【自主レポート】

大阪市立図書館の改革
~図書館サービスの一層の充実と専門職制度の確立~

大阪府本部/大阪市職員労働組合・教育支部

1. はじめに

 図書館は、かつての「受験生などが勉強する場所」というイメージから脱皮し、市民に身近な生涯学習施設として、近年とみに脚光を浴びている。大型図書館のオープンがテレビニュースで報じられたり、ビジネス支援などの特色あるサービスが新聞で紹介されるなど、メディアへの露出も増えてきている。
 一方で、指定管理者制度導入、NPOも含めた民間への業務委託など、図書館を含めた生涯学習施設の今後のあり方について大きな変革が求められつつある。財政難による資料購入費の圧縮、人件費の削減はもとより、運営形態も含めた抜本的な見直しという重い課題に、多くの自治体が直面していると思われる。
 大阪市の市立図書館について、大阪市職・教育支部(以下「支部」)は、これまで一貫して直営、専門職(司書)制度の維持・発展を求めつづけている(注1)。財政難等を理由にした安易な合理化や委託化には断固反対し、また図書館サービスと一体不可分のものとして専門職制度を位置づけ、図書館の充実発展を実現させてきた。
 そのような中、2003年6月に、過去最大ともいえる大きな改革が実施された。他都市の図書館が「開館日数・時間増=市民サービス向上」という発想のもと通年開館や開館時間延長(夜間開館)を行う中で、大阪市においてもより一層市民ニーズに応えていくことが不可避の情勢であったのに加え、慢性的な繁忙の解消なども喫緊の課題であった。行財政改革の中で、ともすれば安易な合理化やサービス縮小につながりかねない厳しい状況のもと、支部では「ピンチとチャンスは同時にやってくる」として、将来展望を含めた今後の図書館像を確立するまたとない好機ととらえ、取り組みを進めた。

2. 概要と最近の動き

(1) 教育支部と図書館分会の概要
   支部は、教育委員会事務局に所属する行政職・研究職で構成され、組合員数は704人(04.7.1.現在)。多職種、多職場という特色を生かして、これまで、自治研活動、生涯学習・教育施策の政策提起に積極的に取り組んできた。現場に根ざした組合活動、市民の視点から施策提起につなげていく自治研活動が支部の特徴である。
   支部内7分会のうち、図書館分会は149人の組合員を擁する支部内最大勢力である。組合員のうち専門職である司書は140人。分会の組織率は99パーセントである。図書館もまた、伝統的に自治研活動を大切にし、市民の暮らしの中に図書館が根付くための取り組みをつづけてきた。

(2) 大阪市における図書館サービスの概要
   現在のサービスポイントは、中央図書館(西区)を核として、固定施設として23の地域図書館(西区をのぞく行政区に1館ずつ)、また、自動車文庫(移動図書館)2台が市内65カ所を4週間に一度巡回している。そのほか、高齢者福祉施設、保育所・幼稚園への配本、学校教育の支援、ブックスタート事業など、600名を超える市民ボランティアとの協働により多彩なサービスを提供している。
   特に中央図書館は、1961年のオープン以来、老朽化、狭矮化が進んだため建替を実施し、96年7月、自治体最大規模の図書館として再オープンした。04年3月末現在、約142万冊の図書をはじめ、雑誌、新聞、視聴覚資料など多様な資料を取り揃え、延べ床面積34,000平米の施設でサービスを展開している(注2)。2000年7月からは、全館月曜日だった週の定休日を中央図書館のみ金曜日に変更し、地域図書館とずらすことで市民の利用機会を広げている。
   また、地域における生涯学習の基盤施設としての地域図書館は、行政区1区1館構想として、72~90年にかけて23の地域図書館を整備した。しかし、情報化、ニーズの高まりに対応するには所蔵冊数(約5万冊)、施設規模(約700m2)とも見劣りしてきたため、98年の東淀川図書館の建替開館を皮切りに、地域図書館の建替拡充(10万冊、1,500m2を標準)に着手。現在までに4館がオープン済み、2館が2004年度中にオープン予定、2館が計画中である。

(3) 大阪市の生涯学習施策と図書館
   21世紀のまちづくりを見据えたマスタープラン『大阪市総合計画21』(1990.10.策定)では、「市民の文化活動の推進」の項目の中で、図書館やホール・ギャラリーなど市民文化施設の充実をはかる、とされた。また、生涯学習版マスタープラン『生涯学習大阪計画』(92.2.策定)では、「いつでも、どこでも、だれでも学べるまちづくり」を謳い、地域の学習拠点、学習支援施設としての図書館のより一層の充実について明文化した。支部では、計画策定段階から積極的に意見反映を働きかけ、策定後も、施策の具体化に向けて、折に触れて労使協議の場で指摘しつづけた。具体的には、多様化し増大する市民ニーズに柔軟に応えうる図書館の実現をはかるために、“専門職制を柱とした職員体制の整備”“所蔵資料や情報のストックの充実”“利用しやすい施設整備”の3点を不可分一体のものとして常に要求してきた。

(4) 近年の図書館をめぐる課題
   先に紹介した地域図書館の建替は、施設規模の充実とともに、開館時間の試行延長や相談業務の強化なども行い、市民に好評をもって受け入れられている。一方で、財政状況の悪化の中、図書館として建替計画を主体的に進めるというよりは、区民センターや区役所の整備に複合施設として入居するなど、好機をとらえる形で実現させていくという形である。労使交渉も、それぞれの図書館の建替計画を個別に協議してきた。支部は、2000年2月の「図書館の休館日変更にかかわって団体交渉」の中で、今後の地域図書館をどう発展させていくのかという政策的ビジョンに基づいた整備計画がない点を指摘した上で、中長期的な図書館のあり方を検討する必要性を訴えた。局側はこの場で「地域図書館の今後の展開」として、地域の学習拠点として図書館を充実させていかなければならないという考え方を示した。
   また、中央図書館については、96年の新館オープン以降ずっと一日7,000人を超える来館者を数えており、書架への返却、予約本の処理、さらに調査相談業務での要求の高度化など、直接来館者にかかわる物的・質的両面で当初予想をはるかに超える業務対応を行っていた。これら慢性的な繁忙状態は、アルバイト措置や業務の効率化など工夫を重ねたものの、限界を超えていて、抜本的な改革が急務であった。

3. 「今後の図書館サービス」提案と機構改革・体制整備の取り組み経過

(1) 「今後の図書館サービス」提案
   「第7回地域図書館建設小委員会」(02.7.18.)において、「館外サービスの拡充」「館内サービスの充実」という2点から図書館サービスを変革する「今後の図書館サービス(案)」が局から提案された。

[館外サービス]
 ・ 地域の生涯学習施設等との連携によるサービス空白地域への資料提供
 ・ 地域読書環境整備事業の全区での事業展開
 ・ 学校および学校図書館との連携事業の推進
[館内サービス]
 ・ 調査相談、情報サービスの高度化(情報リテラシー育成支援)
 ・ 中央図書館の機能強化と繁忙解消
 ・ 全地域図書館で開館時間延長(平日10時~19時)を実施
 ・ 地域図書館の第2・第4火曜日の開館
 ・ 地域図書館の建替整備の追求
 ・

インターネットによる情報提供・貸出予約サービス(24時間)の拡充

   以上のサービス展開の考え方については、施策の充実を求めてきた経過もふまえ、また支部指摘にそった考え方が局から示されたことから確認した。ただし、運営体制については別途協議とし、実現には新たな体制整備が不可欠であること、充分な体制がなければ具体実施は了解できない旨表明するとともに、組合員が働き続けられるための条件整備を充分にはかるよう要請した。

(2) 機構改革・運営体制の提案
  ① 02年10月11日、団体交渉の場で、小委員会で別途協議とされた運営体制について、以下の「基本的な考え方」が局から示された。

☆中央図書館
 ・ 機構の改革を行い、「サービス企画」部門、「資料情報」部門、「庶務」部門の3部門体制とする。
 ・ 「サービス企画」部門の中に、中央図書館の企画運営担当や館内サービス担当とブロックにわかれた地域図書館23館との間で、館内・館外サービス事業の企画・調整を図り、地域図書館整備計画や新たな地域図書館全体のサービス事業の拡大や業務執行に責任を持つ指揮・命令系統を新たに設置し、権限の強化を図る。
 ・ 館外サービス部門ならびに閲覧室等の館内サービス部門に司書6名を増配置する。
 ・ 館外サービス部門ならびに閲覧室等の館内サービス部門に一般作業員を配置する。
 ・ 業務執行体制に見合った非常勤嘱託職員を確保する。
☆ブロック地域館(5館)
 ・ 司書1名の増配置を行い、ブロック単位での業務運営体制を確立し、管轄地域における図書館サービスの管理運営全般に責任を持つ担当の整備を図るとともに、実務面においてのブロック管内の事業調整や館外サービスの統括、嘱託職員の適正配置や司書の相互応援、施設設備の維持管理の連絡調整、蔵書構成や選書等に責任を持つブロック運営担当を整備し、館内業務を担当する係員3名と併せて司書5名の体制とする。
 ・ 非常勤嘱託職員を3名配置する。
 ・ 2号職員の配置については見直しを行う。
☆地域図書館(18館)
 ・ 司書1名の配置を見直し、係長級館長1、係員2の司書3名体制とする。
 ・ 非常勤嘱託職員を3名配置する。
 ・ 2号職員の配置については見直しを行う。
 ・ ただし、繁忙職場については、この間の経過を基本に、状況を踏まえ、別途の対応を検討する。

    支部は、これまで労使協議により積み上げ、確認してきた図書館運営体制を大きく変える非常に重大な内容であるとの認識に立ち、今年度の最重要課題のひとつとして位置づけ、(ア)働き続けるための労働環境の整備、(イ)サービスに見合った体制の確保、(ウ)司書の専門性の一層の発揮 の3点から、局責任を追及する取り組みを行うこととした。
  ② 02年11月29日、第2回団体交渉を行った。第1回団体交渉で示された案を基本に運営体制が提案され、前回の支部の指摘に対しては、以下の新しい考えが示された。

 ・ 地域図書館の運営体制を一層強固にはかる観点から、中央図書館も含めた地域図書館のサポート体制を強化する。また、地域図書館に実態に即した繁忙対応を行い、図書館運営体制を確立する。
 ・ 司書職員の育児休業時における代替職員の制度の活用をはかる。
 ・ 育児等により夜間の勤務が困難な職員については配慮をはかる。
 ・ 地域図書館における館内サービスの拡充・館外サービスの充実は、ブロック体制を強化し、ブロックを単位としてはかり、中央図書館も必要に応じバックアップする。
 ・ 司書については、図書に代表されるさまざまな情報を扱う専門職として、図書館行政ひいては人権教育・生涯学習の推進に重要な役割を果たすと認識しており、あわせて図書館運営の総括責任者として位置づける。
 ・

図書に代表されるさまざまな情報の提供にかかわって司書の持つ専門性を発揮し、人権教育・生涯学習のなお一層の推進をはかる観点から、司書の図書館以外の生涯学習職場への配置を検討する。

    支部は、これまでの指摘に対して一定の考え方が明らかにされ、また新たな制度活用についても言及されたことから、提案を持ち帰ることとした。

(3) 支部の取り組み
   第2回団体交渉をふまえ、支部は、①さまざまな勤務労働条件、②地域図書館においてこれまで行っている繁忙対応に基づく措置、③夜間の勤務が困難な職員への配慮の具体的な内容、の3点について、職場における十分な協議を要請した。関係分会においては、11月30日に機関会議がもたれ、12月上旬には、数回にわたって全組合員を対象に時間外職場集会が行われ、議論が進められた(注3)。また、これと並行して、分会・図書館職制で折衝・協議が行われた。03年1月31日、分会の機関会議において、これまでの議論経過をふまえて臨んだ折衝内容の報告がされたのち、「新体制への変更を円滑に行い、新体制下における全館応援体制について、館として責任を持って確立すること」など7項目にわたる「分会意見集約」と、それに対する館の回答について確認がされた。
   分会意見集約をうけて、03年2月13日の第3回定例代議員会で『「今後のサービス拡充に向けた図書館の運営体制(案)」について(支部見解)』が確認され、同日、第3回団体交渉に臨み、決着にあたって以下の5点を申し入れた。

 ①  新体制への移行については円滑に行うこと
 ②  新体制下における全館応援体制を確立すること
 ③  夜間勤務が困難な職員等勤務条件に制約のある組合員に対しては責任を持って配慮を行うこと
 ④  時宜に応じた検証を行い、体制、勤務労働条件等にかかわって協議を行うこと
 ⑤  その他、これまでの協議を尊重し、誠意をもって対応すること

   これらの点について労使確認がされたことから、支部はこの提案について大綱判断し、2003年6月から、新体制・新サービスが実施された。

4. 成果と今後

(1) 決着の評価
   「今後の図書館サービス」の労使確認によって、全地域図書館の開館時間の延長や開館日の増加、図書館の調査相談サービスの充実など、市民サービスの拡充施策の実現をはかるとともに、引き続き行政責任のもと図書館を発展充実させていくことが確認できた。また、司書の専門性を再認識させ、「図書館運営の総括責任者」と位置づけることで、より高度な専門性を発揮できる体制を確立させることができた。これまで、休館日の変更、地域図書館の建替など、単発で協議・決着をはかってきたが、今回、大きなビジョンを提示させ、一挙に改革に踏み切った。中長期的な課題をはっきりさせ、政策の方向性を示させた上で、その実現に必要な体制、職域の確立を果たしたという決着は、今後ますます重みを持つ部分である。
   結果として司書が7名減員になり、土・日曜出勤の増加や変則勤務職場の増加など、勤務労働条件の大きな変化を受け入れざるを得なかったという点は苦渋の判断である。ただし、育児休業時の代替職員制度の導入や、全館応援体制など、一定の条件整備をはからせたことは評価できる部分である。
   仕事のありように対する組合員の「思い」は一様ではなく、ただでさえ忙しいなかなのに拡充施策を判断するのかという声があったのも事実で、意識改革のための時間も必要である。新体制移行期の混乱は、一年経過時の検証を経ていまだ解消されたとはいえない。ただ、司書の専門性の確立は、今後の図書館サービスの担い手を明確にしたということであり、司書自身がその決着に答えを出していかなければならない。ひとりひとりの組合員が市民サービスの充実をめざす経営感覚を持ちうるための業務執行体制構築のためには、これからも知恵を出しあって工夫を重ねていく必要がある。そのために、分会を中心とした自治研活動の深化により、具体的な政策提言・スキルアップに結びつく取り組みが求められる。支部も、現場の「思い」を受けとめながら、専門職集団の高い力量を背景に交渉・折衝を進めていきたい。

(2) 専門職に求められる役割
   各自治体の現場において、特に図書館において、「人事の硬直化」などという理由で専門職配置をしなくなっている。しかし、私たちは「こんな時代だからこそ、専門職」といいたい。現場を知り、市民を知り、いま求められているニーズを施策立案に直結させていく専門職と、事務部門の職員とのコラボレーションにより、「市民のための行政サービスを実現する」という理念のもと、力を合わせることが大切である。業務内容上の単なるスタッフから一歩踏み込んだ、専門分野における政策スタッフ、という役割が、専門職には求められる。
   今回の改革で、司書にとってはより高度な専門性を発揮する環境が整ったが、それは到達点ではなく、今後の図書館行政のさらなる発展充実の礎だということを確認しておきたい。貸出件数、予約冊数などの経営指標をどう分析し、円滑な業務遂行のためにどのような体制を確立するか、その手腕が問われる。また、これまで現場の職員が感じつづけてきた「数字だけでは市民の満足度やサービスの充実度ははかれない」「何が市民生活を豊かにさせるのか」ということを、実際の施策としていかに結実させていくか、結果が求められる。今後、専門職がいることのメリットを専門職自身がどう示し、どう語っていくかということは、司書だけでなく、社会教育主事や学芸員など、生涯学習に携わる他の専門職員とも共通した課題ではないか。今回の大阪市の図書館改革は、それにひとつの方向性を示したものと考えている。

5. まとめ

 労働組合の基本である職場を守る、組合員の生活を守る取り組みは、仕事のありようの議論と不可分である、というのが、自治研活動の本質である。支部の各職場では、指定管理者制度とどう向き合うかなど、大きな課題が目白押しである。財政危機のなかで人権教育・生涯学習施策をどう発展させ、市民サービスを一層充実させていくかということにおいて、図書館の取り組みは支部全体においてもひとつのモデルケースと位置づけられる。社会が大きく変化する中で、職場での変革を恐れず、市民ニーズに応えるために、現場組合員の声を結集させた自治研活動を進めていくことが、今後の自治体労働組合の重要な結集軸であり、そのことが私たちの職場を守り、私たちの暮らしを守ることと直結していると確信している。


(注)
 1. 司書は、採用時に任用資格を問い、専門職として採用され、退職まで専門業務にあたる。教育支部の職場にはほかに社会教育主事、学芸員、社会同和教育指導員、音楽士などの専門職がいる。
 2. 建設の詳しい経過は、1998年・米子の自治研全国集会での報告を参照。
 3. 分会では、月1回の館内整理日を活用して、全組合員参加の「職場集会」がもたれているが、市内に事業所が点在していること、休館日変更などで勤務パターンが増えたことなどから、時宜を得て組合員が一堂に会して議論し意思形成するのが困難な状況になっている。そのような中、分会事務局の工夫と組合員の協力により、時間外に少人数で予定をあわせて「ミニ職場集会」が数回にわたって取り組まれ、現場組合員の声を出しあうと同時に、今後の図書館のためにどのような着地点が望ましいのか、議論された。

大阪市立図書館 http://www.oml.city.osaka.jp