【要請レポート】

法務委員会総員起立
~当事者立法と呼ばれたDV法改正~

東京都本部

1. はじめに

 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の一部を改正する法律案」が、2004年5月27日午後の衆議院本会議で、全会一致で可決、成立した。
 この改正案は、現行で配偶者に限られていた保護の対象を、元配偶者にも拡げ、同居する子どもへの接近の禁止も命じることができるようになった。「配偶者からの暴力」の定義が拡大され、「身体的暴力のみならずそれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」も含まれるようになり、退去命令の期間も現行の2週間から2ヶ月に拡大され、再申し立ても可能となった。そして、国及び地方公共団体の責務として、「被害者の自立支援と、適切な保護を図る責務を有すること」が規定され、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための基本方針を国が、基本計画を都道府県が定めることを義務づけた。民間団体への支援や連携、外国籍住民や障がいを持つ被害当事者の人権を守るための法であることも明文化された。この改正案は2004年12月上旬に施行される予定となっている。そして、施行されてから3年後を目途にした見直しも規定されている。
 可決の前日、5月26日の午後。衆議院法務委員会には多くの傍聴人がつめかけていた。質問に立つのはその多くが女性衆議院議員であり、それに答えるのはDV法改正案を作り上げた参議院共生社会調査会DVPTの女性参議院議員たち。そして、傍聴人はこの改正案を心から求めて、切実な声を上げてきた被害当事者と支援当事者たちだった。議決の時間まで審議中は所用で席を外す男性議員が意外に多い。法務委員会室は女性だけで埋めつくされたような気がするほどであった。
 成立後、DVPT副座長である神本美恵子参議院議員(日教組組織内)は、記者会見でこう言った。
    「昨年2月から参議院の共生社会調査会DVプロジェクトチームで見直し論議を始めて今日まで、DV被害当事者、支援者、支援団体の方々からのヒアリング、4回にわたる関係省庁も交えた意見交換会を重ねてできた法案です。まさに『議員立法』というより、『市民立法』といえる立法過程でした。PT副座長になった時、市民団体との意見交換会で私は、『当事者、関係者の声をききながら「魂」の入った法律にしたい』と決意を述べましたが、昨日(法務委員会の)答弁席に立った時、傍聴席に何度も意見交換した当事者や支援者の方々のお顔を見て、この法律はこの方々とともにつくってきた法律だ、と改めて思いおこし感慨深いものがありました。このような画期的な立法作業にかかわることができたことを心から感謝したいと思います。」
 3月26日の参議院での可決、通過から2ヶ月。通常国会は年金改革を主要課題とし、立法を担当とする法務委員会は重要審議を21本も有していたという。その中でDV法改正が時間切れ廃案とならず、重要な案件の一つとして議論の俎上に乗ったこと。女性議員と当事者女性たちがその論議の場の中心人物となったこと。そして、衆参全会一致、法務委員会総員起立という、全体の総意として合意形成が出来たこと。これらは大きな意味を持つ。
 本稿では、ここまでに至る経過とそこへの自治労東京都本部自治研DV作業委員会の関わりを述べて行きたい。

2. 法律はどうつくられるのか

 2002年10月。作業委員会は7月時点までの取り組みの内容、DV法2001年10月施行2002年4月実施を巡っての東京都自治体への調査や分析によって、自治研賞を受賞したが、すでに次のステップについての研究を開始していた。問題点を具体的に法律を変えるためにはどうすればいいか。そのための講師役として浮上したのが、女性選対を通して知り合った連合東京組織内参議院議員で法制部門に詳しい元通産官僚の存在である。8月のある日作業委員会数名で訪問し、立法の仕組みについて一から教えを請いた。
   「法律って言うのはね、国会で年間に100本も審議できないんだよ。改正してくれ、作ってくれと言う声がどれだけあるか。その中で抜きん出て、改正すべきだと誰もが思う状況を作る必要がある。その為には最低でも2年前から動かなくちゃ駄目なんだ。」
 議員立法の場合、政府提案の場合、それぞれの成立までの過程について、DV法が成立した際の3年間のDVPTや内閣府、厚生省(当時)審議会の動きを振り返りながら、特別国会、臨時国会、通常国会の意味や審議する内容の違い、各省庁や法制部門の役割や審議の場まで法案がたどり着くために超えなければいけない数々の関門とその時期の関係を学んだ。基本的な法学、法律の種類や効果、意味づけなどについても再確認した。
 10月1日。戦後最大の台風が東京を直撃した暴風雨の中、都本部自治研DV集会「DV法を改正しよう!」を開催。DVPTメンバーである小宮山洋子、福島瑞穂参議院議員をシンポジストに招き、成立の経過と積み残し課題を聞いた。すでに実施から半年を経過したDV法には不備な点が多々あると言われていた。これに対して、先ず作ることが重要だったと、これから育てて行こうと、小宮山と福島はこう答えた。
   「もっと審議をつくしてという声もあるのは承知していますが、共生社会調査会の本体で1年審議をし、勉強を続け、2000年4月に『女性に対する暴力に関するプロジェクトチーム』を作り、30回にわたって審議を続け、超党派の女性議員が中心になって作り上げてきたものです。不充分な点もありますが、国会情勢が流動的な中、とにかくこの国会で成立させないと、任期の3年で1テーマという調査会の性格からも、ふり出しにもどってしまうため、ご理解ください。3年後の見直し規定をもりこんでありますので、その間、しっかりチェックをして、見直していきたいと考えています。」
 同時に、審議の場に呼ばれていたのが、法律の専門家や一部の支援者が中心であったことや、DVPTを支える声が本当に少ない中での、過酷な立法だったことも語られた。DVを取り巻く社会情勢の中で何が問題となっていて、当事者たちに何が求められているか。そうした声があまりにも国会の場には届いていなかったようだ。また、法以外では対応できないこと、省政令や各自治体での条例、運用などで対応できる部分は、入れていないことなどもわかってきた。しかし、作業委員会による先の自治体での調査結果でもわかるように、運用は自治体担当者の温度差や地域風土によって大きく差が出てくる。
 生まれたばかりのDV法を育てるために、何が必要なのかがようやく見えてきた。問題点や要望を取りまとめて分析し、それぞれの解決策を仕分けして、その情報を必要な場所へ必要な時期に届けていく。DV法改正なのか、関連法改正なのか、政省令でいいのか、予算さえ取れればいいのか、自治体の条例なのか、通知などの運用でいけるものなのか。法律の作られる仕組みと共に学んだ法律の網のかけ方の知識をもとに、後にDV星取表と呼ばれるDV法の問題点や要望の収集と分析を行うことをこの集会で決めた。

3. 前倒しの改正

 あけて2003年1月にはDVDB(現場からの声、問題点)の収集を開始し、自治労機関紙にも掲載、全国各県本部へも呼びかけを行った。半年かけて収集と分析を行い、改正案づくりへと繋げて行く予定を立てた。全国の多くの女性役員がこれに応え、女性相談の現場やDV支援センターへと文書を手渡し、回答を寄せてもらうことができた。作業委員会ではより具体的な問題点を出しやすいようにと、2月11日、すでに東京都で出されていた意見を中心に東京民間シェルター連絡会などに所属する支援者らと共に中間集約としてまとめ上げた。
 そんな最中である。改正時期とされた施行から3年目の2004年10月は、参議院改選を経る。現行のPTメンバーで改正を行うべく1年前の改正を目指して動き出したとの情報が飛び込んできた。参議院共生社会調査会DVPT活動再開に加えて、内閣府の女性への暴力調査会も再開した。予定していた作業委員会での活動も全て前倒しである。
 DV法問題点・要望の収集分析結果をどこに届けるべきか。DVPTの検討素材としてこれを使ってもらうためにはどうすればいいか。DVPTが動きやすい状況を作るためにはどう世論を盛り上げる必要があるか。作業委員会は再び、そうした専門家の教えを請うことにした。市民立法と呼ばれる数々の福祉関連法に携わってきた石毛えい子衆議院議員(自治労組織内)である。
   「当事者が国会の中で声をあげなくちゃダメよ。そして、関係する省庁の人たちに先ず当事者の声を知ってもらうこと。解決策や回答を出しやすいように、一問一答形式で公の場所で問いかけてごらんなさい。そうした場所を作ってくれるように、DVPTの人に声をかけましょう。そのためにも当事者の人たちと大きな組織を作らなくちゃ。」
 DVPTメンバーであれば、都本部自治研集会のシンポジストとして、一般参加者として、いつも来てくれた小宮山がいる。ところが、依頼しようと考えた矢先にDVPTメンバーが交替となり、小宮山から後に副座長となる神本美恵子にバトンが渡されたのである。作業委員会はこれまでに作った資料を手に神本の事務所を訪れた。DV法のこれまでの経過や改正に向けて必要なことを説明し、当事者の声を生かせる改正を行うDVPTであって欲しいと、神本に協力を要請した。しばらくじっと話を聞いていた神本は答えた。
 「DVのことは、まだ、よくわかってないの。今、必死で勉強しています。でもこれはジェンダーの問題なのね。私たちは人権を守る法律を作らなくちゃいけないのね。」

4. DV法を改正しよう! 全国ネットの立ち上げ

 国会でのあわただしい動きがある中、民間団体の中でもう一つ別の動きが進んでいた。
 この間、作業委員会と連携してきた東京民間シェルター連絡会も加盟している全国シェルターネットの共同代表、女のスペースおんの近藤恵子の呼びかけで「DV法を改正しよう! 全国ネット」が2月末に立ち上げられたのである。近藤は後にこう言っていた。
   「当事者こそが問題の核心に位置し、当事者こそが法律の使い勝手を熟知し、当事者こそがあるべき法律の形を提起できる。」
 作業委員会も行政の中にいる当事者団体としてこの団体に加入し、自治労都本部という会議や資料作成場所を東京に持つ強み、自治研賞受賞で手にした賞金を運動に自由に投入できるという資金の潤沢さを生かして事務局機能を受け持つことになった。労働組合の役員として培った交渉力と要望書など書類をまとめる能力、自治体職員として得てきた制度や行政組織の動き方についての知識。作業委員会が有していたこれらのスキルは、NGO活動の中では大きな武器となることを知った。そして、これまでに作業委員会に集められた問題点や要望と分析内容をまとめたDV星取表は、全国ネットの179項目の改正要求として、収斂されて行くことになる。
 内閣府男女共同参画会議女性に対する暴力調査会のメンバーでもあるお茶の水女子大の戒能民江教授が主宰を務めるDV連絡会を始め、移住連、DPIなどが次々と賛同し、全国からたくさんの声が集まり始めた。そして、DVPTの神本を主催議員として、全国ネットの改正要求を各省庁への質問として提出し、国会内で質疑応答していく「参議院内省庁意見交換会」が、5月28日から開催されることになった。

5. インターネットの海から

 2003年5月17日、作業委員会は自治研賞の賞金でフィルムを借り、アメリカのドキュメンタリー映像作家フレデリック・ワイズマンによる「ドメスティック・バイオレンス」上映会とシンポジウム「都本部自治研DV集会~DV法にはこれが足りない~」を開催した。シンポジストのお茶の水女子大の戒能からは女性への暴力調査会での審議内容や中期・長期課題の説明があり、保護命令の拡大や対象の見直しなど法としての動きと改正の困難さが語られた。
 「改正作業で痛感するのは、法のジェンダー支配である。整合性や体系性、普遍性、客観性など、既存の法の世界では当然とされる『中立・公正』という皮をかぶった男の論理が女たちの行く手を阻んでいる。DV法で守るべきは何か。」
 新しくDVPTメンバーとなった神本からDVPTの動向説明があり、自らが教育現場で行ってきたジェンダーにとらわれない教育の体験談を通して、DV法を女性の人権を守る法にしようという、改正に向けた決意が語られた。コーディネーターの石毛えい子衆議院議員を中心に、当事者が声をあげていくことの重要性が真摯に語り合われた。
 また、作業委員会ではこれからの改正運動と並行した取り組みとして、各地の地方議会から国に対して地方自治法99条意見書を出すことの提起と雛形の配布を行った。この意見書が地方自治体から出されると、国はそれに対しての回答を迫られる。一つでも多くの自治体が、当事者からの要望によってまとめられたDV法改正へ意見書を提出するよう、地域の議員にぜひ手渡して欲しいとの呼びかけである。
 このシンポジウムの最後、会場との質疑応答で、最前列でうなずきながら聞いていた一人の女性が遠慮がちに手を上げた。作業委員会ではこの集会の宣伝と来場の呼びかけを、インターネット上にあるDV当事者たちが運営している各地のホームページの掲示板などに書き込みしていたが、彼女は「DV駆け込み寺」というホームページの副管理者であった。この女性が、後にインターネットでの被害当事者の声をまとめていくことになる。
   「こうやって公の場所に出てきたのは初めてです。声を上げるのも初めてです。私は暴力を振るう夫から逃げて、ようやく子どもと2人の生活をしています。ここにはきっと、相談窓口やシェルターの関係者がたくさんいると思います。だけど、そうした場所で行われてることをぜひ知って欲しいのです。」
 調停や一時保護施設、母子寮、行政の窓口、色々な場所でどんなにも辛い思いをしてきたか。どれだけの人権侵害が行われているか。静かに、言葉に詰まりながらも凛として語る被害当事者の声に会場の誰もが深くうなずき、そして涙をこぼした。彼女が語り終えた時、満場の拍手が沸き起こった。
 行政による二次被害のひどさ……彼女の声は、インターネットの中でひっそりと語られていた被害当事者たちの声だった。時間や場所を選ばず、身分を隠したままで相談や意見交換、情報収集が出来るインターネットは、当事者たちの大きな心の支えとなっていたのだ。

6. 当事者が初めて国会で声をあげた

 DV法を改正しよう!全国ネットによる参議院内での省庁意見交換会は、2003年5月28日関係全省庁、内閣府(男女共同参画局)、厚生労働省(雇用均等・児童家庭局‐家庭福祉課、育成環境課、保育課 社会・援護局‐保護課 老健局‐介護保険課 保険局‐保険課)、法務省(大臣官房秘書課法務事務官、民事局、入国管理局)、警察庁(生活安全局生活安全企画課)、総務省(自治行政局市町村課)、文部科学省(生涯学習政策局男女共同参画学習課、スポーツ・青年局青少年課)が参加して始められた。
 以後、7月4日法務省(保護命令、外国籍当事者問題)、7月25日厚生労働省(生活保護、保険年金などの社会保障、自立支援施策)、9月4日内閣府(DV支援センター、関係機関の調整機能)、2004年1月7日関係全省庁(二次被害の防止、民間財政支援)、2月16日内閣府(改正案骨子の説明)、8月2日関係全省庁(基本方針策定に関する質問への回答)と5回に渡って行われている。各回ともに、DVPT議員からの検討の進捗状況説明があり、その回の意見交換課題に対応した省庁関係者とその課題に詳しい当事者との意見交換という形式を取った。この間に配布された資料は膨大な量になる。
 改正要求179項目から作られた質問に回答するため、各省庁は文字通り夜を徹して作業にあたり、圧力団体と敵対するような面持ちで意見交換会に参加していた。意見交換会自体が文書回答内容を不十分として、より踏み込んだ質疑を行うためのものであれば当然のことである。ここに都本部DV集会で初めて声を上げてくれた被害当事者も参加し、インターネットを通じて意見交換会を知った当事者たちも集まり始めた。民間支援団体として被害当事者とともに歩んできた人々はもちろん、行政の中で相談にあたっていた職員の参加も多く、毎回100名前後の参加者があったことで一部の声ではないことを十二分に示せたと言える。
 当事者のひたむきな命をかけた問いかけに、即答できない省庁関係者とDVPT議員。そこに制度の問題点や現状に精通した自治体現場の職員と民間支援団体スタッフによる、具体的な質問や制度矛盾の指摘がたたみ込むように続く。法律を作ったり、何かを決める側が、初めて接したであろう当事者の生きた声であった。全回継続して参加してくれたマスコミ関係者も多く、被害当時者の安全を守るための配慮(写真撮影や氏名公表の禁止、個人が特定できる内容公表の禁止)を厳守しつつ、意見交換会で出された意見を再発信する役割も負ってくれた。
 初回では質問に対する文書回答と同様に「現行法制度では規定しておりません」「ご要望に添えません」「検討していきます」と答えていた省庁の関係者が、明らかに変わったことを感じたのは、2回目、7月2日の法務省との意見交換会からである。
   「現行法ではそういった規定になっていますが、それについてはこういった通知を出しています。出来るだけ早い時期に、ぜひ窓口にご相談下さい。」
 外国籍被害当事者が日本国籍加害者の意図的な不作為によってオーバースティとなる場合への対応を求めた質問者に対して、「法律ではこうなっている。けれど、なんとかする方法を探していくから信じてくれ」と明らかに解釈できる発言を返してきたのである。3回目の厚生労働省との意見交換会でも、社会保障関連の各法について、「次回改正課題に入れたいので、詳細を教えてください」「こうした通知があったはずなので、再度入念通知として徹底を図ります」「すでに住民基本台帳法の検討会で協議をしています」などの発言が返ってきた。
 同時期に行われていた当事者たちによるロビーイングで、顔の見える関係になったこともあるのだろう。門前払いのように見えていた各省庁が、被害当事者の声に真摯に答えようという姿勢に変わってきた。意見交換は回数を重ねるほどに紋きり的な回答が陰を潜め、双方の質疑が笑い声や涙も伴った心の通ったものになっていった。意見交換会の参加担当課長たちが人事異動していく時には、引継ぎの徹底はもちろんのこと、全国ネット参加者を後任課長へ紹介したり、立法に詳しいものならではの具体的なアドバイスを送ってくれるまでになっていた。継続して一つの法を一緒に考えていくことで生じた連帯感が、官と民の間の溝を埋めていったとも言えるだろう。

7. もう一つの声

 こうした間にDV集会時に配布した作業委員会作成の「99条意見書ひな型」が意外な拡がりを見せていた。8月には自治労定期大会でも組織内女性議員へと配布したが、すでに、DV集会に参加していた自治労東京組織内議員やフェミニスト議連所属議員から会員への再配布が行われていたのだ。自治体の名前だけを入れればいい形にしていたために、6月議会で採択している所(三鷹市、日野市など)があった。
 この採択にあたって、各会派が党本部に内容について問題がないかを確認したということで、全ての会派が党方針と同じとの回答を得たという。以後、地方議会でこれを出せば、全会派一致で採択という図式も出来上がっていたようだ。しかし、手元を離れたひな形は人から人へと渡り、作業委員会でも一体どれだけの地方自治体が採択して中央に提出したかを把握できていない。
 また、意見書採択運動と同時に、全国ネットに参加した当事者たちを中心とした参議院全会派議員や関係省庁に向けた粘り強いロビーイング活動も行われた。従来の利権や利益の為ではない社会正義実現の為のロビーイングには、インターネットで集められた声、民間支援団体が何をしているか、そのまま何にでも使えるように考慮して作り上げた資料が活用された。それらとほぼ同じ内容の99条意見書が全国から中央に届く。また、全国ネットに参加している民間団体や有識者は、審議会や公聴会などで同じことを問題と語る。その繰り返しが続いていった。

8. No!バイオレンス! Beアンビシャス! 私たちのDV法を求めて

 2003年12月。250名を集めて、DV法を改正しよう全国ネットによるDV法改正集会が開催された。3時間に渡るリレートークの後に、当事者や支援現場を支える人たちの声が改正作業に反映されること、実効性のあるDV法改正が行われること、改正作業に当事者参画を保障することなどを求めたアピールを採択した。
 あけて2004年1月。DV法改正案は上程され、3月26日に参議院全会一致で可決。その後の経過と内容は、「はじめに」として記した。被害当事者や支援当事者を中心にすえた女性NGOの生の声が、女性の国会議員・地方議員を後押して動かし、国の省庁や地方議会をも議論に巻き込んで政策形成し、法律をつくっていくこと。その新しいかたちを示した2年間であった。そして、労働組合と地域や民間団体との連携がどれだけ大きな力を生み出すかを、身を持って体感することが出来た。
 運動の要所でかかわりを持ち、共に動いてくれた自治労組織内や連合組織内議員もいた。自分たちの代表として国会や地方議会に仲間を送り出すことの意味、そして継続して情報をフィードバックし合うことの意義をも実感することができた。
 また、全国組織である自治労がこの運動に関わってくれていれば、もっと大きな運動とすることが出来たのではないか、と言う問いを各地の民間支援団体から受けた。自治労本部は意見交換会に来てくれないのか、うちの地域でこうした活動をしている人はいないのか、意見書採択運動はうちの地域では行っていないのか。二次被害と呼ばれる人権侵害を行政が犯していることを示し、DV法に関わる行政の意識変革を実現して欲しい。特に地方での自治労へ寄せる地域の期待の大きさは、都市部に住む作業委員会の想像以上のものがあった。是非、民間団体の声に応えて、各自治体での基本計画策定にかかわりを持って欲しい。

9. 改正DV法を使いこなそう

 改正DV法成立を受けて、改正要求179項目のベースであるDV星取表の中で、国の法律マターとして改善策を分析した内容の多くは一段落したことになる。しかし、最初のDV法がそうであったように、まだ改正DV法は完璧なものではない。
 女性たちが作り出した法を、女性たちがより大きく育てていく、全国ネットとしての活動はこれからも続いていく。並行して自治労東京自治研DV作業委員会が取り組むべきものは、まだ残されている。地域での民間女性当事者団体との連携をより深め、自治体職員として、労働組合に所属する私たちの存在を有効に生かす仕組みも必要となってくる。
 2004年5月29日。作業委員会は改正報告と地域・自治体での今後の取り組みを提起するDV集会を開催した。支援者からは多摩でDVを考える会代表の土方聖子が、全国ネット意見交換会に参加して当事者の声を追ってきた朝日新聞記者佐藤実千秋が、それぞれの立場からこの運動がどう改正案に反映されたかを語った。全国シェルターネット共同代表の近藤恵子が、これからの自治体や自治労の取り組みとして期待するものを語った。
 これを受けて、都本部が2月に東京都に対して提出した「DV法改正を受けた東京都への施策充実要求」の説明と、各区市町村向けの改正DV法に基づく基本計画策定に対する要望書ひな形の提起を行った。当該職場の業務拡充や人員配置のみならず、被害を受けた当事者や民間支援団体との協働、当事者の意見反映が保証する施策を追及すること。各地域で当事者や民間支援団体と連携した自治体交渉を展開することなどを、集会で確認した。
 先ずは地域計画策定や運用の改善、行政での二次加害撲滅に向けた取り組みを行うために各自治体への呼びかけが重要だ。東京都や各区市町村での意見交換会開始に向けて、DV星取表で自治体の条例マターや運用・財政措置マターとしてきたことを解決する取り組みが始まっている。こうした動きが、全国の自治労に集う女性たちの間で広がっていくことを、心から願っている。