例を提示した。このことにこだわらず今後の論議等を通じ多くの方策を検討していかなければならない。
(4) 政労使の痛み分け
① 政府の負担
ア 社会保障費の政府負担を行うこと
イ 税制の見直しを行い、労働者特にワークシェアリング導入に協力した者の負担を軽くすること
ウ 同様に企業に対する税制の改善も行うこと
エ 年金制度の見直しを行い、雇用と年金の継続を実施すること
政府が行わなければならない重要な事項は、社会保障費や税制の改正により、労働者・使用者に対し、政府としての負担を行うことである。また、現在の定年と年金の溝を埋めなければ、生活の安定が確保されず、ワークシェアリングの実現も大きな欠陥を持ったものとなるであろう。
(利点)雇用の創出と景気の回復は、税収の増加をもたらすとともに社会・経済・財政の安定をもたらす。
② 使用者の負担
ア まず第一に長時間残業を無くし、休暇を取れるようにすること。さらに、不払い残業を無くし、その上で、不払い残業分の賃金をプラスすること
イ 社会保障費の軽減された分を労働者に還元すること
ウ 正規・非正規労働者の均等待遇を実現すること
エ 高齢者の雇用と年金の継続に対する措置を講ずること
使用者が行わなければならないのは、これまで使用者が得をしてきた不払い残業分の賃金を総賃金に加えることが必要である。利益確保のために、労働者に強いてきた賃金の不払いの解消がなされなければ、労使間の信頼関係の確保もあり得ないであろう。その上で社会保障費の軽減分も労働者に還元することや正規職員に会わせた均等待遇の実現等が必要である。
(利点)雇用創出は、需要の拡大となり景気の回復をもたらし、企業収益の増大へと発展する。
③ 労働者の負担
ア 労働時間の短縮にともなう賃金の削減に柔軟に対応すること
イ 仕事と家庭生活の役割分担を見直し、世帯内での働き方のバランスを考慮すること
ウ 年功序列賃金の見直しに柔軟に対応すること
労働者が、労働時間短縮に伴う賃金の削減を受け入れるかどうかも大きな課題となる。そのことから、実質賃金の削減を最小限に抑えワークシェアリングの実現をめざさなければならない。つまり、税金や社会保障費の縮減により、可処分所得を現状に限りなく近づける必要性がある。
(利点)雇用不安の解消と賃金の安定をもたらす。また、社会構造の変革により、それぞれの選択による勤務形態が可能となる。
(5) 自治体での導入はいかに
① 緊急雇用型ワークシェアリングは、第一部で記載のとおり極めて問題が多く、実益のない制度であったといえる。
② 自治体版ワークシェアリングの課題(公務職場での実施の可能性)(第一部記載内容)
ア 職場段階における実施の方法
事業量の見直しを行い、事業量にあった人員の配置が必要となる。それを前提として、たとえば、時間外勤務手当の削減と年休の完全取得、不払い残業の解消による経費の拠出等の課題を労使が納得できるかどうかが、第一点目の課題である。その上で、たとえば二つの課を合わせて10名在職しているから、11名とすることは数字上では可能であるが、前述のとおり、事実上は事業量の正当な見直しがなされなければ、不可能なものであり、そのことを考慮すれば、全職場に一律的に人数合わせ的な導入はきわめて難しいと考えられる。
イ それでは、どのような職場に可能なのか
課あるいは、部単位で10名以上の職員の在職している職場で、同一職種が10名以上在職している職場でのワークシェアリングは数字上は可能であると考えられる(前述のような課題があり、実際は厳しいと思われるが)。つまり、前提条件である事業量にあった人員が配置され、かつ時間外勤務が正確に把握されていれば、時間外勤務や年休の完全実施を含めれば少なくとも勤務時間は全員が現行の8時間勤務でも11名の配置となるであろう(現在は、多くの自治体職場で、事業量に見合った人員が配置されていない。さらに、不払い残業が多いという実態にある。)。逆に、きわめて職員数の少ない自治体・部局等でのワークシェアリングの導入は、課を横断するような仕事の配置が行われる可能性が高く、職場の混乱をもたらすことになるのではないかと考えられる。
③ 現状から言えば、「考え方」の(1)~(4)にプラスして、上記②の課題が存在することから、極めて導入には時間と労力を要するものと考えられる。
(6) まとめ
以上のような考察を踏まえ、以下の点をまとめとしたい。
① ワークシェアリング実現のためには、指導性を持った機関の努力が必要であり、本来それを実施できるのは政府である。
② よって、政府が自ら前述の痛みを踏まえ、労使に検討の協議を行うことが必要である。
③ 政労使それぞれは、自らの主張や利益だけを考えずに、全体の立場に立ち、雇用創出と景気回復への道標として努力することが必要である。
④ 今後の検討課題
今回は、ワークシェアリングの本来の目的の達成をめざした研究となった。よって、実現に向けて自治労が政府へ働きかけることと、個別課題の解決に向けて検討していくことが不可欠であると思われる。今後は、連合・自治労が課題解決に向け努力するように働きかけを行うこととします。
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